魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者
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第二十一話 ホテルアグスタ 1
ティアナside
最初の出動の時もそれなりに上手く行ったけど、ただそれだけだった。
毎日の訓練も、あんまり強くなっている実感がない。
手の中には優秀すぎる相棒がいて、アタシの周りには、天才と歴戦の勇者ばっかり。
今も疑問に思ってる。自分がなんでここにいるのか。
あの人は何で、アタシを部下に選んだのか。
考えても答えの出ない疑問。
そしてアイツ。
初めて会ったのは昇級試験の時で、その時の印象は、お人好しでただ防御が上手いだけの平凡なヤツだと思っていた。
でも違った。アタシに無い発想を持っていて、それを実現するだけの実力がある。
結局、アタシ一人がただの凡人。
だから証明したい。アタシの力を。
ランスターの弾丸の強さを。
ふと目を覚ます。
時計を見ると、6時半を指していた。
「……変な夢、見ちゃったな」
アタシは寝汗を拭い、起き上がった。
二段ベッドの上では、まだスバルが寝息を発てていた。
静かに思い起こす。
派遣任務では、思った通りの結果を出す事はできなかった。
隊長達は褒めてくれたけど、それを額面通りに受け取る事はできない。
ロストロギアを封印したのはキャロだし、その準備段階で動きを止めたのはスバルとエリオだ。
アタシの弾丸はキャロのブーストを使って、やっとロストロギアを活動停止させたに過ぎない。
それだけじゃない。
アスカだ。
ロストロギア相手にアタシ達の攻撃が通用しなかった時、アタシは慌ててしまって冷静さを欠いた。
でも、アスカの一言で状況を改めて見る余裕が生まれた。
さらに、アスカはやられながらもロストロギアの本体を見破るヒントをくれた。
……アタシだけが、何もできなかった。
何かできた筈。もっと上手く出来た筈。
「強く……もっと強くならないと…」
兄さんの、アタシの夢の為に……
魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者、始まります。
outside
「何よ!コレ!」
司令室にシャーリーの怒鳴り声が響く。
新たな任務があると、はやてに呼び出されたフォワード一同が思わずシャーリーに目を向けた。
「ど、どうしたの?」
なのはが恐る恐る声をかける。
シャーリーは普段、声を荒げる事はない。いつもニコニコ笑って、冗談を言っては周囲を和ませている。
そのシャーリーが、明らかに怒っているのだ。
「コレです!見てください!」
シャーリーがメインパネルに、自分が見ていた時空管理局報の一部を出す。
「ん?本局技術部がついにAMFの謎を解明。-イオンで魔力を中和させている事を突き止めた。現在再現実験に成功。実戦配備に期待がかかる」
アスカがそれを淡々と読み上げる。
なんかツマンネー事になったな、とその顔が言っている。
「コレってアスカさんが見つけたヤツじゃないですか!」
エリオが声を上げる。
「ど、どういう事でしょうか?」
キャロは、今読み上げられた記事に混乱しているようだ。
「……横取りされた、って事でしょうね」
(AMF対策が暗礁に乗り上げているからって、本局がそんな事をするの!?)
あからさまの不正に、ティアナは理不尽を感じる前に呆れてしまった。
「そんな!ヒドイよ!」
スバルも声を荒げる。
「確かに……これはちょっとヒドイね」
なのは、はやて、フェイトも顔を曇らす。
隊長達は、アスカが苦労して対AMFを編み出したのを実際に目にしている。
それがこんな形になるなんて思ってもみなかった事だ。
「これは抗議すべき…「放っておけよ」え?」
シャーリーがいきり立っている所に、当の本人が待てと抑えた。
「何で!悔しくないの!?」
まさか、アスカ自身がそんな事を言うとは思わなかったシャーリーが詰め寄る。
「言ったモン勝ちだよ。今更、こっちがドウコウ言った所で相手にされないさ」
そう言って頭をかく。
「悔しいっちゃ悔しいけどさ。今は任務の方が大事だよ」
アスカはそう言って、この話を締めくくろうとした。だが、
「…………」
シャーリーは唇を噛んだまま何も言わず、そして席に戻ろうともしなかった。
「シャーリー?」
アスカが声をかけた時だった。
「う…うぅ…」
シャーリーはポロポロと涙を流した。
「ちょっ!何で泣く!」
一瞬にしてパニックになるアスカ。
思いっきりオロオロとして周囲を見回すが、みんなも何でシャーリーが泣き出したのかが分からなくて戸惑うばかりだ。
「だって…私が、本局に…データを提出しちゃたから…アスカが痛い思いして…頑張って見つけた対AMFだったのに……アスカの実績を…台無しにしちゃって…」
俯いて涙を流すシャーリー。その後は、ごめんなさい、ごめんなさいと謝り続けた。
困り果てたアスカが周りを見たが、司令室にいた全員がどう声を掛けていいのか分からずにいる。
(そんなに苦しむなよな、シャーリー)
アスカはポン、とシャーリーの頭に手を乗せて、優しく撫でた。
「…ありがとな、シャーリー。そんなに怒ってくれて。でも、シャーリーが悪いんじゃないんだから泣くなよ」
その優しい言葉に、シャーリーはビックリして顔を上げる。
