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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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人形-マリオネット-part5/揺れ動く心

ついに対峙した、光の戦士ウルトラマンゼロ。そして闇の戦士ダークファウスト。
その圧巻される光景に、避難を完了した街の人たちは息を呑んでいた。

その間、サイトを探していたUFZの内、ルイズとムサシは、アンリエッタから護衛を任されたアニエスと共に、ジュリオを発見する。
「それにしてもジュリオ、酷い顔じゃない。一体何があったのよ」
ルイズは全身が打撲だらけのジュリオを見て言った。
「いや、サイト君からなかなか効いたパンチを食らっちゃってね」
「サイトですって!?」
「サイト君が、どうして?」
なぜサイトがそんなことを?確かに彼はジュリオのことをなんとなく気に入らないような態度を取っていたが、さすがに殴るようなまねまではしなかったはず。
「あの黒い巨人の正体が実はハルナ君だったからな」
「なんですって…!?」
ジュリオから明かされたその理由に、二人は絶句する。
「サイト君は、ハルナ君を倒すのをよしとできなかったからね。それで僕を殴ったのさ。いやはや、なかなか効いたよ」
「……」
二人はジュリオの供述を聞いて、なんとなくサイトとジュリオが揉めた時を想像した。ファウストをゴモラに攻撃させようとしたのを、サイトは仲間を殴ってでも止めたがっていたのだ。
ただ、そのときのジュリオはいつもどおり笑みを浮かべているのだが…どこか貼り付けた感があるのをムサシは感じた。
「じゃあ、ハルナは私たちを今までずっと…騙してきたわけ!?」
「いや、それはないと思う。たぶん誰かが彼女を操ってるんだ。少なくともルイズちゃんとの実家であの子と話していたとき、彼女からは邪悪な気配を感じなかった」
ムサシはルイズの予想を否定する。彼はラ・ヴァリエールで初めて会った時に会話したが、ハルナが地球にいた頃からずっとファウストだったということはないと確信していた。
過去に似たような経緯を持つ女性と会ったことがあるから、かもしれない。
「彼の持っていた剣も、同じようなことを言っていたよ。彼女は特殊な魔法で操られているらしい」
「魔法で操られている、か。あのボロ剣、魔法の知識と勘に関しては鋭いのよね。それなら、私の魔法で助けることが…」
もし魔法で彼女の心が支配されているなら、自分の虚無の魔法の一つ…『解呪』でハルナを救うことができるかもしれない。ルイズは、虚無の魔法でハルナに懸けられた魔法を解く算段を考えた。
「ともかく、ジュリオを一度安全な場所に運ぶべきだ。時期にここも戦闘区域に入る。あまり深入りしすぎれば、サイトを見つける前に我々が戦闘に巻き込まれるぞ」
アニエスが三人に、一度ジュリオを連れてここを離れるべきと進言した時だった。
「助ける…ねぇ。果たして本気なのかしら?ミス・ヴァリエール」
「誰!!」
すぐ近くから、女性の声がルイズたちの耳に入る。しかし周囲に、声の主らしき女性の姿はない。けど、その女性はすぐにルイズたちの目の前に姿を現した。
「あんたは…ウェザリー!!?」
その女性は、ルイズたちが最近世話になった劇団座長のウェザリーだった。
「彼女は?」
顔を知らないムサシは、突如現れた獣の耳を生やした女性を見て尋ねると、ジュリオがその質問に答える。
「少し前に、ハルナ君が無くしていた鞄を所持していた女性だ。サイト君もハルナ君も、あなた同様異世界の人間だからね」
故にレアものだから、容易く手放すことはできない。返してもらう条件に、ちょうど行う予定だった劇の俳優として舞台に立つことになった、その際に指導をしてくれた座長であることをジュリオは簡潔に説明した。
「なるほど。…それで、一体今の彼女の言葉の意味はなんなんだ?」
「そうだな…ミス・ヴァリエールに何か言おうとしているみたいな口ぶりだったな。ミス・ウェザリー、一体あなたは何が言いたい?」
ムサシに続き、アニエスもさっき姿を見せる直前にウェザリーが言い放った言葉の意味を問う。ルイズたちに芝居の指導をしてくれている間に見せた年上女性としての温かみはそこになかった。本当は彼女も立場上は芝居を仕切っているだけの一般人、この非常事態では避難するはずだというのに、ルイズたちに向けて殺気立っている。
「ミス・ヴァリエール、あなた…今確かにハルナを助けると言ったのかしら?」
「そうだけど…何よ。文句でもあるの?」
「本当は望むところ…だなんて思ってるんじゃないの?『ハルナさえ消えれば…サイトは自分のものだって』」
「い、いきなり何を言い出すの!?馬鹿言わないで!」
突然予想もしないことを言い出してくるウェザリーに、ルイズは喚く。自分のサイトへの行為を指摘されたことへの羞恥なのか、それとも嫉妬深い嫌な女であると侮辱されたことへの怒りなのか…ともかく彼女はウェザリーに怒りを見せる。
それにして、今のこの女の態度…明らかに『黒』を感じさせるものだった。
「何も恥じることはないわ。私はそんな心の声を吐き出させるきっかけをあげたのよ。あの子の…ハルナのを、ね」
「ま、まさか…!」
ルイズはウェザリーに対して、予想もしなかった、悪い確信を得た。
「ようやく理解したみたいね。ハルナを操っている術者というのは…

