魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第3章:再会、繋がる絆
第71話「それぞれの動き」
前書き
流石に一チームにつき一話は長くなりすぎる...。
ましてや、優輝達の方は数話使うし...。
それでも必要なので書くんですけどね。とりあえず、巻きで行きます。(多分)
=out side=
「....皆....。」
「...くぅん....。」
八束神社にて、一人の女性と子狐がどこかで戦っている者達を想う。
「やっぱり、心配...。」
「...くぅん。」
女性...那美は、優輝達が今も戦っているであろう事を想像し、余計に心配になる。
そんな那美に、子狐...久遠は不安そうに鳴く。
「...ううん。きっと大丈夫...。管理局の皆さんもいるんだから、きっと...。」
不安を振り払うようにそう呟くが、やはり心配が拭えない那美。
すると、そこへ...。
ガサガサ...!
「っ...!何...?」
「....!」
神社の裏...山の方面の茂みから音が聞こえてくる。
山なので何か動物が出現してもおかしくはないが、那美と久遠は身構える。
「...くぅ...血の、臭い...?」
「血...!?それって...!」
怪我をしているか...何かを殺してきたか。
その二択の状態の存在が来るという事に、那美は一層警戒する。
「....ぁ...ぐ...!」
「え....?」
茂みから、件の存在が現れる。その存在に、那美は驚いた。
途轍もなくボロボロなのもあるが、何よりもその人物を知っていたから驚いた。
「...葵...ちゃん....?」
「っ....やっと...着いた...?」
その傷だらけの体は、ボロボロどころではなかった。
身は抉れ、穴が開き、手足の一部がなくなっているのだ。
「っ...っぐ...うっ...。」
慣れていなければ吐き気すら催すその状態に、那美は気分を悪くする。
「...っ、ぐ...ぁ...。」
葵も、体力の限界だったのか、その場で倒れこむ。
血は止まってはいるが、傷口が塞がっていない。
血を流しすぎて既に死に体だという事に、那美はそこで気づく。
「っ...!治療...しなきゃ...!」
「くぅん...!」
すぐに那美は手頃な場所に葵を寝かせる。
那美の力では運ぶのに少し手間取るので、久遠も人化して手伝う。
「久遠は桶とタオルを持ってきて!桶には水をしっかり!」
「分かった...!」
「ひどい傷...。どんな戦いをしたら、こんな...。」
土の汚れなどを拭き取れる道具を久遠に頼み、那美は改めて葵の容態を見る。
「っ、....銀の武器で...吸血鬼の再生力を...封じられた...から、ね...。」
「銀...吸血鬼...そっか、弱点...!」
葵は吸血鬼としての弱点...太陽や流水などは一切効かない。
しかし、さすがに悪魔系統の弱点である銀は、耐性がなかった。
だからこそ、葵は再生もできずにこうして瀕死の状態で彷徨っていた。
「...霊脈、で...銀の効果を打ち消し...て....。」
「霊脈...?わからないけど、とにかく、治療を...!」
まずは傷を塞ぐべきだと判断し、那美は治癒術を行使した。
「(....早く、優ちゃんとかやちゃんを助けに行かないと....。)」
薄れゆく意識の中、葵は大事な二人の事を想っていた。
一方、ビル街の上空では...。
「.....で、誰が行って誰が残る?」
「ははは、俺が一人で片づけてやるよ!」
アルフの不機嫌そうに言った言葉に、帝が自信満々にそういう。
ちなみに、不機嫌なのは帝がいるからだ。
「...予定していた作戦は使わない方がいいわ。」
「なんでだい?」
帝の言葉を無視し、アルフとシャマルで会話する。
「既に予定とは違う状況になっている...。そんな状況で戦力を分けるのはさらに危険よ。一つにまとめて置いた方がいいわ。」
「だけど、それだと偽物が現れた時の対処が...。」
シャマルの言う通りにすると、偽物の妨害への対処が疎かになるとアルフは言う。
「そこは私が何とかするわ。探知に関してはこの中で最も優れているもの。」
「んー...でも...んー....。」
