赤翔玄-剣を握りし果てに-
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第2話 雛罌粟-運命の輪-
前書き
こう言った話を御存知ですか?
幼い頃に生物の”死”に魅入られると世間的に”狂人”や”人殺し”と呼ばれる人間になる確率が遥かに高いらしいです。逆に”生”……簡単に言いますとエロに目覚める事で、人間が正常な倫理観を持って成長できるそうです。
いや~、”タナトス”よりも先に”エロース”に出会って良かったと思います。
因みに……近辺の駅のトイレに捨ててあるエロ本を傘でつんつんしてぎゃあぎゃあと友人と騒ぎながら、次のページを必死にめくる行為は良い思い出。
程徳謀様が監督官を務める長く激しい調練が終わり、同僚の年上の兵士達に半ば強制的に連れられて来られた食事処は、なんと、街一番の美人給仕がいるという食事処“雛罌粟”。
孫文台様の私兵になった、あの日から、この街に其れなりに長く暮らしている筈なのに、俺は全く、この店の存在に気が付かなかった。
それも仕方がないのかも知れない……あの日から、毎日、毎日、調練と個人鍛錬漬けの日々を送っていたし、安い給金の俺は外食をしに街に出る際は兵站所から最寄りの食事処“春風”に、ずっと、通っていたのだ。
食事処“春風”は値段が安く、一品、一品の量がかなり多い、今の俺の安給金と食事量にぴったりと当てはまる良い店だ。
この店の御蔭で、今まで、とても他の店に行こうとは思えなかったんだ。
そう言えば……俺って、それなりに長く住んでいる筈なのに、この街の事を何にも知らないよなぁ……。
俺が行く街の店は限られている、食事処“春風”、鍛冶屋“金剛”、武器防具屋“江東店”……あれ……よくよく考えたら、三軒くらいしか行くところがないのか?
今の安い給金では高級な店は行けないし、少し値段が張るが行けなくもない店は其れなりにあるが、金の無駄使いは出来ない。
「翔玄、早く店の中に入って来いよ。お前さんが最後だぞ?」
「あぁ、今、行くよ」
店の入り口の上に大きな文字で書かれた“雛罌粟”の看板はとても立派な物だが……この店の外観は少し老朽化が進んだ平屋にしか見えなかった。言い方は悪いが、こんな店に本当に街一番の美人給仕がいるとは思えない。
店の外観もそうだけど、今の時刻は昼間だと言うのに……この店がある通りの他の食事処では店の前に行列が出来ていると言うのに、俺の立っている店の前には行列も出来ていないぞ?
何か裏があるのか…………非常に怪しい店だ……。
店内を警戒し、ゆっくりと店の入り口の暖簾を潜って店内に入った。
「いらっしゃいませ、お客様」
「…………」
店内の中に恐る恐る入った俺に、透き通る様な声で挨拶するのは年上の同僚の兵士達が言っていた通りの“街一番の美人給仕”の姿だった。
「お客様?」
「え、あっ、はい……」
「?」
産まれて初めてかも知れない……ただ、自分の傍に立っている女性の顔を間近で見ただけで、相手の事を何も知らない筈なのに、初めて出会った筈なのに、何処か気恥ずかしくて顔を背ける様な馬鹿な行為をしたのは……しかも面倒な辛みをしてくる同僚の兵士達の前で。
「翔玄……やはり、お前も一人の男だったか。その頬を赤く染める理由もよ~く分かるぞ。ほら、こっちの四人掛けの机の席、一つ余っているから其処に座れよな、なっ?」
「えっ、俺はあっちの厨房前の一人掛けの席で構わ――「この店では、この店をこよなく愛する者達(俺達)の許可がない限り、独断専行の抜け駆け行為は禁止されている」は、はぁ?」
抜け駆け?
まだ、出会って直ぐだぞ……別にそんな積もりもない。ただ、今の様に同僚の兵士達に揶揄われたらゆっくりと食事が楽しめそうにないからだ。
後、俺の両肩を掴む際に力入れ過ぎじゃないか?
