恋姫†袁紹♂伝
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第50話
前書き
~前回までのあらすじ~
軍師ーず「死ゾ」
脳筋「へーきへーき、(生物)兵器だから」
おかねもち「しょうがねぇな(悟空)」
☆
脳筋「ぱぱっと鉄槍折って、檄成功!」
脳金玉『ウオオオオォォォォォ!』
水夫「えぇ……(ドン引き」
大体あってる?
「初日は、何とか持ち堪えたわね」
「はい、この雨こそ魏国の天運でしょう」
魏陣営の天幕内、その中で華琳と郭嘉が、現状と今後の展望について話し合っていた。
「陽軍の様子は?」
「陣に引いた後は特に動きを見せません、月明かりも無いので視認は不可能ですが、
この雨天の中、行動をとる可能性は限りなく低いでしょう」
「低いだけで、無いわけではないのね」
「はい、でのすで橋を重点的に警戒させています。
一番怖いのは大炎での夜襲ですが、あの仕掛けさえあれば……」
「大炎の足を止め、予めそこへ座標を設定してあった投石機が猛威を振るう」
「その通りです」
「相手は今までに無い強敵、警戒しておいて損は無いわ。
他も抜かりは無いでしょうね」
「無論」
辺りを模した地形図、その岸辺に兵士駒を置く。
「大橋を使わず河を越えてくる“万が一”に備え、岸に見張りを配置させました。
異常があれば知らせが届き、待機させている常備兵三千が出向きます」
同日同時刻。郭嘉により岸辺に配置されていた見張りは、既に物言えぬ姿に成り果てていた。
「この悪天候の中じゃ、見張りも形無しだな」
「無駄口を叩くな、行くぞ」
見張りを片付けたのは華雄兵だ。船から先行した数人が、周囲を注意深く探っている。
見張り達が彼らを察知できなかったのは、暗闇と豪雨による視界不良以上に、油断していた面が大きいだろう。
無理も無い。岸辺に配置された彼らの目に映ったのは、一寸先さえ視認できない暗闇と、激しい豪雨、増水により激流の化した大河だけだ。
そんな中を船で、ましてや泳いで来る者が居るなど、夢にも思わなかっただろう。
故に、見張りは貧乏くじを引かされた自分達を少しでも労おうと、暖を取るための火をつけた。
華雄達は遠目でその灯りを確認、見張りの存在を確信し、泳ぎが得意な者達を先行させたのだ。
華琳や郭嘉の危惧は。
初戦の奇跡、疲れ、安堵といった様々なものが絡まり、末端の兵士まで届く事は無かった……。
「報告しろ」
「ハッ! 周辺に敵兵の姿はありません、隊を陸に移す好機かと」
「うむ、そっちは?」
「魏陣へと続く道に見張りが数名。ここに居た連中と同様、暖をとって油断しきってます」
「上々だ。手筈通り行くぞ!」
『ハッ!』
「お前、岸辺の見張りはどうした? 何故ここに居る!」
「あ、相方が足を滑らせて河に落ちたんだ。手を貸してくれ!」
「おいおい、急がないとまずいんじゃ……」
「チッ、わかった。さっさと案内しろ」
「いやぁ、案内せずとも――遭えるぜ」
「何を貴様――ガッ!?」
「な!? いきなり……何故…………」
「へっ、近づければこっちのもんだぜ」
魏軍の鎧を纏った兵士が、同色の兵を手に掛けた。
言うまでも無く、彼の正体は華雄兵の一人である。
見張りの装備一式を拝借し、目端が利く者に着せて先行させ、隊がそれに続く。
敵兵を確認したら合図で隊を止め、魏兵に扮して近づき、不意を打って片付ける。
華雄達はこの方法で、少しずつ魏本陣を目指した。
少数精鋭とは言え、通常なら勘付かれても不思議ではない程の大胆な動き。
暗闇が集団の姿を隠し、豪雨が足音や雑音を消し、先の奇跡が魏軍の油断を生んだ。
まさに、陽軍を襲った天災を味方に引き込むかの如く、華雄達は進み続けた。
「着いたぞ、あれが魏軍の本陣だ」
「この天候だからか、見張りは少ないですね」
「殆どの天幕は明かりをつけていない、寝入ってるな」
「にしたって広大すぎる。この中から投石機を探すなんて……」
不可能だ。その言葉を、華雄兵は何とか飲み込んだ。
日中の戦いで犠牲を出しているとは言え、魏軍の戦力は未だ五万近い人数が居る。
それらの兵力で形成された本陣、広大なのは当たり前だ。
その中に、三百人程度の人数で飛び込み、投石機を探し出して破壊。
魏軍の追走を掻い潜って脱出する。
ごくりと、兵士の一人が喉を鳴らした。
此処に来る前は勇んでいた彼らも、魏軍の本陣を前にして顔を蒼くした。
それでも立っていられるのは、逃げ出そうとするものが居ないのは、やはり華雄のおかげだろう。
百戦錬磨の兵士達が縮みあがる光景を前にして、獰猛な笑みを浮かべていられるのは彼女くらいだ。
少なくとも、華雄以上に勇敢な武人を彼等は知らない。
彼女と共に居ると――戦意が湧き上がるのだ。