悩むように考え込むアルフ。頭脳派ではないので、どうもしっくりこないようだ。
「そんなに悩むなら、俺がさっさと片づけてきてやるよ!」
「あ、ちょっと!」
帝が勝手に先行し、シャマルの声も聞かずに結界の中へと入って行ってしまう。
「っ...私たちも行くわよ!どの道、偽物は私たちでは相手にできない!」
「っ、わかったよ!」
それに続いて、慌ててシャマルとアルフも結界へと入る。
「...ノイズが走った光景って、なんか気味悪いね...。」
「.....ジュエルシードは....見つけた!」
「もう始まっているようだね!」
結界内に突入し、すぐにジュエルシードを見つける。
先に入っていた帝は既に戦闘を開始しており、武器を雨あられと射出していた。
「あれは...リニス!?」
そして、暴走体の姿にアルフは驚く。
「ふははははは!そのまま堕ちろ!」
「...相変わらず、火力だけは凄まじいねぇ...。」
「あっさり凌がれてるけどね。」
高笑いしながら攻撃を続ける帝を、アルフとシャマルは呆れながら見る。
「....まぁ、ここは早々に倒すのが先決よ。」
「となれば、あたし達で動きを止めようか。」
「そうね。」
そういうや否や、二人はバインドを暴走体へと仕掛ける。
「はははは!これで終わりだ!」
あっさりとバインドに捕まった暴走体は、そのまま武器群に貫かれた。
「...っ!まだだよ!封印されていない!それに再生している!」
しかし、暴走体は瘴気が集まるように体を再生させていく。
「封印されていなければ、再生し続けるって訳ね。なら...。」
再び暴走体が動き出し、今度はアルフ達に狙いを定めた瞬間...。
―――その胸を突然後ろから貫かれた。
「....封印、と。」
「...なかなかに恐ろしい事するね...。」
「手っ取り早い方がいいでしょう?」
そう。シャマルが“旅の鏡”によって背後から暴走体のジュエルシードを封印したのだ。
...見た目が後ろから腕で刺すというものなので、傍から見ればえげつない。
「さすがシャマルだぜ!まぁ、俺一人でも倒せてたがな!」
「はいはい。...結界が崩れるわね。」
ジュエルシードを回収した事により、結界が崩壊する。
そして、三人は元の世界へと戻った。
「相性が良かったとはいえ、結構早く片付いたわね。」
「妨害もなかったしね。」
周囲を見渡しながらアルフが言う。
あまりにも早く終わったため、何事ものなくすんなりと事が進んだのだ。
『....!よし、繋がった!』
「エイミィ!」
そこへ、通信が回復してエイミィが繋げてくる。
『皆、無事?』
「安心しろ!既にジュエルシードは封印してやった!」
「あんたが一人でやったみたいに言うな!」
まるで自分一人でやったと言わんばかりの帝に、アルフは突っ込む。
その様子を見て、エイミィも安心した。
『よかった....ビルが見えるって事は、そこは街中の奴だね?』
「そうです。ちなみに、リニスさんの姿を再現していました。」
『反応もそこだけなくなっている...。うん。ここが一番早いみたいだね。』
アースラのレーダーを確認し、アルフ達のいる所だけジュエルシードの反応が消えている事を確かめるエイミィ。
『それじゃあ、早速他の所の助けに回って!まだ他の所と連絡は取れてないから、どこに向かうかはそっちで選んでね!』
「連絡が取れてないって...無事なのかい!?」
『...わからない...けど、皆を信じてあげて。』
「...わかったよ。」
そういって、エイミィは通信を切る。
他の所と連絡が取れるか確かめに行ったのだろう。
「....じゃあ、近くのジュエルシードの所に行きましょう。」
「そうだね。」
「ここから近いのは....海鳴病院ね。」
座標を確認し、シャマルがそういう。
〈....マスター。〉
「なんだ?今から他の所で戦っているなのは達を助けに行くんだ。邪魔すんじゃねぇ。」
そこで、帝のデバイス“エア”が言葉を発する。
〈....結界が張られています。〉
「あん?」
「っ....!」
エアの言葉に、シャマルがすぐさまクラールヴィントを介して確かめる。
その瞬間...。
「っ!?なっ....!?」
ギィイイン!
