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魔弾の王と戦姫~獅子と黒竜の輪廻曲~

作者:gomachan
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第11話『異端の烙印~ガヌロンからの招待状』

 
前書き
今回は短めですが、なるべく継続して投稿するようにします。
後日、オリジナル設定誕生秘話『凱とガヌロンのテーマ(仮)』を、この話に投稿します。
まめにチェック願います。
 

 
弓を携えた英雄は弦音をかき鳴らし、女神を揺り起こす目覚めの唄を奏でる――
銃を構えた勇者は銃声を響かせて、女神を褒め称えり祝砲となる――

黒き弓を携えし魔弾の英雄よ。
黒き弓の一撃は、直死の魔弾。

黒き銃を携えし魔弾の勇者よ。
黒き銃の一撃は、生命の弾丸。

二つの魔弾は一つとなりて、英雄と勇者はこう唱えるだろう。

――ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ・ウィータ・ウィル!!――

撃ち抜け!時代を超えて!













『アルサス・とある有力者の一室』





「今……なんと申されました?」

我が耳を疑うように、アルサスの有力者の一人は問い直した。この人物は、かつてザイアンがアルサスに攻め込んだとき、停戦交渉に挑もうとした有力者の一人だ。凱によって救われた者の一人でもあった。

「おや、声が遠いようでしたな?ならばもう一度聞かせて差し上げましょう」

今、アルサスに代官が足を踏み入れていた。先頭に立つ人物が、形式整った洋紙を突き付けて、に再度通告する。
洋紙の正体は、『審問認可状』だった。

「ブリューヌにて学舎を開きし――シシオウ=ガイ――と名乗りし者。彼の者には異端であるという告発と嫌疑がかけられております」

有力者は絶句した。
獅子王凱。彼はアルサスにふらりと現れて、今まで降りかかっていた災厄を払いのけた人物。大人の間では無名の英雄、子どもの間ではドでかい勇者(ヒーロー)と噂が浸透している。戦いの終わった後も、神官が不在となったアルサスの子供達に、文字の読み書きを教えている。
寄進という形で前任者にお金を払っていたが、こういう形で神官たちのお金に対するがめつさ、つまり、不都合に対する処置が露見するなど、誰が予想しただろう。
ふざけるな!そう叫びたかった。
凱はなんの見返りもなく、読み書きを伝播してくれた。
そんな有力者の感情を無視して代官は言葉をつづける。

「彼の者はこのような疑惑がある」

一つ。彼の者が罪なき民草に広げている文学の数々は、神々の英知を侮蔑するものなり
二つ。彼の者が進める「キョウイク」なるもの。神々の忠実なる僕である神官の教え給うものにあらず。邪なる異教の教えを含むものなり。
三つ。彼の者が教える「カモク」なるもの。これは神殿の権威を侮蔑するものなり。
四つ。ブリューヌ王都には「シシオウ=ガイ」なる学者を派遣した記録はない。
以上の告発と疑惑に基づき、「シシオウ=ガイ」なるものは異端である疑惑は十分である。

ブリューヌ王統政府・宰相ピエール=ボードワン。及びブリューヌ法王丁・司祭長マクシミリアン=ベンヌッサ=ガヌロン。

「宰相閣下と、公爵閣下……」

この二人が、獅子王凱を異端嫌疑?
どのようにして凱の存在を察知したのか、その疑問をかき消すかのように、理不尽なやり方から生まれる激情の波が生まれた。
なぜ?
どうして?
あの人がこのような目に合わなければならない?
感情を抑制しきれなくなった有力者たちは、次々と罵声を吐きまくった!

