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復讐法

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第五章

「おそらくそれはできない筈だ」
「そうなりますね」
「彼等は何もわかっていない」
 首相は人権派を批判した。彼もそうしたのだ。
「法律は悪を裁くものでもなければいけないのだからな」
「犯罪者には犯罪者に対する法があるということですね」
「悪を護るものであってはならないのだ」
 この場合は犯罪者を指していた。犯罪が悪なのは言うまでもないことだ。
「だからだ。これはだ」
「国民の圧倒的多数が正しいですね」
「その圧倒的多数が正しいとは限らない」
 首相はわかっていた。このこともだ。
「正しいかそうでないかは数では決まらない」
「時代によっても変わるものですが」
「しかし数で決まるものではない」
 このこともだ。首相は言うのだった。
「民主主義は数で決まるものだがな」
「正邪を決めるものではありませんからね」
「私は数で選ばれたがな」 
 首相にだ。だがそれでもだというのだ。
「正しいかそうでないかは数では決まらないものだからな」
「では決めるのは」
「そういうものではない。だからだ」
「この場合は国民が正しいですね」
「人権派は間違っている」
 知識人やそうした政治家達がだというのだ。今回間違っているのは彼等だというのだ。
「今回はな」
「そうなりますか」
「それでだ。私はこの法律を変えるつもりはない」
「衆参両院の議員の大多数もその様です」
「そうだな。それではな」
「はい、ではこのままですね」
「死刑囚は被害者の遺族によりその思いのままの処刑を受ける」
 そうなっていくというのだ。これからもだ。
「そうなっていくからな」
「わかりました。ではその様に」
 官房長官も実はこの法律に賛成だった。そうしてだった。
 死刑囚は人権派の反対をよそに被害者の遺族達によってそれぞれのやり方で処刑されていった。このことに国民の圧倒的多数は賛成のままだった。誰もが言うのだった。
「どうせ死刑囚だからな」
「悪いことしたから当然だろ」
「人を殺した奴に人権なんて不要なんだよ」
「全くだ」
 人権派は自分達の正義をあくまで言うがそれでもだった。国民の正義はこちらにあった。誰も殺人犯の人権なぞ擁護はしなかった。彼等はあくまで被害者の側に立っていたのである。
 やがてその国民達をだ。人権派の者達はこう批判した。
「貴方達は何もわかってはいない!」
「殺される者のことを考えるべきだ!」
「加害者の人権を守れ!」
「死刑反対だ!」
 あくまでこう主張する。しかしだった。
 国民達は依然として彼等の人権のあり方を考えていた。そのうえでだ。
 死刑囚は処刑されていった。殺される者のことを考え被害者の人権を考えたうえでだ。この法律を支持していった。そしてやがて殺人事件自体が日本から激減した。犯罪の件数自体も激減した。答えが何処にあったのかはわからない。しかし事実は歴然として存在していたのだった。


復讐法   完


                     2012・4・21 
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