アルフの背後から何者かの攻撃が繰り出され、アルフは咄嗟に防御魔法で防ぐ。
「...ホントに結界が張られている...いつの間に...!」
「くぅうう...“バリアバースト”!!」
結界が張られていた事にシャマルが驚き、アルフは防御魔法を爆発させる。
しかし、攻撃を繰り出した者はその瞬間には飛び退いていた。
「....へぇ、そっか。狼を素体とした使い魔だから、危険察知はお手の物...か。」
「アンタ...!」
攻撃を繰り出してきたのは葵...その偽物だ。
「結界も攻撃まで気づかれず、背後からの不意打ちだったんだけどなぁ...。これに気づくなんてさすがだよ。」
「クラールヴィント!」
アルフの事を軽く称賛する偽物に、シャマルがすかさず拘束に掛かる。
「甘いよ。」
「なっ...!?」
しかし、偽物は体を蝙蝠に変える事でそれを回避する。
「ジュエルシードがある今、こういった事だって簡単にできるんだよね。」
「っ...!はぁああっ!」
「っと。」
パシィイッ!
アルフとシャマルの背後に回った偽物に、アルフが拳を繰り出す。
しかし、それはあっさりと受け止められてしまう。
「なっ...!?」
「忘れがちだけど...あたしは吸血鬼。その程度の力じゃ、あたしには勝てないよ!」
「くっ!」
レイピアを振るおうとする前に、咄嗟にアルフは蹴りを放ち、距離を取らせる。
すると、そこへ武器群が降り注ぐ。
ギギギギギィイン!
「危ないなぁ...。」
だが、それを偽物は一部を躱し、それ以外はレイピアで全て受け流す。
「待ってろ葵!今すぐ正気に戻してやるからな!」
「ふふふ...やってみれるものならやってみなよ!」
まるで空気の読めない帝がそう言い放ち、偽物はそれに受けて立つ。
「(...戦闘する場所をどうにかして変えないと...。私たちでは、あまりにも不利...!)」
その様子を見ながら、シャマルは冷静に分析し、戦況を変えれないか考える。
「私が援護するわ。どうにかして、抑え込んで!誰か援軍が来るまで持ちこたえるわよ!」
「へっ!俺が片づけてやるよ!安心しろシャマル!」
「(貴方だから安心できないのよ!)」
帝の言葉に内心そう呟きつつも、葵の偽物との戦いへと臨んだ。
その頃、ジュエルシードの場所向かうついでに仲間を探していた神夜達は...。
「あ、あそこにいるのはもしかして...。」
「リニス!」
公園へと向かっていた神夜達は、公園で辺りを警戒しているリニスを見つける。
「っ!....貴方達ですか。」
「なぜ結界の前で....そういう事か。」
リニスも神夜達に気づき、一度警戒を解く。
リインフォースはなぜ結界の前で立ち往生しているのか、様子を見て納得した。
「ええ。私が警戒しています。そちらの結界にはクロノさん、ザフィーラさん、優香さん、光輝さんがいます。」
「既に四人で戦っているのか...。」
ちなみにだが、神夜は優輝以外を敵視していない。優輝が洗脳していると思い込んでいるため、全ての責任を無理矢理優輝にあると決めつけているのだ。
だから、優輝の両親に対して特に思う事はないようだ。
「よし、俺たちはもう片方の結界へ行こう!リニスは引き続き偽物の警戒をしててくれ!」
そういって、神夜は勝手にはやて達を引き連れてもう一方の結界へと入って行った。
「待ちなさい!....っ、ああもう...!」
どうせならばクロノの加勢に行った方がいいのにと、リニスは項垂れる。
「...偽物が来る可能性がある今、私も動けませんし....。」
結局、自分はここにいるしかないのだとリニスは思った。
「....私の主....聖奈司さん....ですか。」
ふと、負の感情に囚われていると言われている司の事を思い出す。
「....記憶からは消えている...ですが、“その人物がいる”と言われれば....確かにパスから感情が流れ込んできます...。」
記憶は消され、“答え”に辿り着かないように認識の阻害を受けていても、リニスは使い魔のパスから司の感情をほんの少しだけ感じ取っていた。
「...使い魔である私が何もできなかった...。ならば、今度こそ絶対に助けてみせます...!」
覚えていなくとも、使い魔としての責任を果たす。
そう誓いを新たに、周辺の警戒を続けた。
『....!リニスさん!聞こえますか!?』
「この声は...エイミィさん?」
『よかった、無事でしたね!』
そこへ、エイミィから通信がかかってくる。