「……あなた方は!無法にもテナルディエ軍がアルサスに侵略しに来た時、騎士団は誰一人駆けつけてくれなかった!」

「それに比べ!ガイさんはたった一人で!テナルディエ軍に立ち向かったんだぞ!アルサスを護る為に!」

「騎士なんか信じられねえ!陛下に忠誠を誓うティグル様を助けようとしないなんて!」

水が沸騰するかのような抵抗射撃に、代官たちはたじろいたかと思いきや――

「ならば、その言葉を国王陛下にお伝えしよう」

「「「な!!!」」」

水を打ったかのように、静まり返った。
流石に代官のこの切り返しは、反対勢力共を呆気に取らせた。

「何の権利があってあんたたちは!?」

「今の私たちはいわば使者だ。私の言葉は陛下の言葉であり、私の目と耳は陛下のものなのだ」

毅然とした態度は、さらに肥大する。

「いかに貴様等が何を申し立てしようが、この通告を拒絶する事まかりならん!!」

ふざけた理不尽。ねじ伏せる無秩序な理論に、思わず歯噛みしてしまう。

「ぐぬぬぬ!!」

「用件は伝えた。では10日後までに彼の身柄の引き渡しを頂きますよう――」

規律の整った踵返しで来た道を戻っていく。そして彼は戸を開き、外へ出て、アルサスを出て王都へ戻っていく。
その不遜極まりない後姿を見送ったアルサスのみんなは、これからの展開に頭を悩ますこととなった。
異端嫌疑。つまり、嫌疑者を庇い建てすれば、その者の身内も嫌疑にかけられる。叛逆者とは扱いが違うのだ。

「これ……ティッタちゃんになんていえば……」

「俺たちが……ガイさんが……一体何をしたっていうんだ?」

今後の情勢を憂う暗雲が、確実にブリューヌを覆い始めている。
翌日、この知らせを受けた町の有力者たちは、重い足取りでヴォルンの屋敷へ訪れた。
信じてきた国が信じられなくなったとき、始まるのだ。民草が新たな時代へ駆けあがる戦いを――





『翌日・アルサス中心都市・セレスタ』





先日訪れた代官の言葉を受け、凱は歯ぎしりした。それは、何に対する怒りなのかはわからない。

「こいつはうかつだった。この展開は俺の責任……」

ぼやく凱の隣にいるオージェ子爵が、苦々しく語る。
この場に居合わせているのは、凱、ティッタ、オージェ子爵、ルーリック、バートランだ。皆ティグルとエレンの帰還を待ちわびている、信頼熱き人物たちだ。

「ガヌロン公爵にボードワン宰相。この両者の名が異端勧告書にあるという事は、一体どういうことか?」

人当たりのよさそうな老人の質問に、青年は厳しい語調で回答する。

「ええ。ブリューヌは「国王陛下の領地を臣民に貸し与える」封建制度でしたね」

オージェ子爵はコクリとうなずく。マスハス卿も、オージェ子爵も、ティグルヴルムド卿も、王に忠誠を誓う代わりに、領土を貸し貰い受けたのだ。現在、マスハス卿はティグルの申告状を王都へ届けている最中だ。今頃、きっと王都ニースへ入城を果たしているはず。

「その制度の極端な出来事が目に見える形で現れた……という事です」

意味深い凱の推測に、オージェは首を傾げた。

「どういうことか?」

「王都とて勢力が乱立する状況は好ましくありません。ティグルヴルムド卿も今ではテナルディエ公爵、ガヌロン公爵に続く国内の第三勢力です。貸し与えた領土、自治権を認められて勢力を強めていった結果。極端な例を挙げれば、テナルディエ公爵家とガヌロン公爵家がそうです」

要するに、ブリューヌの双璧以外の勢力、自立を強めつつあるアルサスが邪魔になりそうなので、芽が出る前に種を取り除こうという魂胆だ。

「それとティグル……ティグルヴルムド卿も叛逆者としての罪に問われるのも時間の問題です」

アルサスを護る為とはいえ、ティグルは自領をジスタートに売り渡した叛逆者となる。以前、凱がティッタに伝えたことだ。
叛乱を起こすかもしれない。ジスタートが侵略者となるかもしれない。いずれの可能性を鑑みて、王国直属の討伐軍がやってくる。
ティッタが、思い詰めた顔でうつ伏せる。

――ティグル様が……叛逆者?――

――ガイさんが……異端者?――

どうして?

どうして……みんなの為に頑張っている人たちが、このような目に合わなければならないの?