両肩、信じられないくらい痛いんだけど……。
「おい、そこを退きな」
「痛ってぇ……何しやが「あぁん?」ひぇええぇぇぇっ、て、ててて、店長!「馬鹿が、女将と呼べと言っているだろうがっ!」ごばぁっ!」
両肩の痛みが無くなったと思えば、まさか、まさかの歴戦の女戦士の様な鋭い猛禽類の様な目つきをした、この店の理不尽な店ちょ……女将が俺の前にそびえ立っている。
横目に見える店内に転がっている同僚兵士は大丈夫なのだろうか。あの剛腕から放たれた右の拳は、実際に受けていなくても、かなり強烈に見える。
「おい、其処の新入りの小僧……厨房前の一人掛けの席に座りな」
「は、はい……」
こ、怖い……。
あの半笑いの顔は何だ、一体、何を企んでいるんだ?
女将に言われるままに、厨房前の一人掛けの幾つかある席の真ん中辺りに適当に座った。
ちらっと他の同僚の兵士達が座る四人掛けの机の席に方に視線を向けると、割と物静かに注文した料理を楽しんでいた。中には、今の一連の理不尽な行為を目の当たりにしていないのか、ずっと、街一番の美人給仕の姿を視線で追っている変わった奴もいた。
しかし、俺と同様に今の理不尽な行為と女将に怯える者いたが、俺と視線を合わせてくれない。これは……危険だ、幾ら街一番の美人給仕がいるからって、次から来ない様にしよう。俺には食事処“春風”で十分だ。
「小僧……名前は“項翔玄”で合っているか?」
「え、あ、はい……俺の名は項翔玄ですが、何処で俺の事を?」
雛罌粟の大将が店の床に転がっている、先程、理不尽にも大将が殴り飛ばした同僚の兵士を指差し質問に答えた。
「あぁ、其処に間抜け面を晒して気持ち良さそうに床を舐めている馬鹿も含めて、ここに来る孫文台の兵士共は酒が入るとな、「翔玄が、翔玄が~」と五月蠅くて仕方がないんだ。大の大人の男が酒を片手に小僧の頑張りを、毎回、毎回、飽きもせずに自分の事の様に喜んで、話を聞いている奴等と一緒にグビグビと飲んでいる姿はかなり異常な光景だぞ。……で、この馬鹿共はひとしきり、今日の小僧の頑張りを話した後で、明日の様々な抱負を高らかに皆に語りやがる。……恥ずかしい表情を一つ見せずに、ただ、偉そうに、店の外へ聞こえる程の大声でな。もう、すっかりと慣れたが、慣れない始めの頃は元凶である“項翔玄”、小僧を殺しに行こうかと真面目に考えた」
「は、ははは……そ、それは、すいません。……何か、物凄くお店の方に御迷惑をお掛けしている様で……」
この人の瞳や声色からして本気で言っている事が伝わって来る。よかった、何とか慣れて貰って……知らない場所で知らない人から何かしらの恨みを買うって恐ろしいな。これからは背後に十分に気を付けて歩く様にしよう。
「別に小僧、お前を責めている訳じゃないさ……寧ろ、少し感謝しているくらいだ。この馬鹿共は“江東の虎”の私兵になれた当初はな、それはもう大喜びして連日騒いでいたよ。しかしね、直ぐに、“巨大な壁”に押しつぶされたんだ。側近の四人の部隊に入れなかったのさ、勿論だが孫文台の親衛隊にもね。意気消沈も良い所でね、ただ一度、蹴躓いただけで何もかも諦めやがったのさ。以降、連日の様に下らない話と気に入らない上司、同僚、新兵の陰口を吐き出す事や、他人の足を引っ張る作業に徹する様になったのさ。幾ら、この馬鹿共が天下のお客様だと言ってもね、人の陰口ばかり叩く様な心根の腐った人間に飯を振る舞う趣味は無いんだよ。ある日、この馬鹿共がアタシの店に来た時に、まとめて叩き止めしてやったのさ。アタシはそんちょそこらの兵士よりも腕っ節は強いからね」
「えっ……それは……何というか……凄いです、ね」