『転移妨害によって通信ができませんでしたけど、ようやく回復しました。...他の皆は?』
「私が知る限りではクロノさん、ザフィーラさん、優香さん、光輝さん、神夜さん、はやてさん、リインフォースさんは無事です。しかし、他の皆さんは...。」
『分からない...と。大丈夫、こっちではアルフさんとシャマルさん、帝君を。アリシアちゃんの方で優輝君と椿ちゃん、奏ちゃんにユーノ君を把握してるから...。』
「不明なのは、なのはさんにフェイト、シグナムさんとヴィータさんですね。」
『まだ確かめてないだけですけどね。』
実質全員無事そうだと、リニスとエイミィはお互い安堵する。
『ところで、他の皆は?』
「結界の中です。私は偽物の警戒をしています。...ただ、神夜さんとはやてさん、リインフォースさんは勝手にもう片方の結界に入ってしまいました...。」
『ええっ!?緊急時なんだから固まって行動してよぉ...。』
せっかく集まったのに自ら戦力を分断している事に、エイミィは泣きたくなる。
「とりあえず、私は引き続き警戒をします。エイミィさんは神夜さん達と連絡を。」
『了解。結界内だから少し時間がかかるけど...任せてください!』
「...頼みました。」
通信を切り、リニスは警戒へと戻る。
「...はぁ、上手く行くといいんですけど...。」
こういう時は大概上手くいかないと、リニスは溜め息を吐いた。
「....これが結界内か...。」
「うわぁ...ノイズって現実に出るとこんなに気持ち悪いんやなぁ...。」
結界内に入った神夜達は、結界内の光景に少し驚く。
「...主、神夜、警戒を。...そこにいます。」
「あれは...なのはちゃんにフェイトちゃん?」
海に面する公園の柵の少し先に浮く二人の姿をした暴走体を見つける。
「しかも、どちらからもジュエルシードの魔力を感じるぞ...。」
「...どうやら、ジュエルシードは二つあるようだ。」
「っ...!」
ジュエルシードが二つ。その事に神夜は警戒心を高める。
「主、援護を頼みます。」
「分かったわ。前衛は...神夜君、頼んだで...。」
「任せてくれ。...幸い、なのはとフェイトなら半分ぐらいの魔法は無効化できる...。」
すぐさまポジションを決め、先手必勝とばかりに神夜は暴走体へと駆け出した。
「っ!」
ドドドドドォオオン!!
「はぁっ!」
すぐさま暴走体二体から魔力弾が飛んでくるが、神夜の特典であるヘラクレスの宝具の一つ、“十二の試練の効果により、全て無効化される。
そのまま接近し、神夜はアロンダイトを振るう。
「逃がさん!」
その攻撃は避けられたが、リインフォースがバインドを放ち、なのはの姿の暴走体が捕まる。ちなみに、フェイトの姿の方は素早いため、避けられたようだ。
「今....っ!?」
ギィイイン!!
片方の暴走体が捕まり、そちらに砲撃を放とうとする神夜だが、そこへフェイトの姿の暴走体が妨害に入ってくる。
ザンバーフォームから放たれる一閃に、神夜は反射的にアロンダイトで防ぐ。
「っ....!込められてる魔力量が...!?」
「神夜君!っ、させへんよ!」
ザンバーフォームの光刃に込められた魔力量は、神夜の防御を貫通する程だった。
よって、それを防ぐ事に気を取られた神夜はバインドを解いたもう片方の暴走体に対して無防備となってしまう。
すかさず、はやてが魔力弾を放つ事により、フォローをした。
ギィイイン!
「ちぃっ...!やっぱりジュエルシードで強化されている...!」
再現されたバルディッシュを何とか弾き、神夜はそう呟く。
実際のフェイトでも、同じ戦法を取ったであろうが、それはカートリッジを前提とした話だ。普段の状態...それも鍔迫り合いの状態から魔力をさらに込めるという事は、フェイトにもできない。
「....私と主で高町なのはの相手をしよう。神夜、そちらは頼む。」
「...わかった。正直、連携を取られるときつい。」
そういうや否や、リインフォースはなのはの姿の暴走体へ突撃。
パイルスピアという武器のデバイス“ナハト”を繰り出し、防御の上から攻撃を徹す。
「はぁっ!」
神夜もフェイトの姿の暴走体へと攻め、二体を分断する。
「任せたぞ!」
「ああ!」
互いに距離を離すように、反対方向へと押し込むように攻める。
はやてもリインフォースの援護に入り、どちらも押している。
「ぜぁっ!」
パ、ギィイイン!!
