非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜
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第38話『イベント』
前書き
映画観て感動したり、曲聴いて感激したりしてたこの頃。
何かもう・・・凄い(呆然)
異世界に来て、1日が明けた。
寝ることによって来た世界で寝るという不思議な体験だったが、起きた時に目の前に見えたのが見慣れた自分の部屋ではなく、隣に少女が寝ている木造の部屋だったということが、その不思議さを一層掻き立てる。
つまるところ、この異世界ではホントに3日過ごさなければならない。
「思ったより長いよな、3日って」
晴登は伸びをしながらポツリと呟く。
その際隣の少女が横目に見えたのだが・・・
「ユヅキって…女の子だったんだよな」
昨日の出来事を思い返すと、そういう結論に至る。
無論、思い出しただけで恥ずかしくなった。
「今、何時だろ?」
気分を変えるつもりで周りを見渡すも、時刻を知らせる時計はない。それは昨日の内にわかっていた。
窓に近付きカーテンを開けると、眩しい光が目に入る──と思っていた。
見えた景色は曇り空。それとなく不穏な気配がする。
「2日目からもうイベントって…もうちょっと楽しませてくれてもいいんじゃないの?」
誰に伝える訳でもなく、ただただため息をつく晴登。
こういう怪しい天気で、しかも異世界ならば、イベントが起こるというのはもはや摂理。だが、どうせならもう1日くらい楽しみたかったというものだ。
ちなみに、1日目の不良騒動はイベントには入らない。なんか呆気なかったから。
「さて、と。何をしようか」
だが、イベントがなくては正直やることがないのも事実。ここでは学校に行く必要もなく、宿題をやる必要もない。本当に暇なのだ。
「とりあえずユヅキを起こして・・・いや、その前に朝食を…?」
部屋の真ん中、布団の上に乱れることなく綺麗に寝ているユヅキ。彼女を見て思い出すのは、やはり昨日の出来事。今から起こしたとして、まともに会話できる自信がまずなかった。
ならば、朝食の場を既に設けることで会話のチャンスを増やす方が賢い。
「よし、やるか!」
自分の力を発揮する場面の到来に、晴登は意気込んだ。
しかし、現実世界とは訳の違うこの異世界で、そんな場面は存在しなかった。
「この食材、何…?」
台所の食料庫。そこには見たこともない食料が揃っていた。赤くて歪な形状の実や、黒々とした細長い植物。現実世界と比較すると、それはもう“異常”と言わざるを得ない。
といっても、味に関しては問題ないということは、昨日の夕食で確認済みである。
だがしかし、いざ自分が料理するとなると話が変わってくる。
触ったこともない食材に、果たして立ち向かえるのか?
「ハルト、何やってんの?」
突然の背後からの声に肩をビクつかせる。振り向くと、至近距離にユヅキが立っており、またもビビる。
「うわぉユヅキ…お、おはよう…」
差し障りのない挨拶で、まずは気まずい雰囲気に入るのを阻止。
すると彼女は目を擦りながら、
「あ、うん、おはよ……ふぁぁ」
最後に可愛らしい欠伸を残して、弱々しい挨拶を返す。普段の半分も開いていない目は、まだ眠いという気持ちを隠しきれていない。
そして彼女は目一杯に伸びをした後、
「んんー!・・・おはよ、ハルト!」
「え、何で2回!?」
今度は元気に2度目の挨拶をするユヅキに、堪らずツッコみ。
ユヅキはその反応が予想通りだったらしく、ニッコリと笑った。
気にすることはない。
晴登は心の中でそう思った。
自然と表情には安堵が洩れ、彼女もまた笑顔を溢している。
心配なんて杞憂だった。
こうしてユヅキが、笑ってくれるのだから。
「あれ、ハルト。もしかして、朝ごはん作ってくれようとしてたり?」
「え、あぁ…うん」
ユヅキが状況を見て判断したのか、訝しげに訊いてきたのを、一応肯定で返す。決して悪いことではないのだから、隠す必要はないだろう。
だが、あくまで“一応”。作り出すまでは、もう少し時間を要しただろう。
ユヅキは、晴登のそんな気持ちを知ってか否か、
「じゃあ一緒に作ろ! いいよね?」
まさに妥協案といった提案が出される。
もちろん、その提案は願ったり叶ったりだ。断る理由はない。
「うん、いいよ」
晴登は快く、提案を承諾した。
