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ボツ小説整理してたらこんなの出てきたIS二次創作
前書き
かつての総力戦とその敗北、米軍の占領政策、ついこの間まで続いていた核抑止による冷戦とその代理戦争。そして今も世界の大半で繰り返されている内戦、民族衝突、武力紛争。
そういった無数の戦争によって合成され支えられてきた、血塗れの経済的繁栄。
それが俺達の平和の中身だ。
― 劇場版 機動警察パトレイバー2より抜粋 ―
今日もニュースには碌な話がない。ばあさんと一緒に居間で晩飯を食べながらも、茶の間の古ぼけたブラウン管テレビを眺めてそう思った。俺はブラウン管テレビこれといって不満はない。デジタルテレビは最新のゲーム機と相性の悪いものも少なくないし、多少の画質の違いくらいいちいち気にする性質でもないからだ。だがテレビから発信される情報には大いに不満がある。それは退屈でもあり、漠然とした苛立ちでもある。
男性IS操縦者のIS学園入学が正式に決定したとか、第3回モンドグロッソの開催国がどうだとか、イギリスとパキスタンの共同開発ISの特集だとか、IS登場に伴う経済成長が止まらないとか、寝ても覚めてもテレビのどこかにISの文字が躍る。世間じゃあのパワードスーツはスポーツ用だと抜かしているが、もしそうならばここまで頻繁にISの正当性を訴えるような放送を続けるだろうか?友達と話したことがあるが、きっとどこかで情報統制が行われているに違いない。
その証拠にISの登場による負の影響は特番でさえ殆ど取り上げられない。
IS登場による核軍縮は加速度的に進んだが、その分核の重要性の低下に伴い非合法的な核兵器製造はむしろ昔より容易になっている。先進国で進む軍縮の影響で兵器関連の技術者の流出も止まらない。従来兵器の管理には莫大な資金と人件費がかかったのに対してISはある程度自己修復機能があるし、コアの数が限られているためそれの管理、維持、開発に関われる人間の数が多くない。
その過程で戦車、戦闘機、戦闘ヘリ、戦艦や空母等が減らされれば少なからず開発者連中は職を失う。故に現在、世界では従来兵器をうんと高性能・コスト高にして予算を態と裂き、どうにかその人材流出を収めようと躍起になっている。
もっと酷いのは末端兵士だ。ISと少数精鋭の高性能兵器に押しやられた兵士の中でも戦闘機や戦車の操縦者は次々に専門職を失い、世論のIS抑止に押されて通常の歩兵までもが少しずつ削られている。エリート街道を歩んでいようがいまいが、自分の技術を生かせなくなった兵士は組織内でのポジションを失う。
軍縮の影響で職を失った軍人は次々に傭兵やPMCに身をやつし、それ以外は社会に適合できずにならず者になることも多い。そして手に銃を握った退役軍人たちは体力を持て余し、後進国や紛争地帯で仕事を求めて彷徨い歩く。
中東やアフリカなどの未だに戦争をしている地域には、先進国で用済みになった軍需企業が次々に雪崩れ込んで需要の低下した在庫兵器を安値でばら撒き、紛争地域では一気に戦場が現代化していった。今まで生身の人間のぶつかり合いであるが故に消極的だった戦局までもが鉄の雨に塗り替えられ、環境汚染と爆発的に増加していた兵士の血で大地は荒れ果てている。今ではかつての植民地戦争さながらにあちこちの国と先進国が手を結んで戦いを増長させ、他国と利権を争う代理戦争が平気で起こっている。
先進国は急激な軍需の低下に歯止めをかけるために野蛮な戦いを続ける後進国に物資を提供し、安値で兵器を手に入れて安値で兵士を雇える後進国は嬉々としてそれを買い漁る。一社が正規軍に武器を出せば、他の一社が内紛で正規軍と戦うもう一方に武器を売りつける。
彼等にとってはISなど、それこそ関係のないことだった。ISを管理維持する技術も余裕も無ければ、戦場に出られない兵器など必要とも思わない。何より後進国では女尊男卑論などという思想は犬も食わなかった。
戦争を抑止するための国連は、アラスカ条約締結に伴い設立されたIS委員会の誕生によってその社会的立場が一気に薄まった。根拠もないIS抑止という机上の空論を掲げた主要先進国はその力と金の入れ所をIS委員会に移し、最早後進国や内紛を起こす国には見向きもしない。ISの方が金になるからだ。国連は形骸化して、今ではIS委員会で決める必要のない問題を押し付けられるだけの存在と成り果てた。
ISの登場で海の向こうでは戦争が激化した。内紛や民族同士の対立もだ。平和になったのは先進国だけで、国は表でISを、裏では代理戦争で利権を争う。日本国憲法の第9条も「ISがあれば不要」とあっさり改正され、今では自衛隊は自衛軍へと変わっている。民意というのは俺が思っていた以上に脆く、愚かで、そして無知だった。
