FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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憧れ
前書き
今回のお話で出てくる新キャラはずいぶん前から出てくる予定だったものです。本当は大魔闘演武のBチームの六人目にする予定だったんですよ。出すタイミングなくてお蔵入りしそうだったんですよね・・・
レオンが100年クエストに向かうことが決まった次の日、俺たちはギルドで雑談をしていた。
「レオンはいつぐらいにクエストに行くつもりなの?」
「さぁ・・・一週間後くらいかな?」
ジュラさんに準備が出来たらと言われたが、そもそもそこまで準備をする物もなく、一日で準備が整った。しかし、これから行くのは今まで成功者のいない100年クエスト。どれだけの期間を擁することになるのか予想ができない。もしかしたら、せっかく手に入れた食べ放題券を一度も使うことなく終わってしまうかもと危惧した彼は、ギリギリまで景品を満喫してからクエストに行こうと考えた。なので、まだまだ出発などするはずもなく、ギルドに顔を出している。
「ちゃんと出発する前の日には教えてよ」
「わかってるよ」
だけど、レオンと一緒にクエストに行くラウルは気が気じゃない。レオンは気まぐれなところがあるから、突然「今日行くぞ」なんてことになりかねない。そんなことされたら、ラウルはいざと言うときに力が発揮できなくて、彼を連れて逃げ切れないと考えているらしい。最初から逃げることを考えているあたり、ラウルらしいけどね。
「どうした?迷子か?」
「親はどうした?」
みんなで話をしていると、ギルドの出入り口のところからリオンさんとユウカさんが誰かと話していることに気付く。耳のいい俺とウェンディはそちらを向いて誰と話しているのかを見てみると、俺たちぐらいの女の子が立っていた。
「誰かな?あの子」
「シェリア、知ってる?」
滅竜魔導士である俺たちには聞こえていたけど、シェリアたちには聞こえてなかったらしく、ウェンディに言われて扉の方に顔を向けるシェリアとレオン。
「え?誰だろ、あの子」
「初めて見た子だな」
ギルドに入って日が浅い俺たちには見覚えがないだけかと思っていたら、レオンたちもその少女のことを知らないらしい。となるとあの子は、一体何者なんだろうか?
「会いたい人がいるんです」
「会いたい?誰にだ?」
彼女が気になってそっちに耳を傾けていると、少女はどうやら探している人がいるらしく、蛇姫の鱗へやって来たらしい。
「シリル・アデナウアーさんっていますか?」
「「「「「!!」」」」」
その子が探しているのは、なんと俺だった。でも、あの子の記憶が一切ない。なのに俺を探しているって・・・どういうこと?
「シリル!!ちょっと来てくれ!!」
「は・・・はい!!!!」
とりあえずなぜ自分が呼ばれたのか確認するために少女の元へと向かってみる。後ろからウェンデたちも何食わぬ顔で付いてきているが、気にすることはないだろう。
(あれ?この子誰かに似ているような・・・)
薄い桃色の髪をしたつり目気味のその少女は、以前どこかで見たことがあるような印象を与えるんだけど・・・気のせいかな?
「ねぇ、誰かに似てない?」
「ウェンディも思った?」
と思っていたら、隣にいた少女も目の前の女の子に見覚えがあるらしい。でも、たぶんこの子じゃなくて誰かに似てるんだよな。誰だろう?
「えっと・・・あなたは誰?」
もしかしたら依然あったのを忘れているのかと思い、申し訳なさそうな声で桃髪の少女に話しかける。身長は俺より少し大きいって感じだから・・・同い年なのかな?
「初めまして!!私、サクラって言います!!」
元気な声で、勢いよく頭を下げて名前を名乗る女の子。なんか匂いも似た匂いを嗅いだような気がするんだけど・・・ダメだ、全然わからない。
「サクラちゃん?それで、俺に何の用なの?」
初めましてってことは、今日こうやって面と向かって話すのは初めてなんだろう。そんな女の子が俺に一体何の用なんだ?
「何かの依頼かしら」
「あるかもね~」
シャルルとセシリーはサクラちゃんが俺指名の依頼を持ってきたと推測していた。なるほど、それは盲点だった。
「はい!!あの・・・」
言いづらいことなのか、少し躊躇いを見せた後、決心したように真っ直ぐにこちらを見つめるサクラちゃん。
「弟子にしてください!!」
「「「「「・・・え?」」」」」
いきなりのこと過ぎて何を言っているのかわからない。弟子?俺の?