「ティッタ?」

凱が心配そうに、自分と同じ栗色の髪の少女に声をかける。

「……ごめんなさい、ガイさん。こんなことになるなんて……」

「ティッタは何も悪くない。悪いのは、こうなることを分かっていながら、推し進めてしまった俺自身なんだ」

同じ栗色をした髪を持つ青年と少女は、対照的な表情で窓を見上げた。
凱は自身への苛立ちで顔をしかめて――
ティッタは凱に何も力になれない自分自身へのふがいなさで表情を暗くして――

「俺の事なら心配いらないさ。異端審問の護送隊が俺の身柄を確保してアルサスを出たら、適当なところ……何かの騒動と出くわすことが出来れば、いざこざに紛れて脱出できる。そうなれば責任はあいつらにあるしな」

単なる脱出では、異端元のアルサスを見せしめにする可能性がある。そうならないためにも、凱は土佐草(どさくさ)に脱出の最高の機会をうかがうつもりなのだ。

「それは……」「そんなことをしたら……」

ティッタが、バートランが、口々につぶやく。

「仕方がない。また流浪者(るろうに)に戻るさ。内乱にめどが付いたら、何とか顔だけは出すようにする」

そのように凱は明るく振舞おうとするが、やはり重苦しい空気は薙ぎ払えそうにない。

「……すみませぬ……ガイ殿。この老体一人で済む問題なら……」

「バートランさんもそんなこと言わないでください。それに今回は異端扱いです。あまり俺に肩入れすると、家族や関係者にも嫌疑がかけられる」

「ガイ殿!私はあなたと共にいきますぞ!」

今の話で同情したのか、感情極まってルーリックが鬼気迫る勢いで言う。

「ちょっと待てよルーリック。君はライトメリッツの中核じゃないか。君がいなくなったら戦姫様とティグルの支援はだれがやるんだよ」

冗談でもそうでないにしても、誰一人ついてこられてはまずい。凱はそう言った。

「それは……」

「それに、戦姫様もティグルもこれから戦う相手は強敵ぞろいだ。今以上に大変になるんだぜ」

ルーリックは思いとどまり、歯ぎしりする。
そして、バートランが何か思い立ったようにつぶやく。しかし、その口どりは何処か重々しい。

「ガイ殿……そなたの力なら、テナルディエ軍を追い払った力を使えば、そ奴らも恐れる必要などないはず……」

ドナルベイン一派を、ヴォジャノーイを、テナルディエ軍を蹴散らした勇者の力なら、何の問題もないではないかとバートランが主張する。

「バートランさん。()を通す為に力でねじ伏せる……それではテナルディエ軍とやり方は変わりません」

バートランは目を見開いた。彼だけじゃない。ティッタを含む全員が目を見開いたのだ。

「確かに俺はテナルディエ軍をねじ伏せた。しかし、命まで奪わなかった。戦って勝つとか、倒して奪うとか、だからといって、テナルディエ軍にアルサスを奪わせる気なんてないけど……」

どこか矛盾した言い方に、皆は凱の言葉に少し混乱した。それからルーリックに視線を合わせ、凱は言葉を紡いだ。

「多分、戦姫様は俺を警戒、侮蔑してるんじゃないかと思ってる……「殺さず」なんておかしいことをしたのだから」

戦場においては、全て生命の礼儀作法に関わってくる。
奪ったのなら、生命を以て償うべきで――
奪われたのなら、生命を以て取り戻すべきで――
自分を守りたいなら、相手を否定する。
でも、凱のやり方は、どっちも守りたいという子供じみた理想論だ。

「ガイ殿?まさか」

ルーリックは、凱の言いたいことがなんとなく理解できた。

(知らず知らずのうちに、俺は彼女の『これまで』を否定してきたのかもしれない)

この時、ルーリックの脳裏には、雷禍の閃姫と銀閃の風姫の確執が蘇ってきた。それは1年前というまだ色あせていない時間帯だ。
もしかしたら、凱の「不殺」がエレンの心に何かをひっかけたのかもしれない。

「みんな。とにかくこのことはティグル達に黙っていてくれ」

「どうして……どうしてなんですか?」

ティッタが重々しく、そして、悲哀調の口どりで凱に問いた。

「叛逆ならまだしも……異端はまずい。もう一度言うが、少しでも俺を庇いたてしようとすれば、その人達にも嫌疑がかけられる」

「そんな!」

こんなこと、誰しもが納得できるものではない。
アルサスを護る為に最も尽力してくれたのは、この人ではないか。
何の対価もなく、「助けて」という声に応える為に、秘めたる力を振るい続けてきたではないか。

