ソードアート・オンライン~隻腕の大剣使い~
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番外編ExtraEditionパート4
海底神殿に突入してから約10分。水中なだけあって軽くジャンプするだけで5mくらい跳ぶほど重力が弱いというかーーーとにかく歩きにくい。それに戦闘になったら前衛は武器の振りが遅くなるし、後衛は雷属性の魔法が使えない。ライトのカナヅチが発覚した事で戦法を練り直さないとなーーーまあライトとミラのポジションを入れ替えればいいか。
「おいキリトよぉ。リーファちゃん水中戦闘苦手なんだろ?気ィ遣わなくて良いのか?」
「そうなんだけどさ・・・コンビの時はともかく、こうやってみんなでパーティ組んでると接し方に迷うんだよな・・・」
「自然体で良いんじゃないか?別のパーティとはいえ、お前がスグの事を一番分かってるんだから、それなりに面倒見てやれよ。実際オレのパーティにリーファ以上のカナヅチがいるから」
クラインの言う通り、キリトが一番リーファを見てやらなくちゃダメだ。別々のパーティでもそれなりの気遣いは必要だ。そもそもライトが一番水中戦闘が苦手なんだ。実際メチャクチャ重そうな鋼鉄製のゴツイブーツ履いてるしーーーってあれゼ○伝で出てくるヤツじゃん。身体丸めて転がってくる岩人間を受け止めて投げ飛ばせるヤツじゃん。なんつーモン作ってくれてんだ龍星のヤロー。色々アウトだろうがーーーっと危ねえ。
「キリト、クライン、落とし穴だぞ」
『えっ?おわぁァァァァァァァァァ!!!!』
歩きながら会話してたから通路を大きく分けてる落とし穴に気付かなかったキリトとクラインが落ちた。オレはギリギリ気付いたから平気だったけど。そして落とし穴の中が光りを発して、そこから二人を吸い込むかのように渦が巻き上がる。でも二人は必死に平泳ぎで渦の流れに逆らい、なんとか生還する事に成功した。
「大丈夫かよお前ら」
「悪いリュウの字・・・」
「ああ、助かる・・・」
情けねぇな、それでもかつてオレと肩を並べた攻略組のトッププレイヤーか。全くーーーん?
「パパ!おいちゃん!後ろです!!」
「分かってる!」
ユイちゃんの声かけを聞いてオレは索敵スキルで気配を感じた方向を見た。そこはたった今キリトとクラインが落ちそうになった落とし穴で、その中からーーー巨大な魚。
「出たか!?クジラか!?」
「いや、どう見ても違うだろ」
「むしろ今クジラ出たら全員潰れるわ」
クジラというよりシーラカンスかな。しかも頭を白い兜で守ってるーーーいや、兜じゃなくて頭蓋骨って言ったほうが良いか。
『戦闘用意!!』
まずはオレとミラ、キリトとクラインが突っ込む。オレは背中の鞘から二刀流形態の《ドラグロンダイト・双モード》を抜いて❌状に構え、突進してきたシーラカンスを受け止める。にしても硬いな。やっぱ頭にはダメージ通らねぇか。
「オレがタゲを取るから、みんなは側面から攻撃してくれ!!リーファとライトはアスナさんと一緒に魔法で援護を頼む!!」
『了解!!』
このシーラカンスはオレの筋力値で十分止められる。その隙にみんなには硬い装甲がない側面から攻撃してもらう。
まずはキリトとクラインとミラ、そしてエギルが剣や刀や斧で斬りつけて、その次にミストとキャンディ、リズさんやシリカたち中衛メンバーが槍やメイス、ダガーやチャクラムで貫いたり殴ったり斬りつけて攻撃する。そして後衛のアスナさんやリーファ、ライト達が攻撃力上昇の魔法、防御力上昇の魔法、敏捷力上昇の魔法でオレ達をパワーアップしてくれる。それによってどんどんシーラカンスのHPを削っている。このままいけば確実に倒せるーーー
「リーファちゃん!?」
「おいリーファ!!」
「大丈夫です!!」
