STARDUST∮FLAMEHAZE
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第三部 ZODIAC CRUSADERS
CHAPTER#13
決意の誓戦 “運命” VS 『運命』Ⅱ ~Destiny C/D~
【1】
「中の人、生きてますよね?」
路面に裏返り完全にスクラップと化したスタンドの車体を、
吉田は恐る恐る指でつついた。
塗装の剥がれ落ちたドアの表面は微妙に熱を持ち、
もしかしたら爆発するのではという懸念を想わせる。
「完全に壊れ(し)ちゃいましたけど、
スタンド自体が消滅してないから大丈夫ですね。
病院には自分で行ってもらいましょう。
ね? ライトちゃん」
問いかける主に、従者が恭 しく頷 く。
「さて、それじゃあ隠れる場所を探しましょうか。
結構大きな音出しちゃったから、
他の人が集まってくるかもしれません」
踵を返し、スタンドと共に歩き出す少女の背後で
突如けたたましい音が鳴り響いた。
「――ッ!」
振り向いた先、半壊した車が底面をこちらに向けたまま
鉛色の光を放って中空に浮いていた。
まるで前衛的な近代アートを想わせる、超然の光景。
即座に反転し体勢を持ち直したスタンドが、
重苦しい音を立てて向き直った。
「よくも……! よくもやってくれたなぁ~、小娘ェッ!
確かに貴様を! 少し侮り過ぎていたようだ!!」
耳障りな合成音を掻き鳴らし、
車のスタンドは呪詛を込めて言い放つ。
「まだ、戦う気ですか!? そんなボロボロになってまで!?
これ以上は、はっきり言って無意味です!」
窮地に在っても折れない相手の執念に、
優勢な少女の方が気圧される。
「フン! 確かに貴様のパワーには少々驚かされたが!
これ位と想われても心外だ! 見せるしかあるまいッ!
我が “運 命 の 車 輪” の!
真の 「姿」 と 『能力』 を!!」
言葉の終わりと同時に、歪んだバンパーが、
潰れたタイヤが、拉げたボディが、
メキョメキョと意志を持ったように捻じ曲がり 「変型」 していく。
「そ、そんな! 壊れた箇所が元に戻っていく!?
今まで、本気じゃなかったって事ですか!?
あんなに大変だったのにッ!」
熟練した 『スタンド使い』 は、余程のコトがない限り
スタンドの 「正体」 を相手に視せない。
自分の 『能力』 の情報が漏れるという事は、
即 「死」 に繋がるという事実を経験的に知っているからだ。
ソレを敢えて晒した “運 命 の 車 輪” 本体。
コレは目の前の少女の実力といずれ恐るべき
『スタンド使い』 に成長するという
「才能」 を認めたコトに他ならない。
「!!」
息を呑む少女の眼前に現れたのは、
牙のような装飾を伴ったバンパーに、
鎖で繋がれたフロントウイング、
捻じ曲がった排気管を連結する中央の突起群。
真正面から視た姿は正に機械仕掛けの悪魔のような、
文字通りの “魔 改 車”
そのフロント部、悪魔の目玉を想わせるバンパーが光輪を描き、
空間に尾を引く軌跡からナニカが発射される。
「ライトちゃん防いで!」
凄まじいスピードの光跡だったが、
少女のスタンドはソレに対応し両腕を交差
更に折った両翼で全面を覆い完全にガードする。
着弾箇所で互いのスタンドパワーが弾け、
キラメキが斜角軌道で飛び散った。
「すごいスピードでしたけど、私達には通用しません!
ライトちゃんは素早いんです!
その気になれば、弾丸だって掴み取れるそうです!」
まだ出来ないけどと心の中で付け加えた少女の躰に、突如異変が走る。
バシュッ! と腕と背中の皮膚が制服ごと裂け、ソコから鮮血が高速で繁吹いた。
「あうぅぅッ! い、一体、何、が!?
何も、何も、視えなかった、です……ッ!」
傍らで同様のダメージを受けたスタンドが、
血を流しながら膝を付いている。
その光景を当然のものとした本体が、高らかに嘲笑を上げた。
「フハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!