「行くぞ、手筈通り動けば問題ない」
『応!』
「きゅ、急報! 敵の夜襲です!」
「な!? 大橋に仕掛けて来たの!?」
「いえ、大橋からの連絡はありません。敵は我が本陣に突然表れました!」
「!」
「……大橋からでは無いとすると、大河を越えてきたようですね」
「見張りがいたはずでしょう」
「信じられませんが、それを掻い潜って近づいて来たと言う事に……。
損害と敵の規模はどのくらいです?」
「すぐに常備軍が迎撃にでたため被害は軽微です。敵の数は多くて三百程度かと……しかし」
「しかし?」
「敵の中に、我が軍の鎧を見に着けて居る者が居ると。激しい豪雨と乱戦で敵味方の区別が難航。
さらに、攻撃を受けた天幕の兵達も戦線に加わり、現場は大混乱です!」
「……常備兵以外の者達を下がらせてください。それから、敵に当たる時は常に五人一組の隊を。
隊が欠け、補充も利かない場合は下がらせ、二人以下で戦線に留まっている者達を討って下さい」
「ハッ!」
指示を受けて兵士が出て行くのを確認し、華琳が口を開く。
「悪くない方法だけど、同士討ちは発生するわね」
「はい、全ては救えません」
「それならいっその事、被害を最小限に……か。仕方ないとは言え、頭にくるわ」
「同感です」
「敵の狙いは我が軍を疲弊させること……では無いわね」
「はい、おそらく――」
「見つけたぞ、投石機だ」
華琳達に知らせが届くのと同じ頃。華雄とその手勢十人は、魏軍の郡中にあった投石機を発見した。
魏軍に攻撃を仕掛けた者達は囮。遅かれ早かればれてしまうなら、いっそのこと現場を混乱させれば良い。そのほうが、本命である華雄達も動きやすい。
無論、攻撃を仕掛けることで、敵の首脳陣が対応に出ることも想定済み。
要は混乱に乗じ、本格的に対応される前に投石機を見つけ出して破壊、脱出するという算段だ。
「し、しかし、あの膨大な天幕数から、良く投石機がある場所を探せ出せましたね」
「それも、武人の勘ですかい?」
「まさか」
一見、博打にしか見えない方法だったが、そこには華雄なりの理があった。
魏軍は明日の激戦に備えるため、少しでも身体を休めなくてはならない。
膨大な天幕の内、一般兵達の天幕は既に明かりが無く寝入っている。
明かりが確認できるのは、明日に備え策を練っている首脳陣と、万が一に備えて動くことが出る兵士達、そして投石機だけだ。
この悪天候と暗闇の中、陽軍の夜襲がある可能性は限りなく低い。
しかし、ゼロではないとすれば、魏軍はソレを想定した対策を強いられる。
「万が一に備え、投石機をすぐにでも動かせる準備をしているはずだ。
それこそ、明かりを絶やす事無く……な」
「な、なるほど。だから殆どの天幕を無視して――」
「いや姉さん。明かりがついている天幕も相当ありましたぜ」
「どうやって投石機の有無を見極めたのです?」
「……他はしっかり設置してあったのに対し、この天幕だけは歪だ。
まるで、すぐにでも天幕を取り払うためのように」
「! 敵襲の知らせで、すぐさま使用するために!?」
「そう言うことだ」
『……』
兵達の尊敬の眼差しを受けながら、華雄は投石機がある天幕内へと足を踏み入れる。
彼女を脳筋として認識している者達からすれば、驚愕すること請け合いの推察だが。
なんてことはない、ただ今まで通り“相手の立場”で考えただけだ。
戦力差は圧倒的、一度主権を陽軍に渡せば、魏軍はあっというまに蹂躙されるだろう。
数に劣る魏軍は、石橋を叩いて渡る必要がある。
そんな彼らがこの状況で恐れるのは――大炎による夜襲。
それを抑止するのに投石機は必要不可欠、動かせる状態で無いといけない。
しかし、雨風にさらして不具合が起きるのもまずい。故に歪な天幕。
何事も無ければ雨風をしのげ、異常があればすぐさま使える。迅速に動かす為の明かりも絶やせない。
「警備の類が少ないのは、想定外だったがな」
「おお!」
天幕内にいた数人の魏兵を倒し、華雄兵は中の光景に目を光らせる。
投石機だ。自分達の目標であるソレが、大岩を設置した状態で鎮座している。
それは紛れも無く、直ぐに使える為の形。華雄の推察通りだ。
「まだ鼠が隠れているな、出て来い!」
「……バレとったか、てか鼠はそっちやろ!」
華雄の言葉で、投石機の陰から一人歩み出てきた。
その姿を見て華雄達は目を見開く。彼女には見覚えがあった。
「あの爆乳」
「形」
「揺れ具合」
『間違いない。李典だ』
「あんたらどこで人を判別しとるんやァァッッッ!」
華雄兵達の呟いた言葉に、李典は慌てて胸を隠すように腕を組んだ。
それが意図せず果実を押し上げ、男共が中腰になる。
その光景に華雄は頭を抱えそうになった。重要な任務の最中だというのに……。
