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とある地下の暗密組織(フォートレス)

作者:@観測者
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第2話
  ep.017  『百獣を治める猛獣使い』

叶世充重は支配区、中央タワーの前にいた。

(あいつら、まだ居ないのか?)
辺りを見回しながらメガネと青年の二人組みを探す。

居ないというのが少しおかしく感じる。あいつらのうちの片方、リーダーをしているやつの性格上遅刻はしないはずなのである。

タワーの中に目をやる。カウンターの上の時計は午前8時25分に合わさった。この時間、地上に行ってもらったメンバーはあの長すぎる階段を登っている頃だろう。脳裏でそんなことを考えながらタワー手前にある広場にある手頃なベンチに腰掛ける。

残り5分以内にあいつらは来るだろう。それまで俺はここで休ませてもらおう。




































なにやら周りの客が増えだした気がする。見るからに地下の中でも貧弱そうな小太りな連中だ。うち7割はメガネをかけている。

メガネクイ。時計を見る。時刻は8時20分。
「待たせたな。」
伝説の傭兵の一言を言う黒髪ストレートの口の悪そうなウェイトレスがゆで卵を片手に出てきた。

「ほら、とっとと食え。そして金を払って出て行け。」
とてつもなく冷たく攻撃する彼女が言いたかった言葉をもう少し優しく言い換え、彼女の言いたかった言葉に置き換えると、


「これを早く食べて、早く行け。もうあいつが待っているから。」

なのだが、今回の『fortress』が引き起こした騒動によって仕事が山積みになりとても機嫌が悪いうえに、仕事の多さから眠ることが出来ず徹夜明けだったために考えることもあまりうまくいかなかった結果なのである。





もちろん彼らはそんなことは知らない。本当に伝えたかった言葉も伝わらず、眠気とストレスで殺気立ち真っ黒なオーラを纏っている状態の彼女のセリフに圧倒された。

「り、了解した。」
メガネクイ。指が少しずれ綺麗には決まらなかった。

黒髪ストレートのウェイトレスがゆで卵を机に置く。少し割れ目があるが今そんなことを言ったら殺されかねない。

そんなウェイトレスの胸には『やだ』と丸々しい女の子な文字で書かれている。2人はチラチラとそちらに目をやるが、絶対にこの人がやった話じゃないと確信しながら心のうちで笑う。

「もう注文がないならレジに行くが、まだ何か食うのか?」
優しそうな方にさっきと眼差しがシフトした。


「いや、もうお会計です。ね、暁さん。」

「んん、あぁ。ホ〜ハハァ〜(そーだなー)。」
ゆで卵を急いで丸かじりしながら答える。




席を立ち、出口手前のレジに行く。
「会計は890円だ。」
チラッと、目で催促をしながらキャッシュトレイを指で挟んで手前にずらす。

「そんなにせかさないでくれますか?」
ついつい敬語になってしまった。彼女のあまりにも見下すような態度が年上の雰囲気を(かも)し出しているからだろう。

ポケットから折りたたまれた財布を取り出し、小銭袋の中を見る。十円玉が2つと100円玉が4つ、500円玉が2つある。それでもその小銭袋を閉じ、千円札を出す。特に深いわけはないが小銭を使うのが苦手なのだ。あと、ウェイトレスの態度に対する何かの抵抗だったのかもしれないと後になって考える。

「釣りだ。」
その一言だけをいい、百十円が渡された。

「とっとと行け。」
と一見酷いことを言っているように聞こえるが彼女の中では、
「早く言ってやれ。」
といいたかったのだ。




ツンデレのような意識した酷い言葉でなく、無自覚に口がそう翻訳しているのだ。『fortress』のメンバー程に親密になればこの現象は起きないのだが、不思議と親密でない人物には棘を通り越してやらで刺すように鋭い言葉を口が言うのだ。しかもそれを本人は全くない自覚できていないのだから不思議だ。


店を出る。もちろん「ありがとうございました。」などと言う声は一切に聞こえない。なぜあんな愛想がなく鋭く刺さる言葉しか話せない女がウェイトレスなんかをして客が来るのかがとてもおかしく、腹立たしい限りだがそんなことを深く考える間も無く服を着替えた『久安(ひさやす) (ゆい)』がいた。

「どうもありがとうございました。おそらくお店で言われなかったと思いますので、私の方から言わせていただきます。」
わざわざ丁寧なやつだ。地下の人間ではないような、地下の法則のようなものとは違う何かを感じる。
「では、行きましょうか。もうタワーのところにいらっしゃるでしょうし。」
そう言って彼女は