今の攻撃が視えなかっただと!? 当然だ小娘!!
だがその 『謎』 はすぐに解けるぞ!!
貴様が!! くたばる寸前にだがなぁッッ!!」
恫喝すると同時に、再び悪魔の眼前で光の輪が描かれる。
「ひ……ッ!」
恐怖に輪郭を強張らせた少女は、両眼を閉じてアスファルトへとダイブする。
ヴァッッッシャアアアアアアアァァァァァァァァ!!!!!!!!!
散弾銃でも撃ち込まれたようにショーウインドウが砕かれ、
途中に設置されていたガードレールと鉄製のポールも吹き飛んだ。
(ほ、本当に、何を、飛ばしたんですか!?
ライトちゃんの傷口に針やガラスのようなものは刺さってないですし、
撃った場所から煙もあがってません。
本当に、光かナニカを飛ばして攻撃しているとしか」
痛みを感じないわけではないが、
それでも明確に状況の分析を図る少女。
しかしソレを敵が待つわけでもなく三度光輪が車体の前に描かれる。
「キャアアアアアアアアアァァァァァァァァァ!!」
差し迫った表情で少女は踵を返し、攻撃の射程距離からの離脱を図る。
敵もそこから逃がすまいと猛然と追跡のアクセルを踏む。
完全に最初の状態へと戻ってしまったが、
相手の 『能力』 が解らない内に近づくべきではないという
吉田なりに考えた結論だった。
「わあっ!?」
吹き飛ぶ街灯。
「きゃあぁっ!!」
へし折れる電柱。
「ひゃあぁぁぁ!!」
弾け飛ぶ標識群。
戦況は余りにも一方的な展開だったが、
少女は魔改車の放つ光輪と追突を紙一重の所で躱し続け、
最初の攻撃以降は奇跡的に無傷のまま、ここまで逃げ果せている。
これは少女自身の 「幸運」 も有るが、
その実質は此処に来るまでの一週間に行われた
エリザベスの特訓による賜 。
スタンドの操作よりも戦闘の心構えよりも、
まず一番最初に教えられたのがコレ。
『逃げるコトも、時には重要。
強大な相手から見事逃げ果せて生き残れたなら、
それも間違いなく一つの勝利。
恥じる事なく、精一杯逃げなさい。
「使命」 も 「覚悟」 も、懸命に生き抜いた
その 「先」 に生まれるモノなのだから』
(ハイ! エリザベスさん!)
心中でそう応じた矢先に、アスファルトに並列していた
街路樹が木の葉を舞い散らせて吹っ飛んだ。
「ネズミのようにチョロチョロと逃げ回りおってぇ~!!
そんな事で我がスタンドから逃げ果せるつもりかぁ~!!」
背後から機械合成音の怒号が響くが、
当然そんなものに応じる余裕もなく少女は流れる街路に視界を巡らせる。
(ア、 “アレ” は! アレは一体どこに!?
確かに有った筈です! ここまで逃げてくる間に!
絶対見かけた筈ですッ!)
焦燥に駆られる少女の背後でキラメキ、
咄嗟に横っ飛びになって躱すが制服の左袖とスカート片面が中の皮膚ごと裂ける。
「キャアアアアッッ!!」
だんだん狙いが正確になってきている。
攻防を繰り返す内に、相手も吉田の行動パターンを見切り
先を読むようになってきたのだ。
たまらぬ痛みに両眼を閉じて地面に伏す少女。
動きを止めた標的に、狂走のスタンドがクラクションを掻き鳴らして突進してくる。
しかしその絶対絶命の状況を、吉田は確信に充ちた瞳で見据えた。
「ただ逃げてただけじゃありません!
私は! 『この場所』 に向かってたんです!
