フリージングFINALアンリミテッド
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UNLIMITED01――帰還者――
大人たちは、星の子供たちに未来を託した。
子供たちは、これからを生きる希望となって、もうひとつの故郷に帰還した。
いつか星の海で再会することを誓って――
勇気ある誓いの丘で――
そして――
異次元体N・O・V・A-ノヴァ。人類に出血を強いる存在が公となった時代、もはやこの名を知らぬ者などいやしない。
忌むべき来訪者の正式名称はNuclear・Overdrive・Vases・Assaultと定義し、「対人核実装式駆逐形態」と呼称される。
突如出現し突如自爆し、地球に多大は被害をもたらした。それに比例して、尊い地球上の生命が蹂躙されている。その犠牲者は計上して地球上の人類を約3割に至る。
原種大戦より地球を守り抜いた巨神、勇者王ガオガイガーが去った60年の間で――2005年から2065年の間でそれだけの人類が消されていったのだ。認め難く現実的ではない数字で。
人類が後退し、そして進撃し、異次元体もまた人類に対して進退を繰り返す。このような膠着状態が数十年続く。
世界ひしめく激動世紀の中、対異次元体迎撃システムを構築し、確立させた中心人物がいた。
その人物の名は地球圏防衛組織シュバリエ所属対ノヴァ専任顧問――アオイ=源吾。
異世界の彼方より訪れし、異次元体ノヴァ迎撃システムの礎となった存在、彼はそれにマリア=ランスロットと名付けた。
彼女に女神の名を与えた代わりとして、彼は外敵に対する贈物を女神から授かった。それは、かつて人類が手も足も出せなかった至高なる存在への、屈辱を拭う反撃の嚆矢となりうるものだった。
異世界物質。聖痕――スティグマ。地球の救世主たる代名詞を与えた超物質を用いて、異文明のテクノロジーを一般化して対異次元体計画を始動させた。
作戦名・Project・Anti・Nova・Direct・Operation・Round・Allister――それぞれの頭文字を借りて「PANDORA-パンドラ」と公式発表した。
一介の物理学士に過ぎなかった源吾は、マリア=ランスロットという異世界の使者とのファーストコンタクトを果たし、一躍人類の救世主と称される程となった。
彼もまた、8回目の異次元体襲撃「エイティス・ノヴァクラッシュ」によって肉親を奪われた者の一人であった。
人類と異次元体として分かつ時代となった今、源吾の目に映るのは果たして紅蓮の業火か……それとも?
【2065年・太陽系宇宙・木星付近】
「これよりプラズマ観測実験を行う。周囲の警戒を怠るな。スナ」
「了解。アオイ博士」
どこまでも広がる虚無の宇宙。太陽系最大の惑星付近まで遊泳観測に赴いた両者は、これより行われる実験を前にして最大限の注意を払っていた。
流動性電離現象気体、宇宙の99パーセントを占めるソレは、将来「注入式聖痕運用兵装計画」に実装する予定である。存在的に劣る人類が異次元体に打ち勝つには、常に異次元体の構造を一歩上回る必要がある。その為、今回は宇宙の真意の一つである「プラズマ」に目を付けたのである。非常に密度の高い木星付近でなければ、プラズマ運用の為のデータが集まり難い。
「それにしても……僅かな時間で地球から木星に辿りつけるなんて、普通では考えられません」
「GGGの産物。レプトントラベラーのおかげだな」
「GGG……ガッツィ・ギャラクシー・ガード。宇宙防衛勇者隊が解体されて60年以上経過しています。重機動汎用人型兵装が健在なら、人類がこれ以上出血を強いることなんて……」
何かを思うような表情でスナと呼ばれた女性が言った。しかし、傍らに立っている壮年の男性、アオイ博士は一言吐き捨てた。
「確かに……重機動汎用人型兵器の力なら異次元体を駆逐するなど夢でないのだが、ないものをねだっても仕方あるまい」
「駆逐……」
アオイ博士は彼女、スナがパンドラに入りたての頃を思い出していた。
「スナ。当時の志望動機は「とにかくノヴァを駆逐したいです」だったな。殺意溢れる自己紹介は流石にインパクトを覚えたよ」
「昔のことです。それよりいいのですか?」
