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神剣の刀鍛冶

作者:gomachan
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EPISODE05勇者Ⅳ



崇めるべき対象として、帝国はそれを「王」と呼び――


討伐するべき対象として、軍国はそれを「獣」と呼び――


利権を生む対象として、群集列国はそれを「機界機構」と呼び――


仮初の信仰対象として、独立交易都市はそれを「神」と呼び――


そして――


単なる研究対象として、初代ハウスマンはそれを「実験台プロトタイプ」と呼び――


やがて――


研究成果の集大成として、初代ハウスマンはそれを「癌細胞カンケル」と呼んだ――











初代ハウスマン。
唯一、最も「神」に近づいた人間である。
そして、「神」の存在を証明しようとした男でもある。
その男は「神」から、知られざる「真実」を告げられ、使者の役目を強要される。
いつか私達は選択しなければならない。
巨竜の存在を私達人間がどうとらえるか。
悪魔か、それとも神?
私達「人間」という種を否定する者。
辿り着く結末が、神の手によって委ねられているのなら、受け入れるしかない。





そんな……そんな……そんなバカな事があってたまるか!





――全ては定められている!?ふざけるな!――





これが大陸に定められし「真の浄化」ならば、私のやっている研究も決して無駄ではないのだろう。





そして時は流れていき、独立交易都市ハウスマンが設立された。





――ハウスマン、全ては君の手に委ねられている。祈祷契約、聖剣に魔剣、そして神剣によって、人間は自らを救う手だてを得たわけだ――





キャンベル。君は勘違いしている。





――ヴァルバニルを制御コントロールできるのは君しかいない。ハウスマン――





何が……何が制御できるだ?
所詮、こんなものは時間稼ぎにすぎない。
この大陸にかの黒竜が現れたのも必然だというのなら、「人間を人間として少しでも継続させる為の悪魔契約」も無駄ではないはずだ。
命尽きるその日まで、私は「神への憎悪」を重ねるようになった。
今の私に必要なのは、「神に対抗する力」だ
まず私が着手したのは、魔を秘めた剣の研究。即ち、魔剣。
ヴァルバニルという超常の存在を超える為には、ヒトの形を成した戦う魔剣へいきが必要だった。
ヒトの形をあいつに認めさせるために、ヒトの形が必要だから。
人間などいつでも滅ぼせる、「神」「魔王」「獣」「王」「機界機構」と呼ぶに相応しい存在に、抗う意志を思い知らせるために。





「神への憎悪」という血を分けた我が娘達よ。




己が刃を存分に躍らせるがいい。





果てない憎しみを抱いて唱えるがいい。





風は憎悪を運び、「神」に真実を告げ――





炎は憎悪を灯らせ、「王」の結末をもたらし――





大地は「獣」の頭に憎悪の冠を授け――





光は憎悪を与え、ひたすら「魔王」を射てと咆哮し――





――神を……コロセ――と!




神に我等人間の意志を思い知らせてやれ!


そして……
代理契約戦争終結より44年。
いつしかこの大陸には、生命が溢れ、人が溢れ、物が溢れ、オアシスを失っていた。
帝国。
群集列国。
軍国。
独立交易都市。
偽りの平和を営む三国一都市の裏側で、人間の想像を絶する史上最大の難敵が、活動を開始した。
火山に居座る『神』はこうも囁く。

