NARUTO日向ネジ短篇
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【手負いのバースデー】
前書き
誕生日のお話。
「ネジ兄さん」
6月下旬の梅雨時期の最中、日向邸でヒナタは従兄を呼び止めた。
「あの…、7月の上旬って、何か予定入ってたりします?」
「───任務の予定があるくらいでしょうか」
「そう、ですか……」
「どうかしましたか?」
「い、いえ、何でもないんです」
「そうですか。…では、失礼します」
「───姉さま、どうだった?」
従兄が去った後に、妹のハナビがヒナタの元にやってきた。
「う~ん…、やっぱり任務の予定が入っちゃってるみたい」
「もう、火影も少しは気を使ってくれたらどうなのよ! 誕生日の日が近かったら任務入れないとかさっ」
「しょうがないよ、兄さんは上忍だもの…」
「まぁ日にちがズレちゃっても、お祝いしてあげるのは変わらないけど。姉さまは、何するつもり? 去年確か、湯飲みあげてたよね」
「うん、そうだよ。───ハナビは、手作りケーキの中に入れちゃってたね、汁無しのニシン蕎麦」
「そうそう、兄さま何でかしかめっ面してたけど、全部食べてくれたよね! 今年も作ってあげよっかな~?」
ハナビにしてみれば、よかれと思った上で悪気はなかったらしい。
「今回は私と一緒に、ミサンガ編んでみない?」
「…え、何それ??」
「意味合いのある色の糸を、願いを込めながら編んでいって、それを手首や足に付けてそれがいつか自然に編み目が切れた時に、願い事が叶うそうなの。左右の手首と足、どれかに付けるにも意味があるそうだよ」
「ふ~ん、どんな?」
「利き手が恋愛、反対の手が勉強、利き足が勝利と友情、反対の足が金運なんだって」
「へぇ、何かおもしろそうだけど……それで姉さま、恋愛にするつもりっ?」
「え? ち、違うよ。私は、その…いつも任務が無事に終えられますようにって願いを込めて、利き足用のミサンガを編もうかなぁって……」
「じゃあ、わたしが利き手の方編んじゃおっかな~?」
「うん、いいんじゃない、かな」
「心配しないでよ姉さま、わたし兄さまと姉さまの仲がうまく行きますようにって願って編むから!」
「わ、私の事はいいから、ハナビはハナビの願いを込めて、ね?」
7月の始めから任務に入ったネジは、自身の誕生日に帰ってくる事はなかった。
「───2日過ぎちゃったね、姉さま」
「うん…、任務だから仕方ないよ」
「でも兄さま、上忍だからってさすがに休み少なくない? 長期任務も多いし、ちゃんと休んでるとこなんてほとんど見たことないよね。せっかく連日休み取れても、瞑想とか自主トレばっかりしてるし、姉さまとわたしの修行の相手もしてくれるしさ…ってそれは嬉しいけど」
「ネジ兄さんは、自分に厳しい人だから……」
「このままじゃ頼れる忍として火影に仕事押し付けられまくって体壊しちゃうかもよっ? いくら強い兄さまでも、疲れ溜まったままで任務中何かあったりしたら大変じゃない!」
「それは、私も心配しているの。疲れた所なんて見せようとしないから……それこそ倒れるまで働きかねないもの」
「だったら姉さま、今すぐ火影に申請しに行きましょ! しばらくの間兄さまに高ランク任務与えるの禁止して、自主トレとかもさせないようにしてもらうの! 火影命令なら、ちゃんと休んでくれるんじゃない?」
「そうだと、いいけど…」
「とりあえず火影室に行ってみよ、姉さま!」
「───おや、ちょうどいい所に来ちまったねあんた達」
ヒナタとハナビが火影室に来てみると、先客が居た。
「あ、綱手様……と、ナルト君にサクラさん、サイ君も」
「何かみんなして浮かない顔してるけど、任務失敗でもしたわけ?」
「してないよ、僕らはね。…彼も、任務自体は失敗したわけではないらしいけど」
