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「藍い帽子(Dark blue belet)」

作者:7仔
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目暮十三 著「自治体警察全集」より

 
前書き
黒いブーツ、竹色の制服、藍いベレー・・・夜の住宅街を歩く彼らの姿が、私の目に今でも焼き付かれている・・・。 

 
2010年代末期。
東京某地域にある町・米花町。別名「日本のヨハネスブルグ」、「東京の西成区」、「数十年前のニューヨーク」、「殺意の吹き溜まり」。
数々の異名で知られる都内一の最低治安地帯であり、年間200件以上の殺人と、400名以上の犠牲者を生む「死の町」として知られる。

「警察何してんだ。」「絶対死神が住み着いているだろ。」「終いにはゴーストタウンになる。」と毎日のように市民の怒りが町を駆け抜け、それはほぼ最終的に警察へと到達した。

頭を痛めた警視庁が最終手段として選んだ道。
それは、交番や所轄の警ら巡査、交通巡査や機動隊、捜査一課などから選りすぐった人員で構成、米花町内を主に徒歩で巡回し、町に鷹の目を光らせると共に、犯罪発生を抑止する特別部隊の設立だった。

部隊には当初、「米花町分遣隊」という仮称が与えられていたが、いつのまにか「J-PTU」に変わった。
「Patrol Tactical Unit」-「警ら戦術部隊」。
香港警察の機動部隊「PTU」を参考に作られており、設立時の指導も香港警察の警察官によって行われた。

只の巡回部隊ではなく、本来機動隊が任務とするデモや暴動、立てこもり事件等への対処も考慮されている。
J-PTUの設立自体、市街地の常時巡回を行わない機動隊の性質改良が目的であったとも噂されている。

部隊は当初、鋭い観察力と高い戦術能力、そして地域への密着を強みに、設立から約1年間、犯罪発生件数を低下させ、時には逃亡する容疑者や被疑者をチームプレーで確保するなど、成功を収めていた。
また、他の警察官とはまったくイメージの異なる、竹色の制服にベレー帽を被るというスタイルも大受けし、これまでの日本警察にいなかった新たな精鋭の姿として注目を浴びた。

だが、香港警察仕込みの厳しい訓練、市街地の常時巡回という一見すれば交番巡査と変わらない任務内容、こうしたことに、少なからず不満を抱く隊員もいた。それは、機動隊から引き抜かれた者の中に多かった。
機動隊時代の彼らは、国家・時事にも関わる重要任務を担っているという高い意識、プライドを持っていた。
それが突然、よそ者にしごかれた挙句、住宅街の防犯パトロ-ルなどをやらされることになったのだ。
平安京から大宰府に左遷された道真公のような気持ちになるのも無理はなかった。

そしてとうとう、それが暴発した。
数人の隊員が、香港警察から来日していた教官を惨殺するという事件が起こったのだ。
事件発生後まもなく、物証によって加害者が特定され、追い詰められた隊員らは銃器を持ち出し、捜査員に発砲。最後は警察署に立てこもりの末、1人が自殺。残りもJ-PTU要員を含む突入班によって射殺もしくは逮捕された。

この事件を機にJ-PTUへの評価は一転、世間より激しい論撃を受け、解散を余儀なくされた。
隊員らと親しくしていた町民、特に小学生や高校生、若者なども多く、惜しみ悲しむ声は少なくなかった。

また、J-PTUには規模拡大・装備強化計画があった。
これには、英軍SASのようなアサルトスーツ、ガスマスク、ボディアーマーに、MP5サブマシンガンを装備するという重武装化案まで含まれていた。
しかしこの案も、世論からの攻撃を激化させかねないという判断から、部隊解散と共に闇に葬られたという。
同じく重武装で任務に当たるが、大半の市民からの信頼を得ていた自衛隊という存在があったと言うのにだ。

これら世間から論撃への嫌悪と任務への誇りゆえに反発する隊員たちも当然多かった。
その傾向が特に強かった隊員7名により、再び立てこもり事件が発生する。
武装して脱走した彼らは機動隊に追われ、小学校に逃げ込み篭城。
生徒や職員を人質に取ったが、決して弱者に危害を加えることは無かった。

この一件は、先の教官殺害・警察署立てこもり事件と合わせ、〈藍帽子=ダークブルーベレーの反乱〉と呼ばれたが、結局彼らも突入部隊により制圧されてしまう。

こうしてJ-PTUは、あっけなく歴史のかなたへと消え去ってしまった。
彼らが毎晩、ブーツを響かせていた米花町は今現在、再び殺人件数が増加傾向にある・・・。 
 

 
後書き
「第8章/所轄警察と安心の町、危険な町」
第13節「藍帽子よ、いづこへ/J-PTUの栄光と没落」 
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