私よ」

「な…!?」
なんと、ウェザリーは自ら明かしてきたのだ。
自分が、ハルナを操っている黒幕であったことを。
ハルナの正体についてもそうだが、自らがハルナに術を懸けた張本人であることまでも暴露したのだ。
「あなたのことも調べをつけているわ。あの始祖ブリミルが使っていた、失われし伝説の系統『虚無』。その現代の担い手の一人だそうね」
「虚無のことまで知ってるのね…じゃあ、私たちに舞台に上がるのを持ちかけた意味はなんだったわけ!?馬鹿にしていたの!?」
「あなたたちに芝居を持ちかけたのも、調べと私の野望を果たす準備を整えるまでの時間稼ぎのようなものよ。どんな手を使えば、あのウルトラマンを貶められるのか、私の復讐を果たせるのか…ね」
「復讐…?それがあなたの目的なのか」
ジュリオが目を鋭く細めながらウェザリーに言う。
「ええ、そうよ。ハルナを人形として操っているのも、そのためよ」
「なんてことをしたのよ!人をなんだと思ってるわけ!?」
ルイズは、確かに恋敵に当たるものの、ハルナとは確かな仲間同士であると見ている。その仲間を、自分の道具のように好き放題利用して嘲笑うこの女に対して激しい怒りを覚えた。何より、こいつのせいでサイトが苦しんでいると考えると、さらに怒りが込み上げてきた。
しかし一方で、ウェザリーはルイズの発言に対して眉を顰め、次の瞬間大声で怒鳴り散らした。
「人をなんだと思ってる…ですって?それは私の台詞だ!汚らわしいトリステイン貴族が!!」
「「「!?」」」
突然さっきまでの余裕ある佇まいから、声を荒げてきたウェザリーに、三人は驚く。
「私の故郷は……私の家族は……お前たちトリステイン貴族のせいで取り潰され、何の咎もなく滅ぼされたのだぞ!」
「え…!?」
「私のこの耳を見るがいい」
ウェザリーは自分の頭の上に生えている、獣の耳を見せながら話を続けた。
「私の母は獣人だった。トリステイン貴族だった父はそれを知ったうえで母を娶り、私を生んで育ててくれた。大好きな家族に愛され、大好きな芝居を共に見て物語を楽しむ…幸せだった。
獣人だからなんだというの…別に悪事を働いたわけでもなく、寧ろ種族に関係なく数多の人たちを幸福に導こうとした父と母がこの国に何をしたというの…それを、それを!!」
その時のウェザリーの表情は、憎しみに囚われるあまり憤怒を全く隠せないほどの形相に変貌していた。
「あの男が……リッシュモンが私の家族を罠にはめた!!そのせいで両親や二人を慕う領民たちは殺され、家を取り潰され、私は闇の世界に落とされたのだ!」
「リッシュモン…だと…!?」
特に、アニエスがこの事実に衝撃を受けた。ここでまた、自ら興した暴動の後で死体となって発見されたリッシュモン高等法院長の名を聞くことになるとは思わなかった。アニエスやミシェルもまたリッシュモンのせいで人生に暗い影を落とされ、幼き日の幸せを奪われたというが…まさか、ここにももう一人いるとは。
「人を道具のように扱う…それは否定しないわ。でもね…少なくとも私にそうさせるようにしたのは、あの男をはじめとした腐れ切った貴族共だ!だから同じ苦しみを味あわせてやったんだ。リッシュモンが事件を起こしたあの夜に…ファウストを使ってね」