“コレが有る” 此処に来たかったんです!」
そう叫んだ少女の右手が、何かを掴んでいる。
「エイッッ!!」
可憐な掛け声と共に、手にしたアルミの入れ物から青い液体が撒き散らされた。
傍に立つスタンドは両手に掴んだ二つをバケツごと投げつけて
中身をブチ撒ける。
「――ッッ!!」
突如フロントガラスが混ざり合った無数の色彩で埋め尽くされ、
中のドライバーは反射的にブレーキを踏みハンドルを切った。
強烈なスキール音を立てて、路面に火花を散らしながら
魔改車は大きく蛇行してガードレールに突っ込む。
路肩に乗り上げて停止したスタンドを、整然と見つめる少女の背後。
個人営業と思しき花屋の前に置かれた、スチール製の脚立。
その上で店主らしき人物がペンキの入ったバケツを片手に
ブラシで看板を塗っている。
少女は、この場所を目指して懸命に走っていた。
ペンキで相手の視界を奪い、車体のコントロールを無効化するために。
一見単純で子供染みているが、しかし理に適った戦闘法。
細やかな心構えとよく考えるという彼女の性格が生み出した僥倖。
「クッ……! おのれぇぇぇ!
こ、こんなフザけた事で我がスタンドがッ!」
子供の描いた絵のように、
今やムチャクチャな色使いで塗り潰された魔改車は
ワイパーを高速で動かし洗浄液を噴射する。
しかし粘性と速乾性が強いペンキだったのか、
色が余計に混ざり合って拡がるだけですぐに視界は晴れない。
焦燥で充ちる車内のバックミラーに映る、少女とスタンドの姿。
「後ろを取りました。これでもう、決着はついたも同然です。
幾ら貴方の 『能力』 が強力でも、後ろには発射出来ないでしょう。
降参してください。
本音を言わせてもらえば、私は誰とも争いたくないんです」
受けた傷の痛みよりも、相手への慈悲が上回る少女の言葉。
その深情な訴えも、悪辣なスタンド使いに対しては
すぐに攻撃を仕掛けてこないという「甘さ」 としか解されない。
「フンッ! 勝ったつもりか小娘?
だが良い気になるのはまだ早いんじゃあないか?
冷静になってよく自分を見て視ろ? 気づかないのか?
お前の躰とスタンドが、何か “匂っているコトに” 」
「え!?」
想わぬ言葉に少女は自分の両手を凝視する。
それと同時に、沈黙していた一つの感覚が目覚める。
逃げるのに精一杯で、意識を向けていなかった五感の一つに。
「こ、この匂いはッ!?」
咄嗟に浮かんだのは、家族と一緒にテーブルを囲む冬の光景。
軽いタンクを片手で携え(弟がやると言い張ったが危険なので自分がやっていた)
外の物置で重くなったソレを両手でうんうん抱えながら歩く自分の姿。
石鹸で洗ってもなかなか取れない、この匂いは石油!? 否――
「ま、まさか飛ばしていたのは!?
視えなかったのも後に何も残らなかったのも!?」
「フハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!
その通りだあぁぁぁぁぁ!!
オレが飛ばしていたのは “ガソリン” だ!!
ガソリンを超高圧で弾丸のように射出していたのだ!!
よって躱した所で全く無意味!!
「気化」 したガソリンは!!
既に霧状に変化して貴様の全身に纏わりついているぅッッ!!」
高圧のウォーター・カッターは鋼鉄をも寸断する、
絶え間なく落ちる水滴は、永い年月をかけて岩をも穿つ。
この地球上で最も恐るべき兵器の一つは、
銃でも爆弾でもなく只の 「水」
「最初から攻撃するのが目的ではなく、
私達にガソリンを染み込ませる為――ッ!?」
「気づいた時にはもう遅い!! 今度こそ終わりだ小娘ェッッ!!」
底部から伸びてきた赤と黄色のコード、
外側のラバーが解れ内部の導線が剥き出しになっている。
「電気系統でスパーク(火花)!!
さああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
燃え尽きろオオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!」
「ああぁぁッッ!!」
決して負荷の高くない電圧が一抹弾ける。
しかしソレで効果は十二分。
今や燃焼促進剤で全身を包まれている少女は、
そのたった一つの火花で嘘のように燃え上がった。
「ああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――ッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!」
その悲鳴すらも燃やし尽くすように、
少女とスタンドを炎が一挙に呑み込んでいき
更に周囲に気化していたガソリンにも引火して周囲一体が朱に染まる。
炎上に巻き込まれぬように目敏く車体をバックさせていたドライバーは、
始めてサイドウインドウから片腕を出し指を差し向けた。
「ようやく勝ったかッッ!! これで 『運命』 のスタンドは!
