| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

アルケミスト

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
< 前ページ 目次
 

第一章

                 アルケミスト
 ブラウンシュバイクに住む医師トマス=クライゼナウは実は錬金術師でもあります。ご領主さんにも医師として知られていますが。
 錬金術師はあらゆるものを黄金に変えることを目的としているお仕事です、魔術の一種ともされていて教会にはよく思われていません。
 ですがご領主さんは教会には内緒でクライゼナウに金を生み出す研究を続けさせているのです。
「お金があればな」
「はい、何でもですね」
「使える、この領地ももっと豊かに出来る」
 こうクライゼナウに言うのでした。
「お金を使って人やものを雇って買ってな」
「そしてですね」
「田畑を耕させ橋や堤防を造ってだ」
「町や道を整えて」
「この領地が豊かに出来る」 
 領主さんは自分の領地と民を豊かにしたいのです、だからお金を必要としているのです。
「だから頼むぞ」
「お金をですね」
「そうだ、是非どれだけでも出せる様にしてくれ」
「わかっています、それでは」
「研究の為のお金は出す」
 領主さんはこうも言いました。
「だから思う存分な」
「研究させてもらいます」
 その細い目を確かにさせて領主さんの恰幅のいい身体と見事な茶色の顎鬚が目立つお顔を見つつ答えるのでした。
「是非、私にしましても」
「金はだな」
「必要ですので」
「では頼むな」
「必ずや」
 黄金を生み出せる様になるとです、グライゼナウは領主さんに約束してです。
 錬金術の研究を続けていきます、ですが。
 黄金はどうしても生まれません、何をしてもです。
 ですがグライゼナウはあくまで研究を続けていきます、密かに取り寄せた錬金術の本を読んだり色々な実験をしてです。
 金を生み出そうと毎日医師としての仕事の傍ら研究をしていました、そのグライゼナウを見てです。弟子のマルクス=シュタインホルクはその赤髪の頭を傾げさせて言うのでした。
「本当に金は出せるのでしょうか」
「出せる」 
 グライゼナウはシュタインホルクに確かな声で答えました。
「必ずだ」
「お師匠様はいつもそう言いますが」
「様々な本にはそう書いてある」 
 錬金術の本にはというのです。
「だからだ」
「必ずですか」
「金は生み出せる」
 こうシュタインホルクに言うのでした。
「わしが必ずだ」
「そうさせてみせるんですね」
「そうだ、それが出来た錬金術師も実際にいるしな」
「そうした人にですね」
「お会いしたこともあるしだ」
 それにというのです。
「金を生み出したのを見た」
「ええと、確か」
「賢者の石を使ってな、他にはだ」
「不老不死の霊薬ですね」
「エリクサーもある」
 このお薬もというのです。
「こちらも見たことがある」
「それでは」
「わしは必ずな」
「金を生み出して」
「その金を使ってだ」
「この領地をですか」
「豊かにするのだ」
 まさにというのです。 
< 前ページ 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