仮面ライダーAP
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第二章 巨大怪人、鎮守府ニ侵攻ス
第15話 結ばれる友情
――194X年8月27日。
鎮守府甘味処まみや。
「赤城さん……それ、食べるんですか」
「ええ。南雲さんも一口いかがですか?」
「いえ……やめときます」
一日の休みを経て快復したサダトは、改めて鎮守府に歓迎されることとなった。鎮守府における憩いの場である「甘味処まみや」に招かれた彼は、赤城と同席して昼食を取っている。
そして今、山盛りという言葉では足りないほどの量の牛丼を平らげる彼女の食いっぷりに、閉口しているのであった。サダトも特盛り牛丼に手を付けている最中だが、彼女の皿に築かれた巨峰の前では並盛りより小さく見えてしまう。
メガさえも、キングさえも超越しうるチョモランマ。そう呼んで差し支えない量の牛肉が、彼女の眼前に積み重なっていた。
「それにしても、凄まじい回復力ですね。あれほどの損傷が、一日で直ってしまうなんて。入渠もしていないのに」
「……あはは、それが取り柄みたいなものですから。でも、流石に昨日は無理し過ぎたみたいで……皆さんにはご心配をおかけしました」
「ふふ、そうですね。特に比叡さんは、酷い取り乱しようで。あなたのことも今朝まで、つきっきりで看病していらしたわ」
「はい、長門さんからもそう聞いています。……彼女にもお礼を言いたいのですが」
「彼女なら、今は眠っていますから……もう少し待った方がいいでしょうね。彼女も、元気になられたあなたに、早く会いたいでしょうし」
「……はは」
――あの後。サダトは客室で比叡の看病を朝方まで受け、目が覚めた頃には彼女は疲れから寝入っていた。
今こうして外を出歩いているのは、艦娘達への挨拶回りという体ではあるが、どちらかと言うと比叡が目覚めるまでの時間潰しに近い。それほどに、サダトは彼女を案じていた。
そんな彼の胸中を看破している赤城は、彼が気を落とし過ぎないようにするために、こうして鎮守府の各所を案内しているのだ。さながら、観光のように。
「ねぇねぇ南雲くん! 南雲くんの世界って、どんなレディがいるの!? 今流行りのふぁっしょんって何!?」
「あれ、君達は確か……」
「あ、暁ちゃん騒いじゃダメなのです! 南雲さんはお食事中なのです!」
「いいじゃない電、今日は南雲くんを歓迎してあげる日なんだから! ちょっと騒がしいくらいの方がいいわよ!」
「……ハラショー……」
「あはは、みんな元気だなぁ」
そんな彼ら二人のところへ、赤城と同じ常連客の駆逐艦四人が現れる。幼い少女の外見を持つ彼女達は、人懐こい笑みを浮かべてサダトのそばに集まっていた。
その姿に和んだのか、サダトの表情もふっと柔らかくなる。彼の様子を見つめる赤城と、店長の間宮も、穏やかな笑みを浮かべていた。
「お、いたいた噂の改造人間クン。具合はどう?」
「見たところ、体調は悪くないようだな」
すると、暖簾を潜り新たに二人の艦娘が現れた。駆逐艦四人組とは対照的に、成熟した大人の女性である彼女達は、友好的な笑みを浮かべてサダトの隣にやってくる。
「はい、もうすっかり元気です。足柄さんと那智さんもお昼ですか?」
「まぁな。間宮、いつもの頼む」
「はーい」
「しかし聞いたよー? なんでも比叡がつきっきりで看病してくれてたらしいじゃん。……いいなー、私もそんな甘酸っぱいことしてみたい……」
「お前にはその前にそれをやる相手が必要だな」
「ちぇ……あ、じゃあ南雲君ちょっと半殺しにしていい?」
「さらっと何を!?」
「あはは冗談よ」
(冗談って目の色じゃなかった……!)
