魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Eipic18強欲が招くは破滅への戦火~Big Banquet~
†††Sideなのは†††
プライソン一派が襲撃して来るかも知れないと推測されている9月12日の今日、公開意見陳述会が開かれる。私たち機動六課は、会場となる地上本部の警備に参加することになっているから、ヴァイス君の操縦するヘリに乗って六課を後にし、そしていま地上本部へと降り立った。夜勤シフトということで、それぞれ与えられた警備ルートに従って地上本部の周辺を巡回。
(教会騎士団の人たちも、ちゃんと管理局と協力して巡回してくれてる)
防護服姿の騎士団員の姿を発見。男性騎士は共通のヘルメットを被っていて素顔は見えない。あと男性と女性とでデバイスが違うんだよね。女性騎士は槍、男性騎士は穂が長方形の杖。
正直、ゲイズ中将の教会嫌いのこともあって、教会との共同作戦が指示されていたとしても軽めの小競り合いくらいはあるかも、って不安だったけど。中には局員と団員が話し合ってる姿もある。それに安堵してると、カリムさんと同じデザインの女性用団服を着た「シャルちゃん!」を発見。
「あ、なのは!」
お互いに駆け寄って笑顔を浮かべ合う。シャルちゃんからの「なのは達も夜勤シフト?」っていう質問に、「そうだよ。ヴィータちゃんとリインとフォワード、それにギンガ」私はそう答えた。今はそれぞれ別行動中だ。
「そっか。私の部隊も夜勤シフト。明日の昼勤にはアンジェとトリシュの部隊が来る。・・・本当はルミナ達ズィルバーン・ローゼも、警備に参加させたかったんだけどね」
そう言って溜息を吐くシャルちゃん。確かにルミナちゃんのような騎士が数人と警備に入れば、それだけで過剰戦力になっちゃいそう。
「やっぱり管理局との軋轢が残って・・・?」
「ん~、それはちょこっとね。けど最大の理由は、プライソンが教会にも仕掛けて来ないか、ってこと。預言じゃ地上本部への襲撃しか示唆されてなかったけど、教会も一応厳戒態勢に入ることになったの。何せミッドチルダの終焉も預言に出てるからね、何が起こるか判らない」
シャルちゃんの話も尤もだった。プライソンは本当に何を仕出かすか判らないから、警戒し過ぎだなんて事はきっとない。それからちょっとシャルちゃんとお喋りしながら巡回を続けて、そろそろスバル達と合流する時間だな~って考えながら、ふと・・・
「そう言えば、シャルちゃんは屋内警備も担当とかしてる?」
そう疑問に思ったから訊ねてみた。もし一緒になれるなら、休憩の時なんかにもお話しが出来たらな~、なんて。
「あー、ごめん。私たち教会騎士はずっと外周警備なんだよ。ゲイズ中将が本局だけじゃなく教会からの応援をも招き入れたとはいえ、やっぱりどうしても教会は部外者だからね。地上本部内には入れてくれなかったよ」
「そっか。やっぱり異なる組織はすぐには仲良く出来ないんだね」
「聖王教会と仲が悪いのって実際ミッドの地上本部だけなんだよね。もうさゲイズ中将、局を辞めてくんないな~。正直あの人ダメだよね~」
いきなりシャルちゃんがそんなヤバ気な発言をするものだから、「わわー!」慌ててシャルちゃんの口を塞ぐ。ここにはゲイズ中将派の局員が当然の如く多いから、その人たちを刺激するような単語はアウトだよ。
「シャルちゃん、発言には気を付けよう? ね? そうしようね?」
「むぐぐ・・・『りょ、了解です、高町教導官殿』」
ホールドアップしたシャルちゃんからの念話に「ん」返事をして手を離す。ぷはっと息を吐いたシャルちゃんは「でも文句は言いたいよ」ぼやいた。
「内部の警備なのにデバイスの持ち込み不可っていうこの矛盾。内部警備担当の頭の悪さが際立って――」
「はい、ストップ」