*
「ハルトって、料理が上手なんだね」
「ユヅキも上手だと思うよ?」
「いやいや、ハルトの方こそ」
朝食を食べ終わり、2人で食器を洗い終わると、突然謎の褒めちぎり合いが起こる。褒められるのは慣れてないから、とても照れくさい。
「そうだ、この後はラグナさんの時計屋に?」
「まだ早いけど・・・そうだね。もう行っちゃおうか!」
「あ、いや、早いなら別に──」
遠慮しようとした瞬間、手を引かれて身体が急に前のめりになる……って、またこのパターンか。この姿勢って何かと疲れるんだよなぁ〜。
*
家を出て、道を駆け、森を抜けると、関所に着いた。
「…すっごい端折ったな!」
「何言ってんの…? それより早く早く!」
「あ、うん」
関所を抜けると、目の前に広がるのは昨日の光景。
大通りは人々でごった返し、相変わらず歩くのが困難そうだった。
「こんな朝から人がいるんだ…」
驚きの意味を込めて一言。
時計がないから正確な時間はわからないが、まだ感覚的には朝っぱらだと思う。なのに、こうして昼間と変わりない光景を見ると、ここが王都なんだと改めて実感した。
元の世界でも、ここまで人がいるのは都会くらいだろう。
「おっと…早く行かないと」
ユヅキの手から解放されて自由になったからか、ついボーッとしてしまう己に喝。
目的地がどこかはわかっているが、まだ場所を明確に把握していない。だから、まだユヅキを目視できる内についていく必要がある。
向かってくる人の壁を避けながら、晴登はユヅキの後を追った。
するとすぐに、見たことのある建物の目の前に着いた。
ユヅキが何の躊躇いもなく入っていくのを見て、真似するように入る。
狭い室内の奥、ラグナはレジ台に頬杖をついて──寝ていた。
「また……」
ユヅキがポツリと呟いて、肩を竦めてレジまで歩いていく。
さて、この後の展開が何となく予想できてしまった。予め準備をすることにしよう。晴登は静かに耳を塞いだ。
「ラグナさーーん!!!!」
だが早朝からのこの大声でさえ、王都の賑わいには敵わなかった。
*
「あぁくそっ、耳が痛ぇ。いっつも言ってるだろ、もうちょい優しく起こせって」
「寝てる方が悪いっていうのも、いつも言ってますけど」
ラグナがユヅキを睨みつけながら、彼女の行動に対して不満を口にするも、正論によって一蹴される。お陰でムスッとした表情をせざるを得ないラグナだったが、ユヅキの隣に立つ晴登を見た瞬間に表情が変わった。
「お、ハルトじゃねぇか。今日はよろしくな」
「え!? あ、はい、よろしくお願いします!」
ラグナの表情の一転に多少戸惑い、慌てて返答をしてしまう。
それでもラグナは気にせず、先程の不満を忘れているかのように清々しい笑顔を見せた。
「んじゃ、ちっと早いけど準備すっか。どうせ客来ないけど」
「そんな不吉なこと言わないで下さい!」
ラグナが仕掛けた意地悪に、ユヅキがまんまと引っ掛かる。そろそろ、恒例となるのではなかろうか。
ラグナは愉快そうに笑うと、ようやく腰を上げた。
「じゃあ、ユヅキはいつも通りの仕事をハルトに教えてくれ。ハルトはそれに従ってくれたらいい」
「「わかりました……ん?」」
晴登とユヅキの返事がシンクロし、互いに顔を見合わす。
それを見たラグナは更に笑いの調子を上げ、
「はっはっは! 仲が良いこったな!」
豪快に一言。
なんだか少し照れ臭いが、別に悪いことでもないので素直に受け取っておく。ユヅキもまた同じ考えのようで、笑みを浮かべていた。
「それじゃあハルト、行こうか」
「うん」
ユヅキはその表情のまま晴登に一声かけると、店の奥へと入っていく。それに晴登も笑顔で応えると、彼女の後へついて行った。
*
「何だろう、これを眺めてると懐かしい気分になる」
「時計のこと? おかしな反応だね、ハルト」
腕で抱えられる程の大きさの時計を見て、ふと思ったことを呟く。それは時計の見た目についてだ。
現実離れ・・・とまでは言わないが、日本離れしている光景が続くこの異世界の中、目の前の時計やその周りの時計を見ていると、やけに懐かしさを覚える。
止まることなく動き続ける秒針に、時々動きを見せる長針と短針。それらを眺めていると、ふと元の世界を偲ぶのだ。
1日いなかっただけで寂しく感じる。いわゆる、修学旅行中のホームシックだ。そんな経験ないけども。
「どうしたの? そんな悩むような顔して」
「うわぉ!」
