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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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帰郷-リターンマイカントゥリー-part6/偽りの婚約者

ルイズは、中庭にある小舟の上に毛布をくるませながら隠れていた。
子供の頃、魔法がロクに使えなかったために両親やエレオノールから叱り飛ばされた時はいつもここに隠れていた。この小船の位置は屋敷からだと死角になって見えない。だから今まで一度も見つかったことがないのだ。…あの、後に裏切り者となるワルド以外には。
婿を取れば落ち着く。父はそう言ったが………今のルイズにとってこれほど思い違いな発言は聞いたことがなかった。好きでもない男を押し付けられて、どこのどいつが落ち着けるというのだ。たとえ自分以外の女がそうであっても、少なくとも自分はそんな気はまっぴら起きない。もし、この世で最も安らぎを自分にもたらしてくれる男がいるとするなら…。
「…サイト」
思わず、自分の使い魔の名前を口ずさみ、その意味に気付いたルイズは思わず首をぶんぶん振り回す。
違うもん!あいつのことなんてそんなんじゃ…そんなんじゃ…。
そんなことより、今後の自分の身の振り方だ。アンリエッタは自分を必要としてくれている。そのためにも虚無の力を使わなければならない。でも、家族から結局自分が戦いに出向くことを許してもらえなかった。虚無の事を、話したところで信じてもらえないのだから。
自分が危険なことを承知で、無断で国家間の戦い、怪獣や侵略者との戦いに身を投じていたことは確かに、心配をかけてしまったと思っている。でも、それ以前にあの人たちは自分のことをわかってくれていないのだ。いや…『わかろうともしていない』のだ。少なくともカトレアだけは理解を示してくれると思うが他の三人は、父と母、そして一番上の姉はそうではない。同じ家族だというのに、そんなのおかしいではないか。
ずっと昔から変わっていない。虚無に目覚めても、理解してもらうこともない。未だにあの人たちからすれば、私はまだ『小さなゼロのルイズ』のまま…いや、この先もずっとそのままなのだ。
そして、自分を一番傍で見てくれている男は、別の女のことを気にかけてばかりだ。そして自分は、そんな彼の優しさを、『あちこちでふらふらする犬』と決めつけて癇癪をまくばかり。
「…もう嫌」
何もかもが嫌になってきた。誰も自分を見てくれていない。一人ぼっちなのだ。……もうここでずっと、何もしないままじっとしているのがいい。誰も自分を認めもしなければ見てもくれないのなら…。
そんな時だった。
「ここにおられたのですね。ルイズ様」
「!」
見つからないとばかり思っていた場所で、突然名前を呼ばれてルイズは思わずぎょっとして毛布から顔を出して起き上がる。視線の先には、父が自分に押し付けてきた婚約者、フレデリックが小舟を繋いでいた小さな桟橋の上に立っていた。
「こんなところで、お一人でいかがなされたのです?」
「…あなたには関係ないわ」
「つれないですね。私はあなたの婚約者なのに」
「父様が勝手に決めたことよ。私知らないもん」
フレデリックに興味なしと言った様子でルイズは再び毛布に自らの身をくるませる。今は気安く話しかけてきてほしくないものだ。
「やれやれ、ずいぶんいじけられてしまったものだ。困ったものですね…」
やれやれと困り顔を浮かべるフレデリック。すると、彼は次に意外な言葉を口にした。
「ですが、ルイズ様。このままここでじっとしても無意味でしょう。本当に私の結婚が嫌なら、なおさらですよ」
婚約者の言葉とは思えない言葉に、ルイズは毛布から顔を出してフレデリックを見返す。
「いいの?そんなことお父様たちに聞かれたら、あなた私と結婚できなくなるかもしれないわよ?」
「別に構いませんよ。人生は長いんです。その分だけチャンスに恵まれているのですよ」
「ふーん…随分自信があるのね」
訝しげな眼差しでフレデリックを見る。ここまで言ってのけるということは、それだけ自分を惚れさせるだけの自信を持っているというのか。ルイズは鼻で笑い飛ばしてやりたくなった。自分はキュルケと違ってそう簡単に他人に靡く女じゃないのだ。
「まぁそれはともかく、ルイズ様。公爵様から婚約を進められた時から、あなたにあげたいものがあるんですよ」
「何よ」
自分にあげようとしているものを尋ねると、フレデリックはポケットから、綺麗な宝石をあしらったネックレスを取り出した。
「これをあなたに」
差し出されたネックレスは確かに綺麗だ。銀のチェーンに繋がれた台座に赤い宝珠が埋め込まれ、妖しく光っている。
「これを身に着けたら、あなたと即結婚…なんてことないわよね」
訝しげにフレデリックを見ながらルイズは言うと、フレデリックは笑い出した。
「はははは。何をおっしゃるのですか。宝石をくれてやったくらいで靡くほどヴァリエールの女性は甘くないことくらい承知の上ですよ。
とりあえず、その宝石をご覧ください。美しいでしょう?」
「そうね…」
確かにこの宝石を美しい。一体エキュー金貨何枚分の価値があるのか。台座に埋め込まれた石を見るルイズ。
「ルイズ様は、このお屋敷から出られたいですか?」
ふと、フレデリックはルイズに奇妙なことを訪ねてきた。
「な、なによ急に…?」
本当にこいつ、お父様が選んだ婚約者なのか。あまりらしいことを言ってこない。…しかし、その言葉は今のルイズには効果的な誘いに聞こえた。
「どうなんですか?」
「…出たいわ」
家族へ本当のことを話せない。故に認めてもらえない。自分が信じる男も自分を見てくれない。ならば…
「もう嫌よ。誰も私を認めてくれない家なんて、ただの牢獄じゃない。鳥のように遠くへ飛んでいきたいわ」
ヴァリエールの名は誇りだと思っていた。そうだとサイトたちの前でも豪語した。けど、思い出せば、この家でのいい思い出なんてカトレアとのやり取りだけ。しかし、その姉でさえもルイズはだんだんとよく思わなくなっていた。優しい言葉を向けるだけで他に何をしてくれた?
「そうですか…それがあなたの答えですね」