「ボロ雑巾の様にして店の裏にほっぽり出してやった、その日を境に“出禁”にしてやろうかと考えたが、止めたんだよ」
「……どうしてですか?」
「アタシにボロ雑巾の様に叩き止めされて、わんわん、泣いてたんだよ。大の男にしては情けなくて人生の汚点になるかも知れないが、あの馬鹿共は他人と違って真直ぐ生きられない自分の人生を悩み、悔しがり、情けない今の醜い自分の姿を責めて、正直に泣ける人間だと分かったからさ」
「……成程」
「それからね、暫く家の店に来なかったんだよ……でも、数ヶ月後に、今まで見た事も無いくらいにボロボロの姿になった馬鹿共が現れた。アタシは思わず、馬鹿共の傍に駆け寄って声を掛けたよ。「何が遭ったんだい!」ってね、そしたら、昔から家の店の常連客だった、ある兵士がアタシに一言「負けたくなかったんだ」と言ったんだ。アタシはねぇ、聞けなかったんだ。それが何に対して“負けたくなかったんだ”って。でも、馬鹿共が店の中に入って来るなり、“項翔玄”、“項翔玄”とあんなに嬉しそうに語る姿を見て、直ぐに、分かった。やっと、この馬鹿共は明確に勝ちたい、追いつきたい、あの様な人間になりたいと、そう思える様な者。また、冷めていた心を再び熱く煮え滾らせてくれる様な相手が身近な存在として自分達の目の前に現れたんだとね」
「あの良い話の所ですいませんが……そろそろ、恥ずかしいので勘弁して貰えませんか?」
「ふふっ、別に構わないぞ……しかし、お前の様な小僧の何処がいいのかねぇ?」
「さぁ、俺にもさっぱり分かりませんよ……ただ、俺は……俺を凄い奴だと信じてくれている人達の為にも、幻滅されない様に必死に努力を積み重ねる事しかしていませんから。それに残念ながら俺には、これと言って”凄い特技”や”特別な能力”もありませんしね」
「ふっ、確かに、中々に見所のある小僧の様だ。いや、それをさらりと言ってのける分、いくら肉体が小僧でもお前は小僧の域を既に超えている。これからは“翔玄”と呼ばせて貰うが、別段、構わないよな?」
「好きに呼んで貰って結構ですよ、“女将さん”」
「翔玄……流石、話が分かる奴だ。この馬鹿共はアタシの事を何時まで経っても、何度注意しても“店長”と呼びやがるんだぞ?」
「……それは困った人達ですね」
「翔玄……アタシは益々、お前の事を気に入ったぞ。今、お前の座っている席をお前の特別指定席にしてやろう。そして、今日に限り……三品まで御代を“無料”にしてやる!」
「え、本当ですか……じゃ、炒飯と焼き餃子、炒め野菜の盛り合わせの三品で御願いします!」
「あいよ――アタシの店の特別指定席に喜ばない辺り、まだまだ、小僧だな」
「何か言いました?」
「何でもねぇよ、気にすんな。大人しく料理ができるまで座っていろ」
「はい…」
この店に初めて来店して物凄く癖のある女将さんだったけど、初対面ながら少し女将さんと同僚の兵士達の絆を知る事が出来た。それもただの絆じゃない、どんな絆かと説明しろと言われれば困るけど、其処には同僚の兵士達と女将さんとの間に言葉では言い表せない大切な絆が其処にある事が分かった。
俺は、また一つ、前に向かって進める理由を見つけた様な気がした。
「あの御暇でしたら……女将さんの料理が出来上がるまでの間、少し私とお話しをして頂けませんか?」
「え」
『『『『『『『『『『えぇええええええええええっ!』』』』』』』』』』
「五月蠅いぞ、馬鹿共! 調理中だぞ、それとも……この包丁で切り刻まれたいのか?」
『『『『『『『『『『だ、だ、だ、だって、店長!』』』』』』』』』』
