魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~
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sts 35 「星光と聖王」
私はヴィータちゃんと一緒にゆりかご内部に突入した。
ただしゆりかご内部にはAMFが発生しており、私達には負荷が掛かる状態にある。AMF状況下での魔法使用はお互いに可能ではあるけど、それでも必要以上に魔法を使っていては長くは戦えないだろう。
にも関わらず、ヴィータちゃんは私の魔力を温存させるために率先して遭遇するガジェット達を粉砕してくれた。ポジションで言えばセンターなどの魔力を温存させるのも前衛の仕事ではあるけど、無茶はしてほしくない。
しかし、ゆりかご内部を進む内に聖王の玉座と駆動炉が真逆の方向にあるのが判明した。
突入隊の編成にはまだ40分以上掛かると報告が入ったため、残り時間も考えて私とヴィータちゃんが分かれて対応することになったのだ。
「ヴィータちゃん……」
ゆりかご内部を飛行して進みながら彼女の身を案じる。
駆動炉はゆりかごのエンジンに等しい。それだけに敵も必死に防衛してくるはず。もしかするとこっちよりも何倍も厳しい戦いを余儀なくされるかもしれない。
なのにヴィータちゃんは嫌な顔をするどころか笑いながら駆動炉の破壊を引き受けてくれた。自分とグラーフアイゼンは破壊の方が得意だからって……。
でもきっとそれだけじゃない。私がヴィヴィオの保護責任者で……誰よりも本当はヴィヴィオのことを心配しているのを分かっているから。だから私をヴィヴィオの方へ行かせてくれたんだ。
「……必ず……私がヴィヴィオを連れて帰る」
玉座に向かって飛行しているとそれを邪魔するようにガジェットⅢ型が続々と現れる。
しかし、今の私は全リミッターが外れて本来の能力に戻っている。また限定解除のフルドライブモード《エクシード》も発動させた状態だ。強力な射撃と大威力砲撃に特化させたこのモードの前では通常のガジェットより強いAMFを持つガジェットⅢ型でも敵ではない。
その証拠に私は魔力消費の激しい砲撃は使用せず魔力弾のみでガジェット達を撃ち砕いていく。先に進むにつれて次々と現れるガジェット達を破壊しながら進んでいると、相棒であるレイジングハートからもうすぐ玉座であるという報告を受けた。
――もうすぐだ。ヴィヴィオ待ってて、今すぐ私が助けに行くから!
気持ちを引き締めながら曲がり角を左折すると、前方に砲撃を敢行しようとしている戦闘機人の姿が見えた。手にしている武装と砲撃から察するに前にヘリを狙撃した子に違いない。私はすぐさま制止を掛けながらレイジングハートを構える。
「2……1……」
「エクセリオン――」
「ゼロ!」
「――バスター!」
レイジングハートから放たれる桃色の閃光と敵が放ってきた真紅の閃光は、空間を飲み込むようにしながら突き進み衝突する。
砲撃の威力はほぼ互角……このまま撃ち合ってても無駄に魔力を消費するだけ。それに聖王のゆりかごが衛星軌道上に達するまで時間もそう残されてないはず。ここは躊躇してる場合じゃない……
「っ……ブラスターシステム、リミット1リリース!」
リミットブレイクモードにして私とレイジングハートの最後の切り札。その第1段階を発動する。それに伴い私とレイジングハートの能力は限界値を突破し、先ほどよりも格段に大きな魔力が溢れてくる。それを私は迷うことなく砲撃へと注ぎ込む。
「ブラスト……シュートッ!」
大量の魔力を注ぎ込まれさらに威力を増した砲撃は、敵の砲撃を飲み込むようにしながら突き進み敵の本体ごと撃ち抜いた。それによって爆煙が発生し敵の姿が一時的に見えなくなる。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
ブラスターシステムを使用した反動によって私の息は上がってしまった。もしも今の一撃を受けてなお敵が動けるようならば正直不味い。
きっと玉座にも敵戦力は存在するはず。ここで力を使い過ぎれば……ううん、ここで必要以上に魔力を消費したとしても私は諦めたりしない。たとえブラスターシステムの反動で体にガタが来たとしても最後まで戦い抜いてみせる。