「じゃあ、リッシュモンを殺したのは…あなたなのね!?」
「そうよ。ファウストを使い、今まで金と権力目的で悪事を働いてきたあの男に、これまでの行いを後悔するまで嬲り殺させたわ!
死に際のあの男の恐怖に歪んだ顔…傑作だったわ。私にとって一流舞台を鑑賞したときくらいの喜びを感じた…心が浄化された様な快感だったわ」
くっく…と狂気を孕んだ笑みをこぼしている。復讐心に塗れるあまり、こんなに冷酷さを抱くとは。しかも、関係ないはずの平和な世界で暮らしていた少女を操り、人殺しをさせるという残酷なことをさせるなど、ウェザリーのやり方は非情すぎた。
「さて、悪いけど、私の人形に手を出さないでもらえるかしら。
大方、虚無の魔法であの子にかけた術でも解くつもりでしょう?ウェールズ皇太子にそうしたようにね」
「そのために自ら出向いたというわけか。だが迂闊だな。術者自ら出向くとは」
アニエスは銃を構えてウェザリーを睨む。しかしウェザリーは余裕ある笑みを見せて全く動じなかった。
「あら、同じ男を憎んだ女同士、銃を向けてくるの?」
「確かに貴様は、私やミシェルと同じ境遇に追い落とされた。そこは同情してやろう。だが、今の私はアンリエッタ女王陛下とこの国をお守りする騎士でもある。どんな理由があろうと、この国に害をなす者とは戦わねばならない」
「残念ね。けど…私が何の準備もなく来ると思ったのかしら?」
彼女が指をパチンと鳴らすと、突如建物の瓦礫の下から次々と、少年・老人・女性…あらゆる年齢層の何人もの人たちが這い出てルイズたちを取り囲みだした。
「こ、これは…!?」
「彼らは『ビーストヒューマン』。私が作った、ビーストと同じ細胞を死体に埋め込んだ肉人形よ。ハルナと違って死んでいるからいびつだけど、人間相手には十分でしょう?せっかくの怪獣も、ファウストと戦ってだいぶ疲労しちゃったみたいだし、城の守りも手薄にするわけにいかないでしょう?」
「く…」
ジュリオが珍しく顔をしかめた。今のゴモラは、ファウストの攻撃から城を守るためにファウストとの戦闘の四角をゼロに譲って一度下がっている。リトラはさっきのファウストの攻撃のダメージが回復していない。
ルイズも同じだった。彼女の魔法は、デルフ曰く、守り手である使い魔=つまりサイトが彼女を守ることで詠唱の暇を与えられる。これだけのビーストヒューマンに囲まれてしまっては、詠唱の余裕さえもない。しかも虚無の魔法はいちいち呪文が長いので発動に必要な時間に関しても手間を取られてしまう。
「死んだ人を…なんて酷い真似を!」
かつて戦った異星人の中に、こうして亡くなった人を道具のように利用してきた手合いに今でも覚えがあっただけに、たとえ過去に辛い目にあったことがあるウェザリーでもこの外道らしすぎる手段を講じたことに、ムサシは怒りを露わにした。
「さあ、私のかわいい人形たち…そいつらを殺しなさい。その虚無の娘だけは生かして捕えるのよ」
ウェザリーが指示を出した瞬間、ビーストヒューマンたちはルイズたちに飛び掛かりだした。
ウェザリーは、今度はゼロと対峙するファウストに視線を傾けた。
「さあ、ハルナ。あなたの望みを叶えるときよ。