「で、でも私が!」
「ちゃんと仕事をしただけだよ、シャーリーは。本局の奴らが横取りしたってだけだ。シャーリーに責任は無い。つーかさ、そんな手柄なんかくれてやるよ」
頭を撫でながらアスカが言った。
「それで実戦配備できれば、そっちの方がいい。その方が、現場にとっては良い事だしな。だからもう泣くな」
アスカがニパッと笑う。
「……うん、ありがとう…」
まだ泣いてはいたが、シャーリーも笑った。
「おう。顔、洗ってこいよ」
アスカはそう言って、シャーリーを一旦司令室から外に出した。
その様子を見ていたなのはが、感心したように笑顔になる。
「やるね、アスカ君」
なのはの褒め言葉に照れそうになるアスカだったが、はやてのニヤニヤ顔を見て我に返る。
油断していたら冷やかされそだった。
「あ、あの!それよりも今回の任務って何ですか!」
顔を赤くして、アスカが促した。
「おっと、そうやった」
コホンと咳払いをして、はやてが真面目な顔になる。
「と、その前に、ここまでの流れのおさらいや」
はやてはメインパネルに一人の男を映し出した。
「これまで謎やったガジェット・ドローンの制作者、及びレリックの蒐集者は現状ではこの男。違法研究で広域指名手配されている次元犯罪者、ジェイル・スカリエッティの線を中心に捜査を進める」
モニターを見ているフェイトの表情が厳しくなる。
「こっちの捜査は、主に私が進めるけど、みんなも一応おぼえておいてね」
「「「「「はい!」」」」」
フェイトの言葉にフォワードメンバー全員が答えた。
(ん?)
その時、アスカは心なしかティアナが力んでいるように見えた。
(…気のせいか?)
それ以上の違和感を感じなかった為、アスカ特に気にかけなかった。
とにかく今は任務の方が気にかかる。
「で、今日の任務ですが、ホテルの警備任務です」
リインがモニターを切り替えて、見るからに高級そうなホテルの写真を映す。
「そんなの、民間の警備会社がやる事じゃないんですか?」
疑問に思ったアスカが言う。
時空管理局の、その中でも特大戦力を保持する機動六課が担当するには、あまりにも平凡な任務に感じた。
「普通ならね。今回、ホテルアグスタで骨董美術品のオークションが行われるの。その会場警備と警護。それが今日のお仕事ね」
なのはが説明してくれるが、アスカはイマイチ理解できないのか首を捻る。
「取引許可の出ているロストロギアがいくつも出品されているので、その反応をレリックと誤認したガジェットが出てきちゃう可能性が高い、との事で私達が警備に呼ばれたです」
リインの補足で、ようやく任務の重要性を認識するアスカ。
「この手の大型オークションだと、密輸取引の隠れ蓑のもなったりするし、色々油断は禁物だよ」
執務官であるフェイトの言葉には、妙な説得力がある。
(密輸への牽制の意味合いもあるのか?)
アスカは六課総出での任務にそう勘ぐった。
「現場には昨夜から、シグナム副隊長とヴィータ副隊長他、数名の隊員が張ってくれてる」
どうりで二人の副隊長の姿が見当たらない訳だ、と思ったアスカは、
(そのメンツに喧嘩売る奴の身を案じた方がいいですよ、八神部隊長)
訓練時にボッコボコにされた時の記憶が過ぎり、ガクブルになる。
「基本は六課が中心になって行動するけど、協力として陸士271部隊が私達の指揮下で動く事になるから、みんな失礼のないようにな……聞いとるか?アスカ君」
なんか頭を抱えて身悶えしているアスカにはやてが声を掛ける。
「は、はい……ちょっと訓練時のトラウマが顔を出しまして…」
そんなアスカに苦笑するみんな。
「私達は建物の中の警備にまわるから、前線は副隊長の指示に従ってね」
「質問がなければ、全員ヘリポートに移動ね」
なのは、フェイトが最終的な指示を出して、移動となった。
「あ、アスカ」
顔を洗いに出ていったシャーリーは、司令室から出てきたアスカ達とすれ違った。
アスカは他のメンバーに先に行っててくれと目配せする。
「よう、もう大丈夫だな」
「うん…あの…」
少し話しづらいのか、いつもの快活な様子はなくてモジモジしている。
「管制は任せたぜ。こう見えて、結構頼りにしてんだからさ!」
ニッと笑うアスカ。
「…うん!まかせなさいって。しっかりフォローしてあげるから」
シャーリーも、その笑顔に答えるように笑った。
「ああ、期待してるぜ!」「うん!」
パン!とハイタッチで二人は笑い会った。
ティアナside
アタシ達はヘリでホテルアグスタへ向かっていた。
アタシの向かいの席では、ライトニングFの三人がホテルの外観図を見ている。
「自然の中に建っているんですね。この前の派遣任務の時みたいだ」
エリオを挟んで、アスカとキャロがモニターを見ている。
「うわぁ、凄い豪華」
ホテルの内装の写真でも見ているのか、キャロが目を輝かせている。
それに対してアスカは、
「なんかムカつく」
……完全に貧乏人のやっかみじゃない。
「ホテルよりも、周囲の地形に何があるのかを、ちゃんと調べるんだぞ」
ふざけているようで、アスカはちゃんとお兄ちゃんをやっている。
エリオとキャロは素直にそれに従っている。
ホント、仲のいい兄弟みたいなチーム…昨日までは素直にそう思えただろう。
でも、今のアタシには、ライトニングは…いや、アスカに何か異質な物を感じている。
何で、なんでアイツは自分の手柄を簡単に捨てる事ができるの?
