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第三章

「厳島大明神に誓って人柱はしませぬ」
「例え何があろうとも」
「そうせよ。人の命は大事にせよ」
 その顎鬚の顔を厳しくさせてだ。元就はまた言った。そしてそのうえでだ。彼はこう言ったのだった。
「では石垣じゃが」
「はい、とにかく何をしても崩れます」
「これをどうするかですか」
「それが問題ですが」
「そうじゃな。それが問題じゃ」
 元就もこのことはわかっていた。それでだ。家臣達に対して厳しい顔になったままでだ。こう告げたのである。
「少し待て」
「わかりました。それでは」
「殿のお答えを待ちます」
「では今は」
「我等は」
「待っておれ」
 こう家臣達に告げる元就だった。
「よいな」
「はい、わかりました」
「さすれば」
「とにかく人柱だけはせぬ」
 これは絶対のことだった。元就はそれは許さなかった。
「よいな。みだりに人の命を奪うな」
「確かに。こんなことで民の命を害するのはよくありませんな」
「それは何にもなりませぬ」
「殿のお言葉通りです」
「我等が至りませんでした」
「至らぬところはなおせばいい」
 そうすればいいとだ。元就は自省した家臣達を宥めもした。
 そうしてからだった。元就はだ。彼等にこう告げた。
「では今は下がれ」
「はい、さすれば」
「これで失礼します」
 家臣達も元就の言葉を受けて下がる。そうしてだった。
 彼も己の間に下がりすぐに文を書きはじめた。実は彼は筆まめでだ。何かあると文を書くのだ。それは今もだった.
 席に向かいそのうえで文を書く。それを書き終えてからだ。
 傍に控えていた小姓の一人に文を渡す。その時にこう小姓に言った。
「粗末にせぬ様にな」
「はい、文はですな」
「文には言葉が書かれておる」
 元就が言うのはこのことだった。
「言葉には色々と力がある。それ故にじゃ」
「粗末にするとそれで」
「足で踏む様なことをしてみよ」 
 どうなるかと。元就は小姓に真面目な顔で話す。
「御主も祟られるぞ」
「殿がいつも仰っていることですな」
「そうじゃ。だから粗末にはするでない」
 元就は小姓に強い言葉で言っていく。
「わかったらじゃ」
「はい、それでは」
「うむ・・・・・・むっ!?」
 畏まる小姓に文を渡したその時にだ。元就は気付いたのだった。
 そしてふとした顔になってだ。こう言ったのである。
「これじゃ。これがあった」
「これがとは?」
「明日じゃ。明日主な家臣達を集めよ」
 元就は小姓に対して言った。
「そしてそのうえでじゃ。話そう」
「殿のお話とは」
「その時にわかる。一つの答えが出たわ」
 微笑みこう言ってだ。そのうえでだ。
 次の日元就は集められた家臣達にだ。笑みを浮かべてこう言ったのである。
「人柱なぞよりもっとよいことが見つかったぞ」
「あれもですか」
「さらによいことですか」
「そうじゃ。石に文字を刻め」
 元就は家臣達に命じた。
「百万一心。そう刻んでじゃ」
「その石を城の石垣に入れる」
「そうするのですな」
「そうじゃ。文字、言葉には力がある」
 陰陽道やそうしたものからの言葉だった。元就はそうしたことを信じているのだ。 
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