真田十勇士
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巻ノ六十五 大納言の病その四
「以前から我等には唐入りを言われておった」
「明にまで攻め込まれ」
「そう考えておられる、しかしな」
「明が腐っているとはいえ」
「そうじゃ、大きい」
あまりにもとだ、大谷も言う。
「だから戦になればな」
「途方もない力を使い」
「政どころではない」
「これからは政の時ですが」
「それでじゃ、わし等もな」
「若し関白様がそうされれば」
「お止めせねばならんが」
だがそれはと言うのだった。
「それはな」
「大納言様でないとですか」
「出来ぬ、どうもな」
「義父上、治部殿でも」
「出来ぬのじゃ」
「ですか」
「どうしたものか」
大谷はここでは目を閉じて言った。
「全く以てな」
「まさかそうしたことがあるとは」
「思わなかったな」
「はい、とても」
「大納言様なら間違いなく止められる」
秀吉が戦をしようとしてもだ。
「そして政に打ち込む様にして下さるが」
「その大納言様がですか」
「最早幾許もない」
その余生はというのだ。
「それは間違いない」
「ですか」
「昨日も見舞いに参上したが」
「お顔にですか」
「もう死相が出ておられた」
既にというのだ。
「だからな」
「間違いないですか」
「そうじゃ、これでわかったな」
「はい、それでは」
「よく来てくれた、そしてな」
「このことはですな」
「他言は無用じゃ」
このことだ、幸村に念押しさせた。
「これでな」
「そうですか」
「うむ、では今日は休むか」
「一日ここに留まり」
「そして耳を利かすつもりであったか」
「そのつもりでした」
「ではそうせよ」
大谷も止めなかった。
「そして都に戻るな」
「そのつもりです」
「ではその様にな、それで土産を持って来た様だが」
「治部殿にと思っていましたが」
「しかしあの者はそうしたものは好まぬ」
つまり受け取らないというのだ。
「決してな」
「やはりそうですか」
「わしもじゃ、だからな」
「それはですか」
「まあわしから誰かに渡しておくが」
「では」
「その様にしてよいか」
こう幸村に申し出た。
「これから」
「お願い出来ますか」
「ではな」
「はい、それではお願いします」
幸村もそれでいいとした、そしてだった。
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