神夜の攻撃が暴走体の防御魔法を突き破り、一際強く吹き飛ばす。
...元々、神夜はなのはやフェイトよりも強い。例えジュエルシードで強化されていたとしても、それは変わらなかった。
リインフォースの方も、二対一なのとリインフォースのデバイスがバリア貫通に向いているため、こちらも相当優勢だった。
「.....再生もするのか。」
先ほどの一撃で、暴走体の片腕は斬られていた。
しかし、再び神夜に斬りかかってきた時には、既に再生が終わっていた。
「....しまったな。フェイトの電気は俺と少し相性が悪い...。」
暴走体の攻撃は、その半分以上が神夜の前では無効化される。
しかし、電気変換資質持ちのフェイトを再現しているので、魔力弾などに込められた電気が神夜の動きを鈍らせていた。
...尤も、それでも神夜の方に分があるが。
『...!...君!....神夜君!!』
「っ!?うわっとと..!?」
突然かかってきた通信に、神夜は驚き、暴走体の攻撃をまともに受けてしまう。
幸い、それも無効化できる威力だったため、すぐに立ち直る。
「...エイミィさん?」
『よし、通じた...!』
とりあえず神夜は返事し、その事にエイミィは安堵する。
「悪いけど、今は戦闘中だから手が離せない!」
『ああもう!どうしてこんな時に態々手分けするの!?戦闘に入ったのなら止めないけど、さっさと終わらせるように!!』
「了解!」
返事を返し、通信が切られる。そして、そのまま戦闘に集中した。
...なお、なぜ手分けして怒られたのか神夜は理解していなかった。
「...と、言う訳だ。さっさと片を付けさせてもらうぜ...!」
瞬間、神夜はスピードを上げて暴走体に接近する。
負けじと暴走体も速度を上げるが、進路先を魔力弾が通り過ぎる。
「ちっ、これも躱すか!」
さらに魔力弾を放ち、自身も追いかける神夜。
理性がない故、暴走体は臨機応変に対処できず、そのまま追い詰められ...。
「っ...!捉えた!!」
バインドによって、動きが止められる。
「終わりだ!!」
そして、魔力を帯びた斬撃に切り刻まれ、砲撃魔法で封印された。
「....よし。」
「はぁあっ!」
ギィイイン!!
一方、リインフォースはパイルバンカーの攻撃と暴走体の防御魔法を拮抗させていた。
「っ!」
「リインフォース!」
そこへ暴走体の魔力弾が襲い、リインフォースは飛び退く。
すかさずはやてが援護射撃を行い、互いに睨み合う間合いになる。
「...奇しくもあの時と逆だな。」
思い出すのは、かつての闇の書となのはの戦い。
リインフォース自身の記憶は闇の書の中でのはやてとの会話が主だが、なのはとの戦いも覚えており、また記録映像を見た事もあった。
今回のこの戦いは、その時と立場が逆のようであった。
「...あの時よりも、私の力は圧倒的に劣っている。だが...。」
「......。」
「....今は主と...仲間と共にいる。.....ただの再現とはいえ、負けんぞ。」
後方にいる主を一瞥し、暴走体が相手とはいえ、リインフォースはそう言ってのけた。
「『主よ、蒐集した術式よりフェイト・テスタロッサの最大魔法を。』」
「『フェイトちゃんのって言ったら...フォトンランサー・ファランクスシフト?』」
再び激突を繰り返しながらも、リインフォースははやてへ念話を飛ばす。
手元の夜天の書から、はやては言われた術式を探す。
「『厳密には違います。かつて私が使った魔法、それが記されているはずです。』」
「『....あった。ジェノサイドシフトって奴やな?』」
「『はい。...それで一気に片を付けます。隙を作るのですかさず発動してください。』」
そういって念話を切り、暴走体へと肉薄する。
「せぁっ!!」
パ、ギィイイン!ドンッ!!