我が “運 命 の 車 輪” 只一つッ!
オレと同じ名を冠した、己が運命を精々呪うがいい!!
フハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!」
吹き荒ぶ熱気を胸一杯に吸い込み、
「宿敵」 を屠ったスタンド使いは勝利の哄笑を上げる。
「まだ……勝利宣言をするには……早いんじゃないですか……?」
「――ッッ!?」
渦巻く紅蓮の向こう側で、もう絶対しない筈の声が応えた。
やがてゆっくりと、炎のカーテンが薄らいでいき、視界が開ける。
その先に在った者は、ドーム状に拡がった薄い水のヴェールに
その身を包まれた、可憐なる少女の姿。
水流によって半透明になった制服が素肌に張り付き、
髪も頬も焼塵で汚れた惨憺たる有様だが、
それとは裏腹の強靭なる意志が瞳を充たしている。
視る者スベテに畏敬の念を喚起させる、無惨ながらも美しき姿。
その少女が傍に佇むスタンドと共にゆっくりと口を開く。
「際どかったです。此処じゃなければ、
他に何もない “荒野や山岳だったならば”
間違いなく今のでやられてました」
そう言葉を紡ぐ吉田の足下で開けた、一つの破壊痕。
接地面近くで大きく抉れた金属管。
呆気に取られたドライバーがついでの様に言葉を漏らす。
「しょ、消火栓!? 消火栓を破壊して、水を噴出させたのか!?
しかし、しかし何故こんな場所に “偶然!?” 」
「そう、 『偶然』 です。
正直 「運」 が良かったとしか、言い様がありません。
でもコレで、私に染み着いたガソリンは全て洗い流されました。
もう貴方の 『能力』 は、私に通用しませんッ!」
「――ッッ!!」
少女の言う通り、並大抵の 『運』 ではない。
まるで 「害悪」 となるモノがスベテ弾き飛ばされ、
「吉良」 なるモノだけが少女を中心に集まってきているように。
想えば、幾度も少女を仕留める機は在ったにも関わらず、
自分はそうしなかった、出来なかった。
“偶然” により、 『結果』 により。
つまり、 『運命』 の女神が 「祝福」 しているのは、
己ではなくこの少女の――
「ぐっ、ぐおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ―――――――――――――!!!!
認めん!! 認めんぞッッ!! 貴様如き脆弱な小娘が!!
真の 『運命』 のスタンド使い等と!!」
己の存在、その中核が崩れるような危機感を抱いた
“運 命 の 車 輪” 本体は、
その車体を更に変貌させて少女に襲い掛かる。
四輪のタイヤ全てから抜き出た、
拷問器具のようなスパイクで路面を蹂躙しながら。
しかしその凄惨なる光景を、吉田は眉一つ顰めずただ見据えた。
「そう来るだろうと想ってました。
でも、“今の” 私に近づかない方が良いですよ」
「戯れ言をオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ
―――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!
貴様の全身をコレでひき肉にし!! 路面にバラ撒いてくれるッッ!!」
「聞く耳持たず、ですか。やれやれです」
そう呟き少女がふぅとため息をついた刹那。
ヴァゴオオオォォォォッッッッ!!!!
突如魔改車のフロントウインドウに蜘蛛の巣状の亀裂が走り、
カウンター衝撃に拠り車体が背後へ吹っ飛ばされた。
「な、何ィ!? あの小娘のスタンドは全く動いていない。
にも関わらず何故こちらがダメージを受ける!?」
スリップ痕を引き擦って道路に落ちた魔改車に、
すかさず少女とスタンドが追撃にかかる。
ドグォ! バギッ! ズガァ! という炸裂音が
拳の撃ち込まれたボンネット越しに響くが、
その表面には微細な傷一つ付いていない。
「フ、フハハハハハハハハハ!! 所詮その程度か!?
