メン・タンク・マッチ:MTM
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初動編
MTM:初動編 第5話「我団(チーム)」Aパート
前書き
メン・タンク・マッチ:初動編の第5話Aパートを掲載開始しました。
初動編は、主人公達がメン・タンク・マッチに参加するまでの話です。
*メン・タンク・マッチ:MTMはまだ未完成の作品のため、全てを一度に掲載することは出来ません。また、各話の修正などで更新が遅れる上、更新期間がランダムで投稿することになります。一応、最終話まで投稿する予定です。
MTMは20話以上の物語を予定しています。
ゴールデンウィークが残り2日程となった5月4日の昼頃。
アルベルトの件から2日目になる今日、天桐はメンバーとなった加埜と共に彼の家である喫茶店[可華蜜]の2階の部屋で今後のことで話をしていた。
「あとは、戦車の乗員に残り2,3人程と予備や手伝いに2人程と。そして、戦車製作整備はアルベルトと柴田さん達で事足りるとして」
「あと、5人も見つけないといけないのか。それも5月22日までに」
「そうなんだよな」
二人は悩むに悩んで
「「ハァーーー」」
脱力した。
二人は、メン・タンク・マッチの出場の為にチームメンバーを集める計画で話し合っていた。
今現在、天桐、加埜、アルベルト、柴田さん達5人の8人が集まってはいるが、肝心な戦車の乗るメンツが揃っていなかった。
アルベルトからは戦車の人員として5名程必要と言われていたので後3人も足りない。
更に、アルベルトは今月の22日までにメンバーを揃えろと言って来たのだ。
理由は、特に言われていないが時間が迫っている以上出来るだけ早くメンバーは揃えたい気持ち同じだ。そんな少し厳しいスケジュールの中でメンバー集めを急がないといけなくなった二人は苦しんでいた。
「おーい、飯だよ」
一人の女性が難しい空気になっている二人の横からやってきた。
天桐が振り向くと赤い前掛けをつけてトレーを持った女性が歩いて来た。
トレーの上を見ると二人分の食事が載せてあった。
「あ、すいませんおばさん」
天桐はその女性に礼を言った。この人は加埜の母親の美紀さんだ。つまり、可華蜜の店長である晶さんの奥さんである。
「いいよいいよ別に。ほら、冷めない内に食べな食べな。ほら、進一も」
「わかったわかったって」
母親に急かされた加埜は食事をする準備をした。
美紀さんは、食事をテーブルに広げ終えるとトレーを側に置いて
「じゃあ、下戻るけど食べ終わったら食器は下に持ってきてね。」
そのまま下に降りて行った。
「はーい」「へいへい」
と二人が返事をして、
「「いただきます」」
手を合わせて食べ始めた。
食事が終わると食器を片付けて下へ運んだ。
二階に戻ると天桐が、
「ふわぁ~~ん」
と腹を満たしたことで眠気が襲ってきたのかあくびが出た。
「ちょっと休憩するわ」
と言い、加埜が自室にあるベッドで横になり、
「食った後に横になると太るぞ」
天桐はそういいながらソファーで横になった。
「そういうお前は牛になるぞ」
二人は、少し横になって休憩をした。
GWなのに色々忙しい状況になった二人は、疲れた溜まっていたのもあって休憩が欲しかった。
二人は、横になりながら携帯をいじったり雑誌を読んだりしていたが、いつの間にか寝ていた。
天桐が先に目を覚まし起き上がり時計を見ると、もう夕方の4時過ぎだった。