もう一度シャルちゃんの口を塞ぐ。そして「正直、私も同じ思いだけど、口にしたらダメ」そう言ってから手を離す。地上本部に入る前にはデバイスを預けないといけないって話で、内部で武装できるのは本部に所属してる武装隊だけ。
「ま、内部で戦闘が起こらないように私たちがしっかり外を護るから、安心して待ってね」
「うんっ」
そうして私はシャルちゃんと別れて、スバル達フォワードと合流するために歩き出した。
†††Sideなのは⇒イリス†††
わたしの朱朝顔騎士隊ロート・ヴィンデを始めとした騎士隊を含め、地上部隊や本局武装隊が地上本部の警備任務に就いて早十数時間。夜勤明けの仮眠を終えたわたしはベッドから上半身を起こして「ん~~!」背筋をグッと伸ばし、そして深呼吸。
「寝心地は覚悟してたけど、思ってた以上に教会の寝台車も悪くないな」
10tトラックのような大きな車両のコンテナ部分にベッドだけを詰め込んだ寝台車。ほとんど使うことのない寝台車だったけど、1日と地上本部に詰め込むわたし達ロート・ヴィンデや黄菊騎士隊ゲルブ・クリュザンテーメのために借りてきた。他の隊は、シフトが終われば教会本部に帰還するけど、わたし達の隊は陳述会が終わるまでは帰れないからね。
(今の時間は・・・14時50分か。陳述会はもう始まってるか・・・)
わたしがいま居るトラックは女性専用車両にしているから、わたしの両隣のベッドにはもちろん部下の女性騎士が眠ってる。彼女たちを起こさないように(とは言ってもあと10分で起床時刻だけど)しながらベッドから降りて、そっと寝台車から降りる。
「おはよう、イリス。時間ピッタリの起床ですね」
「お、アンジェ」
いつもはポニーテールにしてるエメラルドグリーンの長髪を降ろした、わたしと同じ女性用の騎士団服を着たアンジェ――アンジェリエが挨拶をしてくれた。先の昇格試験でとうとうAクラス1位になれたんだよね。ま、わたしやトリシュ、クラリスと同じように現パラディンにボッコボコにされたけど。
「あ、起きてきたね」
「はよ~っす、トリシュ」
騎士団服を着たトリシュも姿を見せた。普段は降ろしてる茶色の長髪を肩甲骨の辺りで一房に纏めてる。わたしの隊、それに同じ夜勤シフトのゲルブ・クリュザンテーメが眠ってる間、地上本部を警備することになってた2隊、金水仙騎士隊ゴルト・アマリュリスと紫唐菖蒲騎士隊プルプァ・グラディオーレの隊長だ。
「どうしたの、2人とも?」
「教会本部に帰る前に挨拶をしておこうかと思いまして」
わたしの疑問に答えてくれたアンジェに「ありがとう、わざわざ」お礼を言って、若干沈んだ顔をしてるトリシュには「何か言いたい事ありそうだね」そう話を促してみる。
「私たちが警備していた昼間は何もなかったけど、何か起こるのならおそらく陽が落ちてから。だと言うのに、その時間帯に居られなくてごめんなさい」
「気にしないで、トリシュ。教会本部の警備だって大事だし。それに何よりここには機動六課が居る。もちろん本局の武装隊だって居るし、ゲルブ・クリュザンテーメだって居る。これも結構な防衛力だよ」
ゲルブ・クリュザンテーメの隊長であるキュンナ(フルネームは、キュンナ・フリーディッヒローゼンバッハ)も、わたしやトリシュ、アンジェやクラリスと同じようにAクラス1位を頂いてる次期パラディン候補だ。ちなみに騎種は鎌騎士。かつてはベルカ一の大国イリュリアを治めていたフリーディッヒローゼンバッハの末裔だけど、それはあくまで過去だし、彼女の家系はもう受け入れられてる。
「・・・そうね。うん、きっと大丈夫・・・」
トリシュには珍しく結構不安がってる。逆にこっちが心配しそうになるレベル。だから何か言葉を掛けようとしたら・・・
「イリス、お願い。私、この任務を終えたら、って・・・――」