煙が晴れていくと武器を手放した状態で横たわる戦闘機人の姿が見えた。意識はあるようだけど戦闘続行は不可能のようだ。
「抜き撃ちで……この威力…………こいつ人間か――ぐっ!?」
「じっとしてなさい。突入隊があなたを確保して安全な場所まで護送してくれる。この船は……私達が制止させる!」
敵にはバインドを掛けたのでそれだけでも十分な気もしたが、念には念を入れて私は転がっていた武器にバインド型の封印魔法《シーリングロック》を掛けてからその場を飛び去る。
玉座に向かって進む中、私は左腕を押さえていた。多少出血もしているようだけど、それもこの痛みもブラスター1による反動によるものだと分かっている。こうなることは覚悟していただけに問題はない。
「……っ」
「……マスター」
「平気。だからブラスター1はこのまま維持……急ぐよレイジングハート!」
痛みが顔に出ていたんだろう。だけど私は止まるわけにはいかない。それはきっとレイジングハートも分かってくれるはず。だって私の相棒なのだから。
先に進みながら私は小型の光球を複数散布していく。これは広域遠隔目視観察魔法である《ワイドエリアサーチ》のサーチャーだ。敵を……特に戦闘機人は逃すわけにはいかない。そのため、もしもの場合に備えて準備はしておくべきだろう。
最大速度で進んでいると閉じている扉が見えてきた。位置情報から予測するに玉座の間に間違いない。簡単に開きそうもないと判断した私は、レイジングハートを構えると砲撃を撃ち込んで扉を破壊する。
「いらっしゃ~い、お待ちしてました」
私を出迎えたのはヴィヴィオではなく戦闘機人。緊張感のない声で話しかけてきたけど、表情を見る限り狡猾なものを感じる。何を考えているか分からないだけに油断はできない。私はいつでも攻撃できるようにレイジングハートの先端を彼女に向ける。
「こんなところまで無駄足ごくろうさま~」
「く……」
「フフ、各地であなたのお仲間は大変なことになってますよ」
表示された複数のモニターには敵と交戦中のみんなの姿が映し出されている。戦闘機人や召喚獣、大量のガジェットと戦っているだけに苦戦を余儀なくされているようだ。
みんなのことが心配になるけど、みんな戦っているんだ。ヴィータちゃんだって今きっと駆動炉を止めるために頑張ってる。なら私も今やるべきことをやらないと。
「大規模騒乱罪の現行犯であなたを逮捕します。すぐに騒乱の停止と武装の解除を」
「フフ、仲間の危機と自分の子供のピンチにも表情ひとつ変えずにお仕事ですか。いいですね、その悪魔じみた正義感……」
そう言って戦闘機人は玉座に拘束されているヴィヴィオへと手を伸ばし頬を撫でようとする。
私に対する侮辱や煽りは冷静さを保っていられる自信はあったが、ヴィヴィオに触れようとした瞬間に私の中はざわつき反射的に砲撃を敢行した。しかし、その場に立っていたのはホログラムだったらしく一瞬にして掻き消えてしまう。
『でも~これでもまだ平静でいられます?』
モニターに映った戦闘機人の笑みは実に憎たらしいものだ。だけどそれ以上に今のセリフからして何か仕掛けてくるつもりだろう。
そのように考えた直後、玉座の周りにある球体から電気が発生し始めヴィヴィオが苦しみ始める。彼女の名前を呼びながら近づこうとするが、突如七色の光が突風のように吹き荒れ前に進むことが出来ない。
『フフ……良いこと教えてあげる。あの日、ケースの中で眠ったまま輸送トラックとガジェットを破壊したのはこの子なの。あのときようやくあなたが防いだディエチの砲撃……』
「…………ッ」
『たとえその直撃を受けたとしてもものともせずに生き残れたはずの能力。それが古代ベルカ王国の固有スキル《聖王の鎧》……レリックと融合を経てこの子はその力を完全に取り戻す。古代ベルカの王族は自らその身を作り替えた究極の生体兵器《レリックウェポン》の力を!』
「――っ、ママぁぁッ!」
「ヴィヴィオ!」
「ママ!? 嫌だよママぁぁぁぁッ!」
泣き叫びながら視線で助けを求めるヴィヴィオに近づこうとするが荒れ狂う七色の光のせいで思うように前に進めない。
『すぐに完成しますよ。私達の王が……ゆりかごの力を得て無限の力を振るう究極の戦士』