――心弱き者どもよ、契約せよ。さすれば我が力を授けようぞ――



独立交易都市ハウスマン。大陸にある3国1都市の内の一つであり、治安の成り立ちも他の3国に比べてかなり独特な形で成り立っている。現在自衛騎士団は7団に分けて治安維持に努めており、管轄する町の市民警備、巡回にあたっている。
貴族、市民問わず、志願意志さえあれば誰でも登用が可能らしい。そのあたりは、独立交易都市らしい独自の自衛形態と言えよう。
交易都市を指導する人間も必要となり、当然、選出する方法も独自の採用を取っている。
圧倒的多数で選出されたヒューゴー=ハウスマン(襲名)はその独立交易都市を導くリーダーとして、日々の激務に励んでいた。
3番街自衛騎士団。そんな彼が最も関わり深い騎士団の中、一人気になる団員がいる。
その名は獅子王凱。
先日の模擬戦とも、あのハンニバル団長と互角に渡り合う等、常識を一脱した力を秘めている。
だが、彼には一つ悩みの種の可能性を、ヒューゴーはちょっと警戒していた。
確かに彼は、人柄はいいと思う。新入り団員なのに、すぐに打ち解けてしまう。
だが、行動力はかなりの破天荒だ。
セシリーもそんな彼の真似をしなければいいが……と、時折思ってしまう。
そんな彼が、いまここヒューゴーとハンニバル団長が待ち受ける市長室に足を運んでいる最中だった。
そう思っていると、ドアからコンコンと音が鳴る。多分彼だろう。
「急に呼び出したりして申し訳ありません」
傍らに、セシリーもいた。
「いえ、大丈夫です。それより俺とセシリーに依頼って」
「実はあなた方に護衛を依頼したいのです」
「「依頼?」」
凱とセシリーは互いに顔を見合わせた。
今、独立交易都市は、三か月に一度の祭り「市」が開催される時期である。ここにとって、市は大切な収入源なのだから、都市全体で盛り上げなくてはいけないとの事。客を集める余興として、ある品をここ市長室に集めていた。
一つは、風を生み出す魔剣。
二つは、金色なりし黄金の鎧。
魔剣という言葉に、凱は何かを思い出そうとした。
確か、魔剣になる不思議な女の子がいたな。
名前は――

「あなた方の護衛するのは、この方アリアさんです。」

「出品する魔剣って……君だったのか。アリア」

「久しぶりね。ガイ」「オッス」と凱は軽く手を挙げた。

「ガイ、彼女を知っているのか?」

「まぁ以前にね。紹介するよセシリー。実は彼女が『魔剣』なんだ」

「?どういう事だ?」

「ハンニバル君、説明してなかったの?」

「いやなに、その方が面白いと思ってな。ガッハッハッハ!」

遠慮なしにゲラゲラと笑うハンニバル。
そんな彼を見て、「悪趣味だねぇ。おっちゃん」とアリアがはにかむ。

「はじめまして、セシリー。私がアリア。実は私がその魔剣なの」

その後、セシリーはしばらくの間驚いた声を上げ続けていた。
しばし休憩――
魔剣はともかく、凱はもう一つの品である黄金の鎧の在り処を気にしていた。
キョロキョロ。

「ところで市長、これが黄金の鎧ですか?」

明らかにこの大陸に似合わない物品を見つけた。機械的な収納箱は、例え市長室の隅においてもやっぱり目立つ。少し見渡せば、凱の眼にはすぐに入ってくるのは明白だった。
そりゃ、箱の中心に緑色の「GGG」が書いてあれば。

(俺の直感が正しければ、あの中には)

「ガイ君、私の考えが正しければ、これは本来君のモノではないかと」

異世界?のモノなのに、これが凱のモノではないかと言い当てるヒューゴーの観察力に、思わず凱は脱帽した。市長の鋭い洞察力は生半可ではなかった。
セシリーとアリアは不思議そうに、その収納箱を覗き込んでいた。

(こんな鉄の箱が大陸にあったなんて……)

セシリーの知っている限りでは、このような機械的な箱は存在しない。

「確かに……俺の記憶によく似ているものではありますが」

本当に凱の記憶にあるもの通りならば、あの言葉に応えてくれるはずだ。
でも、何となく確信は持てる。
凱の助けになってくれるであろう、特殊強化戦闘服(IDアーマー)へとなってくれるはずだ。

「悪いみんな。少し離れていてくれ」

不思議に思いつつも、凱の言われたとおり、周囲から一間離れる。

(さあて、景気よくいってみるか!)