「言わないよ!? そんな死亡フラグ! まだ18なのに、そんなフラグを立てて堪るか!」
まさかわたしの死亡フラグを立てて来ようとするとはね。ルシルとのウェディングエンドを向かえないまま死んで堪るか。トリシュは「チェ♪」笑顔で舌打ちした後、「とにかく。危険なのは変わらないから」一転真面目な顔になった。
「うん。大丈夫。教会本部も一応危ないから、そっちも気を付けてね、トリシュ、アンジェ」
「うん」「ええ」
そうしてトリシュとアンジェの隊は撤退していった。それからうちの隊員たちを起こし、定められた巡回ルートへ向かわせる前に整列させる。そしてこれからの巡回ルートの再確認を始めようとしたところで「イリス先輩!」そう声を掛けられた。
「ん? どうしたの、キュンナ?」
わたしに声を掛けてきたのは、ゲルブ・クリュザンテーメの隊長であるキュンナ。灰色のショートヘア、翠色の瞳、服装はわたしと同じ女性用団服。
「はい。地上本部警備室から、あたしとイリス先輩の騎士隊の巡回ルートに変更があるとのことで・・・」
そう言ってわたしとの間にモニターを展開して、新しい巡回ルートを示した地上本部周辺のマップを表示してくれた。
「・・・結構外周に回されてるな~。期待されているのか追いやられているのか。まぁどちらにしろ、気になることがあるね」
「なんでしょう?」
新しい巡回ルートをうちの隊員たちにも見えるように別のモニターに表示しつつ、「この指令、いつ来たの?」そう訊いてみる。キュンナの「つい先ほどですが・・・」そんな答えに、わたしは若干イラっときた。
「わたしのところには送られて来てないんだよね、指令書」
「あ、はい。あたしの方からイリス先輩の隊にも伝えるように言われたので・・・」
「そう。つか、普通は両方の隊に連絡するよね」
「そう、ですね・・・」
「他の管理局部隊にもこんな風だったりするのかね~」
「あ、いえ。どうやら管理局の警備部隊の各責任者にはそれぞれ変更の指示が入っているようでして。あたし達は一纏めにされたみたいです」
わたしの機嫌が急落してくのを感じ取れちゃってるのかキュンナはオドオドし始めた。不安にさせちゃってホントに申し訳ないけど、いくらなんでもここまでコケにされたらちょっと頭にくる。確かに教会騎士団という1つの組織ではあるけど、ちゃんと部隊が分かれているんだからさ。そこは面倒くさらずに、ちゃんとやってほしいものだよ。
「はっは~ん。随分とまぁ面白い事をやってくれるじゃない、地上本部。やっぱミッドの地上本部だけは好きになれないわ~」
割と今回の一件でゲイズ派が失脚しないかな~。そんなことを考えてると、「でしたら、聖王教会の勢力を広げませんか?」キュンナがそんなことを勧めてきた。
「はい?」
「ミッドチルダの地上本部と地上部隊は、プライドばかりが高く他世界の地上部隊に比べて排他的で縄張り争いも強く、本局やあたしたち聖王教会とも折り合いが悪い。他世界と同じように協力関係をもっと強めないから、今回の議題で上がるアインヘリヤルなどという兵器を運用しようなどと考えるのです」
「キュンナ。あのね――」
「地上部隊に代わり聖王教会騎士団がミッドチルダを護る剣となりましょう。そう、今こそ亡国ベルカを“再誕”させましょう! あたし、イリス先輩、トリシュタン先輩、クラリス先輩、アンジェリエ先輩、ガリホディン先輩、グリフレット先輩、ブレオベリス先輩。AAA+からS+ばかりの次期パラディン候補ですし、まさに一騎当千です。他の騎士隊も続けば、今の地上本部が抱える戦力など取るに足りません」
そんな危ない妄想を垂れ流すキュンナに「馬鹿を言わないの」そう窘めつつ、「しぇんぱい!?」プニプニの両頬を引っ張る。
「良い、キュンナ? ベルカは滅んだの。お互いの正義、打算、欲望をまるっと含めた戦争でね。戦乱の時代はその瞬間に終わったのよ。わたし達の役割は、ベルカの末裔・騎士として今の平和を維持すること。ミッドの地上本部に嫌気が差したからってそんな事を考えちゃダメ」