しかし、それは彼女の身を危険に晒すことになった。


「っぐ!?」
突如、バチッ!と火花のような音が鳴り、宝石から稲妻のようなものがほとばしってルイズを襲った。今の不意打ちにより、ルイズは体に激しい痺れを覚え動けなくなってしまう。
それと同じタイミングだった。
「ルイズ!」
サイトがルイズとフレデリックの前にやってきた。
「ち、このタイミングで邪魔が入ったか…」
それを見てフレデリックが舌打ちする。
「あんた…いったい何をしてるんだ」
「何、これからルイズ様とハネムーンに行こうと思っていたのですよ」
「ハネムーンだぁ?ずいぶん穏やかじゃねぇな」
サイトの質問に総答えたフレデリックに対し、デルフがたった今の行動で明らかにクロであることを見られたフレデリックに言った。
「ええ、でも邪魔がいては、私たちは愛の逃避行さえできない。そうですよね?ルイズ様」
名前を呼ばれ、ルイズは顔を上げる。しかし、さっきのネックレスから発せられた電撃の影響で、彼女はまともに動くことができず、その場でわずかにもがくのがやっとだった。
「な、何が…愛の逃避行よ…!」
「ルイズ、大丈夫か!?」
サイトはルイズの言葉を聞いてフレデリックの方を向く。サイトと視線が合ったフレデリックはその時、好青年な表情から一転して、邪悪なものに変貌した。
さっきちょうどここに来た際、確かこいつがルイズに渡したネックレスには、相手を痺れさせて動きを封じる、異様な仕掛けを施してあった。あれは、超文明の作った機械的な仕掛けであることがすぐに分かった。
「お前…宇宙人か!?」
「…ああ、その通りだよ。地球人」
フレデリックはその気味の悪い笑みを浮かべたまま肯定した。それと同時のタイミングだった。突然フレデリックの姿が一瞬で消えると、彼は目にも止まらない速さでサイトに近づいてきた。
「ぐぁ!」
サイトは反応をつかみきれず、奴が目の前に現れた瞬時に放った蹴りで数メートル後ろの方へと蹴飛ばされる。蹴飛ばされたサイトはすぐに立ち上がろうとしたが、突然目の前に閃光が飛ぶ。それがサイトの眼前に着た途端、彼の姿は爆発の中に消えた。
「さ…!!!」
体の痺れのせいで、声もうまく出せないルイズだが、あたかもサイトが爆死したかにも見える光景に絶句した。
だが、サイトは無事だった。デルフを構えた状態で、爆破地点から脇にずれた地点の芝生の上に立っていた。
「咄嗟によけきるとは…さすがだな」
無事だったサイトの姿を見てそう言うと、フレデリックの姿がだんだんと黒いオーラに包まれ始めていき、やがて人間の姿とは全く異なる異形の姿に変身した。
「ッ!」
顔がセミのような形を取った、吹きみな怪人だった。その異様な姿にルイズは悲鳴を漏らした。
「バルタン…?いや、違う!お前は誰だ!?」
奴のセミに酷似した姿は、かつて親を失い孤独になった中学生時代のサイトを利用したバルタン星人に似ているような気がした。でも、奴らの特徴でもある両手のハサミもない。
「僕は…そうだな、君たちがチルソニア遊星と呼ぶ星から来たものだ」
フレデリック…『セミ人間』は自らをそう名乗った。