ここで後衛からリーファが飛び出した。アスナさんやライトが呼び止めるが、リーファは全く止まらない。リーファが雄叫びをあげて上から斬りかかってきてーーー
「しまった!!」
シーラカンスの標的がリーファに変わって、タゲを取っていたオレから離れる。そしてさっきキリトとクラインが落ちた落とし穴の手前で渦を巻き上げ、オレ達を巻き込もうとする。ついさっきまで攻撃してたメンバーは武器を地面に突き刺してどうにか耐えられたけどーーーリーファが巻き込まれた。おまけに長刀を手放して落とし穴に落ちかけてる。なんとか地面に掴まって一応は大丈夫だけどーーーこのままじゃあと数秒で落ちる。
「ライリュウ!俺をリーファの・・・スグの所に飛ばしてくれ!!」
「右足に乗れ!!かっ飛ばす!!!」
オレはキリトの願いを聞き入れ、右足を横に向けて伸ばす。キリトが跳び乗ったのを確認して右足に力を込め、渦の中心に落ちるように天井に向けて蹴り上げる。名付けてーーー
「《竜王拳・合の形》!!」
「《飛竜・バレット》!!!」
オレの《竜王拳》の脚力とキリトの鋭い剣技、この二つが合わさればどんな強い渦でも切り進める。オレが蹴り上げたキリトは渦の影響を受ける事なく、天井に足を着け踏み込み、そこから渦の中心にいるシーラカンスに向かって急降下してーーー
「ウオォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」
シーラカンスの頭部の装甲に空いていた穴をピンポイントで突き刺し、その存在そのものをポリゴンと化し消滅させた。よってリーファを救うのに邪魔な渦は消え、キリトは真っ先に手を伸ばし、リーファの手を掴んだ。
「スグ!!」
「お兄ちゃん・・・」
「ミスト手伝え!!」
「分かった!!」
オレはミストを連れてリーファを引き上げようとしているキリトを引っ張り上げる。水の勢いが凄かった事もあって、みんな肩で息をしてる。
「お兄ちゃん・・・また助けてくれたね」
リーファがお兄ちゃんと呼ぶ男は二人いるんだがーーーどうやらキリトに向けて言ってるみたいだな。キリトも何だかんだ言って、結構良い兄貴してんじゃねぇか。
******
あの後リーファも本格的に前衛に出てダンジョンの攻略を進めたり、カニやエビなどの大型モンスターを討伐したり、ちょっとしたトラップに引っかかりもしたがみんな無事に最深部まで辿り着き、NPCの爺さんが奪われた大きな真珠を見つけて入口まで戻る事が出来た。
「結局出なかったな、クジラ」
「あぁ、残念だったなユイ」
「いえ、みなさんと冒険できてとっても楽しかったです!」
「もうちょっとだけワガママ言って良いんだぜ?」
ユイちゃんはちょっと遠慮がちすぎるんだよな。あんまりワガママすぎても困るけど、子供らしくもっと何か言っても構わないんだけどな。でもあんなに楽しみにしてたクジラが出なかったのに我慢できるなんて偉いなーーーあれ?そういえばーーー
「なあライリュウ、あのお爺さんから真珠を奪った盗賊ってのも出なかったな」
「オレもそう思った」
あの爺さんから真珠を奪った盗賊がダンジョンのどこにも出なかった。あんな奥深くまで真珠を運んだのに、どうして一人も現れなかったんだ?
「お土産、取り返して来ましたよ」
「おお!これぞまさしく!」
オレの中のモヤモヤが振り払えないままキリトは爺さんに真珠を差し出した。何でだか分かんないけど、このまま渡しちゃいけないような気がするーーー
「二人とも待って!!」
「それを渡すな!!」
「お、おい・・・」
「アスナさん?ミストまでどうしたんだよ?」
突然アスナさんとミストがキリトから真珠を取り上げた。アスナさんが取り上げた真珠を神殿の灯りに透かして、その中で胎動する物を見つけーーーえ?