「フン、投石機だけが目的だったが。文字通り、大きなおまけが付いたな」
「――ッ、く」
「……ほう?」
得物を構えた李典を見て、華雄は意外そうに声を上げた。
両者の武力には天と地ほどの差がある。それは対峙した時点で察しが付いていた。
武をかじっている李典も重々承知のはず、彼女がこの場で取るべき行動は応戦では無く逃走だ。
華雄達に背を向け手に持つ得物で天幕を引き裂き、闇と雨に紛れての逃走。
第一目標が投石機である華雄達に、それを追う暇は無い。
三羽鳥の一羽にして魏将の一人に数えられる李典が、その事に気がつかないとは思えないが。
「……」
それも所詮、華雄から見た理屈。李典の心情はもっと複雑だ。
彼女が此処で華雄達に出くわした事、それ自体はただの偶然である。
明日以降に備えるため、今日は休息をとるようにと指示を受けていたが。
李典はその言葉に反し、投石機の整備と点検を徹夜で行う心算でいた。
それも無理からぬ事、この投石機は魏軍の要にして生命線だ。
であれば、それを手掛けたカラクリ技師として整備は怠れない。
日が沈んだ後簡単な点検を行い、問題は無いと判断したが李典の不安は尽きなかった。
春蘭による通過儀礼は済ませているが、雨天での運用は考慮してないのだ。
カラクリとは複雑で繊細なもの、本番中にどのような不具合が起きるかわからない。
故に李典は、その万が一、億が一を無くすため、夜通しで整備に当たることを決定していた。
そもそも自分達工作兵は、戦において非戦闘要員。
前線に出ることが無いのであれば、多少の徹夜は問題無い――はずだった。
アレが来るまでは。
天幕内に入ってきた兵士達を確認し、李典は思わず整備中の投石機に隠れた。
他意はない。ただ、主のお仕置きが怖かっただけだ。
主の熱望するナニかを持っているからか、自分に対する仕置きだけは厳しいものがある。
指示に反してこの場に居ることがばれれば、規律を重んじる華琳から仕置きがあることは必須。
未だに、胸に受けた平手打ちの手形が残っている……。
そうして物陰から様子を窺っていた李典の目に映ったのは、同色の兵に斬りつけられる部下達の姿。李典の工作隊は職人気質な者達の集まりだ。剣を帯びてはいるものの、それを振るうことは無い。技師としての能力に特化した彼らに、味方だと思い込んだ者達からの凶刃に反応できるはずも無く――。
『!?』
突然の事に目を白黒させながらも、李典は気配を消して事態を見極めようと務めた。
そして見つけた。忘れられない、忘れるはずも無い仇討ちの顔。華雄。
『まだ鼠が隠れているな、出て来い!』
しまった! と、思う間もなく。僅かに放ってしまった殺気を気取られた。
あのまま潜んでいれば、不意を打てたかも知れないと言うのに……。
『……バレとったか、てか鼠はそっちやろ!』
気丈に振舞いながらも、震えが止まらない。圧倒的強者の気を感じ、絶望感で満たされていく。
兎が獅子の前に姿を現すようなものだ。我ながら、無謀にも程がある。
「フン、投石機だけが目的だったが。文字通り、大きなおまけが付いたな」
「――ッ、く」
茶番を挟んで弛緩しかけた空気は、華雄の仕切り直しにより緊張状態に戻った。
「……ほう?」
反射的に得物を構えたのを見て、華雄が意外そうに声を上げる。
大方、逃走すると踏んでいたのだろう。李典としても、逃げ出したいのは山々だ。
だが、ここには投石機がある。此度の戦の要にして、李典の作品である投石機が。
自らの手で設計し、組み上げ、整備、修繕、改良を行ってきたのだ。
最早それは、親が子を生み育て上げると同義。ならば――
「子を見捨てて、親が逃げ出すわけ無いやろッッ!」
吐き出すように叫び、己の得物を作動させる。
すぐさま先端にある螺旋状の刃が高速回転し、威嚇するような回転音が天幕内に響いた。
「な、何だアレは!?」
「回転……しているのか、速すぎてよくわからんぞ」
「独りでに動いている、妖術だ!」
未知の技術を目の当たりにし、兵士達が動揺する。
これこそ、李典が長い歳月を経て生み出した最高傑作“螺旋槍”である。
本来は掘削機として開発したものだが、この物騒な時代、武器としての用途もあるのだ。
動力は――企業秘密である。
『……』
原理は不明だが、ソレを回転する刃と確認した華雄兵達は警戒心を露にした。
彼らとて唯の脳筋ではない。回転が及ぼす力を理解している。
例えば矢。添え付けてある羽は、矢を直進させる回転を生み出す為の物だが、それが矢の貫通力に一役買っていることを彼等は知っている。
その貫通力を高める回転が、突く事に特化した槍に用いられる、確かに脅威だ。
「無駄だ、私に虚仮威しは通用せん」
「ちょ、姉御!?」
――よし!