「ルイズは見つけたか?」
一方、ヴァリエール公爵は執事のジェロームに、ルイズを見つけたかを尋ねる。
「いえ、お嬢様のお姿はまだ見つかっておりませぬ」
「そうか…」
そう答えた公爵だが、実は彼はルイズがどこに隠れているのかを知っていた。ルイズがまだ6歳だった頃、彼女が魔法の実践で失敗したことを妻と長女らから咎められいずこかへ逃げた時、ワルドが度々見つけ出してくれていた。それから公爵は、娘がどこへ逃げたのか気になり、またお叱りの言葉を受けて逃亡した娘をワルドが追っていくのを密かに追ってみると、池の小舟で二人きり、将来を誓い合った二人らしい会話を交わしあっている姿を見つけたのである。
「まあよい。しばらくしたら頭を冷やすことだろう。それまでそっとしておいてもよい」
「よろしいのですか?」
「あの子にも時間は必要だ。あの子もヴァリエールの人間、最後は必ず戻ってくるはずだ」
「…わかりました。では」
ジェロームは公爵の言葉を聞き入れ、公爵の前から去っていく。
すると、入れ替わるように今度は妻であり、ルイズら三姉妹の母でもあるカリーヌがやってくる。
「ルイズは見つかったのですか?」
「いや、見つかっておらんそうだ」
「…嘘をおっしゃられる。本当はもうあの子がどこにいる子かなんてご存じでしょう?」
窓から外を眺める公爵に、カリーヌは直後にそれが嘘だと看破した。
「…お前に隠し事は出来ぬか」
妻は鋭い。もしかしたらカトレアの勘の鋭さはここから来たのかもしれない。そう思えてならない。
「カトレアの言うとおり、まだあの子には早かったかもしれん。ワルドの時もそうだったようにな。だが、戦う力のないあの子に、怪獣共に立ち向かうなどという愚かな考えを捨てさせねばならん。
だがあの子のことだ。おそらく、周囲を認めさせたがっているがゆえに、無謀な道を歩こうとしている。それを強く思っているからこそ、簡単にわしの決定に頷いてくれないのだろうな」
遠い目で窓の外を眺めながら公爵は厳格な姿勢から、どこか穏やかな口調で言う。娘の、陛下の命令で怪獣や異星人対策の任務に出ていると聞いたときは、顔に出さなかったものの驚いていた。そして…なんとしてもそのような危険な道から娘を遠ざけねばと考えていた。
「ルイズ、お前は怪獣が何度も出る場所にいてはならぬ。立ち向かうなどしてはならぬのだ。ましてや、お前には魔法の力がなかったのだぞ」
ここにはいないルイズに、切なる願いのように公爵は呟く。

脳裏に、若き日の光景が浮かぶ。
まだ若かった頃の自分たちを見下ろす、巨大な恐ろしい影を。

「……そう思うのなら、どうしてあの子は、あなたの考えに逆らうような我儘娘になったのでしょうね?本当なら、自分のしていることの重大さと危険性がわかるはずだというのに」
すると、公爵夫人の口から冷たい言葉が飛んできた。
「へ?」
惚けたような声を漏らしながら、公爵は目を丸くして妻の方を振り返る。見なければよかったと、直後に後悔した。妻の顔が無表情のはずなのに、鬼のような形相よりも恐ろしいプレッシャーがほとばしっていた。
やばい。公爵は妻の気迫がもはや自分からみて、怪獣さえもかわいく見えてくるほど恐ろしく感じるあまり、なんとか押さえてほしいと切に願うが、一度スイッチが入ると最後まで収まらないのは娘と同じだった。
「ルイズがあのように私たちに反発するのは、直接教育を施した私に責任があります。
でも、思えばあなたもあなたですね。家を大事にせよと申しておきながら、結局娘を甘やかすことが度々見受けられました。カトレアならまだしも、エレオノールにもその辺りが顕著でしたわ。初めての愛娘だからといって…おかげでエレオノールは中途半端な厳しさと自分の気性の荒さをコントロールできない癇癪娘になり、この前のバーガンディ伯爵の婚約もそれが災いして破棄になってしまう始末。長い間黙ってみてきましたが、最早看過できません」
「い、いや…カリーヌよ。その…」
言い訳を考えている時だった。
フレデリックに化けていたセミ人間のレーザーガンによる爆発が、屋敷の中の人間たちに伝わった。
「な、なんだ…今の爆発は?ルイズか?」
現地の様子を知らない公爵たちからすれば、爆発=ルイズの構図が大きかったが、カリーヌは冷静に否定を入れた。
「いえ、ルイズの爆発とは違いましたから、賊でしょうね。すぐに衛兵を…」
母直々に魔法の講師をしていたこともあってか、娘の失敗魔法の形や音さえも把握していたらしい。カリーヌは部屋の棚の上に置いてある呼び出しのベルを手に取ろうとした途端だった。
「か、カリーヌ!!」
外を見て驚いた公爵が声を荒げる。一体何事かとカリーヌは窓の外を眺めると…。
「ッ!」
さっきまで涼しい顔だった彼女の顔も、心の焦りを生みかけるほど息をのんだ。

その時、外にある存在が姿を現していた。
トリスタニア方面に頻繁に出現する…『怪獣』が。




カトレアの部屋にて、ルイズの爆発の揺れにムサシたちも驚いた。
「ルイズの魔法…?いえ…その割には…」
ルイズは魔法を使う度に、爆発しか起こせないことを知っていたカトレアだが、今の魔法がルイズのものではないとすぐにわかった。普段ならルイズがいきなりなにかをやらかしたと思うものだが、このときのカトレアは、今の爆破がルイズの失敗魔法とはまるで違う気がし、嫌な予感がよぎっていた。
「ムサシさん、なにかがおかしい気がするの」
「おかしい?どういうことです?」
「ルイズの身に何かがあったような気がするわ」
カトレアの表情が不安で曇り出す。その不安はハルナにも伝染した。
「平賀君…!」
ハルナは、さっきまでの躊躇いを打ち消し、サイトを追ってカトレアの部屋を飛び出した。
「は、ハルナちゃん!だめだ、戻って!」
ムサシやピグモンの呼び掛けも届くことはなかった。
「ピピィ!」
「…仕方ない!カトレアさんはここにいてください!ピグモンはカトレアさんを守ってて!」
「ピィ…」
「え、ええ…」
ムサシは飛び出したハルナを無視できず、カトレアにはここで待つように言い渡すと、自らも部屋を飛び出した。