「これ、真珠じゃなくて卵よ!!」
「えっ!?」
「た、卵!?」
「じゃあ《深海の略奪者》って・・・」
「神殿からコレを持ち出した俺達の事だ!!」
じゃあこの爺さんは嘘をついてオレ達にこの卵を手に入れようとしたってのか?ということはーーー
「さあ、早くそれを渡すのだ・・・」
「悪いがそうはいかなくなった」
NPCとはいえ、オレ達を騙してこんな怪しい物を運ばせたジジイだ。悪い奴としか思えない。そんな奴にこんな何に使うのか分からねぇモンを渡せるか。
「渡さぬとあらば、仕方ないのぉ・・・」
「全員戦闘準備!!」
どう考えても戦うしかねぇだろーーーこんなバケモノに変異したんだからな。
老人の長くて白い髪や髭は吸盤の付いた8本の足となり、身体はエラ呼吸が出来る切れ目とトゲが生えた楕円形の球体になり、体長をもオレ達が見上げるレベルになった。その名前も【Nerakk】から変わっていた。その名はーーー
「《クラーケン》!!!」
北欧神話の海の魔物と呼ばれる大ダコーーー《Kraken》だった。この卵を渡さなかった場合で戦う事になるボスモンスターのHPバーは合計ーーー7段。運営もとんでもねぇバケモノを実装してくれたぜ。
【礼を言うぞ妖精達よ!!我を拒む結界が張られた神殿からよくぞ神子の卵を持ち出してくれたのぉ・・・!!さあ、それを我に捧げよ!!!】
「お断りよ!!この卵は私達でもう一度神殿に戻します!!!」
「よくも騙してくれたなタコジジイ・・・その足捌いてやんよ!!!」
魔法によるパワーアップを遂げたオレ達は武器を構え、《クラーケン》に敵意を向ける。まだクエストも完了してないんだ、こいつを倒して地上に帰る!!!
【愚かな羽虫どもよ、ならば深海の藻屑となるがよい・・・!!!】
先手を打ったのは《クラーケン》。長くて太い2本の足をこっちに振り下ろしエギルとクライン、ミストとライトがそれを受け止める。後ろでシリカとリーファとミラが防御力上昇の魔法でダメージを軽減してくれてる。
「ハアァァァァァァ!!!」
「焼けろォォォォォォォォォォォォ!!!」
オレとキリトが剣に炎を纏い、ソードスキルでタコ足を斬りつける。
これが新生アインクラッドに並ぶ新生ALOの大要素、魔法属性が付与されたソードスキルだ。5月の大型アップデートで新生アインクラッドの実装に伴い、SAOに存在したソードスキルも共に実装された。それに上位剣技には魔法属性が付与されるというALOの要素もしっかりと活かされている。
オレが得意なのは雷属性のソードスキルだが、ここは水中のためにみんなが感電してしまうから使えない。でも炎属性もそれなりに効くはずーーーだと思ったけど、そうはいかなかった。
「再生!?」
そう、オレとキリトが斬った部位の傷が再生したんだ。タコの足は本体が生きてればまた生えるけど、いくら何でも再生が速すぎだろーーー
「キリト!!」
「ライリュウ!!」
《クラーケン》の足がオレとキリトに振り降ろされた瞬間にリズさんとキャンディが助けに来てくれたが、それでも大ダメージは免れなかった。オレ達はそのまま後衛のリーファ達の所に吹き飛ばされてしまった。
「パパ、おいちゃん、あのタコさんステータスが高すぎます!!新生アインクラッドのフロアボスを遥かに上回る数値です!!」
ユイちゃんの言う通りだと思う。オレ達のHPはもうレッドゾーンなのに、肝心の《クラーケン》のHPは全く減ってない。
そして《クラーケン》は足を上げグロテスクな口をオレ達に向けた。これからどうなるかは嫌でも分かる。オレ達を食おうとしてーーー頭上から目の前に投げ下ろされた切っ先が三本に別れた巨大な槍に阻まれる。
【ッ!?この槍は・・・!!】
《クラーケン》のその言葉と共にオレ達は上を見た。そこから降りてきたのはーーー青いマントや銀色の鎧に身を包んだ巨大な老人、海の王《リヴァイアサン》だった。