ウルトラマンゼロの光を奪いなさい」



同じ頃、ゼロに変身したサイトは、ゴモラからも許しをもらい、ファウストと街の中央にて一対一で対峙していた。
「いいのか、ウルトラマンゼロ。あたしが誰かのかわからなくなった…なんてことはないだろう?」
ファウストは野太い声とハルナの声を重ねながら言い放つ。
「……」
挑発するようなファウストの言葉に、ゼロは何も言い返してこない。無言のまま、目の前にいる闇に囚われてしまった少女の変身体を静かに見ているだけ。考えていた、いったいどのようにすれば彼女を救えるのか。
『春野さんは、助けたい人を救うために必要なのは、その心だって言っていた。
でもゼロ…俺は…何をすればいいんだろう…』
ラ・ヴァリエールで起きたセミ人間の、ルイズ誘拐未遂事件。ルイズは学院の他の生徒や、家族から認めてもらなかったコンプレックスを刺激され、それに漬け込んだセミ人間が破壊活動を実行することで彼女の心に絶望を与え、脱け殻のようになったところを拐おうとした。しかし、ルイズを認めていなかったはずのカリーヌたちヴァリエール一家のルイズへの思いが彼女に伝わることで事なきを得た。
ムサシが言った通り思いが…家族の心がルイズを守ったのだ。
しかし、今回の場合…ハルナを救うにはどうすればいい?今回はさらに事情が複雑化している。サイトはゼロに、まるでテストの分からない問題の答えを求めるようにゼロに尋ねる。
『今更俺に変身して何を言ってんだよ、サイト。今の俺とお前は二人で一人だ。お前自身の思うままにやれ。
俺の覚悟は決まったからよ』
『…ありがとう』
ゼロにとって、敵を手にかけることなく勝つなんて戦いはまったく経験がない。まして、闇に囚われた人間の少女を救うなんて、先代のウルトラ戦士にも前例がないだろう。
明確にどうすればいいなんて分からないままだ。それでも、平賀才人は…ウルトラマンゼロは決めた。
目の前の、黒い巨人となった少女を救うと。
「来ないのならこちらから行くよ…ムンッ!!」
ただじっと身構えているだけで立ったままのゼロに向けて、ファウストはついに動き出した。
繰り出されたファウストの拳。一発だけでなく、たて続けに繰り出してくる。それに対し、ゼロはその拳を受け流していく。しかし、全ての攻撃をうけながしきれるほどゼロは達人の域に達していない。二発ほど、蹴り一発と一緒にゼロはもらってしまう。
「ぐ…」
「感じる、サイト?あたしの今の力は…あんたのウルトラマンの力さえも超えている。なぜだかわかるかい?」
確かに、今回のファウストは今までの彼女の攻撃力とは比較にならない重さになっていた。
なぜこの短期間で彼女がここまで力を上げたのか。その理由をファウストは自ら話した。
「あれを見ろ!」
ファウストは街の一角を指差す。そこには、ハルナを探しに来た際に見た、黒い立方体の装置だった。それも一か所だけじゃない。ウルトラマンとしての優れた視力を使ってて確認してみると、城を取り囲む形で、その物体は点在している。そしてその物体から、黒い霧のようなものが発生しファウストの体に流れ込んでいく。
「これまでトリスタニアで行ってきた破壊活動でご覧の通り、街はあたしたちが戦う前からちとボロボロだっただろ?
この街は他国からも職人を寄せないと手を回さないと復興もままならないほど人材に乏しいからね、そこを利用して、レコンキスタの兵を職人に紛れ込ませ、街の各地にマイナスエネルギーを集め充填する装置を仕込ませてもらっていたのさ」
「何…!」
闇の戦士とレコンキスタが繋がりを持っているのではと疑惑はしていたが確定した証拠はなかった。タルブ村の戦いでレコンキスタが使役した怪獣たちと共にウルトラマンたちに襲いかかったのも本人の戦闘狂っぽい気まぐれの可能性があったが、これで闇の戦士とレコンキスタが通じていることがサイトたちにもはっきりした。
「こうしている間も、この街で起きた怪獣たちとあんたらの戦い、そして貴族共が権力と金を手にいれるために他者を蹴落とした際に発生した溜められてきた恐怖・憎悪・悲しみ・欲望…あらゆる感情が集合したマイナスエネルギーが、ファウストとしてのあたしの闇の力と一つになって強化されていくんだ。
こんなふうに…ね!!」
「グアア!」
眼前まで急接近したファウストは、ゼロの腹に拳をめり込ませ、その拳から闇の光弾〈ダークフェザー〉を発射した。至近距離からのエネルギー弾に、ゼロは大きく吹き飛ぶ。
「く、は…ハルナ…」
よろめきながら立ち上がるゼロ。すかさずファウストはゼロに続けて攻撃を仕掛ける。
立ち上がった直後のゼロの体を捕まえ、膝蹴りを叩き込んで、ゼロは膝を着く。
「クックック…フン!」
さらにもう一発、膝を着いている彼を蹴りあげ、街の瓦礫の上を転がすファウスト。そして続きに、残像を残すほどの高速移動を加えた、連続攻撃。
ゼロはファウストの攻撃を、受け続けた。