「目的はなんだ!ルイズを解放しろ!」
サイトはデルフの刃先を向けながら、セミ人間に向けて怒鳴った。
「すでに理解していると思っていたのだけどね。この世界は文明こそ遅れてはいるが、他の星では見られない特別な力があることは」
それに対し、セミ人間はさも当然のごとく言い放った。
「この世界の人間には、他の星では見られない特別な力…魔法だったか、それを持っている。その謎を解明し我がものにできれば、他星への侵略計画に大いに貢献できるだろう」
「てめえ…」
ボーグ星人と同じタイプか。サイトは不快感を抱く。
「しかもこの娘、話によると他にはない特別な力があるそうじゃないか。しかしただ近づくだけでは警戒されかねない。だから本物のフレデリックを殺して成り代わっていたのさ」
目的はルイズの虚無の魔法、そのために罪もない本物のフレデリックを殺害したのか。ますますサイトはセミ人間への怒りを募らせる。
「許さねえ…」
ワルドといい、こいつといい…ルイズが可哀想すぎる。一体どれだけ人を弄べば気がすむのだ。
「許さないというなら、どうするっていうんだい?」
「決まってる。宇宙の悪は懲らしめてやるだけだ!」
サイトは改めてデルフを構え、セミ人間に飛び掛かろうとした時だった。
「気の早い奴だ。僕が無策で来ると思っていたか?」
剣を向けられてなお、余裕の姿勢を崩さないセミ人間は指をパチンと鳴らすと、大きな地響きがヴァリエール領内で発生した。
そして、地底から一体の巨大な怪獣が、ヴァリエールの大地に姿を現した。
「れ…レッドキング!!」
サイト自身見るのは初めてだが、地球ではなじみ深くもあるその恐ろしい怪獣の名を呟いた。
「ギャオオオオオオオオ!!」
『どくろ怪獣レッドキング』。かつて初代ウルトラマンと、怪獣ランドと化した多々良島で戦った、すさまじいパワーを持つ怪獣だ。
「平賀君!」
そこへ、ハルナまでもがサイトらのもとにやって来た。
「ハルナ!…バカ、逃げ…!」
なぜ来たのだ。降りかえって逃げるように促すサイトだが、ムサシの叫び声が響く。
「サイト君、危ない!」
同時だった。レッドキングがサイトに向けて蹴りを放つと、奴の足は地面を抉る。
今の攻撃に対する対応が遅れたサイトは回避できず、抉られた地面もろとも大きく吹き飛ばされた。
「ぐあああ!!」
芝生の上を転がり、なんとか立ち上がるサイト。
「サイト…!」
傷付くサイトを見て思わず叫びかけるサイトだが、直後にセミ人間から痺れで動けない体を引っ張りあげられる。
「さて、行きましょうかルイズ様」
「は、離してよ!」
「なぜ?あなたは言ったはずだ。ここから出たいと。
なら、私と来れば問題はあるまい」
セミ人間はまるで自分が善意に行動しているかのように言う。
「自分を認めない家族など、いらない。あなたはそう思っていたはずだ。違うか?」
「そ、それは…」
セミ人間の心を見透かすような言葉に、ルイズは自自身の心が揺らぐのを覚えた。
「だったら、僕があなたに代わって消して差し上げよう。あなたの枷でしかない家族を、すべてを」
それはセミ人間の残酷非道な精神を体現した言葉だった。
「やれ、レッドキング」
セミ人間はレッドキングに命じると、レッドキングは吠えながら地面の土を抉って手の中で固め、大きなつぶてを、屋敷に向けてそれを投げつけた。
「!」
ルイズは目を見開いた。幼い頃から住んできた屋敷が壊されていく。そこにあるのが当たり前だった家が…
しかも、今レッドキングが攻撃を加えたあの位置は!