ニッと笑い、高らかに叫んでみせる。

「イィィィィィクィィィィィップ!!!」

収納箱の中から圧搾空気で弾きだされた黄金の鎧の各部位は、次第に凱の全身へ装着されていく。亡父である獅子王華雄博士が開発した特殊装甲服を装着して、凱は戦闘態勢となるのだ。単なる外着装備ではなく、凱の神経及び身体能力の強化をも促してくれる。

「ほう」とハンニバルはニヤリと感心を示し――

「やはり」とヒューゴーは涼しいカオで納得し――

「わぁぁぁお!」とアリアは大いにはしゃいじゃって――

「なななななんだガイ!それは!」と、セシリーは釘付けになった――

このあとヒューゴー、ハンニバル、アリア、そしてセシリーは、凱の装着したIDアーマーについて根ほり葉ほり聞いてきた。
同時に、凱はIDアーマーの蓄積情報を把握、黄金の鎧に秘められた新たな力を理解する。Gストーンと生機融合を果たした彼ならではの能力だ。
先日、魔剣アリア初使用にも関わらず、自在に風を使いこなせたのは、このエヴォリュダー能力が起因している。特殊物質である魔剣と神経接続を行う事で、魔剣の情報がフィードバックされるのだ。
このIDアーマーは、ただの保護防具ではなく、常人を上回る凱の神経強化をも行ってくれる。
IDアーマー固定装備のウィルナイフ、ひびわれたウィルナイフを含めて、2刀装備できる。
勇者王の力を再現するブロウクンマグナムにプロテクトシェード、膝プレートに入力されたドリルニー、電離現象捕縛のプラズマホールド。
外観は従来のIDアーマーと同じだろう。ただ、左腕にあるガオーブレスを除けば。
「ふう」と凱は一息つくと、四肢を保護する黄金の各部が、百獣の王を模した左腕に集約する。

「なるほど、それが本来の姿なのですね」

そうヒューゴーが納得したように言った。
要するに、ガオーブレスからなら、いつでもIDアーマーを取り出し可能という事だ。
おそらく、この大陸の人間にとって全く未知な、そして理解に到達できないだろうと、そう考えてしまう。こいつが「競り」に出されると思うと、なんだか複雑な気にもなってくる。
客にオークションとして出すのはいいが、使うことができなければ、何だか詐欺に近い。

「風の魔剣と黄金の鎧の実演を頼んだぞ、お前達」

「俺が!?」凱が。「私が!?」セシリーが。

そうハンニバルに言われ、凱とセシリーはぎょっとした。







「それが、どうしてウチに来ることに繋がるんだ?」.

刀鍛冶ルーク=エインズワースは不機嫌オーラ全開で言った。
もっともなツッコミに、セシリーに同行している凱もまた、あははと苦笑いを浮かべる。

「競り」まであと数日。

実演販売する為に、いきなり抜擢された三番街自衛騎士団の二名は、とりあえず「競り」が来るまで、日常業務をこなしていた。都市の治安を維持する職務が、どうして工房リーザに至るのか、確かに理解は難しい。

「なんだルーク、言いたい事があるならはっきり言った方がいいぞ」

万勉な笑みで、セシリーは言った。悪気が無い分余計ルークの神経を逆なでするのだから、返答も容赦がない。

「帰れ」「即答過ぎる!」

そりゃそうだよな。
ルークの性格から考えれば当然の答えだ。

「だいたい、刀なら金を持って来れば作ってやると……」

「分割で」

「ふざけるな」

「そこをなんとか」

「キャンベル家というのはずいぶんとケチ臭いんだな。この貧乏(元)貴族め」

「貴様、キャンベル家を愚弄するか」

「誇りだけじゃなく、金に対してもうるさいんだな」

「守銭奴に言われたくない!」

また始まった両者のやり取りに、リサは「はぁ」とため息をついた。その仕草に、凱はちょっぴりリサに同情した。
セシリーはいつもの自衛騎士団の制服、対して凱はIDアーマーを解いたラフな普段着だ。
競りが来るその時まで、凱は例のガオーブレスを市長から借り受けたのだ。本当なら厳重に管理しなければいけないのだが、無理を言ってお願いした。ヒューゴーの手配に凱はいたく感謝した。これで僅かな間ではあるが、凱自身の戦力低下はなくなったといえよう。