少し思ったことを言う。
「なあ、」
久安は「はい?」と聞き耳をたてる。続け、
「そんなに敬語ばかりで疲れないか?」
素直な質問を投げかけてみる。

それを聞いて少し驚いた顔をする久安は苦笑いで返す。
「はい、正直疲れてます。」




優しい彼女は初対面だからと言う理由で気安く話すのではなく、相手がどんな人物かわからない間は気安く気の置けないような話し方をするのではなく、相手をしっかり正面に見て対等に、丁寧に話すことでさっしようとしていたのだ。それは彼女の癖のようなものなのだが、たとえ相手がどんな人間だったとしても見捨てず救い、年齢がどれほど下でも敬うことが礼儀としている。




手を上げて彼女が尋ねる。
「すいません。敬語やめても大丈夫でしょうか。」

「あぁ。別に好きにしろ。」
メガネクイ。

その性格でもこれまで一度も敬語で疲れなかったことのない彼女は、「ありがとうございます。」と一言いい大きく深呼吸をする。

「じゃあ、よろしくね!」




タワー前。叶世がいる。ベンチに座り頭が前に45度ほど傾いていることから寝ているのだろうと分かる。
「寝てるな。」
メガネクイ。
「寝てるね。」
「寝てますね。」


そこで久安が先陣を切り、こっそりと近づく。ベンチの裏側に回り手で叶世を押そうとしたその時、
「お前ら、遅いぞ。」

タワーの時計はちょうど8時30分を指していた。


























取り敢えず叶世と助っ人である2人、地下の手伝ってくれる人物の1人目が合流できた。

合流した4人は一度『fortress本部』へと足を向け始める。その道中、地上に住む助っ人2人は地下に住みたいかと言う話題が出る。
「2人は地下に住んでみたいとは思わないの?」

「俺は、地下は無理かもな。」
反発的にふと口からこぼれた。久安と名乗ったウェイトレスも頭の上に『?』マークが。

一度こぼれた言葉に更に具体的な肉付けを、なにが言いたかったのかをより正確に。
「地下はあれだろ。犯罪者のような奴らがそこら中にいるんだろ?

悪人の巣窟みたいなそんな場所に住む気にはならん。」
メガネクイ。

「僕も地下は無理かもです。第一、学校とかもありますし登校とかを考えたら少し厳しいです。」

会話に入っていなかった叶世までも一言加える。
「特に支配区は犯罪件数が最大で、管理人の矢田や『|fortress<こちら側>』も迷惑している。腐敗区よりも犯罪が多いというのはこの区に住んでいる人間に犯罪というものをしっかりと分かった上でしている旧地下の考えが根強く残っているからだろうな。」

久安が独り言のように、小さく空気に溶かすように吐く。
「そんな。みんな支配区の人は悪いっていうけど、 それじゃあ私も悪い人になっちゃうよ」

地下の現状を理解している彼女は人間の綺麗な部分を尊重したいのだ。その部分を大切にしたいのだ。だから言った。だが、実際悪い部分が目立っている以上、彼女は大きな声で「違う!」と言えなかった。




旧地下民、三年前の時間よりも前にこの地下を取り仕切っていた人物らの総称である。

まあその話は、今はまだ詳しくはいいだろう。


「久安、お前にはなにも罪はない。犯罪をしているのはそいつらのせいだ。お前にはなにも関係ない、安心しろ。」

久安は聞かれていたことに対しての反応はせず、というよりどうせ聞かれていたと確信さえして叶世の言葉を返す。
「分かってる。『fortress』の人たちにはお店を守ってくれてもいますし別に私が悪くないなんて分かってます。」

でも、と。それでもと、考えてしまう。

自分が旧地下民の子だということを、それでも人の綺麗なところを守りたい。彼女の優しさはたとえ悪人であっても向けられる。だからこそ、このような事に彼女は考えなければならない。それは彼女自身が選んで来た道であり結果なのだ。死んだ目を持つ叶世と言えど心までは死んでいない。彼女の苦悩を理解した上で、彼女自身で乗り越えるように見守るのが叶世の持つ優しさなのだ。

「叶世さーん。叶世リーダー。」
と、後ろから聞いたことのある声が聞こえる。 
 

 
後書き
if:dE-ViLの方も第2話を着々と書き進めているのですが、やはり出来上がったら公開しましょうか?

読まれていない方もいらっしゃると思いますし。ただ第1話なのですが、まだ『if』の要素も『dE-ViL』の要素も出て来ていないので、一体第何話で出る事になるのか少し不安だったりします。 
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