「ルイズ…」
カトレアは、窓の外を遠い目で憂いながら眺めていた。サイトにはちゃんと妹を託してきた。でも、できれば自分もルイズの力になりたいと思うのがカトレアの姉としての本音。だが知っての通り自分は病弱な体だ。ムサシのおかげで、以前よりは元気に歩けるようになったが、それでも油断するとすぐに今朝の会食の時のように倒れてしまう。
「ピピィ…」
そんな彼女を、ピグモンは支えていた。
「カトレア、寝ていなくちゃダメじゃない」
すると、カトレアの部屋をエレオノールが尋ねてきた。家にいる間は、少し時間を置くたびに、様子を見に来るのだ。
「大丈夫よお姉さま。少し外を眺めていただけだから」
「だめよ、少しの油断も許しては置けないわ。ピグモン…だったかしら。カトレアをベッドに寝かして」
さっきよりは顔色は良くなってい入るが、それでも心配だ。エレオノールはすぐにカトレアをベッドに連れてくるようピグモンに命令すると、ピグモンは一鳴き入れてからカトレアをベッドに連れて行った。
「それにしても、チビルイズったら、いったいどこに行ったのかしら」
一安心し、今度は窓の外を眺め出すエレオノール。彼女は、叱られたルイズがどこに隠れるのかまでは把握していない。ここから見える場所にいればいいのだがと、外を眺め始める。
その時だった。窓の外に、突然巨大な怪物が…レッドキングの姿が現れる。
「か、怪獣!?このヴァリエール領にまで…!!?」
ここしばらくトリステイン国内で怪獣の出現頻度が高いことは知っているが、それはあくまで王都周辺。まさか自分の領内にまで怪獣が現れるとは思いもしなかった。
そして、レッドキングは驚くエレオノールたちの存在も状態も無視し、その剛腕を振りかざしてきた。
直後、カトレアの部屋は崩落を起こした。


「ちい姉様ッ!」
レッドキングが攻撃した屋敷の箇所はなんと、カトレアの部屋だった。家族の中で自分を優しい愛で包んでくれた人。その人かいる部屋が、粉々に砕かれた…
「い、いやあああ!!」
ルイズはたまらなくなって悲鳴をあげた。いつも花のような笑顔を向けてきた姉が、同じ女性としても自分にとって憧れの存在が…!
さらにレッドキングはたて続けに屋敷に攻撃し、屋敷を破壊していく。
「カトレアさん!ピグモン!」
サイトを起こしたムサシも、非情な現実に絶句する。
「ちい、姉様…」
「これはあなたが望んだことだ。家族を邪魔だと考えたあなたの願いを、僕が叶えただけ」
絶望を抱くルイズだが、そんな彼女に追い討ちをかけるようにセミ人間は非情な言葉をかける。
その言葉は、ルイズの心に突き刺さる。
「私の…せいで…」
私が、願ったから?私が家族を邪魔だと思ったから?だからカトレアは…!?
「もうあなたはこちら側の人間だ。もはやこのラ・ヴァリエールの地は、あなたの帰る場所ではなくなったのですよ。あなたが、ここを出たいと願い、私がそれを実現させたのですからね。
果たして、家族を見殺しにするような輩を、この世界の誰が受け入れるのですか?」
セミ人間の言葉が心に食い込み、ルイズの心の影が濃さを増していく。自分が…家族を邪魔だと思ったから…そう思ってしまわなければ、こんなことにならなかったのか?
「あ、ああ…」
カトレアが今のレッドキングの攻撃で崩れた屋敷と共に消えていくのを、身動きを封じる体の痺れも忘れ、ルイズの絶望を煽っていくセミ人間。
「安心なさい、僕らはあなたを迎え入れましょう。そして、我々の力としてその破壊的な力で、我々による宇宙征服を実現しようではありませんか!」
最後に自分達の陣営へ招き入れようとする。
ルイズは、自分に向けて怪しい眼光を光らせるセミ人間を見た。その怪しさと不気味さしかない眼光さえ、自分を導く光にさえ見えてくる。
「ルイズ、耳を貸すな!」
「ルイズさん!」
「ルイズちゃん!」
「ふぅ、耳障りですね。レッドキング。そこにいる邪魔者をさっさと殺せ」
サイトとハルナが叫ぶと、耳障りとばかりにセミ人間はレッドキングにサイトらへの攻撃を命令した。
レッドキングはご主人の命令を聞き、サイトたちに近づく。
変身するしかないか?自分たちに近づいてくるレッドキングを見上げながら、サイトが懐に忍ばせているウルトラゼロアイに触れようとするが…。
いや、だめだ。ムサシはともかく、ハルナの前でゼロに変身したら…。
迷っている間に、サイトが懐からゼロアイを取り出しかけた手に向けて、一発の弾丸がぶっ放された。
「ぐあぁ…!!」
ウルトラゼロアイを弾き飛ばされ、さらに続けて蹴りがサイトの腹に入り、彼は思い切り蹴飛ばされた。
「平賀君!」
「だめだハルナちゃん!ここは危険だ!逃げて!」
撃たれたサイトを見て、ハルナが駆け寄ろうとするが、ムサシが後ろから彼女を強引に引っ張り、安全なところまで避難を始めた。
「ふ、そうはいかないぞ?」
セミ人間はサイトを蹴飛ばした際に宙を放り出されたウルトラゼロアイを片方の手にキャッチし、スペースガンの銃口をサイトに向けていた。サイトが変身するのを見抜いていたのだ。
「くそ…!」
変身できなければ、レッドキングに立ち向かうことさえもできない。ルイズに囚われの身となっており、万事休すか!?
…いや!諦めてたまるかよ!!俺は…

俺は…ゼロのルイズの使い魔で、ウルトラマンだ!

