剣士さんとドラクエⅧ
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113話 冒険
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「おぉ、剣士だ」
「何を今更!」
普段からは考えられないほどみんな早く寝て、たっぷり睡眠を摂ったから、体はもうすっかり元気で、気分はすっきり爽快とはいかないけどコンディションはばっちり。そんな中、微かに普段と比べて、表情の暗いトウカはいつもの大剣を背負おうと手にしたまま固まっていた。というか、固まらせられていた。僕らにわらわら囲まれてびっくりしたみたいだ。
だってその服装が、格好があんまりにもかっこ良くて。誰がどう見てもトロデーン屈指の剣士、トウカだって分かりそうだし。……まぁ僕、トロデーンの民だからほかの地域での名前の知られ方なんて知らないけどさ。
なによりその服はトウカによく似合っているんだよ。黒い布地に銀ボタン、言ってしまえばそれだけだけど、紺色の糸で細かい刺繍がされているのも、胸元に小さく、よくよく目を凝らせばモノトリアの紋章があるのも、胸元に真っ黒の革で出来た、これまた細かい意匠のある胸当てをつけているのも、全部。
普段つけている手袋もこの服に合わせられていたんだろうな。首の太いチョーカーもあつらえられていたんだろうな。脳裏に浮かぶトウカの父君と母君に敬礼する。貴方方のセンスは最高です。親友がこんなに輝いているんですから。
……なんとなく、脱色したトウカならもっと似合うだろうなと思うけど。銀髪に紫の瞳の姿ならさ、引き立つよね、トウカの中性的な顔が。
それにしてもトウカとククール、並んでいると圧巻だ。赤く派手で目立つ騎士と落ち着いた色合いの剣士。二人だけ別世界じゃない?
僕?いやいや僕と比べちゃ駄目だから。あまり普段気を使ってないけどトウカは養子だろうとなんであろうと大貴族の嫡子、ククールは聖堂騎士団員。僕はただの近衛兵だ。キラキラした雰囲気がそもそもないよ、一緒にするのは違うでしょ。
「トウカ、本当にそれ似合ってるわよ。ずっと着てたらいいのに」
「目立つんだけど……」
「ならエルトもこういう雰囲気の服を着たらいいのよ。そしたらトロデーン組でお揃いじゃないの」
「僕っ?!」
いやいやいや、待って待って。僕、身元もわからない庶民だから。だいたいそもそもトウカは剣士として振舞ってきたからそれでいいけど僕は槍士とか兵士としてじゃなくて旅人として振舞ってきたからね?積み上げてきたものがめちゃくちゃになるよ?情報収集も混乱するじゃないか!
「エルトって昔から思ってたけどイケメンだよね。ククールとタイプが違うから……なんだか甲冑とか細身の鎧とかが似合うだろうね」
「僕に着せる方向に行くのはやめて……」
「おいおい、見繕っとくね!」
そういや注目の的になることも多かった割にはトウカ、目立つのはそんなに好きじゃなかったよね。なんだか仕返しされてる気分だ……。
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・・
・・・
・・・・
「レティスねぇ……」
「神の鳥だね。あまり本気にもしてなかった神話の本に出てきた覚えがあるけど……」
「その本ってどこに?」
「屋敷。あー、無駄だと思うよ。トロデーンに行ったとき言ってなかったけどかろうじて私の部屋に窓から侵入できるぐらいであの屋敷、城ほどまともな形残ってないから……天井も裂けてたし、図書室なんて入れないよ」
「そっか……」
グラッドさんからの情報は、全くもって手がかりを失った私たちにはありがたい。でもさ、そういう伝説の存在に力を借りるってもどこにいるのさ?その伝説の存在がそこまで有名じゃないってことは、いたとしても会うのが難しい所にいるってことじゃないの?
ま、幸いにもルーラやキメラの翼、風の帽子はあっても飛行機なんてないからね。未開の土地も未到達の地もたくさんあるから……いないと言い切れはしないけどさ。魔物や鳥の翼、虫の羽。あぁいうものでしか滞空していられないしね。ルーラとか一瞬浮き上がったと思ったら目も開いていれないほどの強風に晒され、気づいたら目的地だよ。ゴーグルしたら少しは見えるかな……。
「かと言ってそのレティスを探さずに黒犬を追える訳じゃないしな」
「人間に翼はないものね」
「ということは上手いこと行けばあっしたちは空を飛ぶってことでがすか?」
「そうなるね!」
見つからない、見つかりそうにない、現実的じゃない。そんな言葉よりヤンガスの前向きでワクワクする言葉の方が余程いい。やったぁ!と手を取り合って喜んでいたらなんだか生暖かい視線を感じるんだけど!
君たちは大空を飛んでみたくないの?
「……うん、二人が少年のような心を持ってるなって思ってね」
「子供っぽいって?」
「いや、違うよ。魔法があるのに、七賢者がいたのに神の鳥がいないわけないって思いなおせてさ」
エルトの表情が柔らかくなって、見慣れた笑みに変わる。そして私と一緒にトロデーンを駆け回ってのびのびと過ごしていた頃みたいなキラキラした目をしてこう、のたまった。
「地図にはあるけど一切行けない大きな島、あるじゃないか。周りを切り立った崖に囲まれたところ。あそこにどうにかしていけないか調べよう。高台で行きようもないところは世界中に沢山あるけどそんなの調べてられないからね」
「……ここ?」
地図を出して広げてみればエルトは頷く。
「船で行こう、いろんなところを探すつもりでさ。案外見慣れたところの裏側にはなにかあるかもしれないよね?」
「……昔から橋の下に洞窟があるんだって父上に言われてきたけどまさか」
「情報がないなら出るまで冒険!」
「ねぇあと七賢者一人しか生き残ってないんだけど!」
「それが誰かわからないじゃないか……」
えっと。七賢者って聞いたその瞬間からひとりは確実に分かってたんだけど、エルトは分からなかった?え、何みんなそこには同意してるのさ。賢者だよ?存命の中で最も賢者にふさわしい人物が分からない?
……そんなに喜んで行ってなかったけど、各地の聖地にモノトリア長子として訪問してたのは良かったみたいだね。
「最後の賢者は法王様だよ。サヴェッラ大聖堂にいらっしゃるお方」
「僕、宗教に疎くてさ」
「あっしも教会に行くと背中が痒くなるでがす……」
「あたしもそんなに熱心じゃないのよ」
「……ククール、君だけが頼りだよ……」
私のすがるような眼差しにククールはうっとたじろぐ。そういえば加入してすぐのころはゼシカに生臭坊主とか言われてなかったっけ。というか、修道院を抜け出してドニの町でポーカーしてたもんなぁ……マルチェロとはいろいろあったみたいだし、あまり真面目じゃなかったとしてもあまり責められない、か。
「おいおいトウカ。目を逸らさなくても俺はこれでも聖堂騎士団員、法王様ぐらい知ってて当然だろ?」
「だよね!」
良かった!ククールがなんかキザったらしく喋ってるけど、そこはいいや!
「法王様の警備はバッチリのはず。レオパルドが行動したらどうなるかはわからないけど。一応他に候補になりそうな人物もいないし、頭に置いておいて欲しい」
「うん、法王様ね」
大丈夫かな?私も神様の存在は信じていても信仰して敬い崇めてるわけじゃないけど……なんか、興味のなさに不安だよ!
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