どうやら貴様のパワーでは我がスタンドを破壊する事は
不可能なようだな!?」
肝を冷やした後に訪れた安堵によりドライバーは虚勢を張るが、
少女は澄んだ表情で打撃面をジッと見つめている。
「3」
「あ?」
放った打撃数を口にしたのか、しかし明らかに異なる数値に
怪訝な声を発したドライバーの瞳に、奇妙なモノが飛び込んでくる。
「2」
耳元に過ぎる少女の声、そのスタンドが拳を撃ち込んだボンネットに、
“衝撃が具現化して浮かび上がっていた”
瑠璃色の光で縁取られたその衝撃の端には、
「2」 という数字が小さく記載されている。
「1!」
一際強く告げられた秒読みと同時に、
光るその衝撃が時限式の爆弾のように震え始める。
(ま、まさか……! まさかッ!?
コレがこの小娘の 『スタンド能力!?』
最初にエンジンが停止したのもッ!
スタンドの誤作動ではなくこの 『能力』 を使用したからッッ!!)
「ゼロですッッ!!」
極限の随 に、時間の感覚を喪失したドライバーの眼前で、
『運命』 のカウントダウンが終わりを告げる。
ヴァッッッッッッッッグオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ
ォォォォ―――――――――――――――ッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!
「0」 の数値を指し示した瑠璃色の衝撃が一斉に爆ぜ、
またも兇悪な重厚を宿した魔改車は蹴り飛ばした空き缶のように吹っ飛んだ。
何とか空中でスタンドパワーを放出し、
横転する事だけは避けた車体の傍で、
コンコンとサイドウインドウを叩く音。
腰の位置で清楚に両手を組んだ少女の前で、
裡から抜け出たスタンドがガラス越しにこちらを見つめている。
「ひいィィィッ!?」
立場が完全に逆転し、今度は男の方が怯える番。
その様子をつまらないものでも視るように、
少女は 『能力』 の概要を静かに告げる。
説明ではなく 「警告」 として。
「私のライトちゃんは、自分の殴ったモノを
『時間差』 で攻撃出来るんです。
秒 読 みの間、その衝撃は完全に無効化しますが
同時にあらゆる物質を 「透化」 します。
つまり、相手のスタンドと攻防をせず
「本体のみ」 を攻撃出来るという事。
コレが、どういう意味か解りますよね?」
可憐な風貌とは不釣り合いにも視える、
凄味を滲ませた言葉と威圧感。
まるで少女の慕う何者かが、乗り移っているかのように。
「ひ、ひいィィィィィィィ!! わ、解りました!!
アナタの 『能力』 は最強です!! お嬢さん!!
とても私如きのスタンドに勝ち目は有りません!!
どうかッ! どうか命ばかりはお許しをぉぉぉぉ~!!」
「……」
機械合成音ではなく車内から響く生の肉声。
最初の威勢はどこへやら、
劣勢になった途端嘘のように卑屈になる男に
吉田は嫌悪を通り越して憐れみすら湧いてくる。
最も男の怯えも、ある意味必然。
少女、吉田 一美の有する 『聖 光 の 運 命』 の能力は、
あらゆるスタンド能力の中でも最強クラスの領域に位置する、
『時空間系操作能力』
この世界の根元を司る能力故に、少女がその気になれば手を触れずして
相手の骨を砕き折ったり内臓を握り潰すコトも可能。
卑屈なる者はそれだけ己の保身に長けている、
名も解らぬ “運 命 の 車 輪”
本体は、その脅威を本能的に感じ取っていたのだった。
「ふぅ、二つ、約束してください。
もう二度と、自分のスタンドを悪用しない事、
もう二度と、私達の前に現れない事、
この二つを守るなら、命だけは許してあげます」
元々そこまでする気はないのだが、
今後の事も考え少女は強い口調で釘を刺す。
「ハ、ハイィィィ~!!
元々私はDIOのヤツに脅されて従っていただけなんですぅ~!!
人殺しなんかしたくなかったんですぅ~!!
これっきり改心します!! お嬢さんの前にも二度と現れませんとも!!」
憐れみを乞う口調に、吉田は自分でも甘過ぎるかと想ったが
正直何だかバカバカしくなってきたのでそれ以上は追求せず背を向ける。
「行って、いいですよ。一応謝ったから、許してあげます」
「……」
流水を浴びて透き通る小さな背中が射程距離から遠ざかった瞬間、
平身低頭していたドライバーの眼がドス黒い険難な光を帯びた。
「このブァカがああああぁぁぁぁぁぁッッ!!