「ちょ・・・ちょっと待って!!」
「はい!!いくらでも待ちます!!」
「いや、そうじゃなくて・・・」
彼女のことを弟子にするまでの時間をくれと言っているわけじゃない。なぜいきなり俺の弟子になりたいのか、それがわからないから待ってほしいんだ。
「そもそもなんで俺がここにいるのを知っているの?」
俺が蛇姫の鱗に来てまだ一ヶ月も経っていない。俺を探しているのなら、普通はマグノリアに向かおうとするものなんだけど・・・
「妖精の尻尾に行ったら、ギルドが解散していたので、探し回っていたらここにたどり着いたのであります!!」
なぜか突然口調が変わったんだけど、そこは気にしないでおくか。俺の知ってる女の子ってキャラおかしいの多いよな、主に銀髪の奴なんだけど。
「なんで俺の弟子に?もっといい人いっぱいいると思うんだけど・・・」
自分で言うのもなんだが、俺には人に指導するなんて力はない。第一まだまだ色んな人に教えてもらいたいぐらい知らないことがたくさんあるんだから、この子を弟子に取るなんて無理なんだけど・・・
「いえ!!大魔闘演武で見た時からずっとシリル先輩に憧れていました!!この人のような魔導士になりたいと、魔法を勉強するようになりました!!」
驚くべきことに、サクラちゃんは大魔闘演武を見るまでは魔導士になりたいなんて考えたこともなかったらしい。そもそもあの大会を見ていたのも、お姉さんの仕事の関係で偶然あそこにいたかららしい。
「感動しました!!私とあんまり変わらない身長なのに、大人たちに立ち向かっていく凛々しさ!!頭おかしいくらい強いレオンさんに怯まない勇気!!」
「頭おかしいって・・・」
目の前にいるのに気付いていないのだろうか、レオンのことをディスっていたサクラちゃん。それを聞いたレオンは自分が悪いのかと悩んでおり、頭を抱えていた。
「そして何より!!」
いきなり両手を掴み顔を近付けてくる少女。その瞬間後ろから黒いオーラを放つ竜がいたけど、彼女は気にすることなく話を続ける。
「その可愛らしい見た目!!もうフィオーレ中の女の子の尊敬の的です!!」
「へ?」
キラキラと輝いた目で彼女は俺の顔をじっと見つめている。だけど、今のって嫌な予感しかしないんだけど・・・
「ねぇ・・・それってどういうこと?」
念のため、おおよその予想はできているが確認せずにはいられない。もしかしたら俺の思い過ごしかもしれないし。
「同じ女の子として!!シリル先輩を尊敬しない人なんていません!!」
「俺は男だ!!」
案の定人の性別を間違えて覚えていたサクラちゃんに真実を告げる。もちろん俺は怒っているので何も考えずに叫んだのだが、それを聞いた少女の顔から血の気が引いていた。
「え?男の娘?」
「ちょっとイントネーション違うよ?」
彼女の男の子はなんだか悪意があるものにしか聞こえなかった。しかし、そんなことなど気にもしない彼女は、しばらく呆然と立ち尽くしたまま応答がない。
「お~い」
顔の前で手を振り、意識を呼び起こそうとしてみる。すると、ハッと気が付いたようで、サクラちゃんはすぐに賑やかさを取り戻していた。
「えぇ!?シリル先輩男の娘なんですか!?すご~い!!」
何がどうすごいのか色々と聞いてみたいが、これ以上騒がしくなると大変なので質問することができない。あまりのハイテンションに圧倒されていると、見かねたリオンさんが助け船を出してくれた。
「シリルを尊敬しているのはよくわかったが、それでいきなり弟子にしてほしいなんて唐突すぎじゃないか?」
彼女が元々何かを目指していて、その夢を捨ててまでやって来たわけじゃないんだけど、一時の感情で魔導士になるなんていくらなんでも厳しすぎる。魔導士はストレスも肉体的な疲労も大きいし、勢いで始めても長続きしない。そもそも俺は弟子なんて取るつもりはないから、彼女の願いを叶えることはできない。
「大丈夫です!!絶対やり遂げられる自信があります!!」
「いや、そうじゃなくてだな・・・」
言いたいことが伝わらなくて、頭をかきむしるリオンさん。彼はどうしようか迷った末、諦めて俺にすべての判断を委ねることにしたらしく、視線をこちらに向けていた。
(仕方ないか・・・)
元々俺を訪ねてやって来たわけだし、断るなら俺から言うのが筋ってものだろう。なので俺は彼女の目を真っ直ぐに見据え、口を開く。
「ごめんサクラちゃん。俺は君を弟子にすることはできない」
「えぇ!?なんでですか!?」
断られることなんて微塵も考えていなかったらしく、掴んでいた手をブンブンと振り回しながら理由を問い詰めてくる少女。そんなに腕振られたらもげるって!!
