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魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者

作者:niko_25p
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第十九話 派遣任務 5

アスカside

オレが地面に埋まっている間に事件は解決した。

ロストロギアの封印もキャロがやって、回収も無事終了。

色々あった派遣任務も終了になり、さあ帰ろうとなる筈だったが……





魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者、始まります。









「なぜこうなった?」

オレはポツリと呟いてしまった。

なぜ、本当になぜ!?

オレは今、シグナム副隊長が運転する車の助手席に座っている。

どこに向かっているか?

海鳴市が誇る温泉施設、海鳴スパラクーアに向かっている。

と言うのも、

「シグナムとアスカ君はお風呂まだやろ?事件も解決したし、ゆっくり入っておいで」

八神部隊長にそう言われたからだ。

「部隊長の計らいだ、ありがたくいただくとしよう。それに、もう帰還しなくてはいけないのだからな。御友人との時間も欲しいのだろう」

なるほど。久しぶりの里帰りに、友達との再会。忙しい隊長達にとっては、僅かな時間でも長く居たい訳だな。

「まあ、オレは泥だらけだからありがたいですけどねぇ。結局やった事てって言ったら、バリア張って地面にめり込んだだけですから」

ハア、とため息をつく。もうちょっと活躍したかったなー。

「そう落ち込む事もあるまい。お前は充分に役目を果たした。初動の早さ、現場での行動、特に問題はなかったぞ」

シグナム副隊長はそう言ってくれたが、オレにその実感は無い。

けど、とりあえずそれはそれとして置いとく事にしよう。

「ま、汚れを落としたら少しは気が晴れますかねぇ?」

オレは外の風景を何となしに眺めながら、気のない声を出していた。





outside

シグナムから施設の使い方の説明を受けてから、アスカは男湯へと入って行った。

「使い方は分かってるんだけどなぁ……あんなにしつこく泳ぐなよ!って言うことないでしょ」

そんな事をボヤきつつ、アスカはロッカーに服を押し込み、洗い場で身体を洗った。

「えーと、露天はこっちか」

汚れを落としたアスカは、内風呂には目もくれずに露天風呂へ直行した。

「おぉ!広いな!」

外には、手前の壁側に子供用露天風呂があり、その少し先に普通の露天風呂があった。

「子供用って、ずいぶん細かい設定がされてるな」

そう言いながら、アスカは露天風呂に足を入れる。と、その奥に何やら奇妙な物を目にした。

「なんだ、これ?フェンス?」

大きな露天風呂のちょうど真ん中で、向こう側とこっち側を区切るように緑色のフェンスが設置されている。

フェンスはそのまま壁際まで伸びていて、向こう側には行けない。

「???」

訳が分からない。なぜ露天風呂にフェンスが、と思う。

が、結局分からないので、そのまま身を湯に沈める事にするアスカ。

「あ~、やっぱ風呂は露天だよなあ~」

アスカは手足を伸ばしてくつろぐ。マナーとして、腰まで届く黒髪は湯に浸からないように頭で止めている。

「これで混浴だったら文句なしなんだけどなー。色々問題だろ、それだと」

と一人突っ込みを入れる。その時だった。

「何だ、このフェンスは……え?」「え?」

どこかで聞いたような声がして、アスカは思わずフェンスの方に目を向けた。

そこには……フェンス越しに、ナイスプロポーションの上司が素っ裸で立っている。

完全に虚を突かれたのか、シグナムはポカンとしてしまっている。

「「…………」」

アスカも、呆然とシグナムと目を合わせて……自然と視線が下がる。

一瞬の間があり、

「「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

アスカは背を向け、シグナムはボチャンと湯の中にしゃがみ込む。

「な、な、な、なぜお前がここにいる!」

明らかに狼狽した声でシグナムが怒鳴る。

「だ、だ、だ、だってこっちは男湯ですよ!」

狼狽さならアスカも負けてはいない。思いっきりうろたえている。

「何を言っている!こっちは女湯だ!」

「そ、そんな事言われても……あっ!」

そこでアスカはフェンスの意味に気づいた。