瞬間、サイトの左手のガンダールヴのルーンが青い輝きを解き放った。
「ぬ!?」
そのまぶしさに、セミ人間は目を手で覆い隠して動きを止める。光が収まったのを感じて目を再度開くと、既に安全な場所へ避難したムサシとハルナはともかく、サイトの姿がどこにも見当たらなかった。
「くそ、どこへ消えた!」
侵略者たちにとって、ウルトラマンほど邪魔な存在はない。だから奴は確実に殺さなければならない。奴が…サイトがどこにいるのか、周囲を見渡して確認する。
すると、頭上からなぜか小さな影がのしかかってきた。まさか!セミ人間は頭上を見上げる。
「なに!?」
頭上だと!さっきのガンダールヴのルーンの光で目がくらんでしまったとき、サイトは地面を蹴って空高く飛び上がっていたのだ
「うおおおおおお!!」
既にデルフをセミ人間に向かって振り下ろしていた。セミ人間はやむを得ず咄嗟に避けるが、捕獲対象としていたルイズから離れてしまった。
「ルイズ!」
サイトは、すぐにルイズのもとに近づいた。
「なんで、なんで来たのよあんた!」
顔を上げてサイトの顔を見ると、我にかえったルイズは驚いたように声を上げた。
「なんでって…当たり前だろ?俺はお前の使い魔なんだから。
それより、こいつぶっ倒して学院に戻ろうぜ」
サイトはそういうが、ルイズはすぐに彼から視線を背けた。
「無理よ…もう行けないわ」
「はぁ?」
「だって…私、自分の家を捨てようだなんて言ったのよ。公爵家の娘なのに、自分の家を疎ましく思うなんて、貴族の恥だわ。しかもそのせいで、ちい姉様が…」
サイトはルイズのちい姉様と聞いて、一部が崩れてしまった屋敷を見る。あの位置はカトレアの部屋だ。さっきのルイズの軽率な言動を、セミ人間はわざと行動に移してルイズを追い詰めたのだと、サイト=ゼロは悟り、セミ人間への怒りを募らせる。
ルイズは自己嫌悪を続ける。
「こんな私がいったいこれから何のために頑張るっていうのよ。
こんな私じゃ、姫様の汚点にしかならないじゃない…。
それに…たとえ頑張ったって、家族に虚無の事を話せない。家族からはいつまでたっても『ゼロのルイズ』のままで、誰も認めてくれないじゃない。
私みたいな女なんか、どこへでも消えてしまえばいいのよ…」
「…ったくこいつは…」
しかし今回のことを抜いて考えても、ルイズは意地っ張り故にすぐにいじける傾向がある。サイトはため息を漏らしてルイズの頬を両手でつかんで自分の顔を見せるように、彼女と目を合わせる。
「ちょ…!」
まるでキスをしてきそうなサイトのいきなりの行動に、ルイズは思わず胸が高鳴ったが、すぐに「ちょ、離してよ!」と喚くが、サイトは構わずに続けた。
「たとえ世界中の誰もが認めなくても、俺が認めてやるよ。俺がお前の全部を肯定してやる。もしお前が間違いを犯したら、俺が止めに行ってやる。だから立てって」
思わずその男気あふれる台詞にボーっとしかけたルイズだが、ヴァリエールに連れ戻される直前の、サイトとハルナの二人きりのやり取りが蘇って、すぐにそれを信じられない自分が出てきた。
「嘘つかないで!!何が認めてやるよ!」
どうせ、自分みたいな胸も心も背も小さい女の子なんかより、ハルナやシエスタのような、女の子らしい女の方がいいに決まってるだろう。ルイズは伸ばされたサイトの手を振りほどこうとするが、それでもサイトは離さない。
「本当に俺のご主人は馬鹿だな」
「な、誰が馬鹿よ!」
さっきよりもじろっと自分の目を睨むように見つめてくる。
「な、何よ…!」
「ルイズ、俺はもう失うのはたくさんだ。ましてやこの世界に来てからずっと一緒だったお前が、こんな形で俺の前から消えるなんて納得できるか…」
地球では、どこにでもいるただの高校生だった。普通に生きて、適当に就職して…、どこかの誰かと結婚して家庭を築いて、その子供たちも成長したら残りの人生を天寿を全うするまで費やす。そんなふうに生きるはずの普通の人間だった。でも……サイトは幾度も怪獣災害に見舞われる世界で生まれた故、誰もが望むであろう普通の生活さえもできなかった。ずっとそばにいるはずの両親を失って心に深い傷を負ったその時から、彼の日常は完全に普通のものではなくなった。
年頃の男子らしいところもあるが、自分以外の誰かが傷つくのも消えるのも許せない、心優しい…まさに物語の主人公のような男に育てた。