サイだけ笑顔になって答え、言葉に引っ掛かりを感じるヒナタ。
「え? 彼って───」
「オレ達は任務の帰りだったんだけどよ、その途中で……毒受けた怪我して動けなくなってたネジを見つけたんだ」
「は?? に、兄さまが…!? 何でっ」
「ネジ兄さんは今、どうしてるの…?!」
ナルトの話から動揺を隠せないハナビとヒナタに、サクラが説明を加える。
「落ち着いて二人共。…任務から帰還際にナルトが、近くに知ってる気配がするって言い出して探ってみたら、茂みの影に倒れてる人を見つけて……それがネジさんだったの」
サクラによると、左上腕に大きく裂傷を負い、他にもあちこち傷付いており、それに伴って強毒も受けていたらしくその場でサクラが医療忍術を施したが、既に身体中に回った毒が抜ききれず、木ノ葉の里まではそう離れていなかった為、ナルトがネジを背負い急いで帰還し病院へ運び然るべき治療をシズネに頼んで、火影に報告していた所らしい。
「───え、どういうこと? 兄さま、単独任務だったのっ? 姉さま、聞いてた?」
「ううん、そこまでは……」
「今回は、どうしても優秀な白眼使いで単独行動でなけりゃならない任務だったのさ」
綱手がそう付け加えた。
「それって……ネジ兄さまじゃないといけない任務だったってこと? 分家の、上忍だからっ? 最悪、任務を失敗しても兄さまが死ねば呪印の効果が発動して白眼が使い物にならなくなるから、都合よかったんじゃないの…!?」
「その通りだろうね。彼なら、万いち生け捕りにされて白眼を抜かれるより、自害を選択するだろうから。…今回は何とか敵を撒いたはいいけど、茂みの影でそのまま動けなくなったんだろうな、毒を受けた傷を負っていたせいもあってね」
感情的になるハナビに、あくまで冷静に述べるサイに次いで再び綱手が付け加えた。
「都合が良かった、ねぇ…。まぁ、そう受け取られても否定はしないさ。とはいえ、ネジの実力を買ってる上でやってもらったんだ。それに、結果はどうあれ任務自体は失敗ではなかったようだからね…。悪いけどこれは極秘任務にあたる、これ以上は話せないよ。ネジに直接聴いても無駄だからね」
「────っ!」
「あっ、ヒナタ姉さま、わたしも兄さまの所に行く…!」
出て行く姉妹に続いてナルト、サクラ、サイも火影室を後にした。
「身体中に回った毒はほとんど取り除きましたが、毒性が強かったせいもあって三日程度は体に痺れが残ると思われますし、左上腕の深い裂傷は傷口は塞いだとはいえ、まだ無理をすると傷が開きかねないので数日間入院させますね。意識はありますから、少しくらいの面会ならOKですよ」
5人が急ぎ病院へ来ると、受付の者から待つように言われてしばらくすると、治療を終えたらしいシズネがやって来てネジの状態を説明してくれた。
「───兄さま、生きてる!?」
ハナビが真っ先に病室へ声を上げて入って行った時、ネジは身体を動かし辛そうにおもむろにベッドから上半身を起こした。
「あ、ネジ兄さん、無理に身体起こさなくていいから…!」
「ヒナタ様、ハナビ様まで……。大した事はないのに、わざわざ見舞いなど不要ですよ」
「つれない事言うよね君は。僕らがたまたま見付けたからいいけど、別の忍か何かに見付かってたりしたら白眼使いとはまた別の意味で、連れ去られてたんじゃないのかな」
「サイ、余計な事言わない…!」
若干意味深な発言をたしなめるサクラ。
「ネジ、これからはオマエの単独任務には影分身のオレが付いていくってばよ」
「……いきなり何を言い出すんだお前は」
ナルトに怪訝な表情を向けるネジ。
「極秘任務だか何だか知んねーけど、影分身のオレがいればいつだって守ってやれるだろ?」
「要らぬ世話だ。…ましてお前を連れて行けば確実に極秘ではなくなる」