「あちゃー、こんなに寝ちまったか」
ほんの少しのつもりが3時間以上も休憩していたのには少し焦ったが、この頃の疲れを癒やせたと思えばいいと天桐は考えた。
寝ている加埜を起こし、再び話し合い始めた。
「アルベルトも言ってたが。やっぱ信頼出来る奴じゃないとな」
「やっぱ信頼のある奴を仲間にするべきだよな」
「よくも知らない奴に色々任せることは難しいぜ」
「だが、そうなると本当に誘える相手が減るんだよな」
いい方法はないかと二人は難しい顔をして考えた。
「ところでよ」
「なんだ?」
「竜二と賢太には、この話してるんだっけ?」
「・・・いや、まだしてない」
「そうだよ。竜二と賢太誘えばいいじゃねぇか。あいつらならきっと」
「駄目だ」
加埜の提案に天桐は拒絶した。
「・・・なんでだ?」
いきなり大声で反対する天桐に少し驚いたが理由がよく分からないので聞いた。
「あいつらは今、自分の道を行くために忙しい」
「それって二人の進路のやつか」
「・・・あぁ」
「・・・そうか」
加埜は納得したようで黙りこんだ。すると天桐は
「竜二は、一応就職すると言ってるけど。本当は将来、自分で作曲して音楽の世界で活躍するのが夢なんだ。」
と語り出した。
「音楽系の学校とかに行きたかったらしいが、家の都合もあって色々大変なんだ。だから、夢の為にもバイトして、お金をコツコツ貯めたりしてんだ」
「・・・」
「賢太も東京の大学へ行くために頑張ってるんだ。これからは大事な時期なんだ。だから、あいつらは巻き込むことは出来ない」
加埜はそう語る天桐の顔を見ると、少し悔しい顔をしているのが分かった。
「そうだな。わかった。俺の考えが軽かったよ。・・・悪かった」
「いや、俺も大声で、その悪い」
と天桐も少し反省した。
「あいつらには、この事は内緒するか?」
「あぁ、・・・頼む」
加埜のその質問に、天桐はそうお願いした。
「けど、どうするかだ。他に誘える奴がいるっちゃいるけど。戦車道に出てくれる奴なんかあんまいないだろう」
「そうだよな」
「取り敢えず、明日何人か誘ってみようぜ」
「あぁ、そうしよう。あ、それとあんま言いふらすなよメン・タンク・マッチ(この件)は、公にしないように言われてるんだからな。説明も出来るだけ」
「あぁ、分かってるって」
天桐と加埜は、その日の話し合いを終えた。
翌日、二人の学校や近所の知り合いの男達に話をして誘ってみた。男が戦車で熱いバトルといったことやミリタリー系ことで興味を持った人が多かったが、結局誰も参加するところまでは気持ちが行かなかった。そのまま、余り進展のないままゴールデンウィークが終わった。
登校初日の朝
「おはよー」「よう」「おひさ」といった若者の声がたくさん聞こえる。
数日ぶりに学校の通学路を歩く天桐の回りは、同じ学校の生徒でいっぱいだった。
(ほんと、久々だなー)
久しぶりに登校する学校を見ると天桐は少し懐かしさを感じた。
天桐は教室に入ると早速久しぶりな人物に出会った。
「あ、士良」
天桐に気付いた城ノ崎は、手を振って挨拶した。
「よ、久しぶり」
天桐は返事をしてそのまま城ノ崎の後ろの席に座り、鞄を机の右に掛けた。
「竜二は?」
「うん。まだ来てないみたいだよ」
「そうか」
天桐はそう言い、左側の窓から生徒達が歩いて来る校門を見た。
「ごめんね。塾のウィーク期間でずっと勉強三昧だったから」
城ノ崎が突然、謝ってきた。
「え?あぁ、仕方ないさ。東京の大学行くなら、それくらい仕方のないことだぜ」