要は “触れられきゃ” 良いってだけだろうが!!
このヴォゲがあああああぁぁぁぁぁぁッッ!!」
「――ッッ!!」
屈辱を払拭する狂乱の叫び声と共に、悪魔の口のように開くボンネット。
ソコから無数のワイヤーが、曲がりくねった配管やチェーンと一緒に飛び出してきた。
「ワ、ワイヤー・ウインチ、ですか!? う、動けない!」
即座に少女とスタンドに幾重にも絡み付いて拘束した鋼鉄の縛鎖は、
互いの自由を完全に奪い尚も生き物のように締め付けてくる。
こちらを向いた車体の前には、既にガソリンの弾丸を射出する光輪と、
火花を散らすコードの連携が完成していた。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハァァァァァァァァァァァァァァ――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!
大した能力でもないくせに調子に乗りおってえぇぇぇッッ!!
「約束」 ってなぁ破る為にあるんだよォォォォ!!
小便臭ェ小娘がああああああぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」
今まで一度も浴びせられた事のない醜い罵声、
四肢とスタンドをも拘束された絶対絶命の状況。
「ハァ……」
にも関わらず少女は、小さなため息を一つ漏らしたのみだった。
「!?」
肝心な事が何一つ視えていない愚者を、心底憐れむように。
「さっき一つ、言い忘れてた事があります。
ライトちゃんは 『時間差』 で攻撃出来ますが、
その 「時間」 は最大で 「3分」
その時間内でなら 「自由」 にセットして
能力を発動させる事が出来ます」
出来の悪い生徒を諭すように、
ここからが重要と少女は剣呑な瞳で指を立てる。
「そして、 “その時間差が大きければ大きいほど”
攻撃の 「威力」 は増していきます。
軽く叩いた程度でも、 『3分後』 にセットしておけば、
壁に大穴が空く位の威力になります」
(!!)
そこまで言われて始めて、狂気のドライバーは助手席に眼を向ける。
ソコには、人間大に膨れあがった、
既に5秒前までタイムリミットの進んだ瑠璃色の衝撃が在った。
絶望と共に、フラッシュ・バックされる光景。
(ま、まさか!? 既にアノ時から攻撃をセットしていたというのか!?
こうなる事を見越して!? あのスタンドが窓ガラスを叩いた時からもう既にッッ!!)
「う、うおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ―――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!」
車内から逃げ出そうにも、
レーサー用のシートベルトでガッチリ固定されている為
嘆きの断末魔を上げるしかないドライバー。
「約束を守ってくれたら、
「解除」 してあげるつもりだったんですよ。
本当に、残念です」
伏せた瞳で言葉を紡ぐ少女。
ソレを引き金として起爆するスタンド能力。
ヴァズンンンンンッッッッッッッ!!!!!!!!
フロントとサイドのガラスに霜状の罅が一挙に走り、
その内を飛び散った鮮血が濡らした。
「はぐおおおおおおあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――――――ッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!
オレの!! オレ顔がああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!
鼻が顎が眼が耳がああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
白く赤く染まったガラスにより内部の悲惨な状況は伺えないが、
鼓膜を劈くような悲鳴から相当のモノであるようだ。
おそらく一流の整形外科医であっても、元に戻すのは不可能であろう。
本体への直接ダメージの為、エンジンが完全に停止し只の鉄の塊と化したスタンド。
その前に、ゆらりと姿を現す二つの影 。
「ひッ! ひいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃッッッッ!!??
す、すいません!! ほんの! ほんの出来心だったんです!!
魔が差したんです!!
