色を無くしたこの世界で
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ハジマリ編
第14話 VSジャッジメント――違和感の正体
「モノクロ……世界……?」
【モノクロ世界】。
それを聞いて天馬が思い出すのは、さっき部屋で見た夢の風景。
あの時は夢だったから色が無いのも、変な内容なのも理解出来た。
――でもまさか……それが現実になるなんて……
「その世界は文字通り色が無く、黒と白……その濃淡だけで染められた、様々な町や国が歪に繋がれて出来た異質な場所。そしてその世界を管理し、支配するのが『モノクロの王』」
「王……」
「彼はモノクロ世界を一から創り上げ、そこに住む色も顔も無い存在『イレギュラー』を生み出した絶対的な存在」
「イレ……ギュラー……?」
不思議そうな表情で首を傾げるフェイを見ながら、アステリは言葉を続けた。
「イレギュラーとは、モノクロ世界に住む存在……種族って言えば良いのかな? キミ等で言う所の“人間”とか“犬”とかって言うのと意味は一緒さ」
その言葉に、天馬は「えっ」と声を上げると「ちょっと待って」と困惑した様子でアステリに尋ねた。
「カオスとアステリは同じ世界から来たんだよね? って事は、アステリは人間じゃ……無いの?」
天馬の問いにアステリは「あぁ」と困った様子で頷いた。
その反応に二人は衝撃を受ける。
実際の所……カオスについては、その異質な能力で「人間ではないのでは?」と言う考えが二人の中には存在した。
そんな時に『実はカオスは人間ではありませんでした』なんて事を言われても、ビックリはするだろうが、『あぁ、やっぱりか』と言う思いの方が先に出るだろう。
だけど、まさかアステリが……自分達と一緒に戦っていた彼までが、人間では無いだなんて思いもしなかった。
「……二人共、大丈夫……?」
「! あ、あぁ……」
「ごめん……続けて?」
アステリの声にハッとして、フェイはそう返事をする。
二人の返事を聞くと「わかった」と彼は話を続けた。
正直、天馬の頭は混乱しっぱなしで、アステリの口から発せられる言葉の意味すら、理解出来そうも無かった。
それでも、理解しなければならない。
アステリの今までの言動からして、少なくとも自分達にも関係のある事だろうから。
「『イレギュラー』には基本、色と顔が無い。まぁ、一部特殊なのはいるけどね…………カオスやボクの様に色も顔も、両方あったり……どちらか片方しかなかったりとかさ」
顔や色が無い……
そんな生物が本当に存在するのだろうか……
アステリの言葉を理解しようとするたびに、天馬の頭の中にグシャグシャに絡まった糸が増えていく。
「で、その『イレギュラー』の弱点って言うのが『色』。色の無い環境に適して生まれて来てしまった存在は……大体は、色のある世界や、色がついた物に触れると消滅してしまう性質を持っているんだ」
「消滅って……? 死んじゃうって事……?」
そうフェイが尋ねると、アステリは「ううん」と首を横に振った。
「イレギュラー……もとより、色の無い【モノクロ世界】には『命』と言う概念が存在しない。だから、『死ぬ』と言う表現は正しくないんだ。」
「命が……無い……?」
命が無いとはどう言う意味だろうか。
命が無ければそこに存在する事自体出来ないだろうに……
話を聞けば聞く程、困惑した表情を見せる天馬とフェイに、アステリは「ごめん。難しいよね」と苦笑いをする。
「とりあえず、そんな難しい話はあとでゆっくりするとして……今は、本題に戻ろうか。ハーフタイムも十五分しか無いしね」
本題とは、『なぜカオス達の動きが急に鈍くなったのか』の事だろう。
「ボク等、イレギュラーにとって色と言う存在は毒と同じモノ。ボクやカオスの様に、色のある世界でも存在出来る“特別”なイレギュラーは、毒に対する免疫力を持っているから大丈夫……なんだけど……」
「だけど……?」
「……いくら免疫力があるから大丈夫だって言っても……長時間、色――毒に触れ続けていれば身体はジワジワとダメージを受け続ける」
「! じゃあ、カオス達の動きが鈍くなったりしたのって……!」
――長時間、色のある世界にいたせい……
天馬の次の言葉を感じ取ったのか、アステリは頷くと「キミが想像している通りだよ」と言葉を並べた。
フェイも同じ事を考えていたのだろう、一瞬、目を見開いて驚いた様子を見せると、すぐさま複雑な表情をして何かを考え込んでしまった。
と思うと、今度は「あれ」と怪訝そうな顔をする。
「フェイ。どうしたの?」
「うん……あのさ。カオスも君も、そのイレギュラーって言う種族で、しかも同じ特別な部類に入るんだよね?」
「うん」
「じゃあ、カオスと君は全く同じ種族の存在って事だよね?」
「まぁ、全く同じって訳でもないけど……大体は一緒かな……」
「そんな事聞いてどうしたの?」と尋ねるアステリに「じゃあさ」とフェイは言葉を続けた。
「……どうして、君は平気なんだい?」
フェイの問いに天馬も「あっ」と何かに気付いた様な声を上げた。
アステリの話を聞く限り、カオス達の様子が可笑しいのは色のある世界に長時間いたせいだと言う。
だったら、同じ種族……ましてやアステリはカオスよりも先にこの、色のある世界に来ていた。
時間にしてみればアステリの方が多少だが、その『色』に触れている時間が長いはず。
それなのにアステリは試合中、普通にプレーをしていた。
今もどこも可笑しい様子は無い。
「どう言う事だ」とアステリの方を見る。
「………………」
(……え……?)
――アステリ……?
「カオスは試合する前から力を使いまくってたからね……力を使っていない分、ボクの方が影響を受けにくいんだよ。ほら、身体が疲れていると病気になりやすいでしょ?」
「それと同じだよ」と笑うアステリに、フェイは「そこは人間と同じなんだ」と困った様な笑みを浮かべる。
そうやって普段通りに笑うアステリの表情が一瞬……ほんの一瞬だけ、いつもと違って見えて……天馬は不思議そうに眉をひそめる。
すると、スタジアム内にまだ幼い少女の元気な声が響いた。
『選手の皆さんっ! ハーフタイムもそろそろ終了です! 後半戦に向けて、ポジションについてくださいっ!』
「! そろそろ後半戦が始まるみたいだね。…………今話した様に、カオス達の力は弱くなっている……前半程、苦戦はしないと思うよ」
「それでも、油断はしない方が良い事に変わりは無いね」
「あぁ」と頷くと、天馬はアステリやフェイと一緒にグラウンドに向かって歩きだした。
さっきのアステリの言葉は、未だ全て理解出来た訳じゃない。
それでも、試合が始まればそんな事を考えている暇等無くなってしまう。
(さっきのアステリの様子も気になるけど………今は試合に集中しなくちゃ……!)
そう気合いを入れると、天馬は自らのポジションについた。
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