「考え無しで広い露天風呂を作って、男湯お女湯が繋がっているのに気づいてフェンスを設置したとか?」

「………」

「それとも、元々混浴用に作ったのはいいけど、問題が出てフェンスを設置したのかもしれませんね」

シドロモドロになりながら言うアスカ。

「問題?」

「……その、いかがわしい問題……なんじゃないスか?」

アスカが言うと、シグナムは赤かった顔を更に赤くした。

気まずい雰囲気になる。上司と部下。しかも、さっきまで任務で一緒だった。

お互いにどうすればいいのか、解決策が出てこない。

「……貴様、見たな?」

その空気に耐えられなくなったシグナムが口を開く。

が、その声は低く、猛獣が唸る声にも似ていた。

湯船に浸かっているにも関わらず、アスカは寒気を感じた。

「え、いや、あの、そのっ!!」

「こっちを見るな!」

振り返って言い訳をしようとするアスカに、豪快にお湯をかけるシグナム。

バシャッ!と結構大量にぶっかけられる。

「「……」」

重苦しい沈黙が漂う。

他にお客さんがいればまだ良かったのかもしれないが、ここにはアスカとシグナムの二人しかいない。

(ラッキースケベじゃねえぞ、これ!完全に死亡フラグだよ!)

ガクブルのアスカ。

何とか現状打破のアイデアをひり出そうとする。

(ちょっとしか見てません→見たのか!紫電一閃。
 見てません→嘘つけ!紫電一閃。
 じゃあ、オレのも見せます!→問答無用で紫電一閃。
 なんだこのクソゲー!)

どうシミュレーションしても紫電一閃が飛んでくる。

(こうなったら!)

アスカが湯面ギリギリまで頭を下げて、シグナムに向き直る。

「申し訳ありません、副隊長!どのような処分でも甘んじて受けます!」

湯の中に潜り込むのではないかと思うくらいに頭を下げて謝罪した。

とにかく謝って、紫電一閃を手加減してもらおうという手に出た。

「……」

シグナムはお湯に身を隠しながらその様子を見る。

肢体を隠すには小さすぎるタオルを、お湯の中で巻き付ける。

マナー的にはよくないけど。

「……まあ、今回は事故みたいな物だからな。仕方がない、許してやろう」

意外にも、シグナムはアスカを許すと言ってきた。

「は、はい!ありがとうございます!」

アスカはその体勢のままシグナムに背を向けてから、頭を上げた。

(ああ!許してもらえるなら、もっとしっかり見ておけばよかった!)

嬉しいやら悔しいやらのアスカ。

実際の所、アスカが目にしたのはシグナムのシルエットだけである。

湯けむりもあったし、入り口からの逆行でほとんど見えてなかったのだ。

(でも、シルエットだけでも…だったな!)

アスカはニヘラ、とだらしない顔になる。

(この事をヴァイス陸曹なんかに話したら、マジ羨ましがるだろうな)

そう思って、ヴァイスに話した時のシミュレーションを頭の中でやってみる。

(陸曹に話す→六課全体に知れ渡る→陸曹諸共、火竜一閃!)

うん、黙ってよう。そう心に誓ったアスカであった。

そんなアスカの考えも知らず、シグナムは何とか冷静さを取り戻していた。

(そう、事故だ、事故。アスカもワザとやった訳ではないのだから、私がいつまでも怒っていてはダメだ)

シグナムは一呼吸入れて、アスカの背中を見る。

(まてよ、この状況なら、あるいは話してくれるやもしれんな)

シグナムは、地球にきてからのアスカの変調の理由を聞き出そうと考えた。

「アスカ」

「ひ、ひゃい!はい!」

いきなり名前を呼ばれて、思わず噛んでしまったアスカ。

すぐに、はいを言い直す。

「そ、そんなに緊張するな。せっかくの露天風呂だ、くつろげ」

ちょっとだけどもってしまったシグナム。それでも副隊長として、余裕をあるところを見せたいようだ。

「いや、無理っス」

即答するアスカ。無理もないだろう。

普段、訓練でボコられ、軽口を叩いてはゲンコツをもらっている上司が、フェンス越しとはいえ側にいる。

しかも、美人でスタイルが良いとなれば、緊張しない方がどうかしている。

おまけにアスカは年上趣味。お姉さんには弱いのだ。

「しかしなんだ。それでは話づらいだろう。90°だけこちらを向く事を許可しよう」

余裕を見せたい割に、この手の事は結構ヘタレのシグナム。

こっちは見るなよ、と暗に言っている。

(ギリギリ見えるか見えないかぐらいか?よけいにヤラシイよ、それは)

そう思いつつも、アスカは言われた通りピッタリ90°だけ向き直った。

具体的には、肩がシグナムの方に向いている事になる。

そこでアスカはふと思った。

(これって、副隊長と一緒に風呂入っているって事…)