出発前に、対AMFの功績を本局技術部に横取りされたのが分かったのに、アスカはその事について拘りを見せなかった。
確かにちょっとは頭にきたみたいだけど、でもそれで終わりだった。
表面上だけ?いや、違う。
本当に拘りが無いんだ。
信じられない。
対AMFは、ガジェット攻略の切り札になり得る発明だ。
それだけで、昇進できるかもしれない発明の筈だ。
アスカは……アイツはそれをあっさり捨てた。捨てる事ができた。
アタシならどうだろう?
横取りなんか許せないし、それを本局技術部がやったなんて情けない事だ。断固抗議するだろう。
何で?なんでアンタはそんな事ができるの?
今回その発明を捨てても、別の機会で挽回できるから?
アンタにとって、対AMFはそんなに軽い物なの?
いくら考えても答えは出ない。
アンタにとって大事な物って何?出世欲が無いのは分かる。でも…
ダメだ、分からない。
結局、アタシだけが凡人って事?アンタも、結局は天才って事なの?
だからアンタの考えが分からないの?
「気持ち悪い」
アスカの不気味な物を感じたアタシは、思わず口に出してしまった。
「大丈夫、ティア?気分悪いの?」
小声のつもりだったけど、隣にいるスバルに聞こえてしまったらしい。
心配そうな顔をしてアタシを見ている。
「…ちょっとだけね。でも、大丈夫だから」
いつもそうだった。
アタシが何か不安になってると、スバルはいつも心配そうに声をかけてきていた。
何かしてくれる訳じゃないけど、それだけでなぜか安心しているアタシがいる。
アタシが微笑んで答えると、スバルもニパッと笑った。
「うん、ティアがそう言うなら大丈夫だよね!」
その笑顔を見て、アタシは思ったより身体に力が入っている事に気づいた。
ふう、と息を吐いて力を抜く。
うん、アタシにはスバルがいる。この子はいつもアタシを助けてくれる。いつか、アタシもスバルを助ける事ができるのかな…
そんな事を考えていたら…
「うお!なんだこりゃ!こんな料理がでるのか!?って、これ本当に食いもんか?」
「すっごく美味しそうに見えますけど」
「あ、可愛いケーキ」「くきゅ~」
向かいから緊張感の無い会話が聞こえて来て、ズルズルとベンチからズリ落ちてしまった。
「アンタ達!ホテル周辺の地形を調べていたんじゃないの!」
思わず突っ込んでしまった。この突っ込み体質をなんとかしたい(ーー;)
「怒るなよ~。そっちは一通り見たよ。で、ホテルの中の情報を見ていたらレストランがあってさ。これがすげーんだよ」
「え?どれどれ!」
「ってスバル!アンタもはしゃがない!」
さっきの感謝を返せバカ!
結局、いつもの調子になってしまった。
後書き
はい、ついにティアナのネガティブキャンペーンの開始です。
辛いなー。
あんまり書きたくないけど、これ越えないと話が進まないので、お付き合い願います。
アニメではヘリに乗って任務の説明をしていましたが、この小説では司令室に集まっての説明でした。
シャーリーのイベントを入れたかったからこうしてみました。
さて、なんでアスカは自分の実績を盗られてもそんなに気にかけなかったのか?
これは単純なことで、任務前に揉めるような事ではないと判断したからです。
とりあえず任務が終わってから考えよう、ぐらいの感じだったんですが、シャーリーが泣き出して
しまった為に、大いに慌ててしまっています。
そのアスカに対して、ティアナが妙な違和感を感じています。
この違和感が、後にティアナの感情を黒く染めていきます……書きたくないなぁ。
ところで、シャーリーさんが何気にヒロインゲージを貯めてませんか?
なんでアンタが貯めてんのよ!
ちょっと予想外デス。
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