大きな問題でもこれなのだから、細かい問題は推して図るべし。ISは世界を一変させたが、ISを扱う人間の愚かしいメンタリティはちっとも変わっちゃいない。こんな事ばかりが、今も昔も変わらない。
現に今は女性優位だとかでセクシュアルな差別がまかり通っている現状がある。嘗ての法律が男の味方寄りだったように、今の法律は女の味方寄り。テレビに映し出される映像には女尊主義の議員が声高らかに女性が過剰に優位になる法案の説明をしている。
非難する人間はいなかった。何故なら、非難しても「男のくせに何を言っている」と鼻で笑われる土壌がここ数年で出来上がっていたからだ。飯を平らげて茶碗の上に端をぱちりと置きながら、こんな世界で生きていくのかと憂鬱な気分にさせられる。
「嫌な世の中になったねぇ」
不意にばあさんがぽつりと呟く。
「昔は男衆と違って勉強も満足に教えてもらえなくて、私だって男と同じくらいに勉強できるってよく言ってたよ。それでも男衆は徴兵があって御国のためにと戦わなくちゃならなかった。だからあたし達女が帰る場所になって……どっちも居なくなっちゃあいけなかったんだ」
「また戦時中の話かい?」
「戦後だって、さ。朝から晩まで戦争づくめで、死に物狂いで帰ってきたのに平和になっちまった日本に馴染めないあの人が職に就くまで、あたしゃ毎日励ましてやったよ。あの人の家族は空襲で逃げ遅れていなくなっちまったからね。他に助けられるのは、出兵前から友達だったあたししかいなかった」
ばあさんは既に90歳に届こうかという高齢だ。それだけ長く生きているから、時折太平洋戦争時代の話をこうして時々漏らす。自分が忘れる前に、自らの戦争経験を誰かに聞かせたかったのかもしれない。その時代を生きた人からは、さぞ今の世の中は歪に思えるだろうと茶を啜りながら思った。
「他はみんな……B-29の落っことした爆弾で防空壕ごと生き埋めになったり、どこぞの島国で斃れたりだよ。だぁれもいなくなっちまった。だから一緒に居ようって、2人で手を取り合って生きて来たんだ」
あの人とは、ばあさんの夫――つまりじいさんの事だ。十数年前に病気で他界してしまったらしく、面識はないが遺影くらいは見たことがある。年の割に、と言っては失礼だが、しっかりした印象を受ける人だった。
夫婦二人で今までの時代の流れを乗り越えて来た。
そこには男だから、女だからという考えを超越した絆があった筈だ。
「女が戦えるようになったから、何だって言うんだい。アイエスってのに乗ってメリケン兵とまた戦争でもするってのかい?本当に大変なことが起きてたら、男だ女だって言ってられなくなるんだよ」
「えばりたいのさ。ISが出てきてみんなそっちに注目したらそれが女しか動かせないってんだから、便乗してるだけだろう。本当に戦いが起きるなんて考えてないからああやって好き放題男をけなすのさ」
「えばってばかりの男は、あたしゃ好かん。やけど、えばってばかりの女はもっと好かん。テレビに出とる女子は………世の中の事、何にも分かっとらん。原爆を斬っても放射能は降るし、大空襲みたいに仰山来たら、あんなナヨナヨした子らで御国を守りきれるもんかい」
「……皆、考えてもいないんだろうな。ISがあれば何でもできるって勘違いしてるんだ」
「あたしゃ今の世の中が怖いよ。何だろうね、あの子たちを見てると真珠湾攻撃の結果をラジオの前で聞いてた皆を思い出すんだよ。皆本気でメリケンに勝てるって信じ込んでて………日を追うごとに間違ってることに気付いていっても、結局誰も言い出せなかったあの空気を……」
そう呟くばあさんの目はどこまでも寂しそうで、本当に震えているようで、微かに憤っているようでもあった。俺みたいな若い奴には決して口出しできないような言葉の重みを感じながら、俺はこの話を続けるのを止めた。
「冷蔵庫に桃が入ってたよな。ちょっと取って来るよ。ばあさんも食べるだろ?」
「え?……ええ、そうだね。あたしも食べるよ。丁度いい熟れ具合だから早く食べないと腐っちまうしね」
ばあさんが小さく何かを呟いた気がした。ありがとうか、ごめんねか。俺はそれを聞こえないふりして、自分とばあさんの分の桃を食べやすいように切って皿に盛った。
熟れ過ぎた果実は腐っていく。それはどこか、平和が過ぎてなぜ平和なのかという理由を見失った今の日本に似ている。出来の悪い果実は――いずれ刈り取られ塵箱に放り込まれ、業火に焼かれて種子ごと灰にされる。
ばあさんは古い考えの人間だ。近所の若い人からは敬遠されている。
でも、ばあさんの言っていることは真実だとも、俺は思うのだ。
本当に戦いになった時――みんなきっと、戦えない。
後書き
過去の私はこのノリでどうやって物語を盛り上げる気だったんだろうか。
ちなみにこのボツ小説には続きがあって、近所にIS研究所があるせいで町が戦禍に巻き込まれてました。
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