そう思った途端、心拍数が跳ね上がった。

視界の隅に、チラリとシグナムが見える。

少し離れているが、上空から見たらシグナムと肩を並べているように見えるだろう。

「あ、あの、それで副隊長?お話と言うのは?」

身悶えするような感覚を誤魔化すように、アスカはシグナムに尋ねる。

アスカからはシグナムの表情は見えない。ほんのちょっとだけ視界の隅っこに見えるだけである。

だからアスカは気づかなかった。

この時のシグナムが、真剣な表情をしていた事に。

シグナムは何の前触れもなく、己の疑問に思っている事をアスカにぶつけた。

「お前、以前に地球で何かあったか?」

「!!!!!!!!!!!!!!!!」

ビクッ

アスカが身を震わせた。

顔は強ばり、目は見開いている。明らかに動揺している。

「……」

まさか、こんなに過剰反応するとは思わなかったシグナムは言葉を失ってしまった。

「……何の事でしょうか」

まるで絞り出すように答える。抑えているつもりなのだろうが、その声は震えている。

「……いや、何となくそう思っただけだ。気にするな」

アスカの反応を見て、シグナムは彼が過去に地球のきた事があると確信した。だがそれは、恐らく簡単に触れてはいい物ではないらしい。

(どんなトラウマがあるのかは知らんが、これ以上はアスカを傷つけるだけだろう…上司として、不甲斐ない)