だが、事情を知る天桐はそれを軽く受とり紀にしていないといった。
「おっす、おはようでおひさー」
二人に向かって矢元が歩いて来た。
「お、きたか」
「おはよう」
「いやー、ウィーク中バイト三昧だったからな。お前らに全然会えなかったな」
「そうだな」
と三人でお喋りを始めると
「あ、それ」
城ノ崎が先にそれに気付いた。
「なんだ、また来たのか」
天桐もそれに目をやりそう言った。
「あぁこれな」
矢元の左手には白い小さい横長の封筒を持っていた。
それを見た二人はすぐに何なのかが分かった。
ラブレターだ。
この信道高校の生徒の3割は女子である。
男女が共学であれば、どこかで恋愛的要素、イベントが発生しても不思議ではない。
矢元は、ここに入学した1年の頃からラブレターをよく貰っている。
竜二は学校内トップ10に入るイケメンで通っている。
見た目や性格的にも悪くないかっこいい分類である彼は本校だけではなく他校からもラブレターや告白されている。
何人かとデートしたりしたが、正式な彼女は一度も出来ていない。
それは全部、矢元が断っているからだ。
過去にしたデートは、付き合う前にデートを一度してくれという願いやしてみようかとう理由でやっている。
ちなみに、城ノ崎も実は以外とモテることがあって、イケメンではない彼は美少年よりの可愛い顔をしているという理由で一部の女子達に人気である。高校に来てから8回も告られたことがあるらしい。
矢元のラブレターを見た天桐は、
「へぇー。まぁ俺には関係ないけどな」
と少し目をそらして言った。
それは、天桐はこの二人に比べてラブレターなんて一度も貰ったことがないからである。
ただ、過去に何度か自分に片思いをしている女子が何人か居たという噂を何度か聞いている。
それが事実なのか本人は知らない。
そんな三人のところに
「なんだなんだ」「どうした朝からしけた顔して士良」
二人組の生徒が近づいてきた。
「井崎、松下」
天桐は、その二人を見て名前を呼んだ。
この二人は、クラスメートの男子生徒の井崎や松下といい、クラスでは仲の良い二人組。
入学の時から、天桐とか何度か交流がある。
「おいおい、それラブレターか?矢元」
「あぁ、そうだけど」
井崎が矢元の持つラブレターを指差した。
「流石、うちのモテ男10人衆の一人」
「いやー、敵わないな。ほんと」
井崎と松下は揃って矢元のことで話始めた。
「そういや、城ノ崎も貰ったことあったよな」
松下が城ノ崎に話しかけた。
「そうだけど」
「城ノ崎は、10人衆には入ってはいないが、一部の女子からは人気高いからな」
と井崎もそう話すと、そのまま天桐に顔を向けた。
「そういえば、天桐は貰ったこととかあったけ?」
遂にその話題が天桐に向けてきた。
「・・・さぁ?どうかな」
天桐は頬に汗を垂らせた。
(そんなの生まれてその方、一度もねーよ。記憶では。)
「あれあれ、もしかして天桐君は一度も貰ったことないんですかね」
松下が憎たらしい顔で天桐を見て
「僕はあるな、中学で5回、それも告白もされてさ」
と自慢を始めてきた。
「俺もあるぜ。もう10回以上になるかな」
それに一緒に井崎も自慢をしてきた。
この二人は、別に天桐を嫌っていてそうするのではなく。たまに、こういう風にちょっかい的ないじり方をしてくるのが天桐との接し方みたいなものの1つである。天桐は迷惑に思っているが。
「あれー天桐君。もしかして悔しがってる?」