「ところでセシリーさん、そちらの方は?」

セシリーの隣に立っている見慣れない女性に、リサは訪ねてきた。

「改めて紹介しよう。彼女は「魔剣」アリアだ。少しの間私が警護することになって
な」

宜しくね、とアリアは笑顔で答えた。

「警護?」とリサは呟き、

「ああ、実はガイと一緒に市長に呼ばれてな」

そんなこんなでかくかくしかじか。

リサの用意してくれた昼食を頬張りながら、セシリーは経緯を語ってくれた。

「悪りぃなリサ。なんだか俺までよばれちまって」

「いえ、セシリーさんやガイさんなら大歓迎デスヨ!」

穏やかな空気と太陽の下、凱もまた昼食を頂いていた。

「今日もリサの料理はおいしそうだな。見栄えがいい」

「デヘヘ」

今日も……って事は、普段からセシリーはここで昼休憩がてらここに来てるわけか。

「ガイはいつからヘタレ騎士の御守り役になったんだ?」

「はっはっは。冗談が過ぎるぞ。ルーク?」

凱が口を開く前に、抜剣寸前のセシリーが割って入ってきた。
ヘタレ騎士というのが相当頭にきたんだなと、凱はやれやれと思いつつ、少し頭を抱えた。

「でも、今回の警護任務をセシリーに一任したのだって、彼女の力を見込んでの事だろ
う?」

「ほらルーク、ガイだってちゃんと証言してくれただろう」

「お世辞だ、お世辞」

「はっはっは。斬るぞ」

またリサがため息をついた。そんな様子を、テーブルの片隅で見ていた凱は、なんとなく彼女の気苦労が分かった気がした。
その後、アリアは「二人は恋人同士?」と仕掛けては、あたふためくセシリーとルークの様子を見て楽しんでいた。随分と悪戯好きな魔剣である。

「とにかく、セシリー=キャンベル。その女の何処が魔剣なんだ?」

「もっともな質問だ。アリア」

セシリーの頼みに、アリアはこくりとOKの返事を出した。
一人距離をとって、アリアは4人が見守る中で、ある文言を唱える。それは、凱にとって何度か聞いたことのある文言だ。
妙な3人組みと絡まれたときに、披露してくれたあの時と一緒だ。

――眠りを解け――

――真実を掴め――

――風をこの手に――

――神を殺せ!――

静かでいて、それでいて力強いらせん状の白銀が風となってアリアを包む。
何度聞いても、気になるのは最後の一文だ。

「「神を……殺せ……か」」

凱とルークは、同じ仕草で同じ感想を漏らしていた。

「なるほど、そういう事か」

やがて四散した風の中から、アリアの姿と入れ替わるように、一振りの剣が大地に突き刺さっていた。
十字を基形としたレイピア。刺突専用の剣。特殊形状の柄だ。

(スウェプト・ヒルトって言ったかな。俺の知ってる中世ヨーロッパのレイピアよりも
複雑な鍔をしているな。まるで生きた金属みたいだ。この風を感じるたびに、何となく風龍を思い出す)

アリアの風に、凱は以前共に戦った風の勇者を思い浮かべていた。
何度見ても、アリアが魔剣へと変わるこの瞬間だけは見入ってしまう。凱もまた、セシリーと一緒にその一部始終を見ていた。
魔剣化は、恐らく凱の世界でいえばシステムチェンジに相当する者なのだろう。
システムチェンジとは、勇者ロボが状況に最適化する為の変形を意味する。またはその為のパスワード。これを唱える事なしには、別形態移行システムチェンジする事ができない。
きっと、アリアも魔剣と化すには、この文言パスワードを唱えるのは必須となるだろう。そう凱は推測する。