急に晴登と時計の間に入り込んで、顔を覗いてくるユヅキ。その不意討ちに驚き、足がもつれて尻餅をついた。
「うわ、ごめん! 大丈夫?」
「いやいや、こっちこそ驚いてごめん。……ちょっと、故郷を思い出して」
「故郷?」
ハルトがポツリと洩らした単語にユヅキが反応する。
晴登はその反応を見ると、言っていいものかと一瞬迷ったが、続きを話した。
「別に隠すこともないから話すけど…俺は遠い所からきた人間なんだ」
「遠いって、どのくらい?」
「あーそれはわかんないけど…」
思い切ったカミングアウトをしてみるも、ユヅキの質問にあっさり撃沈。
簡単な話、この世界の知識については出発前に部長から聞いた限りであり、それ以上のものは持ち合わせていないのだ。
一頻り唸ってみて、出た答えはただ一つ。
「この世界には俺は存在しない…ってぐらい?」
「何それ、よくわかんない。現にハルトは目の前にいるのに」
「だよね…」
少し哲学っぽい答えを出すと、ユヅキは意味がわからず膨れっ面。
だが決して嘘ではない。この世界が地球の中にあるのなら話は別だが、“異世界”という名を地球人から付けられているならば、その名の通り異世界なのだろう。
ここは恐らく、地球ではない。
「ちなみにユヅキの出身はどこ?」
「え、ボク?」
自分の身の上話をしたら、相手のも聞きたくなるのが人間だ。
昨日のラグナの話だと、普通の人生を送ってはいないだろうと判断できるから、なお気になる。
・・・う〜ん、この理由だと少し不謹慎だな。
「気になるから聞かせてよ」
「そうだな~」
自然な建前を使って探ると、ユヅキは首をかしげながら考える。どうやら話してはくれそうだ。
「…ボクも遠い所で生まれたかな。この王都から見て、だけど。でも、そこで少しいざこざがあってね。ボクは流れでこの街に辿り着いたんだ」
「で、お金とか全く無くて、流れでラグナさんの世話に」
「そんなとこ。ここで働いてお金が貯まった頃に、今住んでる家に住み始めたんだよ」
「へぇ~」
思ったよりスムーズに、ユヅキは身の上話を語った。晴登は相槌を打ちながら、それを聞いていく。
しかし、今ですら幼いユヅキが、さらにその昔に1人で王都に辿り着くなんて、余程のことじゃないのか? まさか・・・
「少し訊きにくいんだけど、その…親は?」
「え? あぁ、気にしなくていいよ。ボクが勝手に一人暮らししてるだけだから。親はまだ健在だよ」
「あ、そうなの!? そうか…」
自分の持っていた解釈と違う答えを返され、晴登はしばし困惑。頭を掻きながら、次の質問を考える。
と、ユヅキが先に口を開いた。
「晴登ばっかり質問はズルいよ。ボクも気になることは色々有るんだから」
「あぁ…じゃあどうぞ」
ユヅキがまたも膨れっ面をするので、ここは素直に引き下がる。
すると彼女はコホンと咳払いをし、質問をぶつけてきた。
「ハルトは魔法が使えるよね? あれは何で?」
「何で? 何でって・・・教えられたから?」
「誰に?」
「部長からかな」
「ブチョウ?」
「…あ」
次々と繰り出される質問に続々と答えていると、つい異世界では通じない発言をしてしまう。
どう取り繕うか考えると、別に必要はないという結論に至った。
「う~ん、まぁ師匠みたいなもんかな」
「へぇ~。じゃあその人もボクらの歳の頃には魔法を使えてたのかな?」
「え? あ~どうだろ」
「ふーん」
意外や意外、部長に興味を持つユヅキ。
晴登はその事実に驚きを感じるも、それほど彼女は魔法を幼くして使えることに驚いているとわかれば、自然と納得がいった。
「おーい、時計の整備はどうだ?」
「あ、ラグナさん」
ふと、晴登らの輪にラグナが乱入する。
彼は店番を一旦離れ、店の奥の部屋であるこの時計の保管部屋での晴登らの様子を確認しに来たようだった。
「店番してなくていいんですか?」
「だって客が来ねぇんじゃ意味ねぇだろ。ま、いつも通りだけどよ」
「そうですか…」
晴登が問い掛けると、ラグナは首を振って返した。
その答えを聞いたユヅキは、シュンと寂しそうな表情になる。この感じだと、給料よりも店の繁盛自体がユヅキの望みだろう。
やっぱ呼び込みをしようか。その考えが頭に浮かんだ瞬間、
「すいませーん」
「「!!」」
「おっと・・・いらっしゃい!」
店の扉に付いているベルが鳴った。
ラグナは急いで店内に戻りながら、大きな声で挨拶する。晴登とユヅキも、奥からこっそり店内を覗き見た。