「べ、別に悔しくなんかねぇよ」
「嘘つけよ」
「悔しいて顔に書いてるぞ」
「もういいだろ」
「うー、怒ってるのは図星だな」
すると、からかわれている天桐を横から見ていた城ノ崎が
「そろそろいいじゃないかな?」
と少しトーンが低い声で言ってきた。
「え?」
井崎と松下はその言葉で少し寒気がした。
「・・・」「あちゃー」
天桐と矢元は冷や汗を出した。
「井崎君が貰ったラブレターってさぁ。・・・イタズラのやつでしょ。女子から罰ゲームで仕方なく出す羽目になったやつ。それも5回とも全部」
「ウッ・・・」
井崎の顔色が変わった。それは明らかに具合が悪そうな顔へと変わっていた。だが、そんなのことお構いなしに、
「なんでも女子達が罰ゲームで、学校でイケてない男子ベスト10の誰かさんにラブレターを書かされるというのをやり始めたらしくれ。相手はルーレットで選ぶらしく、井崎君が何度も選ばれたとか。それでラブレターを出していったある時、告白することにまでなった女子が君の目の前でいきなり大泣きしたらしいね。それから」
と城ノ崎が次々と井崎の黒歴史説明を続けると
「やめろーーー」
井崎が突然、教室内で大声を出して両手で頭を抱えたままお床に膝をついた。それを教室にいた他の生徒も注目し始めた。
「た、頼む。・・・やめてくれ」
と少し涙を出しながらそう城ノ崎に言った。
「やめてくれ、もうあの事は思い出したくないんだー」
「え?けど自分から話したじゃないか僕はラブレターをモテ男だって」
「違う。それは・・・嫌な思い出を良い思い出にしようと自分の中で書き換えた話を、遂しゃべっちまったんだ」
「へー。で、そんな嫌な思い出の嘘話で士良を馬鹿にしたんだ。ふーん」
「あ・・・それは」
何も言い返せなくなった井崎の横で笑みを作る城ノ崎は
「ごめんなさいは?」
とまたあの声でしゃべった。
「ご、ごめんなさい」
「僕じゃなくて、士良に・だ・よ」
と井崎の右耳を握って無理矢理士良に顔を向けさせた。
「ひー、痛い痛い」
と井崎が言って耳を離されると
「あ、天桐。・・・お、お、俺が悪かった」
「あ、あぁ・・・もういいよ。気にしてねーから。ほんと」
天桐も余り良くない空気の中、気まずくそう答えると
「よかったね井崎君。もし、許して貰えなかったら、過去の君の黒歴史全部学校中に噂されてたよ。きっと」
城ノ崎は満面の笑みでそう言った。
「・・・はい」
そう返事をした井崎は既に顔が真っ白になっていた。
「なんと酷いことを」
それを見た松下はビビリながらそう言った途端、城ノ崎の顔が今度は松下を向いた。
「ひっ」
「さて、次はお前、じゃなかった松下くーん」
「な、なんだよ・・・城ノ崎」
(俺のあの件は誰にも話していないから知らないはずだ。大丈夫だ俺、しっかりしろ)
松下は少し心に余裕があるのか堂々と振る舞おうとするが、
「松下が貰ったのはゲームの中でしょ全部」
その一言で顔色が井崎と同じ様に変わっていった。
「な、なぜそれを」
「確か、あるRPGオンゲーで凄く強いプレイヤーでイケメンキャラだった松下は、いろんな可愛い系美人系の女性キャラクターからいっぱいモテていてラブレターをいっぱい貰ったとか」
「あ、あぁ、嘘だろ」
「それで、その中の何人かが写真を送ってくれたらしくて、そのプレイヤー達本人が女の子だと思った松下は、その子達とゲームで付き合ってお喋りやデートしたりするようになって行った。そして、ある日、リアルで会うことになった。すると」