「ママぁぁぁッ!」
「ヴィヴィオぉぉッ!」
必死に手を伸ばすが私を押し戻す力は一段を強さを増し、室内に漂っていた七色の光はヴィヴィオへと集まっていく。爆風にも衝撃が室内を駆け巡った後、私の目に飛び込んできたのは七色の光に包まれたヴィヴィオの姿。圧倒的な力に包まれているからなのか、どんなに叫んでも私の声は聞こえていないように思える。
包み込んでいた光が闇色に変わったかと思うとヴィヴィオが再び苦しみ始める。だがしかし、その姿は強烈な七色の光で覆い隠され……再びヴィヴィオが姿を現した時にはそれはもう先ほどまでのヴィヴィオではなかった。
圧倒的な魔力を放つ黒衣の少女。年齢は17歳前後といったところか。けれどサイドポニーに纏められた金色の髪と、緑と赤のオッドアイは私の知るヴィヴィオと同じものだ。
「あなたは……ヴィヴィオのママをどこかに攫った」
「ヴィヴィオ違うよ、私だよ。なのはママだよ!」
「――っ!? 違う……あなたなんてママじゃない!」
憎悪にも等しい鋭い瞳と共に放たれた言葉に私の心はズタズタに斬り裂かれる。
確かに私はヴィヴィオの本当のママじゃない。だけど……それでも私はヴィヴィオのことを娘のように思ってる。私のように危険な仕事をする人間じゃなく安全な仕事をしてる人に……ヴィヴィオを引き取ってくれる人を見つけるとか周囲には言いながらも娘のように思うようになってしまっていた。
「ヴィヴィオのママを……返して!」
「――ヴィヴィオ!」
『フフ、その子を止めることが出来たらこのゆりかごも止まるかもしれませんね~』
ヴィヴィオは聖王のゆりかごを起動するための鍵のような存在。そのため、あの戦闘機人が言っていることは十分に考えられる。
だけど……あの憎たらしい狡猾な笑み。心の中で何を考えているか分からない。彼女を放っておくのは危険だ。
しかし、どこに居るのか不明だ。おそらくゆりかご内部には居るのだろうが、ゆりかごの大きさは数キロメートルにも及ぶ。当てずっぽうで探すのは時間の無駄だ。故に私はここに来るまで散布しておいたワイドエリアサーチをフル稼働で発動させておくことにした。
『さあ……親子で仲良く殺し合いを』
「ママを……返して!」
「っ――ブラスターリミット2!」
ヴィヴィオの纏う圧倒的な魔力に対抗するためにブラスターシステムをブラスター2直前まで引き上げる。
攻撃なんかしたくない。だけどこのままじゃ話し合うこともできない。どうにかして動きを封じないと。
そう考えた私は魔力弾で牽制しながらバインドを掛けられる隙を窺う。しかし、ヴィヴィオの動きは私の予想を遥かに超えていた。
「そんなもので……!」
あっさりと魔力弾を避けたヴィヴィオは七色の魔力弾を次々と放つ。その威力はリミットブレイク状態にある私と同等……いや今の私以上の威力を秘めていた。
移動速度も速い……それにあの威力。手加減してどうこう出来るレベルじゃない。だけど……
次々と迫り来る魔力弾を回避し続けるが私はフェイトちゃんほどの機動力があるわけじゃない。それに室内という限定された空間では回避に仕える空間も限られてしまう。ついに回避が間に合わないと判断した私は防御魔法を使ってガードする。
だがそれを見越していたかのように発生した爆煙が晴れるのと同時にヴィヴィオが突っ込んできていた。莫大な魔力を纏わせた正拳突きが繰り出される。どうにか防御は間に合ったものの威力を殺し切ることは出来ず、私は壁に打ち付けられた。
「くっ……ヴィヴィオ」
「――勝手に呼ばないで!」
ヴィヴィオは両手に魔力弾を生成し投げつけるようにしてこちらへ放つ。私は着弾するギリギリまでその場に留まり、絶妙なタイミングでその場から移動する。
たとえ純粋な戦闘力に差があったとしても戦闘の経験値で言えば私の方が上だ。爆煙に紛れる形でヴィヴィオの背後を取った私は《チェーンバインド》を発動させてヴィヴィオを拘束する。しかし――
「こんなの……効かない!」
――圧倒的な魔力を持つせいか拘束できたのは一瞬だった。ヴィヴィオは新たに魔力弾を4発生成し放ってくる。それと同時に私は身構えたものの飛来する魔力弾はこれまでとは違って私から逸れて行った。
どういう意図が……なっ!?