からかわれた子供のような仕草で、スナはぷいっと横を向いた。それからアオイ博士はくすりと笑いながら問う。
「何がだ?」
「ここ数日の間に何回か次元振動が確認されています。今でこそノヴァクラッシュは発生していませんが、短いスパンでノヴァクラッシュが訪れるようになれば、おそらく……」
ノヴァクラッシュ。世界の端の人類を含めても、物心ついたばかりの幼子を含めても、その名称を知らないものはいない。
地球次元西暦2012年の初頭に相次いで発生した異次元体襲撃の総称であり、はては人類史上最悪の災厄とまで言われている。原種大戦終結、地球外の脅威は去ったかと思われた矢先の事だった。
次元圧縮による壊滅圧爆現象―すなわち、ノヴァ。
それは半径10キロメートルを灰塵に帰す特殊空間であり、当時の防衛組織首脳部はEI-18の事例を掘り起こした事で確認されたものは、膨大なエネルギー量を持ってして地上太陽と比喩された。
物理運動の情報流通を強制停止させる現象―すなわち、フリージング
それは地球の超兵器すらも止めてしまう堅固なものであり、地球外知生体保有のバリアシステムに酷似していた。
ゾンダーもノヴァも、初回迎撃時には通常兵器の火力では相手にはならなかったのだ。
全長20mを超える奇異な物質体を認知するには、人類は正直言ってまだ幼すぎたといえる。
2012年の第一回異次元体襲撃「ファースト・ノヴァクラッシュ」、これが人類と異次元体の、数十年に及ぶ長きにわたる初戦であった。
「気づけば、私も年を取ったものだな」
感慨深くアオイ博士はつぶやいた。それを聞いてスナが溜息をつく。
だが、アオイ博士の心中を考えれば無理もない。今は対異次元体専任顧問のこの男の存在がなければ、人類は防衛手段を講じないまま滅びの道を待つしかなかったのだから。
異次元体防衛組織の設立。地球圏を守る正式名称は・Certiorari・High・End・Valiant・Attacker・Legitimate・Inevitable・Earth・Rink――それぞれのイニシャルを組み込んで「騎士―シュバリエ」となる。
「心労の割にはまだ10代若く見えますよ、博士。何か秘訣とかあるんですか?」
「フッ。モテる男だけが知る術とでも言っておこうか?」
「ハイハイ」
誇らしげに自慢するアオイ博士。半ばあきれ顔でカラ返事するスナ。この食えない台詞をはけるだけ、目の前のジジイはあと100年生きるだろうと確信する。
他愛のないやりとりは続かず、オペレーターの報告によって終わりを告げることとなる。
<WARNING!!WARNING!!>
「管制!報告を!」
緊急通報を前にして、スナの指示が飛ぶ!艦内に危機感が走る!
「周囲一帯の次元数値に異常!!こ、これは!?」
「何だ!?」
「次元振動です!10カウント後に次元振動!!」
「次元振動!?まさか……ノヴァか!?」
「博士!指示を!」
「総員!第一種警戒態勢!パンドラモード起動後、宇宙兵装にて所定の位置で待機!」
「「「「了解!!」」」」
訪れる展開が早ければ、アオイ博士の指示も的確で迅速だった。それに呼応するかのように、全クルーの返事も力強かった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ――
「何が……何が出てくるんだ?」
アオイ博士の頬に冷たい汗が伝う。あらゆる超常経験を積んできた彼が見せる珍しい反応だ。そしてそのあと、さらなる展開が皆の度胆をぬくことになる。
「あ……あれは!」
「まさか!」
見間違えるはずがない。深緑のGの文字。特徴的にならぶエンブレム。それが一艦のみ。
「スリー……ジー……艦隊か?」
まるで自らの目を疑うようにアオイ博士が言った。無理もない。この反応を示したのは彼だけではないのだから。
<……ちら……ガ……>
ノイズ交じりの音声電波が飛び込んでくる。周波数を合わせようと女性オペレーターが軸合わせをする。その作業には動揺が見られる。タイピングミス等に相手側の周波数と一致するには少々時間を要した。
<こちら……シシ……ガイ>
アオイ博士は、信じられないような表情で伝説の勇者の名を呼んだ。
「……獅子王……凱」
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