【久しいな、古き友よ。相変わらず悪だくみがやめられないようだな】
【そういう貴様こそいつまでアース神族の手先に甘んじておるつもりだ。海の王の名が泣くぞ】
【私は王である事に満足しているのさ。そしてここは私の庭。そうと知りつつ戦いを望むか?深淵の王よ】
この二人のーー一爺さんとタコの会話にオレ達は唖然としてしまった。色々と訳が分からなくて、それでいて絵面が奇妙すぎて。オレは北欧神話を読み込んでる訳じゃない。だからこれが何のやりとりなのか全く分からない。
【忌まわしい宿敵よ・・・だが友よ。わしは諦めんぞ!!いつか神子の力を我が物とし、忌々しい神々どもに一泡吹かせるその時までェェ〜〜〜・・・!!!】
そうセリフを吐き捨てて、《クラーケン》は海の底に逃亡した。助かったような納得できないようなーーー何だか複雑な気分だな。
【その卵はいずれ全ての海と空を支配するお方の物。新たの見室へ移さぬ故、返してもらうぞ】
そう言って《リヴァイアサン》はアスナさんが持っていた卵を光の粒子として回収して、オレとキリトの前にクエストクリアの通知が表示された。
「これでクリアかよ?」
「何が何やらな・・・」
「あたし、おじさんとタコの会話、全然理解できなかったわよ・・・」
「ウチもや」
クラインもライトも、リズさんもキャンディも全然納得できていなかった。まあ絶望的だったとはいえ中途半端戦闘が終わって、それで一方的に卵を回収されてクエストクリア。うん、納得できねぇ。
【今はそれでよい。さあ、そなたらの送ってやろう。妖精達よ】
「送るってどうやって?」
「あなたがあたし達を肩車してくれるの?」
「何だその優越感」
《リヴァイアサン》のセリフに反応したのか、オレ達の遥か上から光を遮るほど巨大な生物が現れた。それはオレ達が、ユイちゃんが求めていたーーー
三人称side
妖精の国は夕焼け小焼けの空の色。その空の色が反射された海面から、深海へ冒険に出ていた妖精達を乗せてーーーこの世で最も巨大な哺乳動物、クジラが飛び出した。
「クジラさん、すっごくすっごく大きいです!!」
【きゅるるるぅ〜!】
妖精の剣士一行の中で最も幼く、最も小さな妖精の少女ユイの初めて見たクジラは彼女が喜び、絶賛するに十分値いするものだった。少女を乗せた水色の羽毛を全身に携えた小竜ピナはユイに続いて喜びを込めて吠え、ユイの無邪気に喜ぶ顔を見た両親も釣られて笑顔になる。
海底へ共に冒険した仲間も達成感から自然と笑顔になりーーーその中に握り拳を胸に当てるユイの叔母、キリトの妹がいた。
「スグ」
現実の世界での名前で呼ばれたリーファの肩に手を置いたのは彼女の従兄であり兄でもあるインプの少年、ライリュウだった。
「・・・あんま焦んなくて良いぞ?もうスグはオレ達と同じ世界にいるんだ。オレ達は誰一人・・・お前をおいて行かねぇから」
「ッ!」
彼女はずっと焦っていた。兄であるキリトがずっと命を懸けて戦っていた世界に自分がいなかった事に焦っていた。兄が帰還した時には自分が知らない人間との繋がりを得ていて、ずっとおいて行かれてしまうのではないかと、ずっと不安だった。彼女の不安を取り除けるのは現実世界や仮想世界を含めてもキリトとライリュウーーー信頼を置く二人の兄だけしか存在しない。
ライリュウの励ましの声に対してリーファは少し驚きつつも、喜びを感じた。それと同時にーーーときめきすら感じた。
「・・・竜兄ちゃん、なんかズルイよ//////」
「何が!?」
顔を赤らめながらそっぽ向いたリーファにそう言わせたのは、自覚も何もない兄だった。彼女の胸の昂りはいつもーーー二人の兄が原因になっていた。
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