足柄と那智。艦隊の中でも年長者である彼女達は、大人の余裕とも呼べる佇まいで、サダトのことも暖かく迎え入れている。
そんな彼らを、二人の空母が暖簾の外から見つめていた。
「ふーん……話に聞いた時は、どんなヤバい奴なんだろうって思ってたけど。ああして見ると、結構普通のコなのね」
「戦わずして相手の本質を推し量れないようじゃ、いつまでも半人前よ五航戦」
「……何よ。先陣切って戦ったくせに」
「あなた達のような分からず屋を黙らせるためよ。やむを得ないわ」
「相変わらずムカつくわね、一航戦。……フンッ!」
だが、この二人はさほど仲が良くないのか。加賀の隣に座っていた空母「瑞鶴」は、彼女の辛辣な物言いに反発しながら立ち上がる。
――しかし、甘味処まみやから立ち去る直前。彼女は緑のツインテールを揺らし、サダトの方を振り返る。
その甲板胸とも評される慎ましい胸の奥に、引っ掛かるものを感じていたのだ。そんな彼女の前を横切るように、他の艦娘達がぞろぞろとやって来る。
「お、やってるやってる。昨日はお疲れ様だったねー南雲君。巨大飛蝗のことはひとまず置いといて、今日はゆっくり休みなよ」
「そーそー、男の子は元気が一番だからね! というわけで今日は那珂ちゃんが景気付けのニューシングルを披露――」
「――うふふ。そういうのは店の外でやってね? 那珂ちゃん」
「……は、はい間宮さん……ごめんなさい……」
「も、もう……。ごめんなさい南雲さん、お食事中にお邪魔してしまって……」
「あはは、俺なら全然構いませんよ神通さん。……しかし、随分賑やかになってきたな。いつもこうなんですか? 赤城さん」
「いえ。……皆、珍しい仲間が出来て浮き足立ってしまっているのですよ。異世界の改造人間、なんてまさに千載一遇の巡り合わせというものですから」
「そうですね……」
川内型三姉妹までもが集まり、賑やかさを増して行く甘味処まみや。そんな彼女達の中心で談笑するサダトを、加賀と瑞鶴は神妙に見つめていた。
「む? これは……ワインボトルか。ふむ、今宵の供に良いかも知れんな」
「ちょ、ダメです那智さん! それは俺の変身アイテムで……!」
「いいじゃんいいじゃん、固いこと言わないでさぁ。今夜はお姉さん達と飲み明かすわよー?」
「ダメですってば足柄さぁぁん!」
妙高型の姉妹二人に絡まれ、おもちゃにされているサダト。そんな彼が、変身していた「あの姿」に――加賀と瑞鶴は、どこか既視感を覚えていた。
(……変、ね。なんだか、どこかで会ったことがあるような……ううん、そんなはずない)
(あの巨大飛蝗も、変身した彼の姿も……どこかで見たような気がする。だけど……あり得ない話よ)
燃え盛る街の中。巨大飛蝗に立ち向かう、仮面の戦士。そのビジョンが、二人の脳裏に過っている。記憶にあるはずのない、その光景が――彼女達の中に、焼き付いているようだった。
それと同じ感覚を、妙高型の二人や駆逐艦四人組も味わっていたとは、知る由もない。
◆
「はぁ……えらい目に遭いましたよ」
「あっははは! 足柄は相変わらず野獣デスネー! ま、根の善良さは保証するので仲良くして欲しいデース」
「だ、大丈夫です。……多分」
その後、金剛に招かれたサダトは、比叡が起きたと聞いて彼女の後ろに続いていた。今は霧島や榛名と共に、艦娘寮裏でティータイムに入っているという。
「しかし、なんだか不思議ネ」
「……?」
「南雲君の事情は話でしか知らないはずなのに……その光景が妙にハッキリとイメージ出来るんデース。まるで、本当にそこにいたかのように……」
「え……」
「もしかしたら、向こうの世界に住んでいるもう一人の私が、自分の記憶を伝えてくれているのかも――あ、霧島! 榛名! 今戻ったデース!」
金剛がふと漏らした、不可思議な体験。その意味をサダトが勘ぐるより先に、妹達を見つけた彼女が声を上げた。
榛名と霧島は華やかな笑顔で手を振っている。彼女達が腰を下ろしている椅子やテーブルは、西洋風の流線的なデザインだ。
「お帰りなさいませお姉様。南雲さんもようこそ」
「あれ? 霧島、比叡はどこに行きましたカー?」
「それが……」
だが、サダトが最も会いたがっていた肝心の比叡の姿が見えない。訳を尋ねた姉から視線を逸らし、霧島は苦笑を浮かべる。
そんな末妹を見やりながら、三女の榛名が同じく苦笑いを浮かべて釈明した。
「南雲さんが来られると知った途端、真っ赤になって逃げ出してしまわれて……波止場の方まで」
「あらら……世話の焼ける子デスネ。南雲君! ここからは男の仕事ネー! すぐ追い掛けるデース!」
「え、えぇ!?」
「ハリアーップ!」
「は、はいっ!」
その理由を知った途端、金剛はサダトの尻を引っ叩いて追跡を促す。臀部に轟く戦艦級の痛みに涙目になりつつ、走り出して行く彼を豪快な笑顔で見送りながら。
そんな強引極まりない長女の解決策に、妹達はティーカップを手にしたまま揃って苦笑いを浮かべていた。
「さて……榛名」
「……はい」
――が。その長女が真剣な表情で椅子に腰掛け、ティーカップを手にした瞬間。
先ほどまで柔らかな面持ちでティータイムのひと時を愉しんでいた空気が、一変する。榛名も霧島も、すでに笑みなど一切ない剣呑な面持ちに変貌していた。
「例の解析結果、見せて貰ったネー……。割戸神博士とやらは、とんでもないマッド野郎デース」