「“女将”だって言ってんだろう! ふんっ、外野は黙って静かにしろ。次、騒いだら問答無用で店から叩き出す!」
『『『『『『『『『『そんな~…………ぐすっ……』』』』』』』』』』
「泣くなよ、その程度で……全く、器の小さい馬鹿共だ……」
一瞬、街一番の美人給仕と噂される美人から声を掛けられて驚きの余りに幻聴かと思ったが、周囲の反応から察するに幻聴では無い様だ。冷静になれ、冷静に、悪魔でも普通に、普通に返事を返せばいいんだ、俺。
「お、俺で……良ければ?」
「本当ですか! 嬉しいです、隣の席に座らせて頂きますね?」
「ど、どうぞ……」
間近に彼女がいる事ではっきりと分かる、ふわりと香る女性独特の甘酸っぱい匂い。
男だらけの汗臭い泥の混じった悪臭漂う兵站所で過ごしていた為、この様な女性の匂いの耐性は俺にはまるで無い。それどころか、こんなに訓練や戦闘以外で、こんなに自分の近くに女性がいる事なんて無かったので、俺の心臓は厳しい調練の時よりも激しく脈打っていた。
「知っていますか? 初対面じゃないんですよ、私達」
「……残念ながら貴女と何処かで出会った記憶はありません。忘れている……でも、貴女の様な、一目見ただけで記憶に残る美人に何処かで会ったら忘れないと思うんですけど……失礼ですが、何処で御会いしましたっけ?」
「……そうですか、それは残念ですが仕方がありませんね。でも、私と何処で会ったかは二人だけの秘密です。御自分で思い出して下さいね。私達にとって、とても重要で何よりも大切な事ですからね」
「えっ?」
そんな頬を赤く染めて言われても……何も思い出せない所か、実は彼女の名前も知らない俺。
一体、何処で会ったと言うんだ。毎日、毎日、調練と訓練の記憶しかない。
偶に街に出ても目的以外の事はしないし……酒に酔った勢いで何処かで会った彼女に何かしたのか、俺…………いや……そもそも、俺は酒なんて自分から飲まないし、二月前の大宴会の席で同僚から無理矢理飲まされたぐらいで、しかもあの時は酔っぱらっても無かった。
……実は同郷だったりして……いやいや、もっと在り得ない。
地元の事で知らない事なんて俺にはないし、こんな華やかで目立つ美人がいたら嫌でも周囲の者は気付くし、直ぐに、俺の耳に噂で伝わって来る筈だ。
「あ、あの……」
「私の名前は店と同名で“雛罌粟”と言います。“真名”ではありませんので、どうぞ、お気軽に読んで下さいね、翔玄さん。では、失礼しますね。私には仕事がありますから――」
「ちょ、ちょっと!」
「はい、お待ち同様。炒飯、焼き餃子、炒め野菜の盛り合わせ」
目の前には注文した料理がずらっと並ぶ。どれもこれも美味そうな料理だが……心の中がすっきりしないし、何か、物凄くモヤモヤする。それに背後から鋭い複数の視線が俺の背中に深々と突き刺さる。今後の訓練に多大な影響が出そうだ。それに彼女からもっと詳しい話を聞かないとこのモヤモヤはきっと未来永劫消えないだろう。
しかし、彼女と話す為には“雛罌粟”に足を運ばなければならないぞ、困ったなぁ。
「ふふっ、また、この店に足を運びたくなっただろう?」
「ま、まさか……女将さん……」
「覚えておきな、“この世に無料より高い物はないのさ”。何、心配する必要ないぞ、家の商売敵である“春風”に毎日の様に通っている顧客を家が奪っただけだ。それにお前の散歩の距離が長くなるだけだ。何も文句はないだろう。勿論、お前には特別料金でアタシの料理を振る舞ってやるぞ、光栄に思え」
「……で、あの女将さん。さっきの雛罌粟さんは演技ですか、本当なんですか?」
「本当だ、証拠がある」
「証拠あるんですか!」