「なんという…」
ゼロを圧倒するファウストの猛攻。
その驚異に、アンリエッタは戦慄した。まだ城には自分や、枢機卿以下数名が残っている。彼らもまたゼロとファウストの戦いを見ていた。
圧倒的なファウストの攻撃に、ゼロは反撃できない。
しかし、内一人の貴族があることに気がつく。
「陛下、何かおかしくありませんか?」
「え?」
何かあるのかと、アンリエッタはその貴族に尋ねる。
「戦いはじめてから、ウルトラマンゼロは一切黒い巨人に攻撃を仕掛けておりません」
「!?」
それを聞いて驚愕する一方、アンリエッタは確かにゼロがさっきからファウストに攻撃していないことに気がついた。しかも、ファウストの攻撃を常に正面から受けている。
「なぜだウルトラマン!どうして黒い巨人を攻撃しない!?」
理解できないと、貴族の一人が声を荒げた。
(なぜ…?)
アンリエッタもまた、黒い巨人を攻撃しないゼロに疑問を感じた。ただ…その時の彼女は、今の状況が、操られたウェールズに自分が惑わされた時の光景とどこか似ているような気がした。


ファウストもゼロが攻勢に転じないことに気づいていた。
「あたしのエネルギーが尽きるのを待つ作戦かい?けど、それはあまりいい作戦とは言えないね!さっきも言っただろ?常にこの街のマイナスエネルギーは、街の各地に設置された装置を通してあたしに流れ込んでいくんだ!制限時間を設けられたあんたと違って、あたしはこの姿を常時できるんだよ」
この時、既にゼロのカラータイマーが点滅を始めていた。一方でファウストのコアゲージはまだ赤く点滅しておらず、まだ黒く染まったままだ。
「無抵抗を貫いたままじゃ張り合いがないじゃないか、サイト。もっとあたしを楽しませてくれよ。これまで戦った時みたいに…さ!」
ファウストはカラータイマーをならし続けるゼロに、さらにもう一撃、胸部に拳を叩き込んだ。
「く、ぐぅ…」
ダメだ…やはり彼女を攻撃するなんてできない。戦闘が始まってから、ゼロは幾度もファウストに攻撃しようと思った。だが、そうしようと思っても、腕が彼女の方に伸びることはなく、ただファウストの攻撃を一方的に受けることしかできなかった。それがダメだと頭でわかっていても、どうしても躊躇ってしまう。
「安心しな、サイト。あんただけは殺しはしないさ。ただ、ちょっと…あたしの望みを叶えてもらうために、あんた自身が必要ってだけ。
ルイズのことは、ウェザリー様やレコンキスタの連中に任せるさ」
ゼロはそれを聞いて、ファウストに向けて顔を上げる。
「ルイズを…どうするつもりだ…?」
しかし、ルイズの名が口から飛んできた途端、ファウストの声が少し険しくなる。
「別に。大方虚無の力を利用するってことだろうさ」
「や、やめろ…!!ルイズは…!」
ゼロがやめるように言った途端、強烈なビンタが炸裂し、ゼロは再びダウンする。
「…やっぱりルイズの方が大事なのかよ。あんたをこの世界に無理やり連れてきて、こんな戦いを強いて苦しめてきておきながら、図々しく恋人面するあんな女が!!」
憎しみを込めた声で言い放つファウストは、立ち上がりきれないゼロの首と肩を後ろから、羽交い絞めて動きを封じた。
「は、ハルナ…止めろ…」
「さっきも言っただろ?命乞いの必要はないよ。今はただ、あんたの光をあたしの一部として取り込むだけだ。あたしがさらに無敵となるためにね」
ファウストはそういいながらほくそ笑むと、彼女の両腕が怪しく発光する。すると、ゼロのカラータイマーやプロテクターも同じ光を放つと同時に、エメラルドグリーンの光があふれ出し、それがファウストの体に吸い込まれていく。
ファウストは、ゼロのエネルギーを吸収しているのだ。それに伴い、ゼロのカラータイマーの点滅が少しずつ早まっていく。 
このままでは、ゼロは二度と立ち上がる力を失ってしまう。


