真田十勇士
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巻ノ六十五 大納言の病その八
「そうなのです」
「そう言うのか」
「そう言うしかありませぬ」
「あれだけ神仏に願い薬も送ったが」
「それでもですな」
「助からぬとはな」
「それがしがそうした運命だったのでしょう、ですが」
秀長は兄に顔を向けた、そのうえで彼に言った。
「これからは佐吉と桂松達を助けにし」
「そのうえで天下を治めよというのじゃな」
「はい、二人をそれがしと思い」
「そして利休もじゃな」
「お許しになって下さい」
利休、彼をというのだ。
「是非」
「そして跡継ぎは治兵衛じゃな」
「あの者なら大丈夫です」
だからだというのだ。
「何があろうともです」
「あの者をか」
「はい、跡継ぎにしてです」
「後を任せよというのじゃな」
「そうされて下さい」
「わかった、そうする」
「そうお願いします、そして」
秀長はさらに言った。
「唐入りですが」
「それはか」
「お止め下され」
断じてと言うのだった。
「今は天下を治めて下され」
「戦よりもか」
「そうされて下さい、今はその時故」
天下を統一して、というのだ。
「そのこともお願い申す」
「ではな」
「はい、重ね重ねお願いします」
秀長は秀吉を死相で見つつ頼み込んだ。
「それで」
「わかった、ではな」
「その様に」
こう兄に言ってだった、秀長は年が明けて一月もしないうちに世を去った。秀吉は悲嘆に暮れたがどうにもならなかった。
そしてだった、彼は秀長の死の悲しみを背負ったままだった、石田と大谷から利休の話を聞いて暗い顔で言った。
「わしは言った」
「利休殿が詫びを入れられれば」
「それで、なのですな」
「うむ、それでじゃ」
まさにというのだ。
「全てを水に流すとな、しかしか」
「それはですか」
「出来ませぬか」
「わしは天下人じゃ」
秀吉はこの立場から言った。
「わしから頭を下げることは出来ぬしじゃ」
「関白様もですか」
石田が問うた、ここで。
「ご自身に非はないと」
「違うか」
「いえ、あります」
石田は秀吉にはっきりと言った。
「詫びなぞいりませぬ」
「それがいらぬというのか」
「はい、その様なものは求めず」
そしてとだ、石田は秀吉に率直に述べた。だが大谷はその彼の横で顔を顰めさせそのうえで言うのだった。
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