「また、たった一人の女の子を守れないで………

お前の使い魔なんかやってられるかよ!!」

「……サイ…ト……」
熱き言葉が、ルイズの耳を突きつけた。
と、その時だった。サイトの肩に閃光が走った。
「ぐ!」
「サイト!?」
膝を付くサイトに、ルイズが寄り添う。彼の肩に傷が入っていた。閃光が飛んできた方角であるサイトの後ろを見ると、セミ人間がこちらにレーザーガンを構えていた。
「このガキ、よくも邪魔をしてくれたな…!!」
今のサイトはデルフを握る手も弱まり、肩を負傷してしまって、今度こそ詰みの状態だった。だが、それだけじゃない。セミ人間はもう片方の手に、ガンモードに折りたたまれたウルトラゼロアイの銃口をサイトに向けていた。
「…せっかくだ。このアイテムで貴様に止めを刺してやるッ…!」
邪魔をされてかなり不機嫌層な様子がうかがえたが、自分の勝利を確信したのかすぐにほくそ笑むような声を漏らしている。
しかし、そんな彼らの前に、一迅の風が巻き起こった。
「うわ!?」
「きゃあああ!!」
「何!?」
「ギャオオオ!!?」
竜巻、まさにそれだった。目もあけることさえもままならなかった。しかし突然の突風には、セミ人間もそうだが、あと一歩でサイトたちに止めを刺そうとするレッドキングさえも驚いて後退っていた。
「戯言はそれで終わりか?」
クールな女性の声が聞こえる。サイトたちは目を開けると、レッドキングと比べて小さいものの、人間と比べると十分に大きな体をした獣が、その背に女性を乗せていた。
しかもその獣はただの獣ではない。ハルケギニア以外で見かけるとしたら、おそらくRPGやそれの元ネタとなった神話の関連資料くらいだろう。獅子の頭と鷲の翼、蛇の尾…ハルケギニアの幻獣マンティコアだった。
「ルイズの…お母さん…!?」
そのマンティコアに乗っていた女性は、ルイズの母カリーヌだった。
「下がりなさい。私の風は常人には強すぎます」
背後にいるサイトたちに忠告を入れ、カリーヌはセミ人間とレッドキングを睨んだ。
「お母、様…」
自分の母が、ここに現れたことに驚いた様子のルイズは呆然としていたが、すぐに声を荒げた。
「ど、どうしてここに来たのですか!私が何をしたのか…」
自分がさっき何を言ったのか、母だって聞いていたはずだ。一切の望みさえ許容しようともせず自分を縛りつけようとする家を捨てようとする
「お黙りなさい、ルイズ。罰なら後で言い渡します」
しかしカリーヌは娘に有無を言わさずにぴしゃりと言い放つ。その鋭い視線に、ルイズは何も言えなくなる。家から出たいと願った後でも、やはり母とこうして真正面から逆らうことだけはできないようだ。
「おぉ、誰かと思ったら公爵夫人ですか」
セミ人間はフレデリックの姿に化けていた時と同じ声だが、それでも本来の不遜な本性を露わにしてカリーヌを見た。それに対して、
「まさか、最近噂となっている異星人とやらがこのヴァリエール領に侵入してくるとは…のこのこ連れてきたあの人もですけど、見抜けなかった私も私…か」
星人がルイズの婚約者を殺害して成り代わっていたことに気付かなかった夫のあってはならないドジに呆れを覚えつつも、自分もまた同じだと痛感していた。だが、今はいちいち悔やんでいる場合ではない。ルイズを取り戻さなければならないのだ。
「まさか、魔法ごときで僕とレッドキングを倒すなどと寝言を言うのではないでしょうね?それに、わかっているのですか?こちらにはあなたの娘もいるんですよ」
「……」
ついにはルイズを人質扱い。いざというときは、誘拐対象でもあった彼女を盾にする気なのだ。余裕をこいているセミ人間に、カリーヌは杖を構えたまま答えない。
「まぁいい。娘さんはもらっていきますよ。貴族の息女程度にしか見ていないあなた方よりも有効利用してあげますからご安心を。
レッドキング、やれ!」
「ギャオオオ!!」
セミ人間はレッドキングに、今度はカリーヌに攻撃するように命令した。主からの命令を受け、レッドキングは、今度は屋敷の瓦礫を持ち上げ、カリーヌに向けて投げつける。
しかし次の瞬間、レッドキングやセミ人間に暴風が襲いかかってきた。
いや、正確にはセミ人間の足もとから大竜巻が巻き起こっていた。
「ぬおおおおおおお!!?」
「ギャオオオ!!!?」
突然足元から巻き起こった竜巻により、ルイズとセミ人間は、遥か上空に舞い上げられた。
その風は、レッドキングが自ら投げつけた瓦礫を、彼の顔面に跳ね返してしまう。顔面…いや、自分の大きな図体と異なり小さな頭に瓦礫をぶつけられ、レッドキングは悶絶してしまう。
「うそ~ん…」
ゼロが驚きの際に口にする言葉を、サイトが思わず口にしてしまう。どれほど高かっただろう。ビルの屋上の高さまで舞い上げられたセミ人間は当然ながら悲鳴を上げながら隕石のように落下していく。
「おでれーた!こんな飛んでもねぇ風、今まで見たことねぇぜ!」
魔法に詳しいデルフも、カリーヌの放つ魔法を目の当たりにして驚きを露わにしていた。
さらに、落下の際にセミ人間は、サイトから奪い取ったウルトラゼロアイを手放してしまう。
「れ、レッドキング!」
落下中のセミ人間は立ち上がったレッドキングに、落ちていくウルトラゼロアイを取るように命じるが、レッドキングが立ち上がったその時には、カリーヌの乗せたマンティコアが飛来、ウルトラゼロアイを左手でキャッチしていた。
