雰囲気
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第一章
雰囲気
趙広良は生まれも育ちも上海である、就職先もこの街の喫茶店である。
広良の交際相手の秦秋姫も同じだ、ただ彼女は普通の企業にいる。
二人は今は共に夜の街にいる、バーで飲んでいるが。
ふとだ、広良はカウンターの自分の席から店の中を見回してだ、秋姫にこうしたことを言った。
「ここにいるとな」
「中国にいる様にはなのね」
「思わないよな」
「そうね」
夏姫はこう広良に返した。
「それはね」
「ああ、完全に西洋だな」
「このバーはね」
ジャズが店の中にかかっている、あえて暗くされている店の中は一九二〇年代の禁酒時代のアメリカのバーを思わせる、あのモグリの。
「アメリカの」
「ああ、音楽もな」
「ジャズもね」
「英語だしな」
「サッチモの曲かしら」
歌手が歌っている曲を聴いてだ、秋姫は言った。
「これは」
「ああ、そうだな」
実際にとだ、広良も答える。
「この曲は」
「そうよね」
「歌ってるのは中国人でもな」
広良はタキシードを着て歌っているその歌手を見た、歌手も同じだった。
「歌はアメリカだな」
「サックスにピアノの演奏」
「完全に西洋だな」
「そうね」
「俺達もな」
くすりと笑ってだ、広良は自分達のことも言った。見れば広良は黒のスーツで秋姫は濃い灰色のシックな膝までのタイトスカートのスーツだ。広良は細面ですらりとした長身で切れ長の奥二重の目を持っいる。鼻は高く唇は薄い。黒髪は清潔にしている。
秋姫は長い黒髪をセットしていてやはり切れ長の目である。二重のはっきりとした目で眉は細く奇麗に整えられている。紅のルージュが白く艷やかに化粧した顔に似合っている。背は一六五程で胸の大きさが目立っている。
「そうだしな」
「服もお化粧もね」
「髪型もな、それにな」
広良は自分達が飲んでいる酒も見た、それもだった。
「カクテルなんてな」
「これも西洋のものだから」
「ああ、モスコミュールにな」
広良が飲んでいるのはこれだった。
「それにマティーニな」
「私が飲んでいるのもね」
「中国のじゃないな」
「完全にね」
「この店は本当に中国じゃないな」
「西洋ね」
「ああ、西洋でな」
そしてとだ、広良はさらに言った。
「上海だな」
「あら、そう言うの」
「ああ、中国なのに西洋でな」
「それが上海なのね」
「ここはな」
まさにというのだ。
「そんな場所だろ」
「そうね、言われてみれば」
「他の街に行ったこともあるさ」
旅行でだ。
「広東とか武漢とかな」
「北京には?」
「あそこも行ったさ、けれどな」
「何処も上海とは違うわね」
「村にもな、村も今はかなり違うさ」
よく中国を知らない人種主義者だの彼等を煽る悪質な売文家が色々と言うその農村にしてもというのだ。
「公司があったりしてな」
「どの家にもカラーテレビがあるっていうのね」
「そうさ、今はな」
今の中国はというのだ。
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