「く!せい!」
一方、ルイズたちもまた危機に陥っていた。
ハルナにかけられたウェザリーの催眠魔法、それを解かなければファウストは止まらない。だが、その術者であるウェザリーがビーストヒューマンを仕掛けてきて、ルイズは虚無の詠唱ができない。
今はジュリオとムサシ、そしてアニエスが、ルイズを守りながら肉弾戦でビーストヒューマンに応戦している。現役の兵士であるアニエスは巧みな剣技と銃捌きで敵を退けていく。
ジュリオも怪獣使いという、怪獣に戦いの全てを任せているように見えるわりに、格闘術の心得があった。ムサシもコスモスと一体化し戦ってきた経験もあり、肉弾戦も慣れている。しかし、一体一体はたいした戦闘力はないが、敵の頭数が多すぎた。それにムサシは、相手が人間で、それも死体であるという事実に抵抗もあって、腕が鈍りやすくなっていた。
「きゃ!この…離れて!!」
そんな中、ルイズは彼らのフォローのおかげもあって何とかビーストヒューマンの魔の手をギリギリで回避するが、魔法が凄くても戦いについてはド素人の彼女が長く持てるはずもなかった。そんな彼女をなんとしても守ろうとするジュリオたちにも限界が訪れようとしていた。
「うあ!!」「ち…!!」「ぐぅ!!」
体力の限界で動きがついにビーストヒューマンに捉えきれるほどまでに落ちてしまったせいで、ついにジュリオが最初に…そしてムサシも取り押さえられてしまう。
「ジュリオ!ムサシ!アニエス!」
ルイズが三人を助けようと杖を振るおうとする。回避中になんとか虚無の詠唱を必死に行っていた。ギリギリ間に合ったと重い、杖を振るおうとしたが、その隙を突いてまたさらにビーストヒューマンたちが現れ、彼女の杖を取り上げ、四肢を掴んで捕らえてしまった。
「ふっふっふ…ついに捕まってしまったわね」
「は、離しなさいよこの卑怯者!!」
ルイズは不敵に笑っているウェザリーを睨みつけながら怒鳴り散らすが、ウェザリーがそれを聞き入れるはずもなかった。
「向こうもついに決着のようね」
ウェザリーが街の中心の方を見る。そこには、ファウストに羽交い絞められて捕まってしまったウルトラマンゼロの姿があった。
「そんな、ウルトラマンが…!」
ルイズがまさかの敗北とも取れる状況に陥ったゼロを見て目を見開いた。
「おのれ…!!」
苦々しげにアニエスは顔を歪める。
「だから言ったんだ…!!」
ジュリオは、サイトに対し忠告を無視したことを恨むようにうそぶく。
「ゼロ!しっかりするんだ!」
ムサシがゼロに立ち上がるように呼びかける。しかし、そのゼロはファウストに捕まり、身動きが取れずにいる。
『く…コスモス!無理にでも変身はできないんですか!?』
『…だめだ。まだ変身に必要なエネルギーが回復しきれていない…!すまない、ムサシ…!』
ムサシは自身と一体化しているコスモスに問い詰めるが、コスモスはしごく無念そうに、ムサシに謝罪する。不運なことに、まだ彼らが変身に必要となるエネルギーが戻ってきていないのだ。
「ははははは!!よくやったわハルナ。さあ、ウルトラマンのエネルギーを全て奪ってしまいなさい!」
勝ち誇った高笑いを浮かべながら、ウェザリーはファウストに命令を下した。自分の復讐の駒となる彼女をさらに強化し、トリステインへの復讐を果たすために。