「あぁ、雛の話は本当だぞ……何だ、お前……アタシが信じられないってか?」
「い、いや、滅相も無い……頂きます…………う、美味い!」
「おうっ、しっかり残さずに食べろよ」
目の前に並ぶ三品の料理を物凄い勢いで食べた。そう言えば、俺、物凄く腹が減っていたんだ。さっきの雛罌粟さん事でのモヤモヤした感情は空腹と食欲に負け、背後の鋭い視線達にも負けずに料理と向き合った。
「ふぅ~、美味かった」
「ふふっ、当たり前だ、誰が作った料理だと思っている?」
「そうですね」
「なぁ、翔玄」
「何ですか……女将さん?」
「お前が凄い奴なのは良く分かった。だが、後ろにいる馬鹿共と同じく、お前も一人の人間だ。一人で抱え込み過ぎるな、辛くなったら何時でも家の店に足を遊びに来な。下向きになりそうだったら何時ぞやの馬鹿共同様にアタシが根性を叩き直しやるからな?」
「は、はは……そんな日が来ない様に努力します。それとありがとう御座います、女将さん」
少し動機は“不純”だが、暫くの間、“雛罌粟”に足を運ぶ事になりそうだ。頼りになる女将さんと大勢の同僚の兵士達……そして、謎だらけの街一番の美人給仕の雛罌粟さん。
どうやら戦場で名も無き孫呉の兵として一人ひっそりとは死ねない、少し賑やかな人生になりそうな気がした。
一足先に怖い表情をした同僚の兵士達を置いて店を出ると、店の出入り口の扉の前に雛罌粟さんが一人立っていた。
「どうしたんですか、雛罌粟さん? 店の外で一人立って……」
雛罌粟さんが俺へと近付き、その白く美しい細い腕で俺の左手を取った。そして、ゆっくりと左手の人差し指に高価な銀の指輪がはめ込まれた。
「これを貴方に差し上げます」
「……こ、こんな高価な物、受け取れません! ……あ、あれ、外れないぞ?」
はっ、と我に返った時には既に遅く、雛罌粟さんにはめ込まれた銀の指輪はどんなに力を入れても指が痛いだけで、銀の指輪は外れなかった。
一体、どうなっているんだ?
「ただの銀の指輪ではありません。その銀の指輪は“私”が“貴方”の指にしかはめる事が出来ない指輪です。当然ですが、貴方の左手の人差し指にはめられた銀の指輪は私にしか外す事が出来ませんよ」
「どうして……そんな事を?」
おかしい……俺が女将さんに注文した料理を作って貰う間に、雛罌粟さんと短い間だったが、二人で話していた時には何とも無かったのに……どうしてだ……雛罌粟さんの声を聞いていると頭が割れそうなくらいに頭痛がする。
「ふふっ、分かりませんか? 貴方が無意識に“剣”を握る道を選んだ様に、私も無意識に“彼”を探す道を選びました。……私の場合は、少々、特殊ですけど……」
「訳が分からない……一体、何が言いたいんだ?」
「その指輪を身に着ける事で何時かは貴方が私に求める“答え”を見つける事が出来ます。残念ながら私の口から貴方に“真実”を伝えた所で、幼い貴方には、きっと、理解する事も出来なければ私の元から去って行くでしょうね。まぁ、――と、言っても貴方の耳には私の話す“”真実は、今の貴方に遮られて聞こえない筈ですから」
「今の……俺?」
「あら、失言でしたね……これで……忘れて下さいね、翔玄さん」
「う、む……」
激しい頭痛でふらふらの中でも解る――俺、街一番の美人給仕だと噂されている雛罌粟さんと、今日、初めて出会ったのに……向こうは俺の事知っている様だったけど、俺、今、店の前で雛罌粟さんと口付けしている。
夢でも見ているのか……俺……。
そんな中……店の出入り口の扉を開けて出て来る同僚の兵士達の声。
「いや~、女将さんも酷いよな~。俺達の過去を翔玄の前で大暴露するんだからさぁ~」
