ラブライブ! コネクション!!
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
Track 1 両手を広げて
活動日誌2 あいしてる・ばんざーい! 1
翌日。
昼休みに私と亜里沙は学院の中を彷徨っていた――とは言え、アイドル研究部の部室を探している訳でも、迷子になっている訳でもない。
確かに全体的に見れば曖昧な部分はあるけれど、中学時代から何回か足を運んだ校内なので自分の教室の位置くらいは覚えている。
そもそも、まだ入部届を提出していないのだから部室を探す必要もないのだった――いや、たぶん探さなくても放課後になったら向こうから迎えがくるだろうし、ね?
私達が入部届を提出していない理由。別に入部を躊躇っているからではない。当然、学院側から提出を断られている訳でもない。
ただ――
今日の放課後まではただの生徒でいても良いんじゃないか?
スクールアイドルは部活動なんだから、放課後に部員になれれば良いんじゃないか?
その代わり、今日の休み時間はただの生徒として学院を見て回ろう――2人で昨日結論を出した答えだから、入部届けを今はまだ出していない。
そして休み時間を利用して、2人で時間の許す範囲で学院を見て回っていたのだった。
♪♪♪
「~♪」
「「…………?」」
私達がとある廊下に差し掛かった時、とても綺麗な音色が私達を包み込んでくれたような錯覚にかられた。
私達はその音色に引き寄せられ、音のする方へと足を進める。次第に音が大きくなっていき、その音色がピアノと歌声であるのだと気づく。
音色の流れる場所は音楽室――そして、この音色は私達がもっとも慣れ親しんでいる音色のひとつ。
私達がソーッと音楽室の扉の窓から中を覗くと――
「~ ラーラーラッラララララララー ~」
スクールアイドル μ's のメンバーにして作曲担当。アイドル研究部副部長の西木野 真姫先輩。
真姫さんが、気持ちよさそうに――とても幸せそうに弾き語りをしていたのだった。
「……フーッ。……えっ??」
「「わーっ」」
私達は思わず聞き惚れてしまい、曲が終わると歓喜の声をあげて、目を見開いて力いっぱいの拍手を送っていた――もちろん、扉の外から。
私達の拍手と歓喜の声に気づいた真姫さんは目を見開いて、驚きの声をあげる。
気づいてもらえたことを確認すると、私達は扉を開けて中へと入っていくのだった。
「すごく感動しました!」
「とても良かったです!」
「……そう? ありがとう」
私達が各々感想を告げると、真姫さんは少し照れくさそうに――だけど、優しい笑顔を浮かべて私達に礼を告げる。
「……だけど、まぁ?」
「……はい……」
礼を告げた数拍後――私達を見つめていた真姫さんは、どこか懐かしむような表情を浮かべて言葉を繋げる。
その表情と言葉のもつ意味がわからない私は、漠然と相槌を打っていた。
すると突然吹き出し笑いをしながら――
「プッ――クククッ! ……本当に貴方と穂乃果って姉妹なのね?」
そんな事を言ってきたのだった。
「だって1年前――穂乃果と初めて会った時、今の貴方と同じことをしていたのよ?」
「…………」
「…………」
目尻に溜まった涙を拭いながら、真姫さんは教えてくれた。
1年前のお姉ちゃんと同じ行動を取っていたなんて――何とも言えない気恥ずかしさから、私は顔が熱くなるのを感じて俯いた。
そんな私を優しく微笑みながら見守る亜里沙。
ほんの数秒だったけど、真姫さんの弾き語りの音色のような――優しくて暖かな雰囲気が音楽室を包んでいた気がしたのだった。
「……でも?」
真姫さんが再び言葉を繋げたので、顔をあげて彼女を見る。
すると、私の熱いのが感染したかのように顔を赤らめながら、髪の毛先を人差し指で弄び、私達から顔を背けて――
「あの時、穂乃果に出会わなければ今の私はいないと思うわ……だから、感謝しているのよ?」
そう、告げるのだった。
その言葉を聞いて嬉しさがこみ上げてきた私の表情の変化を、横目でみていた真姫さんは――
「たまたま……そう! たまたま貴方達に話しただけなんだから、穂乃果達には内緒にしておいてよね!」
赤らめた顔のまま、私達に向き合い、少し潤んだ瞳で私達を見つめて内緒にするように強要してきたのだった。
私は失礼だとは思ったけど、彼女のことを可愛いと思ってしまった。
だって、私の知っている真姫さんは――歌とピアノが上手で、いつもクールでカッコいいイメージしかなかったから。
けっこう前に、真姫さんについてお姉ちゃんと話したことがある。
「真姫さんて、クールだし……すごく格好いいよね?」
私の言葉を聞いたお姉ちゃんは含み笑いを浮かべると――
「確かに真姫ちゃんは格好いいんだけど……本当の真姫ちゃんは、すっっっごーく! 可愛いんだよー?」
こう言っていたのだった。
あの時はまったく想像出来なかった。だって、お姉ちゃんにとっては後輩だけど私にとっては先輩なんだから。
年下の私が見ている真姫さんの格好よさも年上のお姉ちゃんからすれば可愛いと思える――そう言うものだと思っていた。
いや、違うかも?
だって、お姉ちゃん――海未さんや、亜里沙のお姉さんの絵里さん。2人に対しても可愛いって言っていたし。単に、お姉ちゃんの感性がずれているんだと思っていた。
だけど今なら違うと素直に思える。
あくまでも私は外から全員を見てきているから――ステージの上を見上げている私達には見えていない彼女達の横顔。
同じステージに立つお姉ちゃんには彼女達の横顔が見えていた――そんな話なんだろう。
と言うことは、私が横顔を見続けてきたから何も感じないお姉ちゃんでも?
