| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

タンタロス

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

第六章

「そして手が届く範囲に見事に実った美味そうな果実を置く」
「しかしですね」
「飲もうとすれば水は下がり食う為に手を出せば果物は遠ざかる」
「そして絶対に飲むことも食うことも出来ない」
「未来永劫その苦しみを味あわせる」
「それがあの者への処罰ですね」
「そうだ」
 その通りという返事だった。
「そうする」
「手が届きそうで届かない」
「そうした劫罰だ」
「怪物に対する」
「誰彼なく犯し我が子を殺し食わせようとした者だ」
 そうした怪物だからというのだ。
「これは当然の報いだ、幾ら友人でもだ」
「それでもですね」
「許せること、許してはならないことがある」
「そしてあの者は許せないことをした」
「それ故にだ」
 処罰を下したというのだ。
「神々の主、法と理を守る者として」
「そしてですね」
「友人としてもだ」
 顔を険しくさせてだ、ゼウスはこうも言った。
「そうしたのだ」
「ですか」
「さて、ではだ」
 この話を終えてだった、ゼウスは。
 ヘルメスに対してだ、こうも言った。
「ヘパイストスを呼んでくれるか」
「兄上をですか」
「うむ、あの者に言っておくことがある」
「アテネ姉上とのことですね」
「兄妹だ、もっと仲良くせよとな」
「近頃今一つですね」
「関係がよくないからな」
 そのことを察してのことだ。
「だから言っておこう」
「では」
「そして明日は兄弟達と話だったな」
「ポセイドン様、ハーデス様と」
 それぞれ海界、冥界を治める主神である。ゼウスの兄弟達であり世界を三分に分けて統治している間柄だ。
「その予定でしたね」
「そこでも話すことがある」
「では」
「その用意もしておかねばな」
 こうヘルメスに行ってだった、彼は主神としての責務を果たしに向かった。その表情は全てを背負い断を下すことを決意しているものだった。


タンタロス   完


                          2016・7・24 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