私から逸れて行った魔力弾は拡散するように弾け空間を制圧するかのように襲い掛かってきた。回避もガードも間に合わなかった私は直撃をもらい地面へと落下する。
「はあぁぁぁぁッ!」
ヴィヴィオは続けざまに魔力弾を放ってくるが、それは私を意思を汲み取って《ラウンドシールド》を発動させたレイジングハートのおかげで完全に防ぎきる。
『WAS、エリア2終了。エリア3に入ります。あともう少し』
レイジングハートがサーチの進行状況も教えてくれるが、今はあまりそちらに意識を割いているわけにはいかない。ヴィヴィオが背後に回ったことに感づいた私はすぐさま回避行動に移る。
……今のままじゃヴィヴィオを止めるどころか先に倒される。もっと力を上げないと!
「ブラスター2!」
ブラスターシステムを次の段階へと引き上げ魔力を増大させる。それに伴って発生した余波によりヴィヴィオは吹き飛ばされる。が、ダメージと呼べるものはなく彼女はすぐに体勢を整えて着地した。
私はそのわずかな隙を逃さずブラスタービッドを2基呼び出しヴィヴィオへ向けて射出。ヴィヴィオの周りを旋回させるのと同時に彼女の体をバインドで固定した。しかし、まだこれで終わりじゃない。
「くっ……」
「ブラスタービッド、クリスタルゲージ……ロック!」
今度のバインドは私が最初に覚えた行為魔法かつ最大最強の拘束魔法《レストリクトロック》。指定空間内を固定する機能を持ち、密着状態で発動されれば極めて高い強度を持つ魔法だ。
「これは……もう覚えた!」
ヴィヴィオは自身に掛かっていたバインドを打ち破ると、すぐさまレストリクトロックへ向けて正拳を繰り出してきた。
「はあぁぁぁッ!」
次々と繰り出される正拳は、その一撃一撃は凄まじく一瞬でも気を抜けばすぐにでも破壊されてしまいそうだ。
――このままじゃ押し切れられる。だけど……
ヴィヴィオを止めるだけじゃこの戦いは終わりじゃない。先ほどまで私を翻弄していたあの戦闘機人も戦闘不能にしなければ……エリアサーチの索敵範囲からしてここから大分離れてる。そこまで撃ち抜くにはそれ相応の威力が必要になるだろう。だからまだブラスター3は使うわけにはいかない。
「ふ……!」
「あっ……!?」
ついにレストリクトロックは破壊されてしまい、ヴィヴィオは一瞬で距離を詰めてくる。ブラスター2の反動もあるため回避は不可能に近い。しかし、あの正拳をレイジングハートで受け止めるのも悪手だ。レイジングハートも私の体と同様にブラスターシステムの反動が蓄積しているのだから。
「これで……終わりだ!」
唸りを上げながら突き出される拳。やむを得ずレイジングハートで受け止めようと身構えようとした矢先、私とヴィヴィオの間に雷光のような速度で何かが割り込んできた。直後、激しくぶつかり合う拳と何か。凄まじい音を撒き散らしながら発生した衝撃波に一瞬目を閉じそうになってしまう。
――……あ
長身を包み込む黒のバリアジャケット。右手にはヴィヴィオの拳を受け止めている紫色のパーツで強化された漆黒の長剣。左手には右の剣同様に蒼色のパーツで強化されている金色の長剣が握られている。
私が見慣れているのは黒髪だが今はユニゾン状態にあるせいか金髪だ。だけどそんなのことで誰かのか見間違ったりしない……
「少し会わないうちにずいぶんと大きくなったな……ヴィヴィオ」
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