ゼロは、サイトはファウストに攻撃を加えることさえも躊躇うあまりできなかった。戦ったところで、彼女と最後までどちらかが命尽きるまで戦う羽目になる。そう思ってしまうあまり、手を出すことさえもできない。
…いや、彼女と戦って勝つことが、ハルナを救うことじゃないはずだ。
もう後がない。それなら…
『大切なのは心だよ』
ムサシの言葉を胸に、エネルギーを吸われながら、ゼロはサイトとしての意思を持って、ファウストに話しかけてきた。
「なあ、ハルナ…聞いてくれ…くっ…地球で、一緒だった頃のこと…覚えてるよな?」
「……?」
エネルギーを吸収されているという状況だというのに、地球での思い出話を語りだしたゼロに、ファウストは、はっ?と困惑した。
「最初に会ったときのこと、覚えてる…か?俺、君が他校の高校生に絡まれてるのを、俺が助けようとしたときのことなんだけど…そのときの俺、足が震えててかっこ悪かったよな…?」
「いきなり…何を言い出す…?」
「くぐ…その後、高校でクラスが一緒になって…俺、学校じゃポカが多くて、よくハルナがフォローしてくれたんだよ…グゥ…な…!」
ファウストは気でも違ったのかと思いながらも、ゼロからエネルギーを吸い上げていく。

これにはウェザリーも目を細めた。ルイズたち普通の人間には聞こえないが、彼女やムサシ、そしてジュリオにはゼロの言葉が聞こえてきた。
「バカな…口先の言葉なんかで私の人形を惑わせると思っていたの?」
なんておめでたい脳みそなのかしら。ウェザリーはそんなゼロをあざ笑った。ジュリオも同じように、戦いの途中で何を言い出すのだと呆れたように呟いた。
だが、ムサシだけは違った。ゼロは決して、言葉を駄々漏らししているのではなく、その言葉の裏に隠れた思いを必死に訴えているのだと気づいていた。
その思いが、きっとハルナを倒すことなく守り、闇から救う手段だと信じて。

「そしたら…ある日ルイズに召喚されて、俺の…知っている人が…誰もいないとこに飛ばされて…それでも、地球にいつか帰ること…を夢見て…頑張ったら…また君に…うっ…会うことができた…」
「…黙れ…!!」
「俺さ、ぐああ…!!結構嬉しかったんだぜ…俺が助けた女の子が…今度は俺を助けてくれて…異世界に飛ばされたときだって俺のことを諦めないままでいてくれてさ…」
「黙れと…言ってるだろうが!!お前はそのままエネルギーを吸われていろ…!」
ファウストは煩わしそうに、ゼロの言葉を大声で遮断しようとするが、ゼロは口を閉ざさない。
「黙るかよ…!!
俺は、この世界で…ルイズたちと仲間になれたこともそうだけど……昔馴染みである君も…まだ俺のことをクラスメートとして…見てくれて、大切に思ってくれて…一人じゃないんだって、改めて…思うことができた…ぐが…ッ!!
だから俺…ルイズたちのことも、この世界のこともそうだけど…君のことも…守りたいんだ…」
エネルギーを吸われていき、苦しみもだえながらも、ゼロは…サイトは自分が抱く強い思いをハルナに伝えていった。
「約束…したもんな……」
「ッ!」
ファウストは、黙れ!と言おうとしたが、喉の奥でそれを突如詰まらせた。
「だから、闇に落ちそうになった君を放っておけるか…!」
言葉を通して彼の言葉が、その思いを形にするかのように暖かな光のように彼を輝かせた。
ゼロの姿は金色に輝いていき、その光がファウストを太陽のように、心の奥底まで照らしていく。
「約…束…」
浄化の光〈ウルトラゼロレクター〉が、ファウストを包み込んでいくうちに、たった一言と、ゼロの放つ神々しい光が、ファウストの脳裏にある光景を蘇らせる。