「雛ちゃんも翔玄の近くに行っちゃったしさぁ~……相手が翔玄なら仕方がないと言えば、仕方がねぇんだがなぁ~……納得が出来るが納得できねぇ」
「……ひ、雛ちゃん」
「う、嘘だ、嘘だと言ってよ……雛ちゃ~ん!」
近くにいる筈なのに遠くに聞こえる同僚の兵士達の叫び声。
「……ん……心配しないで下さい。私は昔も今も貴方だけを愛しています。またの来店、お待ちしております、翔玄さん」
「……………………はい」
俺は女性にとことん弱い様だ……突然、口付けされた事で雛罌粟さんに何を言われたのか、もう、すっかりと忘れてしまった。もしかして、雛罌粟さんの唇には妖術の類のものが……って、何を馬鹿な事を考えているんだ。
雛罌粟さんが店の中に戻った後で、俺の目の前にいる殺気を放つ悪鬼達から一目散に逃げた。
悪鬼達から逃げる道中、ふと雛罌粟さんの事を思い出した。
俺を見る、雛罌粟さんの青い瞳はとても儚げだったと…………俺、本当に……雛罌粟さんと何時、何処で出会ったんだろうか?
この左手の人差し指にはめ込まれた銀の指輪が、俺が雛罌粟さんに求める“答え”へと導いてくれるのか?
分からない……分からない事だらけだ……雛罌粟さん……。
後書き
幼い頃に見てトラウマになった怖いアニメとかありますよね。逆に、大人になった今に見てトラウマになったアニメはありますか?
私はですね……BLASSREITERを見て酷いトラウマになりました。
この作品は涙なしには見られない感動……よりも、主人公に深い同情を抱かせる作品でしたね。最少はmこう言った類の報われない主人公の展開と言いますか、そんな感じだろうなと安易な考えで見てましたが、途中で泣きながら見ていました。
特に主人公の過去が語られるシーンでは画面から目を逸らす時もありました。よく、こんな醜い人間の生の感情を視聴者に伝えられるなぁと一人感心していましたが、この作品の作者を見て「成程」と納得出来る作品でした。
最終話まで見た後で……人生観が少し変わる良い作品でしたね。
そう言えば……全12巻の少年サンデーで連載していた”姉ログ”という隠れた面白い漫画を御存知でしょうか?
妄想癖の酷い美人な姉のベタベタなコメディ漫画なんですけど、ベタだけど話の展開が面白くて、面白くて……と言うか、この作品……本当に少年サンデーで連載していたんですよね……驚きですよ、内容からしてヤングジャンプ級ですかね。
話は変わりますが、機動戦士ガンダムを御存知でしょうか?
この作品には主人公アムロが乗るガンダムの強敵として現れた、グフに搭乗したランバ・ラルという歴戦の戦士がいます。
残念ながらランバ・ラルはアムロに敗れてしまいますが、アムロに、この捨て台詞を残します。「見事だな。しかし小僧、自分の力で勝ったのではないぞ。そのモビルスーツの性能のおかげだと言う事を忘れるな」と。
このセリフは視聴者の受け取り次第ではとんでもない名言だと思うのは私だけでしょうか?
これについて自分の意見はあえて書きませんが…………昔のアニメの良さって、学校の先生や両親が教えてくれない、人間の倫理観を良くしてくれる作品が多かった様に感じますね。
トップをねらえ、テッカマンブレード、ボトムズ、ガンパレ、Zとか、ナデシコは……う~んラストがなぁ~悲しすぎるけど良い作品だと思います。個人的にはサクラ大戦とか好きなんですけどね。
最近のアニメの傾向はエロ街道まっしぐらな感じが少しアレですが、景気が良いと言う事で私は納得しています。
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