「けどよ、1人だったからピンチになって死にかけたんだろ? 仲間と一緒に行動すんのがフツーなのによ」
「単独でなくてはならない任務だったんだ。遂行した後、数人との交戦でしくじったのは俺の不始末だ。それに……死の覚悟など、忍になる前からとうに出来ている」
「────ネジ兄、さんが……日向の呪印を受けた時から、その覚悟を持ったのは、分かっています」
俯いているヒナタの声は、微かに震えていた。
「あの事件があって、宗家に憎しみを抱いた事があっても、今はまた、私達を守ってくれている……。私は、そんなネジ兄さんを逆に守りたいのに、なかなか傍に居られなくて……悔しいんです。いつまた、サスケ君を奪還しに行った時のような重傷を負ってしまうか───私の知らない所で、どうにかなってしまうんじゃないかって考えると、怖いの」
「……そうならないよう善処はします。あなたを泣かせるのは、不本意ですから」
「その通りだよ兄さま、勝手にどうにかなったりしたら、わたしが許さないんだからねっ。……あ、兄さまおととい誕生日だったでしょ! 遅れちゃったけど、プレゼント───」
ハナビの言葉で、ナルトは妙な思い付きをした。
「お? ネジ誕生日だったんだな! よっしゃ、オレが特別に祝ってやるってばよッ! わりぃけどみんな、ベッドの周りからちょっと離れてくんねぇ? んじゃ、行くぜぇ……お色気・ハーレムの術!!」
病室内に、突如白煙と共に多数のビキニ姿の美女達が現れた。
『『ネジく~~ん、お誕生日、おっめでとぉ~~♪』』
ベッド周りを囲んで皆それぞれ挑発的なポージングと甘ったるい声音をかますが、当のネジはしかめっ面をするばかりでちっとも嬉しそうではない。
「・・・・・」
『───あ、やべ、ネジには効かねーんだっけ??』
「それなら、アレはどうだいナルト。僕も手伝うよ」
そこでサイも加わり、何かやらかそうとしだす。
『おっしゃ! 密かに修行してるやつ見せてやるってばよッ、行くぞサイ! お色気・逆ハーレムの術!!』
……先程とは逆に、ハダカ同然のイケメン達が誘い込むような手を差し伸べ現れた。その中には、ハダカになっている以外特に変化もしていない笑顔のサイが混じっている。
『『誕生日、おめでとうネジ…! ボクらと一緒に、お祝いしよう……!!』』
「わ~、なにこれ~」
「だっ、ダメだよハナビ! あなたにはまだ早いから、見ちゃダメ……?!」
慌てて妹の目元を手で隠し、自分も目のやり場に困って目をぎゅっとつむるヒナタ。
───ネジの方は、さっきよりも眉間にシワを深めている。
「アレ、おっかしいな? この術、強い奴に結構効くハズなんだけどよ。じゃあ、アレか? 女の子同士の術で、サクラちゃんとヒナタに変化───」
「今度は何やらかそうとしてんのよ、アンタはっ!!」
いったん術を解き、次の術を出そうとしたナルトをドついてやめさせるサクラ。
「……残念、出来れば僕はナルトと一緒に男の子同士の術を」
「アンタもおかしな事シレッと言ってんじゃないわよ! てゆうかそれ、術じゃなくても出来───ってそういう問題じゃないっての!?」
思わず言ってしまった事を誤魔化すように、サクラはサイのこともドついた。
……ネジはその時、起こしていた上半身をパタリとベッドに横たわらせ、顔までかけ布団を引き上げ隠してくぐもった弱々しい声を発した。
「何やら……とても疲れてしまった気がする……暫く、休む」
逆ハーレムの術で精神的ダメージを喰らったせいなのか、ネジはその後三日間、意識を戻さなかった。
ヒナタとハナビが願いを込めて編んだミサンガのプレゼントは、退院する際に遅ればせながらしっかり受け取ったのだった。
《終》
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