シグナムはもっと慎重に話すべきだった、と後悔する。

しばし、沈黙が周囲を支配した。

「……あー、なんかのぼせたみたいです」

アスカは急に立ち上がってシグナムに背を向けた。

「なっ……!」

突然の事に、シグナムは頬を赤くして視線を逸らす。

「先に上がってますんで、副隊長はごゆっくりどうぞ」

返事を待たずに、アスカはさっさと露天風呂を後にした。

残されたシグナムは、それまで身体に巻き付けていたタオルを取った。

「情けないものだな…部下からは、まだ信頼は得られぬか」

シグナムは、過去に何があったかは知らないが、できれば相談して欲しいと思っていたのだ。

そして、フッと自嘲気味の笑みを浮かべる。

「10年前の我らも、思えば人の話に耳を傾けなかったな」

遠い過去の過ちを思い出すシグナム。

「なあ、私はどうしたらいい?我々を助けてくれたお前なら、アスカに対してどう接した?」

10年前のあの日。名を名乗らず、武器も持たずに自分たちの前に立ちふさがったある魔導師の事を思い出すシグナム。

当然、それに答えてくれる人物は、ここにはいない。





シグナムが風呂から出てくると、アスカはロビーのイスに座って缶コーヒーを飲んでいた。

その隣には、温泉饅頭の箱が何段にも積み重なっている。

「どうしたんだ、これは?」

呆れ顔でシグナムが温泉饅頭を指す。

「ロングアーチやメンテナンススタッフ、バックヤードのみなさんにお土産ですよ。お菓子なら配れるでしょう?」

露天風呂の時の動揺した感じはもう無い。

完全に切り替えが出来たという事だろうが、逆に言えば、もう過去の事には触れてくれるな、と拒否の態度でもある。

「……ずいぶんと気が利くな。その気配りを訓練で出してくれれば、私も楽なのだがな」

冗談っぽくシグナムが言うと、アスカが笑った。

「それじゃシグナム副隊長の仕事が無くなっちゃいますよ。ドヤスのもお仕事でしょう」

「まったく、こいつめ」

とりあえず、関係は修復できたか、とシグナムは苦笑した。





アスカとシグナムが戻り、いよいよ帰還となった。

コテージに帰ると、後かたづけは既に終わっていた。

「あ、アスカー。それなに?」

スバルが目ざとく、アスカが購入した温泉饅頭を見つける。

「ミッドで留守番している人達のお土産だよ。食べるなよ」

スバルにそう釘を刺すアスカ。その時、ティアナの不機嫌そうな顔が見えた。

「どうしたんだよ、ティアナ。何かあったか?」

何かを考え込んでいるティアナに近づくアスカ。

「え?いや、何でもないわ。ただ、もう少し上手くできたんじゃないかなって考えていただけよ」

「任務の事か?上出来だったろ」

「でも、それこそ隊長達だったら、一瞬で終わらせていたんだと思うし」

それを聞いて、アスカは苦笑した。

「それこそおこがましいだろ。オレ達と隊長を比べるなよ」

そのアスカの言葉は、今のティアナには届かない。

そうね、と生返事だけを返すティアナ。アスカも、それ以上は突っ込まなかった。





「よし。全員そろったし、そろそろ戻ろか?」

はやてが全員に伝える。

アリサ達は名残惜しそうにしていたが、無理に引き留めるような事はしなかった。

それぞれが転送ポートに入る。

アスカは一度立ち止まって、そして振り返った。

「……」

「アスカさーん!どうしたんですか!」

エリオが転送ポートに来ないアスカに声をかける。

「何でもない!すぐに行くよ!」

アスカはそう答えて、もう一度だけ振り返った。

「じゃあな、地球」





機動六課隊舎。

深夜遅く、ロストロギアを届けに行ったシグナムが聖王教会から戻ってきて、主であるはやてに地球での事を報告していた。

「そっか、そんな事が」

シグナムの話を聞き終えたはやてが、何かを考え込む仕草をする。

「アスカの過去に何があったのかは知りませんが、地球で何かがあったのは確かでしょう。主はやて、アスカの経歴書を見せてもらえませんか?」

「んー。ええけど、なーんの参考にもならへんよ。ほら」

はやてはシグナムに三枚の経歴書を渡す。

アスカのだけではなく、スバルとティアナのも見せたのだ。

「これは………え?」

スバル、ティアナの経歴書では特に何も感じなかったシグナムだったが、アスカの経歴書を見て声を上げてしまった。

なぜなら、スバルとティアナの経歴書は、それこそ空欄が無いくらいにギッシリ文字が書かれているのに、アスカの経歴書は、本当に基本的な事が少なく書かれていただけなのだ。

「私も色々な経歴書を見てきたけど、そこまでスッカスカな経歴書は初めてや」

あはは、と可笑しそうに笑うはやて。

「はあ……」

何と答えていいのか、シグナムは困ったように眉を寄せる。

だが、このままにはしておけなかったのか、シグナムははやてに調査の許可を取ろうとした。

「主はやて。アスカの身辺調査の許可をいただけますか?私なりに調べて…」

「ダメや」

最後まで言わせずに、はやてが却下する。

「シグナム副隊長。それは副隊長が行っていい範囲を越えてます。部隊長として、それを許可する事はできません」

激しくはないが、厳しい口調ではやてが言う。

別にシグナムがアスカを疑って調べようとしている訳ではない事は、主であるはやてには分かっている。

だが、部下としてもう引き取っているのに、今更身辺調査をシグナム自信がする必要はないと言ったのだ。

「も、申し訳ありません!」

ピッと敬礼して謝罪するシグナム。

「そういう汚い事は、私の仕事や。だから、シグナムはアスカ君を見守ってやってな」

先ほどとは違い、いつもの優しい口調に戻る。

「主はやて…」

シグナムは、はやての気遣い、優しさを改めて感じた。

と油断していたら…

「って事は、アスカ君に見られたんか?シグナムの裸」

はやてが突如ニヤリとする。

「えっ!」

突然の話の方向転換に焦るシグナム。

思えば、露天風呂でアスカと話した、などと愚直に正直にはやてに報告すれば当然こうなるのは分かり切っていた事だった。

「さてシグナム。寝る前に、洗いざらいしゃべってもらおうかいな♪」

かくして、真っ赤に顔を染めながら、露天風呂での事を話さなくては行けなくなったシグナムだった。

しかも止めとして、

「なんや~、もうちょっと刺激的な事にならんかったんかいな」

はやての感想に、結構凹んだらしい。
 
 

 
後書き
いつも読んでくださる皆さん。拍手をくれる方、お気に入りをしてくれる方、本当にありがとうございます。
みなさんのおかげで、良いモチベーションでいられます。
全然進歩のない文章ですが、どうかこれからもよろしくお願いします。

今回、温泉シーンがあったのに色気が無かったですね…お相手はシグナムさんだったのに。
ここはやっぱりスバルかティアナが順当だったかもしれません。
しかも、温泉シーンがあったからといって、シグナムさんがヒロインではありませんから!

いや、書きたいですよ?シグナムさんヒロインとかね。
でも、それやっちゃうと収集つかなくなってしまうので、またの機会にでも。

この小説のヒロインって誰やねん?
女子キャラ全員のヒロインゲージが全然貯まって無いんですけど大丈夫か?!

まあ、アグスタ編でティアナのヒロインゲージは一気に貯まるので、いいか。

さて今回、露骨にアスカは過去に地球で何かあった事を醸し出していました。
でも、シグナムさんは無理に聞きませんでした。不器用な優しさが、シグナムさんにはあると思います。

そして、露天風呂の最後の方での回想シーン。
10年前、すなわち闇の書事件での事で、なのは達以外の魔導師の存在。これ。オリキャラです。
もっと話が進んだら小説に出てきます。隊長達にとって重要なキャラなりますが、登場までお待ちください。

次回からは、ティアナのネガティブキャンペーンが長く続く予定でしたが、一回オリジナルを挟みます。
アスカの新必殺技フラグと、影の努力フラグを立てないといけないので。 
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