戦斧を肩に掛け悠々と近づいてくる鬼神に、李典は内心歓喜した。
遥か各上である華雄に勝利する為、必要なものが三つある。
一つは、自身の得物である螺旋槍。
カラクリに時間を費やし、鍛練を怠ってきた李典の武は、武器の性能に大きく依存している。
二つ目に相手の油断。
華雄が兵達と同様、未知の武器に警戒心を抱いていたら李典に勝機は無い。
どのような奇策、奇襲も、細心の注意で臨んだ華雄の前では無駄に終わるだろう。
しかし華雄は警戒するどころか、笑みを浮かべながら大股で近づいてくる。
取るに足らない相手と評されるのは癪だが、今回ばかりはそれを望んだ。
三つ目は運。元より分の悪い賭け、最後に頼るのはこれだけだ。
「どうした、来ないならこっちから――!?」
もう四五歩で間合いに入るかという時に、華雄は相手の奇行に動きを止めた。
李典が突然、得物を地面に突き刺したのだ。戦闘放棄とも取れる行動。
無論、彼女の闘争心は些かも衰えていない。これは勝つための布石。
面食らった華雄の顔を確認するまでも無く、李典は仕掛けた。
「ドリヤアアァァッッ!」
本来の用途、掘削機として地面を抉った螺旋槍を華雄に向かって振るう。
すると――大小様々な形の石や土が華雄に放たれた。
「!?」
「もらったァァァッッ!」
すぐさま間合いを詰めて螺旋槍を“横薙ぎ”に振るう。
予測不能な奇行で間を作り、視界を遮り、突きに特化したソレで横から仕掛ける。
螺旋の刃は常に回転している。突きが一番効果的だが、ソレに触れただけでも無事ではすまない。
服を、肉を巻き込み、削る要領で引き裂く。致命傷は免れても、戦闘力は大きく低下するはずだ。
そこへ、渾身の突きを――
「!?」
――入れるはずの槍が空を切った。何が起きたのか理解出来ない李典の目に映ったのは。
踏み込んで縮まったはずの間合いが、開いていたことだった。
華雄は間合いを完全に見切り、後ろに退いていた。油断していればとれない行動だ。
視界を遮った石の類も、螺旋槍による突きも、横に動けば簡単に回避できたはずだ。
そう考えると、そう動くと想定して李典は横薙ぎで仕掛けたのに――
「悪くなかった……が」
「――ッ」
その一言で、李典は全て察した。華雄に油断や慢心は無かったのだ――と。
むしろ、華雄をその程度の武人と過小評価したのは自分の方だ――と。
全ては華雄の演技だった。格下の人間が強者に挑む場合、無意識に相手の油断を期待する。
その心理を逆手にとり、油断していると見せかけ後の先を取る戦法だ。
実は言うと、この戦法は張遼との模擬戦で使われ、煮え湯を飲まされたものだったりする。
大会で破れ、修行の山篭りから一時帰省し、腕試しに張遼に挑んだ時だ。
彼女は構えもせず、悠々と間合いを詰めてきた。華雄はその慢心を侮辱ととり、性根を正そうと無警戒に仕掛けてしまった。
気が着いた時には自分の首元に、張遼の得物が宛がわれていた。
目からうろこが落ちる思いだった。こういう戦い方もあるのか――と。
華雄はその苦い敗戦を糧に、張遼の戦法を己のモノにした。
恋に破れ、陽国の傘下に降った後も、猛将華雄の成長は留まる事を知らない!
「終わりだ」
後書き
ペルソナ5がさぁ…
周回プレイとかさぁ…
新難易度とかさぁ…
あ、そうだ(唐突) ダクソDLCまだやってないゾ
次話更新日は……ナオキです。
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