「あ、やめて、それ以上話すのは」
「なんと、そのプレイヤーは男だったとか。それも全員」
「ウワァーーー」
これもまた井崎と同じ格好になった。
「だまれーーー」
「えー、けど話し始めたのは自分でしょ」
「黙れ黙れ、お前らに何が分かるってんだ」
「何が?」
「それは全部、俺をコケにするための罠だったんだぞ」
「知ってるよ~。そして、松下君をハメた後、ゲーム内で噂されたんでしょ。アイツは、女と思った女キャラと付き合うとんだ勘違いキモプレイヤーだって。それ以来、ゲームから姿を消したとか」
「うっ」
松下は涙目になった。
「いやーけど、送ってきた写真が女性のものだと思ったのが全部フェイクだったんでしょ。駄目だよネットってデマの宝庫なんだからさ」
それから城ノ崎は足を組んで、
「いやー、凄く面白いねほんと」
「ち、ちっとも面白くねーよ。その会った中の一人はなぁ。・・・女性の格好と化粧した筋肉モリモリマッチョマンの変態も居たんだぞ」
涙目どころか鼻水を出してそう喚いた。
「俺が帰ろうとすると俺の胴体位ある腕で抱きしめて口を塞いできて人気のない道に引きずり込まれそうになったんだぞ」
と涙を流しながら語った。
「怖かったんだぞ。ウェーーーン」
遂に大泣きをしだした。
「さぁ、ごめんなさいは?」
「うぅぅ、ヒグッ。あ、天桐。すまねー、俺が悪かった」
「あ、あー」
「さぁー、二人共早く席に戻ってくれないかな。僕達、楽しいお喋りの続きをしたいんだぁ」
「「は、はい」」
井崎と松下は、二人して気を落としながら席へと帰って行った
「賢太、お前」
「うん?」
「相変わらず毒が効いてるな」
と天桐は引きながらそう言った。矢元も同じくである。
城ノ崎はクラス、いや学年でもっとも毒のある男で少し知られている。
見た感じだと大人しそうで可愛い顔をした好青年だと思われるが、その裏は相手の心を抉り出すような言葉が得意な奴である。
天桐も矢元もこうやって仲良くしているが、城ノ崎は見た目が可愛い小動物なのに実際は猛毒を持つ危険生物みたいな奴だから、正直恐いと思う時がある。
「ところで士良は、ウィーク中に何やってたの?」
気まずい空気の中、城ノ崎が会話を再開してきた。
「え?あー、えーと。寝てたな。うん、それとネットとか」
「ずっとそれ?」
「・・・ずっとそれだ」
天桐は城ノ崎から目を外すと
「ふーん」
城ノ崎は軽く目を細めて怪しい目を逸らす天桐の顔を見ていると
「久しぶりだな皆。元気にしてたか?」
と担任の藤吉先生が入ってきた。
「あ、先生来た」
城ノ崎が先生に目をやり前に体を向けた。
「じゃあ、あとでな」
矢元は自分の席に戻った。
(ふー、あぶねー)
天桐は少し安心した。
「よーし、授業始めるぞ」
そして、久々のホームルームが始まった。
それから久々の授業1日が終わり、放課後となった。
今日も、三人共帰り道は途中まで一緒だが、
「じゃあ、また明日」
矢元はバイトで城ノ崎は塾に行く為、途中で別れた。
いつも通り、そのまま一人で家に帰ることになった。
「ハァー」
(加埜は今日店の仕事で忙しくて話せないし。一人で考えるか)
とそのまま家に足を向けて帰宅しようと思ったが
(そうだ。気分転換に)
と思い付きで寄り道をした。
天桐が向かったのは例のせんしゃ倶楽部だ。
戦車を手に入れる為にと調べてここに来て、落胆した場所だ。
店に入ると
「いっらしゃいませ」