もう本当に心を入れ替えますからどうか」
「ごめんなさい……」
大の男が何度も何度もハンドルに頭をブツけ、
擦り付け繰り返す空々しい言葉を少女の謝罪が遮った。
「え!?」
想わぬ返答に血塗れになった顔面を上げ、
砕けたガラスの隙間から見た少女の顔。
微笑を浮かべつつも口唇と輪郭を微かに震わせるその風貌は、
眼が笑ってないので却って怖ろしい存在として男の瞳に映った。
「もう、信じられません。それと、限界です……!」
言葉の終わりと同時に振り上げられるスタンドの拳、
聖天使の断罪の如く撃ち出される右の直突き。
「う、うあああああああああ、うわああああああああああああああああああぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!」
「エイッ!」
ヴォゴオッッ!!
可憐な掛け声とは裏腹の、怖ろしく凶暴な音でボンネットが拉げた。
「エイッ! エイッ! エイッッ!!」
ドギャ!! バギッッ!! ズガアアアァァァッッ!!
少女の懸命な叫びを言霊として、天使のスタンドが音速のラッシュを
凄まじい勢いで全弾射出する。
「エイエイエイエイエイエイエイエイエイエイエイエイエイエイエイエイ
エイエイエイエイエイエイエイエイエイエイエイエイエイエイエイエイ
エイエイエイエイエイエイエイエイエイエイエイエイエイエイエイエイ
エイエイエイエイエイエイエイエイエイエイエイエエエェェェェェ―――
――――――――――――イッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!」
瞬く間も置かず降り注ぐ、星光の如きスタンドの乱撃が
“運 命 の 車 輪” を完全なスクラップへと化しめていく。
そのダメージは当然スタンド本体へと伝わるが、
余りのスピードと破壊力に嘆きの断末魔すら上げられない。
そこ、に。
とっておきのダメ押しのように掲げられる、
『聖 光 の 運 命』 の拳。
その右拳全体に、集束された瑠璃色のスタンドパワーが集まっていく。
或いは本能、或いは少女の才能、呼び方は様々在れど
極限まで高ぶった吉田 一美の精神が、
一つの流法となって爆裂する。
強靭無二。誓約の光拳。
聖光の流法
『聖 光 爆 裂 弾アアアアアアアアアアアアアァァァ
ァァァァァァァァ―――――――――――――ッッッッッッッ!!!!!!!』
流法者名-吉田 一美
破壊力-A スピード-A 射程距離-B(最大20メートル)
持続力-D 精密動作性-B 成長性-測定不能
ドッッッッッッッッッギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァ
ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ―――――――――――――――――
―――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
けたたましい爆裂音を轟かせて、
スタンドのスクラップが地面と二度と交わらない
斜線を描いて吹き飛んでいった。
一秒の間も於かずソレは先にあった高層ビル7階に着弾して
開いた大穴から後部を吊り下げる。
その様子を当然のものとして見据える少女の、
亜麻色の髪を揺らす寂滅の旋風
澄み渡った脳裡に甦る、昔読んだ小説の一節。
「二人の囚人が、いました……
その内の一人は、鉄格子の中の壁を見ていました……
もう一人は、鉄格子からのぞく星を見ていました……」
湧き上がる、万感の想い。
違える事のない、揺るぎなき決意。
「もちろん私は、 『星』 を見ます」
そう言って一瞥する、砕けた 『運命』 との決別。
「 “壁” はアナタが見てください」
←TOBE CONTINUED…
『聖 光 の 運 命』
能力-自らが撃った攻撃を 『時間差』 で発動するコトが出来る(最大3分間)
秒 読 みに入った衝撃は、その間「存在しない事」になり
あらゆる物質をすり抜ける。
概念的にはビデオデッキのタイマー予約、或いは時限式の「爆弾」と呼んでもよく、
その 『時間差』 が大きければ大きいほど、発動の瞬間の威力は増す。
今後の成長性は未知数だが、吉田 一美の精神次第で大きく変貌を遂げる可能性は大。
後書き
はい、どうも、こんにちは。
見ようによっては「ご都合主義」と取られかねない回ですが、
まぁ彼女は他のキャラと違って『運』が強いのと、
あとスタンドが吉田サン大好きなので『自動追跡』のパワーが乗った
とお考えください。
承太郎達と違ってスタンドと仲が良いというのは彼女らしいと想います。
あと能力が「爆弾」っぽいのは吉良 吉影の影響でしょうかネ?
(字がちょっと似てるし)
ソレでは。ノシ
ページ上へ戻る