「お客さん…だよね?」
「そうみたいだね」
2人の間に小声のやり取りが起こる。
目の前、ラグナが普段の顔に似合わない営業スマイルを貼り付けて、接客している様子が見えた。
「今日はどのようなご用件で?」
「時計の修理を頼みたいです。無理そうでしたら、新しいのを買いますが」
お客さんは凛々しい男性だった。一言でいえばイケメンである。しかも、優しそうな雰囲気をしていた。
「時計は持ち合わせてますか?」
「はい。これです」
一瞬、ラグナの顔が強張る。
男性が出したのは腕時計だった。これもまた、晴登の持つイメージそのまま。針がどれ一つ動いていなかったのが、唯一の違いだろう。
ラグナの店では、柱時計や掛け時計しか見ていないので、この世界に腕時計がないのではと密かに思い込んでいたのだが、そうではなかったようだ。
うーん、腕時計の修理は細かくて難しそうだから、大変そうだな。
……と、そこまで疑問が浮かんだ所で、あることに気がつく。
「ねぇユヅキ、この店ってあんな時計置いてないよね?」
「うん、取り扱ってないよ」
ユヅキは“腕時計の修理”ということに、全く違和感を持っていない様子だ。
しかしこのままではマズいんじゃなかろうか。店に腕時計がないということはつまり、ラグナは腕時計を取り扱ったことがないと考えられる。
そうか、だから顔が強張って──
「わかりました。では、まずは修理をやってみます」
「お願いします」
「!!」
ラグナは修理をすると言い切った。
自信満々…とまでは言わないが、少なからず自信の含まれた言い方である。
「明後日までに直しますので──」
「その日にまたここに、ですか。わかりました」
ラグナは尚も営業スマイルを崩さない。
きっと大丈夫なんだ、直し方を知っているんだと考えてみるも、彼の頬を伝う汗がそれの証明を阻む。
チラリとユヅキを見ても、彼女は特に何の反応もしていない。疑問に思わないのだろうか。
「それではまたのお越しを」
「はい。修理お願いします」
そうこうしている内に、客は外に出ていった。
晴登はすぐさまラグナに駆け寄る。
「ラグナさん!」
「お、どうしたハルト?」
「修理、ホントにできるんですか?」
「……っ!」
またもラグナの顔が強張る。
スマイルは見事に崩れ、焦った様子を見せた。
「あ!? 楽勝だよ楽勝! いっつも時計触ってんだし? できねぇ訳ねぇだろ?!」
「でもこの店、この時計は扱ってないですよね?」
「う……」
痛いところを突かれた、というようにラグナは表情を歪ませる。
そしてもう言い逃れをできないと悟ったらしく、大人しく口を開いた。
「…何でわかった?」
「だってラグナさん、すごく顔に出てましたよ。見当くらいつきます」
「…正直なところ修理はできねぇってのが答えだが、客の頼みとありゃ、是が非でもやらなきゃいけねぇのが職人よ。──ってことで、手伝ってくれねぇか? 2人とも」
「もちろんです」
ラグナが諦めたように応援を頼む。晴登はそれに快く応じた。
ただ、次に後ろで頭を抱えているユヅキをどうにかしなければいけない。
「ユヅキ。そういうことだけど、どうする?」
「う、うん…。でも、ラグナさんが直せない時計が有るなんて・・・」
「はっはっは。こりゃ随分と過大評価されちまったな。俺はただのしがない時計屋、直せない時計の1つや2つくらいあるに決まってんだろ?」
先程まで何の理解も持ってなかったため、事態の急展開にユヅキは頭が追いついていないようだった。
少しの間、「あ…」だとか「えっと…」とか口から洩らしながら、困ったように悩んでいる。
しかし最後の「よし」をキッカケに、彼女は真面目な表情になった。
「わかったよラグナさん。ボクもやる!」
その言葉に、晴登もラグナも笑みを浮かべる。
こうして異世界初のイベント、『仲間と協力し、時計を直せ!』が始まったのだった。
後書き
タイトルを見て、今回から何か始まると思った画面の向こうのアナタ。残念ながら、大した事は何も始まりません。
いや、アレです。まだストーリー思考中です(泣)
今回は…ただの話稼ぎです。
そして異世界編の大イベントを、この後にぶち込めたらと。
期待をしてほしいですが、あまりし過ぎると興ざめするのでご注意を。
では、また次回!
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