「彼女は魔剣アリア。人でもあり、剣でもある。そして」

セシリーは手にとった「剣」を横薙ぎに振るう。
そして、レイピアは文字通り『風』を生んだ。
未知の力を宿した剣、まさしく魔剣だな。

「もういいよアリア。ありがとう」

セシリーのお礼に応え、アリアが帰還する。

「ただいま。セシリー」「お帰り」

すると、セシリーは凱に視線を送る。

「多分、ガイのほうがすごいと思うぞ」

「俺?」

「あたしもみた-―い。ガイの「あの」姿」

騎士と魔剣が勇者をリクエストする。

「あの姿って……どういうことですか?」

リサのあどけない顔が、右と左を行ったり来たり。セシリーとアリアの両者を見やる。

「ガイ、見せてくれないか?」

IDアーマーの所持が許されるのは「競り」までの間だから、まあいいか。
セシリーのお願いに、凱はこくりと頷いた。
左手に獅子を模した籠手「ガオーブレス」を装着し、先ほどのアリアと同じように、みんなと距離を取る。

「イィィィィクイィィィィップ!!」

展開された黄金の素粒子ははっきりとした形を成し、凱の四肢へ装着されていく。眩い光がみんなの視界を釘づけし、虜にさせる。
ウィルナイフ搭載の右腕甲が、Gパワー秘めたる左腕甲が、腰部を護るスカートが、胸囲を護るプレートが、そして、黄金の鎧最大の特徴である頭部保護用装甲「ホーンクラウン」が、各部情報を表示する多機能モニター「サイバースコープ」が展開される。

「ふう」

IDアーマー装着後、凱は少し疲れたような溜息を吐いた。
サイボーグ時代からそうなのだが、実は「イークイップ」すると、凱の身体は過負荷状態(フルドライブ)となる。その為、都市内を警邏する時はなるべくイークイップ状態を解いている場合が多い。
凱のイークイップ移行時に伴う余波で、周囲の草木がざわめいていく。当然凱の近くにいたセシリー達も、強烈な風でのけぞりそうになる。解放されたエネルギーはやがて天空へ昇華していく。
予備知識のあるセシリーとアリアは少々驚く程度で済んだ。一方、何も知らないルークとリサだけは、この黄金なりし鎧に目が釘づけになっていた。

「おい、!一体何なんだ!?その鎧は!? 」

「スゴイデス!キンピカデス!眩しすぎて……メガクラミマス!」

「実はこれ、ただの鎧じゃないんだ。昼飯のお礼に少しだけ見せてやるぜ」

「ガイ、ただの鎧ではないって、どういうことだ?」

「まぁ、見てなって」

そう言うと、凱は右腕を空高く掲げた。やがて右腕に螺旋の渦が巻き付いていく。アリアの風とは違う、根本的な破壊の力を秘めた風だ。そう。まるで銃弾―マグナムのような風だ。
―再生を止める破壊の力―を宿したその右腕は、かの人々はこう呼ぶ。

「ブロウクン……マグナァァァム!」

ブレア火山を指さすように、照準がはるか頂に定めていく。発射された赤熱の銃弾は、火山灰を振り払い、頂上の分厚い雲に穴をあけていく。
凱が意図的にブレア火山に向けて照射したのかは定かではない。ただ、ブロウクンマグナムが向けた矛先に、アリアは無意識にひたすら目を追っていた。全員、そんなアリアの様子に気づくはずはなく――

「ぶろうくん……まぐ……なむ?」

セシリーが、その名を深く噛み締めて。

「ルーク、今のって!?」

「ああ、祈祷契約でも、先ほどの魔剣の風のような力でもないな」

そして凱がみんなの方へ振り返り――

「まぁ、こんな感じかな?……ってみんな、どうしたんだ」

凱の視界には、驚き戸惑うみんなの表情が写っていた。
うん、そうだよね。調子に乗りすぎた。ごめん。

しばし休息の末――

「いっその事、その魔剣と鎧をもらっちまったらどうだ?」

「常識で考えてみろ。あなたに刀を打ってもらうより高くつく」

「……そうだろうな。ガイはともかく、そんな貴重な魔剣をお前ひとりで護衛させるなんざ、勇気ある決断だったと思うぜ」

「魔剣と鎧が売りに出される。としか公表されていない。剣が人の姿で外を歩くなんて考えが着かないだろうから、護衛の人数は少ないほうが目立たないし、同性のほうが何かと都合がいい。私が選ばれたのはそんな所だ」

