狸囃子
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第一章
狸囃子
喜多村奈々は大阪市東淀川区の小学校に通っている、学年は四年生で目は大きく黒髪を首を覆う長さにしている。切り揃えてはおらず無造作な感じだ。眉は細く黒目がちの目は大きい。小柄で身体つきは実に小学生らしい。成績はそこそこであり趣味は音楽鑑賞だが。
最近ニコニコ動画で音楽を聴くことを楽しんでいる、そのことをクラスで友人達に話すとこんなことを言われた。
「じゃあ自分で作曲したら?」
「音楽好きなら」
「ものの試しでね」
「そうしてみたら?」
「えっ、作曲って」
そう言われるとだ、奈々は驚いて言った。
「作詞もよね」
「そうそう、ニコニコでやってる人いるじゃない」
「中学生の人とかで」
「奈々ちゃんもやってみたら?」
「ものの試しで」
「いや、私なんか」
とてもという口調で言うのだった。
「とてもね」
「いやいや、だからよ」
「そこはものの試しでよ」
「どっちにしてもハンドルネームでしょ」
「本名出さないじゃない」
「じゃあいいじゃない」
「ものの試しでやってみたら?」
友人達は奈々の背中を言葉で押した、とはいっても子供なので特に深く考えず励ましている程度のことである。
「まずはやってみる」
「度胸でね」
「小学生でもね」
「やってみたら?」
「ううん、そこまで言うのなら」
それならとだ、奈々もだった。
まずは自分が色々な歌を歌ってニコニコに投稿することからはじめた、すると子供だが歌が上手いと書き込まれる様になった。
嫌な書き込みもあった、だがそれは親に言われた。
「そういうのは悪口だから」
「気にしないの?」
「お母さんもニコニコ観るけれど」
母の香枝はこう娘に言った、見れば奈々は母親そっくりである。そのまま幼くなったかの様な外見をしてりう。
「そうした書き込みはね」
「気にしないことなの」
「そう、いいっていう書き込みが多いわね」
「今はね」
「じゃあそのままいきなさい」
「歌っていっていいのね」
「ええ、ただ作詞作曲って」
これはとだ、母は娘に腕を組んで言った。
「小学四年生でっていうのは」
「早い?」
「随分思い切ってるわね」
こう言うのだった。
「やれるの?」
「やってみるわ」
「そう言うのならね」
それならとだ、母は奈々がまだ子供なので自分が監督する、これはネット全体においてそうしているがそのうえで許した。こうして奈々は作詞作曲をしてニコニコ動画で発表することになった。だがいざとなるとだった。
どうした歌詞、曲がいいのかだ。全く思い浮かばずにだ。母に言った。
「具体的にどんな曲なの?」
「それはね」
「それは?」
「奈々ちゃん自身がよ」
他ならぬ彼女がというのだ。
「考えるものよ」
「私が」
「そう、最初は真似でもいいの」
香枝はこう言った。
「最初はね」
「最初はなのね」
「そしてそこからね」
「私自身のなの」
「作詞作曲をしていくの」
「そうしていくのね」
「真似ても盗作、そのまま丸写しは駄目よ」
このことは注意した。
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