「だからこそ、俺はおとなしく捕まる」

そして、約束の期日より前の日に、ティグル達が帰還する前よりも、凱の身柄を引き受けるグレアスト侯爵がアルサスへやってきた。





『明朝・セレスタの町・中央広場』





「すごい……ユナヴィールの村の人たちまで来ています」

複雑な感情を込めて、ティッタはつぶやいた。きっと、凱の異端認定の事を聞きつけてきたのだろう。ガヌロンの傘下であるグレアスト直々のお出迎えだ。凱を捕える為に来たと思っているはずだ。今回グレアスト侯爵は、ガヌロン公爵の名代として足を運んできたのだ。
そして、集まった村の人達がざわめいていく。

「そ、そんなことない!ガイさんが異端だなんて!」

「でも……王宮の人がそう叫んでいたって……」

「王宮?どうして?」

「ガイさんの教導は神の教えに背くっていったべ」

「だって、ガイさんがいなかったら、子供達はどうするんだったんだ?」

子供が「何もしない」という時間。意味もなく時間を空費することは、誰しも耐え難いことである。

「それに、ガイさんがいなかったら、テナルディエの奴らにうちの孫は殺されていたんだべ」

次々と、――凱がいなかった場合の、アルサスの未来――を告げる。
それらは、ありえた事実だったかもしれないし、ありえた場合でもあった。

「すごい人の集まりですな。あれは」

豆鉄砲を喰らったような顔で、ルーリックは言った。

「ガイ殿はあんなに慕われていたんだな」

オージェが言った。そしてティッタがふいにつぶやく。

「……私とガイさんがユナヴィールの村を歩いていると、笑顔で話しかけてくれるんです」

それは、こんなにも野菜が取れたよと――
それは、この畑はこんなにも作物の育ちがいいと――
それで、ジャガイモをくれたり、トマトをくれたり――
その日から、少しだけ、食卓が暖かく感じるようになりました。
そして、時折、盗み食いするガイさんを、ちょっぴり叱ったりしていました。

「みんな、ガイさんに話しかけてくれるんです。「優しい平和をありがとう」とか、「幸せをくれてありがとう」って」

「ティッタ……」

バートランが、涙腺を緩ませながら、凱と同じ栗色の髪をしている少女の名を囁いた。

「小さな子供をガイさんに抱いてほしいって、言ってくるんです。強くて優しい人になるようにって。あのお兄ちゃんのように勇気ある人になるんだよって、願をかけてくれるんです」

いつしか、ティッタの頬には熱い涙が伝っていた。小さな思い出が崩れていくかのような涙だった――
いつの間にか、凱という存在はアルサスの人々の心の奥底に、根付いていったのかもしれない。
心に根付いた人が連れられて行くその様は、まさに自分の心を刈り取られていく錯覚さえ覚えさせる。
本当なら、激情に任せて凱を庇いたてたい。しかし、それは出来ない。
凱に「だめだ」といわれているから。身内にも危害が加わるからといわれて――

(こんな時、ティグルヴルムド卿だったら……戦姫様だったらどうしたのだろうか?)

ふいに、ルーリックがそんなことを考える。
ここには、多くの人々が立場を抱えている。
ルーリックは、ジスタート軍の副官であり――
ティッタは、ティグルに仕える侍女であり――
バートランは、ティグルに仕える従者であり――
オージェ子爵は、テリトアールを治める貴族であるから――
異端の嫌疑を被っている凱を護ることはできない。
ティッタには、一介の侍女には、凱を庇う力がない。それがとてつもなく悔しかった。
どうしてガイさんが、アルサスのみんなを守ってくれたガイさんが、このような目に合わなければならないのか?
また、少女のハシバミ色の瞳から涙がこぼれ堕ちる。

(どうして……なんで……こんなに……あたしはなにもできないんだろう?)

ティッタのそんな小さな思いをかき消すかのように、獅子王凱は護送馬車へ連行されていった。

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