レジにいる若い女性店員が挨拶してきた。店に中を見ると、あの時の店員は見えなかった。
店の中は、戦車のパーツらしいものや軍隊関係の制服や雑誌、グッズなどが置かれている。
戦車道どころかミリタリー系にそれほど詳しい訳ではない天桐にとって、店内が異世界の様に見える。
(さて、取り敢えず戦車関連の雑誌でも見てみるか。それからグッズとかなんか)
と店を見て回りながら考えていると
「あのー」
と後ろから男の声で話しかけれてた。
「はい?」
振り返ると学校の制服を来た男子生徒が立っていた。
「・・・なんですか?」
(うん?なんだこいつ。制服はうちだな。胸の学年章は、2年生か。あれ?こいつ、どっかで見たような)
と天桐は思い出そうとすると
「あ、あの覚えていませんか。自分のこと、本屋でのこと」
相手が喋ったワードで
「本屋?・・・あ!」
やっと思い出した。
以前、天桐がメン・タンク・マッチに出るのを迷っていた時、本屋で戦車道の雑誌を譲った後輩だ。
「あー、あの時本屋で会った」
「あ、はい。覚えていてくれましたか?」
「え、あー勿論。で君は、えーと」
「あ、すいません」
と相手は背を伸ばし
「自分は早間 毅(はやま たける)と言います」
と何故か妙なカッコつけ方で名を名乗ってきた。
「あ、早間って言うのか。えー、俺は」
となんとなく名を名乗ろうとすると
「天桐士良さんですよね」
先に天桐の名前を早間に言われた。
「え?俺のこと知ってるの?」
天桐は少し驚いた。
「えぇ、学校でいくつかの噂で聞いてますから」
「へー、そうなんだ。ちょー気になるわ。その噂」
と天桐は横目になった。
「失礼ですが、(せんしゃ倶楽部)ここにはよく来られるんですか?」
「ん?いや、あんま来ないな。てか2回目かな」
「そうですか。てっきり天桐先輩も戦車とかに興味あるのかと思いまして」
と早間は少し残念な顔した。
「あー悪いな。なんか期待外れさせちまって」
「いえいえ、気にしないで下さい。先輩は何も悪くないですから」
「あー、まぁそうか」
それから少しだけ店の中を早間と見て回ることになった。
「それは、ドイツ軍の制服で、◯✕師団の」
「これは、75mm◯✕△で」
と次から次へと、早間からそっち系の専門について説明をされ、
「へ、へぇーそうなんだー。ふーん」
それに合わせて天桐は棒読みで返すしかなかった。
(いつまで続くんだ。この世界の軍事関連説明ガイドツアーは)
と天桐が思っていると早間は
「あ、すいません。なんか自分だけ一方的に喋ってしまって」
「え、・・・嫌々、気にすんな」
(ほんとは、ちょー終わってほしいけどね)
と思いつつも優しく答える。
「実は、自分。・・・戦車が好きなんです」
「う、うん」
(そりゃ、そうだろうな。こんだけ語ってくれれば誰でも分かるよ)
「も、勿論、他の軍艦や航空機を始め、軍事関連の多くも好きなんですよ」
「お、おー。つまりミリオタってやつか?」
「えぇ、まぁそうですね」
と答える。
そんな会話をしていると
「先輩は戦車道って、知っていますか?」
とまた質問をされた。今度は戦車道というワードが出てきたのもあり天桐は大きく反応した。
「あ、あぁ知ってるよ。その、・・・テレビとかで見たことあるさ」
(本当はあの件で知ってるからね)
そう言う早間は、なぜか寂しい顔をして
「実は、自分には1つ上の姉がいるですけど。姉は、小さい頃から戦車道をよくしてたんです」
とまた何かを語り始めた。
(姉?)