「・・・ひゃい」
返事を聴いたことでキュンナの両頬から手を離して、「では巡回に入れ!」部下たちに指示を出した後、もう一度キュンナを見る。
「今の妄言は忘れてあげるから、キュンナも他の騎士にあんな事を言わないようにね」
改めてそう忠告すると、「あの、あたしなりのジョークだったのですが・・・。すみません、ブラックと演技が効きすぎました」キュンナは申し訳なさそうに肩を落として、頭を下げて謝ってきた。
「え、そうなの? そうよね。あなたは賢いから、地上部隊を乗っ取ろうなんてしないよね」
「もちろんですよ、イリス先輩」
あまりにも真剣な声色と表情だったから、思わず本気かと。でもキュンナも16歳、物事をしっかりと捉えられる頭脳はある。いくらなんでも聖王教会がミッド地上部隊に代わって台頭しようだなんてありえない。キュンナの言うようにブラックジョークなのね。
「それではイリス先輩。あたしも巡回を開始致しますのでこれで」
「ええ。わたしも巡回を始めるから」
そういうわけでキュンナと別れたわたしも巡回を開始。その最中に「おーっす、シャル」巡回ルートが被ってた六課の「ヴィータ」とバッタリ会った。
「お疲れ様です、シャルさん」
「お疲れ様、リイン」
ヴィータの側を飛んでたリインとも労いの言葉を交わす。フォワードの姿は無い。あの子たちも与えられたルートを巡回してるんでしょうね。
「なのははもう中?」
「ああ。はやてとシグナムとフェイトもな。騎士団はなんかお偉いさんとかは来てないんか?」
「ん? 教会はからはカリムとシャッハとプラダマンテがね」
「カリムさんは理事官でしたっけ」
「そう。今日は教会騎士じゃなく本局理事官として参加してるの。んで、シャッハとプラダマンテはその護衛。プラダマンテが居る時点で内部の安全は確保されたと言っても良いね」
この前の昇格試験の時、たった5分だけどわたしは膝を折らなかった。そして思ったことは、歳を重ねれば重ねるだけプラダマンテは老いるどころか強くなっていく、だ。もう3○歳だし、素敵な彼氏さんも居るんだから、さっさと結婚して寿除隊してほしいな~、っていうのが本音だったりする。
「あー、そうだな。お前ほどの剣士でも手も足も出ねぇようなレベルだから、デバイスなんて無くたってそりゃ強ぇんだろうな~」
「そりゃあもう。ガチで人間やめてるしね」
幼少の頃よりわたしは2人の師に鍛えられてきた。1人は精神世界内でのシャルロッテ様。もう1人がプラダマンテだ。シャルロッテ様は優しかったけど、プラダマンテは鬼のような厳しさでわたしを鍛えた。もちろん、デバイスが無い状態での戦闘技術も一緒に。わたし、よくここまで生きて来られたな~。ちなみに母様はわたしを産んでからは一度も剣を取ったことがないから、戦ってる姿は見たことない。
「んじゃ、あたし達はそろそろ行くわ」
「です」
「ん。またね~」
ヴィータ達とも別れて巡回を再開。公開意見陳述会の報道番組やリアルタイムでの陳述会の様子を小さなモニターで視聴しながら、残りの警備時間を潰していく。そして陽も落ちて夜、時刻は18時55分。各警備員たちから、やっぱなんも起こらなかったな~、なんて緩んだ空気が。さらには・・・
「ほら見ろ。地上本部を襲うだなんて有り得ないって思ってたんだよ」
「こんなに無駄に警備を増強してよ。本局と聖王教会は、地上本部を過小評価し過ぎなんだよ」
「ミッド地上本部はやっぱり鉄壁の防衛力だぜ」
そんな呑気なことまで言う始末。これが全管理世界の地上部隊、その本部に所属している局員の本音。本当に馬鹿で、愚か過ぎる。その考えがあまりにもぬる過ぎて、笑い話にもならない。そんな空気の中に居たくなくて、わたしは連中から遠く離れた場所へと移動。高く積み上げられたレンガの花壇に腰かけて、残りの時間をしっかり警戒しながら過ごす。そして・・・