「俺はまだまだ人に教えられるレベルじゃないし、そんなことしてる暇なんかないから」
腕をもぎ取られそうになるのを何とか止めて彼女にそう告げる。俺には大きな目標もあるから、弟子を取って指導しているなんて時間はない。そんな時間があるなら、少しでも修行をしていたいから。
「ならなら!!私がシリル先輩の背中を見て勝手に学びますから!!」
これで諦めてくれればよかったんだけど、残念なことにそう簡単に引き下がってくれる子ではないようだ。向こうがこっちから自分の力で学んでいくなら迷惑はかからないけど・・・そこまでして弟子になりたいものなの?
「ねぇ、サクラは魔法って使えるの?」
すると、横からシェリアがそんな質問をぶつけてくる。魔法はコツさえ掴めれば誰だって使うことができるらしいんだけど、もちろんうまく適応しない人だっている。レオンみたいに一つの魔法に特化している人もいれば、何でもかんでもできる人もいるだろう。そして俺はヴァッサボーネから教えてもらった滅竜魔法しか持っていない。これは本物のドラゴンから教えてもらったからこそ意味があるのであって、俺から指導を受けても滅竜魔法の効果を発揮できるのだろうか?
「はい!!ちゃんとこうやって・・・」
背中に背負っていたリュックを床に下ろすと、サクラちゃんはその中身をガサゴソと探し始める。しばらく待っていると、彼女は辞典のような分厚い本を取り出し、得意気にこちらへと見せてきた。
「魔法の本を買って勉強してますから!!」
どう見ても初心者向けとは思えないような難しそうな本を持っている少女に苦笑いしかできない。他の皆さんも、こんな小さな子供がこのレベルの魔法を扱えるわけないと呆れており、集まっていた人たちが離れていくのが見えた。
「それなら、適性検査でもしてみようか」
「適性検査?」
その本を見たと同時に静かにことの成り行きを見守っていた金髪の少年が割って入ってくる。彼の提案を聞いたサクラちゃんは、どういうことかわからず首を傾げていた。
「そう。この本にある魔法を一つでもできたら合格。君は晴れてシリルの弟子になれる」
「ホントですか!?」
当人の許可も取らずに話を進める氷の神。それを否定しようにもサクラちゃんはすでにやる気満々で、止めるのが申し訳なくて口を挟めない。
「ただし、チャンスは一回だけ。失敗したら諦めるんだぞ」
「はい!!了解であります!!」
なかなか厳しい条件だということに彼女は気づいていないんじゃないだろうか?初めて扱う魔法ってだけでも厳しいのに、たった一度でアドバイスも何もなく本の中の魔法を再現しなければならない。そんなこと、普通の人間じゃあまず無理だ。
「ちょっとレオン!!それは厳しすぎるんじゃないの!?」
「そうだよ~!!せめて2、3回はやらせてあげないと~」
「合格させる気ないのが丸見えだよ?」
この試験内容にエクシードトリオは反対していた。俺としてはこれで諦めてくれるならありがたい限りなんだけど、シャルルたちからすれば頑張ってほしいと思うところなんだな。
「大丈夫大丈夫。きっとすぐにシリルの困った顔が見れるから」
「え?」
俺を助けてくれようとして言ったと思っていたのに、そんなことを言うのはなぜだろうと思ってそちらを見ると、不敵な笑みを浮かべる少年の姿があり背筋がゾッとした。
「行きますよ!!」
そう言って両腕をゆっくりと振っていくサクラちゃん。何をやっているのかと思って見ていると、しばらくして腕を止めた彼女の周囲に魔法陣が出現した。
「え・・・?」
ギルドの皆さんが感心している中、俺は額に汗を浮かべてその様子を見ている。これはまさか・・・
「ハァッ!!」
両手を前に突き出すと、魔法陣の中から無数の何かが飛んでくる。その方向は・・・レオン。
「うおっ!!」
慌ててサクラちゃんの攻撃を凍らせて事なきを得る。彼が凍らせたものを見ると、何やらたくさんの種類の武器だったらしく、地面に転がり、やがて消滅した。
「ほぅ・・・魔法陣を作っての魔法か」
「基本中の基本だもんね」
「え?そうなの?」
リオンさんとシェリアの会話にビックリしているウェンディ。俺たちは魔法を放つことで繰り出しているから、魔法陣を作るなんてしたことがなく、基本中の基本って言われて驚いてしまうんだ。
「でもあのレベルの魔法陣はなかなか上級者向けじゃないか?」
「俺はそこに行く前に学校やめたから」