「姉は、戦車道の才能を持ってたんです。小学校での地区大会にも出たこともあって凄い成績を残したり、中学の全国大会では隊長を務めてベスト4に入るほど凄かったんですよ」
「へー凄いな」
「けど、高校1年の時にある出来事があって、・・・戦車道を辞めてしまったんです」
「!」
その出来事というのが天桐は気になったが、相手の空気を読んだのか遠慮してそのまま黙って聞いた。
「それ以来、姉は戦車道に関わらなくなってしまったんです」
「・・・」
「自分は、昔から姉に憧れていたんですよ。戦車道をやっている時の姉を」
「・・・」
「どれだけ大変で辛くても笑顔で楽しそうに頑張る姉は、自分とってヒーローのような存在だった。そんな姉のお陰で自分も戦車好きになったんです。そして、男ながらも戦車道も好きになってしまった」
「・・・」
「けど、今は憧れだった姉は、もう戦車にすら関わりたくなくなった寂しい人へと変わってしまった」
「自分はある日、そんな姉に言ったんです。戦車道を続けてほしいと。どんだけ大変で辛くてもお姉ちゃんなら乗り越えられるって。・・・けど、姉は男のあんたにはあの辛い戦車道なんか分かる訳ないと言われました」
「・・・」
「確かに姉の言う通りです。男の自分が、戦車道をやったことのない自分が分からないのは当然だってこと位、理解してはいます」
「・・・」
「けど、自分はどうしても諦めることが出来なかった。そして、考えたんです」
「!」
「自分も戦車道を、戦車に乗って試合すればいいじゃないかって。姉に、自分が戦車道で頑張っている所を見せつければ、きっと姉は少しでも戻ってくれると信じてるんです」
「・・・」
「フッ、自分は夢を見過ぎてるんですかね。先輩はどう思います?やはり、馬鹿だと思いますか?」
「・・・」
「けど、そんな夢叶いませんよね」
そう言い早間は苦笑いした。
「なぁ、早間」
「はい?」
「その夢、・・・叶えてみたくないか?」
「・・・え?」
二人は、店を出た。天桐はそのまま早間を自分の部屋まで連れてきて、メン・タンク・マッチの説明をした。そして、勧誘した。一緒に出ないかと。戦車道ではないが戦車の試合には出れるぞと。
もし早間に断られてもこの事を言いふらすような様な奴とは思えなかった迷いなく全部話した。
すると、本人はまるで子供のように目を光らせて大いに参加を了承、いや志願してきた。
この日、やっと3人目の仲間として、全く知らない後輩をたった1時間で仲間にすることが出来た。
翌日の夕方、加埜に早間を紹介した。
それから、数日が経過した13日。
4人目のメンバーであり3人目となり搭乗員となった早間と天桐、加埜の3人は可華蜜にて話し合いをしていた。
「あれから何人に声かけた?」
天桐は二人に質問をした。
「俺は、ダチから先輩後輩でざっと30人ぐれーだ。誰ものってくれなかった」
「自分は友達と知り合いに10人程ですが、全員駄目でした」
加埜と早間は結果を報告した。
メンバー探しをはじめて2週間近くになるが、今集まっているメンバーが加埜、早間だけだ。
戦車製造整備のアルベルトと柴田さん達の方の人員は既に大丈夫ではある。
「アルベルトからの連絡だと製作する戦車は5名必要とのことだからな」
「少なくてもあと最低でも2人はいるか」
「戦車乗員だけは必須ですからね」
話し合って中で天桐は壁にあるカレンダーを見た。
「残り僅か」
アルベルトに言われた約束まで、あと10日もない。
「このままじゃあ。揃わないかもしれねーぞ」
「あと10日もないとなれば可能性として不味いです」
「あー、そうだな」
三人は
「「「ハァー」」」
溜息をついた。
「ところで、加埜。明日の件は」
「え?あー、親父とお袋に言ってあるから大丈夫だ。心配すんな」
「そうか、俺も準備はしてるからさ」
と二人のいきなりの会話の内容が分からない早間は
「?」
と疑問に思った。
「さて、話しは戻して。とにかく何とか手を打たねぇとな」
天桐はまた話を戻した。
「えぇ、どうしましょうか本当に」
「はぁー、もう声をかけれる奴はいねーしな」
三人とも、ここ最近はこの事で頭がいっぱいだったせいもあり、もう限界に近かった。
そして、
「あーもう」
加埜が大声を出し天桐に向かって
「なぁ、士良?もう、こうなったら・・・」
と何か提案をしてきた、が、なぜか途中で止めた。
なぜなら、天桐が手の平を向けたからだ。それ以上言うなという意味で。
天桐は加埜の提案内容を察したのだろう。
そして、
「俺が何とかする」
天桐がそう言い、その日の話は終わった。
後書き
第5話はABの2パートとなっております。
続きのBパートは、また後日投稿致します。
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