「19時まであと、4、3、2、1、ゼ――」
カウントダウンをして、0と声に出そうとした瞬間、ドォーン!と爆音が轟いた。可視化できるほどに物理シールドが機能しているのが判る。それほどの衝撃を受けてしまったんだ。
「爆発!?」
「どこからだ!?」
「こちら南ブロック! 今の爆発はなんだ!?」
騒然となる地上本部の警備部隊。わたしは『ロート・ヴィンデ各騎、戦闘準備!』思念通話で部下たちに指示を出して、わたし自身も「キルシュブリューテ、セットアップ」騎士甲冑へと変身する。直後、二度目の轟音と振動が起きた。
・―・―・―・―・
ミッドチルダ東部の森林地区の奥に在る洞窟、その内部にはプライソンらが居住する研究所が蟻の巣状に広がっている。そんな研究所内のプライソンの研究室に、少年のような姿の彼は居た。デスクチェアに腰かけ、部屋の中央に展開された巨大なモニターを眺めている。表示されているのは地上本部の外観と陳述会の様子だ。
「おい、アルファ。アイツらの準備は整っているのか?」
プライソンがモニターから目を離さずにそう呼ぶと、『はい』別にモニターが展開され、ウェーブの掛かったブロンドのロングヘアに銀の瞳の少女・アルファが映った。
『ベータ管制の装甲列車ケルベロスとオルトロスは、デルタ管制の列車砲ディアボロスと共に、南部の荒野地区にて全システムオールグリーンで待機中。レールガン・ウォルカーヌスの照準を地上本部へロック。散弾ミサイル搭載コンテナミサイル・ムオーデルを19時ジャストに着弾するようにしています』
「ふむ。しかし、やはり俺の作品の名は良い響きだな」
『そうですね、良いネーミングセンスです。ガンマは自室にて電子戦スタンバイ中です。地上本部の防衛システムはすでにクラッキング完了とのことで、合図1つでいつでも好きなようにイジれるそうです』
「仕事が早いな」
『それくらいしかあの子に取り柄は無いですから。チーム・シコラクスの01クイント、02ノーヴェ、03ディエチ、04ウェンディは、アインヘリヤル1号機と2号機の近辺にて、そして05セッテ、06オットー、07ディードは、中央区画上空にて待機中です』
「今さらだがセッテ達には3号機の破壊を任せた方が良かったか・・・?」
『今からでも向かわせますか?』
「・・・いや、いい」
『畏まりました。チーム・スキタリスの01メガーヌは、機動六課隊舎の近辺にて待機中です。02ルーテシア、03リヴィアは、地上本部付近のビルの屋上にて待機中。ルーテシアはグレムリンなどを召喚した後、護衛のリヴィアと共に機動六課へと向かい、01と合流予定』
「ルーテシアの召喚魔法は使えるからな。ここで使わないのは宝の持ち腐れだ」
『04アギトは、レーゼフェア様に呼ばれ、本作戦には不参加となります』
「レーゼフェアが?・・・そうか、判った」
『私アルファ、そしてイプシロンは、共に航空要塞空母アンドレアルフスにて待機中。管制機体である私はアンドレアルフス・コントロールルームにて。航空戦闘機隊の管制機体であるイプシロンは、統合管制機ナベリウスに搭乗し、アンドレアルフスのハンガー内で待機中です』
「パーフェクトだ、アルファ! きっちり時間通りに事が進んでいる!」
嬉しそうに声を上げるプライソンに『はい! 誠心誠意頑張りました!』アルファは満面の笑顔で応じた。それからというもの公開意見陳述会の終了時刻である19時ジャストが訪れるまで、プライソンは興奮しっぱなしだった。それは本当に子供のように・・・。
『プライソン。ベータ、デルタ両名より攻撃開始の許可を求められています』
「ああ、構わんぞ。許可しろ、アルファ。開宴の狼煙、戦争の幕開け、ミッド地上本部に宣戦布告だ!」