横顔が見えていない人達にとってはクールで格好良く見えている?
――ことはないか、やっぱり? お姉ちゃんだしね?
まぁ、お姉ちゃんのことはともかく、そんな横顔が見れた――真姫さんの可愛い部分が見れたのは私達もそのステージの裾までたどり着いたってことなのかな?
まだまだ、彼女達の立つセンターには相当な距離はあるんだろうけど。
そう思ったら、だんだんと心の中が暖かくなっていく感覚に包まれていた。
これからの時間の中で、私達はどれだけの彼女達の横顔を見ていけるのだろう。
そんなことを考えながら真姫さんの顔を見つめているのだった。
♪♪♪
「……ところで」
「……何?」
「……あっ、いえ……今って、私達がお邪魔していても良かったんですか?」
真姫さんがクールさを取り戻したのを見計らって、亜里沙が口を開いた。
――なんで亜里沙はこんなに空気が読めるんだろう? 私、全然考えてなかったよ、そんなこと。
真姫さんに言ったら「やっぱり姉妹ね?」って笑われるかな?
「大丈夫よ? 新しい曲を考えていて息詰まったから、少し気分転換していただけだしね?」
「――えっ? 新曲ですか!?」
真姫さんは私達を優しく見つめて、そう答えた。
亜里沙は真姫さんの新しい曲と言う単語に即座に食いついて、身を乗り出しながら聞き返していた。
まぁ、亜里沙は、ねぇ? 私以上に μ's が大好きだから、ね?
そんな彼女達の新曲なら胸が躍らない訳もなく――
「……い、いや、あのね?」
「――はいっ!」
真姫さんは亜里沙の嬉々とした羨望の眼差しに半歩ほど後ずさりしながら――
「期待させて申し訳ないんだけど、特に曲を出す予定はないわよ?」
そう、申し訳なさそうに亜里沙に伝えるのだった。
「……そうなんですか?」
真姫さんの答えを聞いた亜里沙は、とても悲しい顔をして真姫さんに聞き返すのだった。
はっきり言って、亜里沙のこの表情は反則だと思う――だって、あんな顔されたら悪いことしていなくても罪悪感にかられちゃうから。
そんな話を以前、海未さんに話した時――
「確かにそうですね? まぁ、あの時は私が悪かったのですが……どうにもならない罪悪感を感じてしまいました。ことりに通じる何かを持っているのかも知れません。もしかしたら、あの2人に勝てる人はいないんじゃないか? とさえ思ってしまいます」
そんなことを言っていた。
だけど隣で聞いていたお姉ちゃんは――
「えー? そんなことないよー? 亜里沙ちゃんはともかく、ことりちゃんには勝てる人いるし?」
そんなことを言い出す。
当然、海未さんは誰かと聞き返すのだけどお姉ちゃんは満面の笑みを浮かべて――
「寝起きの海未ちゃん!」
と、自ら地雷に飛び込む行為に出た。
いや? お姉ちゃん――それは勇気とは言わずに無謀と言うんだよ?
お姉ちゃんは掛け算が苦手なのは知っていたけど――駆け引きも苦手なようだった。
当然、その後お姉ちゃんは正座をさせられて30分ほど海未さんから説教をされていたけど――自業自得なので何も言えないね?
私はそんなことを思い出しながら、亜里沙の横顔と困った表情を浮かべる真姫さんの顔を見つめていたのだった。
♪♪♪
「いや、あのね? ……ほら、私達もまだ何も決めていないから……」
罪悪感たっぷりな表情になりながらも言葉を繋げる真姫さん。
まだ何も決めていない。
そうなんだ。真姫さん達も空いた隙間を持て余しながら前に進んでいるんだ――あまりにも大きすぎた去年1年間と言う隙間を。
「……だけどね?」
真姫さんの言った言葉の意味を感じ取って、暗くなる私達の表情を見て真姫さんは優しく言葉を繋げる。
「いつ、その時が来ても良いように……私は曲を作り続けているの……それにね?」
真姫さんは、ピアノに視線をおくり優しくピアノを撫でながら――
「やっぱり、私は音楽が好きだから……」
本当に愛おしそうに、ピアノを撫でながら――本当に音楽が大好きなんだってことが伝わるような微笑みを浮かべて答えたのだった。
「だけど、まぁ……」
真姫さんの言葉の意味を感じ取り、真姫さんの表情を眺めている私達の表情を見て、自分で言った台詞が恥ずかしくなったのかも?
またもや顔を赤らめて、今度は腕組みをしながら瞳を閉じて――
「気分転換のつもりで歌っていたんだけど……納得がいかなくて何度も繰り返していたら、逆に息詰まっていたところなの。だから、気分転換に曲でも作ろうと思っていたところよ?」
捲くし立てるようにそんなことを口走っていた。
曲作りに息詰まって弾き語りをしていたのに、その弾き語りに息詰まって曲作り?
これって、場を和ませる為の真姫さんなりの冗談? 笑った方が良いところなのかな? それとも、ただの照れ隠し?
どっちにしろ、真姫さんの気持ちは伝わったから未だに腕組みをしながら顔を赤らめて――だけど、私達の反応を確かめたいのだろう。
薄目を開けて私達を見ている――そんな可愛い真姫さんに、優しい微笑みを返しておいたのだった。
ページ上へ戻る