黒魔術師松本沙耶香 騎士篇
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第六章
「そしてな」
「パスタにオードブル」
「そしてメインディッシュだ」
勿論主食もある、これはドイツらしくジャガイモだった。パンもあるがジャガイモを茹でたものの方が量が多かった。
「デザートも勿論ある」
「そのデザートまでね」
「楽んでくれ、いいな」
「そうさせてもらうわ」
今はサラダを飲みつつ応えた沙耶香だった、そして。
サラダの後は唐辛子と大蒜が絶妙に合ったペペロンチーノ、オードブルはカボチャとアスパラガスとトマトの冷たい料理だった。
メインディッシュは米茄子のステーキだ、沙耶香はそのステーキの前にジャガイモを煮たものの上にバターを乗せて潰して食べた。
そのジャガイモを潰すのを見てだ、シェフは目を細めさせて沙耶香に言った。
「わかってるね、あんた」
「ジャガイモの食べ方がというのね」
「ジャガイモはやっぱりな」
「潰して食べるのがいいわね」
「それが一番美味いんだよ」
何といっても、というのだ。
「本当にな」
「ドイツではそう言われているわね」
「そして通りなんだよ」
「ジャガイモについては」
「切るより潰すんだよ」
そうして食べるものだというのだ。
「それが一番美味いんだよ」
「そうね、ただこれはね」
「これは?」
「ドイツにいるからよ」
それ故にというのだ、自分で潰したジャガイモを食べながら。
「他の地域ではそれぞれの食べ方を楽しんでるわ」
「そうなのか」
「ええ、日本でもね」
「日本のジャガイモの食い方があるんだな」
「切って煮たり焼いたりするわね」
日本では、というのだ。
「揚げるのもあるわ」
「結構あるんだな、日本でもジャガイモの食い方が」
「そう言っていいわね、茹でたジャガイモの上に烏賊の塩辛や海胆を乗せて食べる食べ方もあるわ」
「烏賊に海胆?」
「ドイツでは食べないわね」
「そうだな、というか海胆っていうとあれだな」
シェフはこの生きものについてだ、怪訝なそれこそ珍獣を語る顔で述べた。
「海にいる機雷みたいな」
「そうよ、刺々しいね」
「あんなの美味いのか?」
「これが絶品なのよ」
ジャガイモを食べ続けつつ言う沙耶香だった。
「烏賊の塩辛ともね」
「日本人は海の幸が好きってのは聞いて知ってるがな」
「そうした食べ方もあるのよ」
「変な食い方だな」
「それでも美味しいのよ」
「潰して食うよりもか」
「同じだけ美味しいわね」
今の食べ方と、というのだ。
「菜食主義なら食べられないけれど」
「まあこの店はそうだしな」
「ならバターかチーズよ」
「そっちの食い方だな」
「ドイツのね」
「俺にはわからない食い方だな」
シェフは沙耶香から聞いた日本のその食べ方について首を傾げさせるばかりだった。
「あんたの国はそんな食い方をするか」
「食べ方の一つよ」
ジャガイモの、というのだ。
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