魔法学校で魔法陣を使用しての魔法を練習するらしいが、レオンはそこに行く前に学校をやめているらしい。それでも彼はそこそこの学年までいたはずだから、今サクラちゃんが使った魔法がどれだけレベルの高いものなのか想像できる。
「でもそんなに高度な魔法ができるなら、俺の弟子になんかならなくていいんじゃないの?」
シェリアたちの言葉を全て信じるなら、彼女の方が魔法の知識は俺よりもあるかもしれない。だったら独学で勉強したりした方がよっぽど彼女のためになるような気がする。
「いえ!!私これしか魔法できないんです!!」
なぜかキラキラと輝いている笑顔で自信ありげにそんなことを言うサクラちゃん。
「え?今の魔法しかできないの?」
「はい!!だからシリル先輩に色々教えてほしいんです!!」
さっきの魔法が高度なものなのはわかったけど、それしかできないとなると話は変わってくる。独学だからしょうがないような気もするけど、大魔闘演武ならすでに二、三ヶ月くらい経っているし、もう少し技を・・・もしくは速度を上げてもらいたいところだ。
「他のは全くできないのか?」
「いえ!!ちゃんとやれてるはずなのになぜか発動しないんです!!」
試しにやってみせることになった彼女は本の中から一番やれそうなものを選び実演して見せる。先程よりも速度がさらに遅くなった腕を振るい終えた少女。その周りに魔法陣が――――
パァンッ
現れたかと思ったら、魔力が撒き散らされるように消えてなくなった。
「あれ?失敗?」
「うまくできてると思ったんだけど・・・」
シェリアとラウルが顔を見合わせ首を傾げる。ウェンディたちもなぜ失敗したのかわかってないらしく、不思議そうな顔をしていた。
「ねぇ、サクラちゃん」
「サクラでいいです!!」
呼び方に距離感を感じたのか、呼び捨てにするように提案してくる彼女を軽くスルーして気付いた点を述べる。
「文字間違ってたよ?」
「「「「「え?」」」」」
彼女の魔法陣はいくつが文字が誤っており、本来の効力を発揮できるものではなくなっていた。俺は目がいいので、その間違った瞬間を捉えることができたのである。
「げぇ!!シリル先輩すげぇ!!さすが師匠です!!」
自分のミスを指摘された彼女はなぜか大喜びで飛び付いてくる。なんだかタックルみたいで腰に響いて痛かったんだけど!!
「ちょっと!!抱き付かないで!!」
「イヤです!!弟子なんだからこれくらいいいはずです!!」
引き剥がそうとしてみるけど、彼女の抱き付く力が強すぎて引き剥がせそうにない。てか痛い、すごく痛い。
「ウェンディ!!助けて!!」
「弟子の指導は自分でやらないとね?」
「見放されたぁ!!」
助けを求めても誰もそれに答えてくれない。この状況ならウェンディが何とかしてくれるんじゃないかと思ったんだけど、弟子だからという観点で見捨てられてしまった。
「シリル先輩!!私に魔法を~!!」
「先輩って、そもそも君いくつ!?」
身長を見た感じ俺と同い年くらいだと思うんだけど、そんな人に先輩と呼ばれるとすごく違和感がある。俺の質問を聞いたサクラは離れると、敬礼しながら解答した。
「はい!!先日10歳になったばかりであります!!」
「「・・・え?」」
彼女の年齢を聞いて固まってしまう俺とウェンディ。10歳ってことは・・・年下?
「「ウソだぁ!!」」
自分よりも背の高い後輩に頭を抱えてショックを受ける。しかも3つ下って・・・まだまだ俺の方が大きくてもいい年頃じゃないの?
「二人とも小さいもんね」
「チビだからな」
「「そんなこと言わないで!!」」
シェリアとレオンから屈辱的な言葉を放たれ絶叫する。まだ成長期が来てないだけで・・・決してチビでは・・・
「大丈夫です!!シリル先輩もウェンディさんも可愛いですもん!!小さくてもイケるっす!!」
「「フォローになってなぁい!!」」
一日で心にたくさんの傷を負わせられた俺とウェンディ。結局レオンの持ちかけた賭けの通り、彼女を弟子に取ることになってしまったんだけど、これからまた賑やかな日々をすごくことになりそうだ・・・
後書き
いかがだったでしょうか?
シリルとウェンディに後輩ができました。この子はレオンと対極な性格の持ち主ですかね。すごく賑やかな女の子です。
一応この子はあるキャラの妹設定なんだけど・・・誰かわかるかな?たぶんいずれ出てくるとは思いますが・・・
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