他校の生徒から絡まれたときにサイトに助けられた、初対面の時。

一緒のクラスになって再会し、お礼を言った時。それをきっかけに仲の言い異性の友達となった時。

サイトがテスト勉強で困っているとき、ハルナが積極的にサイトの助けになってくれた時。

一緒に秋葉原の街を歩いたら、クール星人に連れ攫われ、離れ離れになった時。

突然暗雲に呑まれ、異世界に飛ばされた時、サイトと奇跡的に再会を果たした時。

ルイズたち異世界の人間たちと、舞台を通して触れ合った時。

そして…怪我が原因で果たせなかった、舞台『双月天女』を自分だけのアレンジで行った、二人きりのクライマックスシーンでの台詞。

『私を、どうか…帝国から連れ去りに来てください』

それはサイトにとって、闇という名の帝国から『ハルナを守る』という強い決意を示す約束となった。
「…ッええい!!やめろ!!」
しかし、ファウストはその光を拒絶し、ゼロを蹴飛ばした。
「っぐ…!!」
「そんな安っぽい言葉を言い放って…こんな醜い世界と、そこで生きるルイズたちの方を優先してるくせに!!
この嘘つき!!」
いい加減耳障りだ!ファウストはそう言い放ち、激高するあまり、ゼロから強く吸い上げたエネルギーで攻撃しようとした。その勢いが強まり過ぎて、もはやゼロとサイトの命を顧みるのを忘れかけていた。

だが、その時だった。



――――やめてええええ!!



ドクンッ!
「…うぅ、ぐが…!!?」
突然、ファウストの動きが止まりだした。彼女はゼロを離して立ち上がると、苦しそうに頭を押さえだした。
「え…!?」
城にいるアンリエッタたち、そして地上でビーストヒューマンに捕まっているルイズたち三人、街でサイトたちを探しっぱなしのギーシュたちUFZメンバーたちが、ファウストの異変に注目した。
「何…!?」
ウェザリーもこれには驚愕のあまり、ファウストの異様な状態から目を見開いた。
な、なんだ…?ゼロもまた、胸を押さえながらよろよろと立ちあがって彼女を見る。
「ちくしょう…やめろ!出てくるなハルナ!」
「!」
今…ハルナ?ハルナといったのか?
まさか…!
ゼロの中に、ある確信が生まれた。もしや…ハルナの本来の心が…。
手を伸ばすゼロ。だが、彼の手が届く前に、ファウストは逃げるように姿を消していった。
「ハルナ…」
逃げられてしまった。
けど…不思議と絶望ばかりじゃない気持ちがあった。まだ彼女の心は…生きている。
しかし、もう残りエネルギーが少ない。だがせめて…!
ゼロは地上にいる、ルイズたちを捕まえているビーストヒューマンたちを見つけた。そして残りのエネルギーを振り絞り、まばゆい光をビーストヒューマンに浴びせていく。
すると、ルイズたちを捕まえていたビーストヒューマンたちは、太陽の光を浴びせられたゾンビや吸血鬼のように悲鳴を上げながら干からび、消滅していった。
「ち…!」
ウェザリーはここにきて自分の失敗を悟り、どこかへ瞬間的に去って行った。
それと同時に、ゼロは膝を着いて青い光を放ちながら消えていき、元のサイトの姿に戻って行った。 
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