狸囃子
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第四章
太鼓や拍子木、琴の音だった。香枝はその音を聴いて言った。
「これってまさか」
「何、これ」
「この公園ってそうした場所だったの」
娘に応えずにだ、母はまずはこう言った。
「そうだったのね」
「あの、どうしたの?」
「奈々ちゃんも聴こえる?」
ここで娘に顔を向けて問うた。
「この音楽が」
「ええと、公園から?」
「聴こえるのね」
「何、この音楽」
「狸囃子よ」
それだとだ、香枝は奈々に答えた。
「それよ」
「何、それ」
「狸が林の中で演奏しているのよ」
「楽器をなの」
「そうなの」
「ええと、狸は」
狸と聞いてだ、奈々も言った。
「確か」
「そう、化かすっていうでしょ」
「それ童話だけじゃないの」
「これが実際になのよ」
「化かすの」
「そうなの」
実際にとだ、香枝は奈々に話した。
「これがね」
「そうだったの」
「狐もそうよ」
狸だけでなく、というのだ。
「実際に人を化かしたりするのよ」
「本当になのね」
「試しにあの中に入ってみるわよ」
公園の木々の中にというのだ。
「誰もいないから」
「そうなの」
「ええ、じゃあ公園の中に入って」
実際にというのだ。
「林を見てみるわね」
「それじゃあ」
奈々は母の言葉に頷いてだ、その母に手を引かれて公園の中に入った。そして林のその中を見てみるとだった。
誰もいない、しかし今も音楽は聴こえる。奈々はこのことを目でも見て言った。
「本当に」
「誰もいないでしょ」
「けれど音楽だけ聴こえていて」
「そうでしょ、これがなのよ」
「狸囃子なのね」
「そうなのよ」
「こんなの本当にあるのね」
奈々は誰もいない公園の中の林を見つつ言った、見ればそんなに広くはなく茂ってもいない。だが音楽は確かに聴こえている。
「嘘みたい」
「けれど嘘じゃないわ」
「音楽は聴こえてるから」
「嘘じゃないのは確かよ」
「そうね、それに」
ここでだ、奈々はこうも言った。
「いい音楽ね」
「あら、そう思うの」
「ええと、日本の昔の楽器をなの」
「演奏してるのよ」
「不思議な、奇麗な演奏ね」
これが奈々の感想だった。
「一度聴いたら忘れらない位の」
「あら、和楽器気に入ったの」
「何か」
「これはまた」
香枝は娘のその言葉を聞いて目を瞬かせた、そうしてこう言った。
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