デバイスで防御魔法を破り、掌底で大きく吹き飛ばす。
リインフォースはこれでも古代ベルカ時代の存在だ。接近戦もお手の物だった。
「『主!』」
吹き飛ばされた暴走体は、すぐさまバインドに捕まる。
リインフォースの仕掛けたバインドだ。二、三重なため、すぐには解けない。
「アルカス・クルタス・エイギアス。疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル。フォトンランサー・ジェノサイドシフト。撃ち砕け、ファイアー!!」
そこへ、大多数の魔力弾が包囲するように形成される。
そのまま、その魔力弾は暴走体へ収束し、炸裂した。
「ジュエルシード、封印!!」
最後の一際大きな槍のような魔力弾を、はやては投げつけ、封印を完了させた。
「....よし、封印は完了したな。」
「少し長引いたが、何とかなったな。」
二つとも封印が完了し、はやて達と神夜は合流する。
お互い、ほとんどダメージはなく、消費したのは魔力だけだった。
「...結界が...。」
「外でリニスが待っている。早く出よう。」
「...ああ。」
そういって、三人は結界が崩れる前に脱出していった。
「...戻ってきましたか。」
「異常は?」
「ありません。」
結界外に戻ると、リニスは変わらず辺りを警戒していた。
神夜の問いに簡潔に答えるリニスだが、どこか不機嫌だった。
「...どうしたんや?」
「...どうしたもこうしたも、なぜこの状況で手分けしたままなのですか?誰か一人か二人私と共に残り、クロノさん達の加勢に行った方が確実です。」
説教染みたその言葉に、三人とも言葉を詰まらせる。
「だ、だけどこうして早めに決着を着けてきただろ?」
「それは結果論です。....こうして話しているのも時間の無駄ですね。早く加勢に....。」
“向かおう”とリニスが言おうとした所で、結界から四人が出てくる。
それと同時に、結界も崩れた。
「....何とか勝てましたか...。」
「...ああ、きつい戦いだった...。」
出てきた四人にリニスがそう呟き、クロノが戦いの感想を漏らす。
「...参考なまでに聞いても?」
「...緋雪を再現していた。正直、プレシアさんの援護魔法がなければ勝てたかどうかも怪しい。」
「それは...。」
緋雪の強さはその場にいる全員が知っている。
だからこそ、相当苦戦したのだと、全員が思った。
『...一段落着いた所申し訳ないけど、緊急事態だよ。』
だが、そこへエイミィの通信が来る。
「...何があった?」
『...アリシアちゃんから、海の沖の方にいるなのはちゃん達が、優輝君の偽物と交戦。また、その時に気づいたのだけど、ビル街の方に結界が。おそらくはシャマルさん達が結界内に...。』
「...二か所同時襲撃か...。」
どこに誰がいるか詳しく説明している暇はなかった。
尤も、リニスがそれを知っているため、説明する必要はあまりないが。
『優輝君たちのグループはまだジュエルシードと戦ってる。...優輝君たちが負ける事はなさそうだけど、このままじゃ皆がやられちゃう!早く援護に向かって!』
「了解!」
クロノが返事し、一度その場にいる全員を見渡す。
「エイミィ、戦況を教えてくれ。どちらにどれだけ人員を割くべきか...エイミィ?」
そして、チーム分けを決めるために戦況を聞こうとして...通信が途切れる。
「なっ...!?通信が....!」
「クロノ!どうしたんだ!?」
「通信が...切断された。」
クロノの言葉に、全員が驚く。
ついさっきまで繋がっていたのだ。あまりにも突然すぎる。
「...早く救援に行きたい時に、なぜ....。」
そう呟くクロノに、念話がかかった。
『―――別に、救援に向かう必要はないぜ?』
それと同時に、吹き飛ばされてくる者達がいた。
「フェイト!それに、アルフや皆さんまで...!」
その者達は、他の場所で戦っている者達だった。
「....さぁ、決着と行こうか。管理局...!」
「......!」
クロノ達が見上げれば、そこには優輝と葵の偽物が佇んでいた。
後書き
エイミィが通信を掛けている順は、アルフ達→リニス→織崎達→クロノ達です。
順番がごちゃ混ぜになっているのはあれです。展開的な仕様です。すみません。
リインフォースが使っているデバイスは、まんま劇場版で使ってた奴です。
名前もナハトヴァールにちなんでナハトになりました。一応アームドデバイスです。
詠唱が本来ならないジェノサイドシフトですが、あれは闇の書のリインフォースだからこそできた事で、はやて単体だと詠唱が必要だという設定にしています。ファランクスシフトと全く同じ詠唱なのは見逃してください。
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