真田十勇士
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巻ノ六十五 大納言の病その一
巻ノ六十五 大納言の病
大谷は確かな声でだ、一行に話した。
「大納言様の件、真実じゃ」
「左様ですか」
「あの方は今病の床にある」
「そしてその病は」
「死病じゃ」
こう幸村に答えた。
「都で噂になっているのはそうしたものであろう」
「左様でした、そして」
「利休殿もじゃな」
「関白様の勘気をこうむられたといいますが」
「色々と行き違いがあってな」
「それが為に」
「そちらも噂通りじゃ」
都でのそれは間違っていないというのだ。
「間に入られる大納言様がそれでじゃ」
「では」
「わしも佐吉もとりなそうとしておるが」
それでもとだ、大谷はこのことは無念の顔で述べた。
「我等と大納言様は全く違う、井戸と針位にな」
「それで関白様を」
「お止め出来ぬ」
目を閉じ無念の顔になってだ、大谷は述べた。
「しかも捨丸様もな」
「そのこともなのですが」
「やはり噂の通りじゃ、近頃急にじゃ」
「病にですか」
「罹られてな」
そのうえでというのだ。90
「やはり危うい」
「そうですか」
「関白様も困っておられる」
「大納言様、捨丸様のことで」
「実は利休殿とのこともじゃ」
「ご本心ではですか」
「収めたいと思われておるが」
しかしというのだ。
「間に入ってくれる者がおらずな」
「大納言様が病で」
「出来ずにおる、それでな」
「今の大坂は」
「騒がしくなっておる、正直困っておる」
「では義父上も」
「言った通りじゃ、手はない」
自分達ではというのだ。
「どうにもな」
「では」
「うむ、近々大納言様が身罷われる」
このことは避けられないというのだ。
「そしてな」
「利休殿も」
「捨丸様もじゃ」
秀吉の子であるこの幼な子もというのだ。
「幼な子は病にかかると早い」
「まさにすぐにですな」
「七つまでは安心出来ぬ」
「どうしてもですな」
「だからな、あの方もな」
「では関白様の周りには」
「我等がおるが」
しかしとだ、大谷はさらに言った。
「わかっておる、わしや佐吉では約不足じゃ」
「それは」
「大納言様とは違う」
それも全くという言葉だった。
「関白様にとっては井戸と針じゃ、針はどうにでも手に入るが」
「井戸はそうならぬと」
「その井戸を三つ失えば」
「あの方にとって大きいですか」
「特に大納言様じゃ、わしも気付かなかったか」
「病にですか」
「罹られていたのじゃ、関白様も東西より取り寄せた薬を差し入れておられるが」
その薬でもというのだ。
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