『了解』
プライソンの目の前に別のモニターが展開された。ミッドチルダの南部にある荒野地区、そして巨大な旋回式砲台を2基と備えた列車砲・“ディアボロス”が映し出される。前に2基、後ろに2基の旋回式台車が計4基あり、車輪1つ1つがレールの軌道に合わせて曲がるようになっている。
そんな“ディアボロス”を牽引するのは、台車と連結されている表面が滑らかなミサイルのような車体を有した装甲列車・“ケルベロス”と“オルトロス”だ。前部は各4両編成の計8両で、先頭車両以外の屋根には砲台が備え付けらている。車両によって砲塔の向いている先が別々で、防衛用と思われる。
後部は5両編成の計10両だ。“ディアボロス”の台車と連結されている2両だけは他の車両に比べて二回りほど大きい。続く残りの8両の屋根には砲台が備え付けられており、おそらくこれも防衛用のものだろう。
『列車砲ディアボロス管制機デルタからプライソンへ報告! ウォルカーヌスⅠ・Ⅱにムオーデル装填。電磁加速システム・砲身冷却システム、オールグリーン』
「カウントダウンを始めろ!」
『発射カウント開始! 10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、ファイア!』
“ディアボロス”に備え付けられている前方の砲台・ウォルカーヌスⅠより巨大なミサイル・ムオーデルが発射された。続けて後方のウォルカーヌスⅡより『ファイア!』もう1発、ムオーデルが発射された。途轍もない衝撃と轟音だったが、この付近一帯は無人であるためそうそう気付かれることはないだろう。
『ウォルカーヌスⅠ・Ⅱの冷却を開始。次弾装填スタンバイ。砲身の冷却完了後、即時次弾を発射しま~す』
『コンテナミサイルは順調に飛行中。着弾予測時刻は19時ジャスト』
アルファからの報告通り新たに展開されたモニターに表示されたマップに、目標地点である地上本部を示す赤く光るポイントへ向けて、コンテナミサイル・ムオーデルを示す矢印が表示される。右上にタイムカウントも表示され、19時が迫って来ていた。プライソンは肘掛に腕を置いて頬杖を突きながらムオーデルを示す矢印を眺める。そして・・・
『19時まで残り30秒』
モニターには映っていないが、ここでムオーデルに変化が訪れる。コンテナミサイルと呼ばれるソレは、格納しているミサイルの種類によって名称が異なる。ムオーデルと称されるコンテナミサイルには10機の散弾ミサイルが格納されている。
レールガンによる飛行速力が弱まってきたことでそんなムオーデルはバラバラになり、その中から小型の散弾ミサイルが出現。地上本部の上層階へと向かって行き、『19時になりました』という報告と同時、10機のミサイルが炸裂した。地上本部が有する物理シールドに拒まれはしたが、僅かに弱まらせた。
『2発目が着弾します。4、3、2、1、着弾』
2発目のムオーデルが物理シールドに着弾し、シールド強度をさらに低下させる。地上本部のリアルタイム映像が新たに展開されたモニターに表示される。地上本部所属の武装隊や警備員たちが一斉に混乱に陥る中、教会騎士団のイリスが率いる朱朝顔騎士隊ロート・ヴィンデ、キュンナ率いる黄菊騎士隊ゲルブ・クリュザンテーメの騎士たちは、即座にデバイスを起動して騎士甲冑へ変身。
「さすがは教会騎士団。地上本部の間抜け共とは違って即座に臨戦態勢に入ったな」
『機動六課のメンバーおよび本局武装隊も臨戦態勢に入りました』
ヴィータやフォワード4名、それにリインフォースⅡとギンガもまたデバイスを起動して防護服へと変身し終えていた。彼女たちと地上本部の行動速度の差異は、明らかに心構えの違いだろう。襲撃されるかもしれないという本局・聖王教会、襲撃なんてされるわけがないという地上本部。当然の結果だった。