「そんなにべらべら喋っていいのか?俺が吹聴しないとも限らない」「あなたはそんな事をしないさ」「ぐっ……」

嫌味っぽく忠告するルークを余所に、セシリーは純粋な笑顔で返答した。負け惜しんだルークの仕草に気づく人物は、誰もいなかった。凱はそんなルークを見て、クスリと笑みを崩していた。
そんな様子を楽しんでいた凱を、ルークはジロリと睨んでいた。

「リサ」

「あ……ハイッ」

セシリーに呼ばれ、リサは慌てて答えた。

「アリアが街を見たいと言っている。リサも一緒に行かないか?」

「え……でも、まだお仕事が」

セシリーがなぜここ工房リーザに訪れたのか、凱はその理由がやっとわかった。

(なるほどな、はじめからそれが目的だったんだな)

凱にはその光景を見て、ほほえましそうに頬を緩めていた。

「じゅ、準備してキマス!」

言うやいなや、リサは踊るようにその場を後にして、ぱたぱたと準備をし始める。

「……なぁ、ルーク」

凱は、ふてくされていながら椅子に腰かけているルークに訪ねた。

「ンだよ?」

「リサはキミの助手だよな?」

今更なんだ?と言いたそうなカオのル-ク。

「……そうだが?」

「鍛冶屋ってかなりの重労働だぞ?あんなに小さいのに家事もこなしてるなんてすごいな」

「勝手だろうが。お前には関係ない」

ルークの眉間が狭くなる。どうやら彼の御機嫌に触れてしまったようだ。

「それにしても……ガイ」

今度は珍しくルークから声を掛けた。あのぶっきらぼうから声を掛けるなんてとても思えない。

「ん?」

「やけに静かだな」

取り残された凱とルークは、なんだか寂しそうだった。







「リサと何かあったのか?」

凱にそう言われて、ルークの視線が彼に向けられる。
今日ここに来てから、凱にはずっと気になっている事があった。
何だか今日のルークは様子が変だ。
仕草と態度と言葉づかいは相変わらずだが、何だか以前訪れた時よりも雰囲気が柔らかく感じる。
直接リサに伺う訳にもいかないので、それとなくルークに聞いてみたのだ。こういうのは、なかなか二人きりじゃないと話せないと思ったから。

「喧嘩……ってわけじゃなさそうだもんな」

「する理由がない。ガイはなぜそんなことを聞く?」

「そりゃあ……」

キミがリサに対する態度がどことなく遠慮がちに見えるように感じたから?――
遠慮?じゃない。違う。何かが違う。
俺がキミ等の態度を見る限りじゃ、ルークは一度たりともリサを見ようともしなかった。
まるで、ルークがリサを避けているようにも見えたから?
何故?と思うのは自然の流れだった。
今日のルークはなんだか「らしくねぇ」感じだった。

「ガイが何を探っているのかは知らんが、あいつはよくやってくれてるよ。不満なんてないさ」

「じゃあ、なんで「ただ……このままでいいのかと、思う時がある」え?」

「服を……買ってやったんだ。ちょっと前にな。ヘタレ騎士がしつこくせっついていたから。」

一度セシリーが一人で来た時の話だろう。しばらくの間、凱はルークの心内に耳を傾けていた。それにしても、ルークの中でヘタレ騎士が固定単語になっているとは……

「何度もありがとうと言われた。――服を買う――何てことない事さえ、あいつはこれ以上ない喜んでいた。気づかされたよ。俺はあいつに何もしてやっていなかったんだなとな」

