真田十勇士
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巻ノ六十五 大納言の病その十
「その二つじゃ」
「正しいことを言っておるぞ」
「それでもゃ、大納言様はじゃ」
秀長、彼はというのだ。
「時と言い方をわかっておられた」
「それでか」
「御主と違ってな」
「だから言うが」
「言うな、言いたいことはわかっておらぬ」
自分は正しいとだ、石田が言うとだ。
「だからじゃ」
「言うなというか」
「そうじゃ、とにかくじゃ」
「わしではか」
「悪い、これではじゃ」
大谷は苦い顔で言った。
「関白様を抑えられぬぞ」
「利休殿のことか」
「うむ、わしからも申し上げるが」
しかしというのだ。
「これはな」
「利休殿は必要じゃ」
石田は大谷にもこう述べた。
「天下の為にな」
「それはな」
「その通りじゃな」
「わしもそう思う」
「ではじゃ」
「だから言う時とじゃ」
また石田に告げた。
「言う中身じゃ」
「それか」
「御主はな」
まさにというのだ。
「その二つを無視してしまう、特にじゃ」
「頭に血が上った時か」
「うむ、正しいと思えばそうなるであろう」
「昔からな」
「そして己を曲げずにじゃ」
一本気な故にだ、石田の場合は。
「ずけずけと言うな」
「それがいかぬか」
「相手が誰でも正論を言うのはよい」
大谷はこのことは石田の長所とした。
だがそれと共にだ、古くからの友に対してこうも言うのだった。
「だがそれも時と場所、言う言葉を選んでじゃ」
「ううむ、それが出来ぬからか」
「御主はよくない、しかしな」
「しかしか」
「その時はわしが止める」
大谷は毅然としてだ、石田に約した。
「このわしがな」
「そうしてくれるのか」
「今の様にな、御主は癖性分があまりにも強い」
これもまた一本気な故にだ、その気質がとかく強く出てしまうのが石田三成という男の難儀なところなのだ。
「それでじゃ」
「わしが言えばか」
「過ぎたことを言えばわしが止める」
「そうするのか」
「これからもな、しかしな」
「しかし?」
「利休殿はな」
苦い顔になりだ、大谷は石田にこうも述べた。
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