『プライソン。カイゼリン・キュンナが居ますが、どうしますか?』
「あぁ? あー、海洋艦隊と同じ、ハゲジジイからの依頼で造った作品だったな。構わん、敵として対処しろ。アイツがカイゼリンを教会騎士にした以上は、アレの途中リタイアのリスクもあるって覚悟の上だろう?」
モニターに映るゲルブ・クリュザンテーメの隊長キュンナの顔を見て、プライソンは僅かに残念そうな顔をして「俺の最高傑作だったんだがな」そうぼやいた。
「まぁいい。各隊、さぁ開宴の狼煙は上がった! 派手に暴れてやれ!」
全体通信でそう命令を下すプライソン。ミッド各地に散っている“スキュラ”、シコラクス・スキタリスの両チームから『了解!』返答が入る。さらにモニターの数が増え、各地の状況が映し出された。
クイント筆頭チームによるアインヘリヤル破壊作戦。地上本部の武装隊が警護してはいたが、グレムリン――ガジェットドローンのⅠ型とⅢ型が10機ずつと現れては成す術なく撃破されるしかなかった。召喚魔導師ルーテシアによるグレムリンやLASの多重召喚。六課や教会騎士団を含めた局の外周警備部隊が応戦を開始。
『プライソン。本部内にて動きがあります。内部警備をしていた戦力が外に出ようとしているようです』
「ガンマ、聞いたな。地上本部内の隔壁を全部降ろせ。加えてAMF濃度を最大だ。中には教会騎士最強のモンスター女が居るからな、奴だけは出させるな。それと魔力炉はそのままでいい。デルタに仕事をさせる」
『ん~。隔壁全降ろし、AMF最大・・・完了』
地上本部のシステムをクラッキングしていたガンマにより、本部内の通路やエントランスなどの隔壁が全て降り、本部への出入りが難しくなってしまった。さらにはAMFの濃度が最大となり、本部内での魔法の使用は一切できなくなってしまった。
『こちらイプシロン。シームルグ10機、アンドラス10機・シャックス10機・マルファス2機、地上本部へ向けこれより出撃させます。イプシロンはこれより統合管制機ナベリウスのコックピット内から航空機戦隊の操作に移ります』
プライソン研究所へと通ずる洞窟の入口より500mほど離れた地点の地面が盛り上がって生まれた大穴から滑走路が伸び上がって来た。そしてそんな滑走路より32機の航空機が順々に飛び立って行った。
『こちらデルタ。次弾――徹甲ミサイル搭載コンテナミサイル・グレンデルをⅠ・Ⅱに装填。発射カウント開始5秒前。4、3、2、1、ファイア!』
“ディアボロス”の前方レールガン・ウォルカーヌスⅠより新たにコンテナミサイル・グレンデルが発射された。そして先程と同様に後方レールガン・ウォルカーヌスⅡからもグレンデルが発射された。
「地上本部としてのプライドを捨て切れずに、内部警備の応援部隊に対してデバイス持ち込み不可にしたのがまずかったな、レジアス・ゲイズ」
プライソンの視線が向かう先、そこには懸命に強気な態度を装っているレジアスの映るモニターがあった。
後書き
ブーナ・ディミニャーツァ。 ブナ・ズィウア。 ブーナ・セアラ。
とうとう開戦となった今話。これまで名前だけの登場だったアンドレアルフスの正体も判明。航空要塞空母という名前の通り、イプシロンが統制する航空機戦隊を収めるハンガーを所有する空飛ぶ空母です。
SOAFAC/X-01。これだけで正体を当てることの出来た読者様は神です。どうぞ胸を張ってください。
ちなみにモデルは、エースコンバット6の重巡航管制機・アイガイオン。通称・空飛ぶマンタ。
そして列車砲ディアボロスのモデルは、かの有名な列車砲ドーラ。ドーラ2両の後部を向かい合わせにして融合したような姿としています。
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