雰囲気
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第六章
「飲むのね」
「そうしような」
「ええ、そうした話になってるし」
「次はビール飲むか?」
「次のお店ではね」
「とにかく今日は飲もうな」
上海、西洋の趣が濃厚にあるこの街でだ。スーツを着たうえでバーで西洋の音楽を聴きつつ洋酒を飲んでというのだ。
「朝までな」
「店を移っていってね」
「そうしていこうな」
ワインを飲みつつ二人で笑って話した、そして。
本当に朝まで飲んだ、二人が何軒目かの店を出た時空はもう白くなろうとしていた。
まだ日は出ていないがだ、広良は共に店を出た秋姫に言った。
「朝になったな」
「いや、飲んだわね」
「本当に朝までな」
「もうかなり飲んで」
香水と様々な酒の香りを漂わせつつだ、秋姫は少しふらつきつつ言葉を出した。
「楽しかったわ」
「俺もさ、本当に飲んだな」
広良も酒の香りに包まれている、そしてオーデコロンのそれにも。
「後は帰って寝るか」
「二人でね」
「そうだな、けれどその前にな」
「その前に?」
「朝食うか」
朝食をというのだ。
「それから部屋に帰って寝るか」
「朝は何食べるの?」
「そうだな、洋酒ばかり飲んだけれどな」
それでもという口調での言葉だった。
「最後は中国にするか」
「祖国に戻るのね」
「そうするか」
「ならお饅頭美味しいお店知ってるわよ」
秋姫は酒の香りの中で広良に言った。
「ここの近くにね」
「もう開いてるのかその店」
「ええ、コンビニだから」
「じゃあそのコンビニ行くか」
「それじゃあね」
「ああ、そこで饅頭買うか」
「頭がすっきりするから」
その粥でというのだ。
「コンビニの商品よ」
「あっためてくれるんだな、店で」
「そうよ、茶卵もあるわよ」
「それも買ってな」
「二人で食べましょう」
「それで部屋に帰ろうな」
「そうしましょう」
秋姫はこう言って広良に身体をもたれかけさせた、そして。
広良は秋姫の身体を自分に抱き寄せた、そのうえで彼女に言った。
「今からな」
「案内するわね」
「頼むな」
広良は秋姫の言葉に応えてだ、彼女の案内を受けてだった。
二人で朝まで飲んだせいで少し足がふらつきながらも支え合ってそのうえで饅頭を食べに店まで向かった、その二人を石の古い洋風の建物と建物、その間から差し込む日の光が照らした。夜の後の朝日はこの日も映えていた、上海においても。
雰囲気 完
2016・3・23
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