「はい。……榛名も、住む世界が違うだけで、ここまで残酷になれる人間がいるとは知りませんでした。……まさか、自分の息子を……」
「……大淀には、辛い思いをさせたネ……」
「ですが、大淀さんのおかげで巨大飛蝗――いえ、『仮面ライダーアグレッサー』の情報はぼ網羅されました。解決策も、長門秘書艦と提督の案で確立されつつあります」
巨大飛蝗。もとい、仮面ライダーアグレッサー。その脅威に抗する術は今、水面下で組み立てられようとしている。まだ完全には至らないが、時間の問題だろう。
「仮面ライダーへの当て付けとしてその名を冠する、次元破断砲搭載型改造人間……でしたカ。あれがシェードという連中の切り札ということは、それさえ処理してしまえば向こうの世界にも光明が差しマス。ここまで来て、あの巨大飛蝗を見逃す手はありまセン」
「はい。この世界のためにも、南雲さんの世界のためにも。不肖この榛名、全力を尽くす所存です」
「この霧島も、同じです。金剛お姉様」
「二人とも、サンキューネ。……ところで霧島。夕張が『例のアレ』を建造していると聞きマシタ。進捗のほどはどうデスカ?」
工廠の方角に視線を移し、スゥッと目を細める金剛。そんな姉の眼差しを辿りながら、霧島は眼鏡を指先で直す。
「……やはりバイク型で再現するのは不可能だったようです。原子炉プルトニウムのエネルギーに対して、その形状では余りにも軽過ぎてバランスを維持できない、と」
「なるほど。やはりシェードの科学力はとんでもないネー……アレをバイクのエンジンとして定着させるなんテ……」
悪の組織の科学力に、我が鎮守府の工廠が屈するかも知れない。その口惜しさに、金剛は下唇に歯を立てる。
そんな姉をフォローするように、霧島はテーブルの上に一枚の資料を差し出した。その一面には、一台の軍用車の写真が載せられている。
「そこで、敢えてバイク型から離れて重量を高め、バランスを取る方向に切り換えたそうです。素材には大和型の艤装を使い、金型には陸軍の『九五式小型乗用車』を使うようです。提督に随行していたあきつ丸さんがパイプになって下さいました」
「彼女にも礼を言わなくてはならないネ。……とにかく、急ぐデス。いつアグレッサーが動き出すかわからない以上、一日も早く万全な状態を整える必要がありマス」
「ええ、もちろんですお姉様。夕張さんも急ピッチで作業して下さっています。……この作戦の成否は、彼女に掛かっているでしょう」
資料を手にした金剛は、祈るように目を伏せる。霧島と榛名も、それに合わせるように俯いた。技術者ではない彼女に出来る事は、来たる日に向けて英気を養うだけ。
その前準備を担う夕張達の健闘を、祈るより他ないのだ。
◆
「……比叡さん」
「あっ……南雲、君……」
――その頃。
波止場の端に立ち尽くしていた比叡を見つけたサダトは、日の光を浴びる彼女と向かい合っていた。
「……」
「……その、聞いたよ。あの後、つきっきりで看病してくれてたって。ありが――」
「――ごめんなさいっ!」
互いに掛ける言葉を見つけられない中。なんとか先に切り出したサダトの言葉を遮り、比叡は声を張り上げる。
猛烈な勢いで頭を下げる彼女に、サダトは何事かと目を点にしていた。
「……? え、と……」
「ごめんなさいっ……! 私、ずっとあなたを疑ってた! あんなにボロボロになるまで戦ってる時も、この世界に流れ着いた時も、ずっと! お姉様や長門秘書艦が南雲君を受け入れている時も……!」
「……」
「私みたいな子達がいっぱいいたから、あんな無茶な試練をやることになって、そのせいでボロボロになって……だから、その……」
だが、その理由に辿り着くまでにそう時間は掛らなかった。彼女の苦悩を悟ったサダトはゆっくり歩み寄ると、その頭に優しく掌を乗せる。
「……知ってたさ」
「えっ……」
「君が俺を信じてないこと。信じられないから、悩んでること。全部知ってる。だから、礼が言いたかったんだ。それでも俺の、そばにいてくれてたことに」
「……」
やがて掌を下ろし、比叡と向き合うサダトは穏やかな笑みを浮かべる。そんな彼と眼差しを交わす比叡は、不安げな上目遣いで彼を見上げていた。
「だから――ありがとう。それだけが言いたかった」
「……」
その恐れを、拭うように。柔らかな微笑みを送り、サダトは踵を返す。もう言うべきことはない、と言外に語り。
比叡はその背中を、暫し見つめ――逡巡する。このまま、何も言えないままでいいのか……と。
「ね、ねぇ!」
答えは、否。
これ以上、彼の厚意に甘えたままでいることは、彼女の矜恃が許さなかった。
「……ん?」
「私の方こそ、その……ありがとう。こうして、会いにきてくれて」
「……」
「私……信じるよ。あなたのこと、信じてみる。だから……今からでも、一緒に戦わせて、くれますか?」
喉の奥から絞り出すような、か細い声。だが、サダトに気持ちを伝えるにはそれでも十二分であった。
彼は再び比叡の近くまで歩み寄り、右手を差し出す。
「こちらこそ。――改めて、よろしくな。比叡」
その手を見遣り、比叡はようやく。
心からの笑顔を。いつものような、溌剌とした笑顔を。
「……うん。よろしくね、南雲君っ!」
取り戻したのだった。
後書き
ここまで書き終わってから、赤城さんがコラボしていたのは牛丼じゃなくて親子丼だったことに気づく。ゴルゴムの仕業だー!
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