カリーヌは手にしたサイトのウルトラゼロアイを見る。
「……この眼鏡は……」
握っているだけで、恐ろしくもどこか安心感を与える、不思議な力を感じた。
だが、カリーヌにとってそれだけのものじゃなかった。
似たようなものを以前にも見たことがあるのだ。
(もしや…)
彼女はその眼鏡を見て、自身の中にある予想を立てるも、そのままルイズとサイトのもとへ、カリーヌはマンティコアを下した。
「母様…」
「ルイズ」
ルイズは、先ほど罰を言い渡してきた母を恐れた。両親らの意見に逆らい、セミ人間にみすみす捕まり、自分の軽挙な発言でカトレアが部屋もろとも攻撃された。それらのことが重なり、ただでさえ恐怖の対象でもあった母がより強い恐怖に思えてならなかった。
しかし、カリーヌはルイズに視線を合わせず、じっと敵の様子を観察しながら娘に言った。
「あのような戯言を、間に受けるようではまだまだですよ。あなたは悪くありません。屋敷の攻撃は、あの怪人が勝手に行ったこと。あなたが気に病むことではありません」
「でも…」
自分が家族に、一度自分が家を出たいと望んだとはいえ、追放されても仕方のないほどの迷惑をかけてしまったことは事実だ。こんな事態を招いたのも自分のせいだと悔やむ気持ちを口にしようとするが、母の口から信じられない言葉が出てきた。
「…いいのです、ルイズ。人である以上、そのように思うことくらいはあるでしょう。
無論、なんでもかんでも自分の我儘を通すようでは規律を通せないですけどね」
「え?」
思わず顔を上げるルイズだが、母の顔を目で見ることはできなかった。
気が付いたら、自分は母にそっと優しく抱きしめられていた。同じだった…家族の中で自分が最も心を開いていた、カトレアと同じ…いやそれ以上の大きく暖かな温もりがそこにあった。
「…無事でよかった。本当に…」
優しい母の声が、聞こえた。だが、精神的にも疲労が溜まっていたルイズには、だんだんとその声が幻のように遠くなり、彼女は母の中で幼子のように眠りについた。
「今はゆっくり休みなさい。ここは、あなたの家なのですから」
カリーヌは優しく娘を抱きしめた後、マンティコアの背に乗せた。
「ルイズを安全な場所へ。そこにはハルノたちもいるはずです」
マンティコアはカリーヌの命令を受け、その場から飛び去って行った。
あれ?とサイトはその時、あることに気が付いた。てっきり自分も、あのマンティコアに乗せてもらい、安全なところで身を隠してもらうことを勧められるとばかり思っていた。だが、あのマンティコアはルイズを乗せてそのまま行ってしまった。もしや一緒に戦うのを頼まれる流れなのか?
「使い魔さん。あなた…名前は?」
すると、カリーヌはサイトの方を振り返って彼に名前を尋ねてきた。
「え、あ…平賀、才人です」
思わず妙に緊張して礼儀正しくなり、名前を明かすサイト。
「ヒラガ・サイト…ですか。ふむ…」
カリーヌはじっとサイトの顔を覗き見る。何を考えているのかさえも読み取らせない無表情でじっと見られ、サイトはレオから戦士としての視線で睨まれた時のプレッシャーを思い出した。
「あ、あの…何か…?」
一体何を思っているのか、彼女が何を言いたいのかサイトが尋ねる。
「あなたを見ていると、『彼』を思い出しますね」
「え?」
彼?何やら妙に意味深な言葉だが、カリーヌはすぐに首を横に振った。
「…いえ、なんでもないわ。それより、これはあなたのですね?」
そういってカリーヌは、サイトにウルトラゼロアイを手渡した。
「あ、すみません…」
頭を下げ、サイトはカリーヌに感謝の言葉を述べながらゼロアイを受け取る。しかし、カリーヌはいえ、と首を横に振った。
「使い魔とはいえ、娘が世話になっていますね。ですがこれくらいの礼など、細やかなものでしかありません。
まして、あなたの行動で常日頃この国がどれほどの恩恵を受けているかなど」
「え…?」
サイトとゼロは耳を疑った。そうとしか思えないような言葉だった。
『…まさか、この人…』
自分たちのその予想を彼女にぶつけてみようとしたが、カリーヌはその前に背を向ける。
「私はなにも見ていないわ。その間にあなたが何をしようとも…どんな姿となろうとも」
「……」
サイトはカリーヌに何かを言おうと思った。けど、それ以上は語る暇はなかった。すでにセミ人間を方に乗せ、レッドキングが動き出してこちらを今度こそ殺しにかかろうとしていた。
「ゼロ、行こう」
『あぁ…』
ムサシに問うた、誰かを救う・守るための方法なんてまだわからない。
それに気になることを耳にしたが、今は目の前の敵をどうにかしなければ。レッドキングを見上げながら、カリーヌから受け取ったウルトラゼロアイを開く。

守るべきものを守る。
ゼロのルイズの使い魔として。
ウルトラマンとして。

「デュワッ!!」
サイトはウルトラゼロアイを装着して光を身に纏い、自分のもう一つの姿…ウルトラマンゼロへと変身した。
その巨大な背中を見て、カリーヌは呟いた。
「やはり…似ている」

『彼』に…。
 
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