「ルーク?」

「多分、これからも俺は気づかされるだろうな。今まで見落としていた分だけ、何度でも。でも……もしかしたら、俺の元にいるよりも、あいつにはもっと相応しい生き方があるかもしれない」

ルークは頭をポリポリと掻き――

「……と、たまに考えてしまう」

やっぱりルークは変だ。先ほどの昼食で変なモノを胃に収めてしまった所為なのか?と思う位今日のルークは変だ。
珍しく(かどうかは知らないが)、自分の気持を暴露している。セシリー達が同席している時以上に、何だか口数が増して多い。なんだか饒舌も軽くなっているみたいだ。
聞いていた凱は、先ほどのルークの言葉を思い出す。

――リサには俺の元よりも、もっと相応しい生き方があるんじゃないか?――

どうしてこのような言い方をするんだろう。実際、凱の見る限りじゃ、リサは嫌々ここで働いているようにはとても見えない。むしろ、リサは自ら進んで仕事に臨んでいる。それも楽しそうにやっているのが凱にも伝わっている。
二人の関係に亀裂があるような事はないと思いたい。

「なぁルーク。俺には上手く言えないけど……」

ここから先は凱の勝手な推測にすぎない。今の凱がルークにしてやれることは、彼の自問に答えてあげる事だ。

「リサは少なくともキミを信用しているし、どう見たって自分の意思で働いている。自分
で足りないと思ったら、少しずつ補っていけばいいんじゃないか?」

「……本当にそう思うのか?」

「何?」

「本当にリサは……自分の意思で俺のもとで働いているのか?」

「ルーク?」

「どう見てもそうじゃないか」

「……そうだといいな」

ルークは顔をそむけた。凱は顔をそむけない。

「リサをどうしたいんだ?」「護る」

「ま……もる?」

「あいつを護る為なら何にでも耐えられる。俺は何にでも――耐えられる!」

ルークの表情は変わらない。でも、彼の感情を代弁するかのように、右の拳が強く握られているのを凱は見逃さす、彼のうちに秘めた意思の強さを窺がわせた。

(ルークはもしかして、リサが工房で働くことをよくないと思っている?)

リサを護りたいからこそ、幸せにしたからこそ、そうした矛盾が彼自身の「リサにとっての」を躊躇させる。
そして「耐えられる」とはどういうことだ?
凱はあえて追求しようとせず、疑問を抱いたまま口を紡ぐしかなかった。

「今日はいつになく饒舌だな。ルーク」

「何?」

凱の以外な指摘に、ルークは感づいた返事をする。思われてもみなかったことに対する表情の変化だった。

「ほら、ルークって普段あまり必要以上にしゃべらない印象が強いからさ」

「何言ってんだ?ガイ」

「ん?」

「俺はもともとよく喋るほうだ」

予想外の返事に、凱はあっけなく言葉を失った。

「そういやルークは魔剣について何か知っているのか?」

「魔剣?どうして俺に聞く?」

ルークの喰い付き具合を把握した凱は、一気に彼の関心を釣り上げる!

「アリアが魔剣に変化するときのキミの雰囲気が変わったから……なんとなく気になって
さ。魔剣について何かしっているのかと思って」

「探しているんだ。―神を殺せる剣……神剣―を」

ルークは唐突に答えた。凱は思わず固唾を呑んだ。
ざわりと囃し立てる空気だ。アリアが剣に変化するときに唱えたあの呪文「神を殺せ」を聞いた時と同じ空気だ。
あたりの空気が殺気に染まる。

「神……剣?」

凱はその剣の名を繰り返すように呟いた。

「でも、アリアは魔剣……」「多分あの女は魔剣じゃない。悪魔だ」「え?」

「どういう事だ?魔剣じゃないとしたら彼女は」「それは……」

「ただいまです。ルーク」

リサが帰ってきた。

(アリアが魔剣じゃなくて悪魔?)

凱が魔剣について知るのはもう少し先になりそうである。 
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