色を無くしたこの世界で
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ハジマリ編
第12話 VSジャッジメント――違和感
『ボールを持ったフェイ選手! そのままジャッジメント陣内へ切り込んで行くっ!!
テンマーズ、反撃開始かー!?』
相変わらず、ジャッジメントは手強い。
守りも攻めも、一筋縄ではいかない……が。
時間が経過するにつれ、選手の一人一人の動きが変化していくのを天馬達は感じていた。
(? ……なんか……最初の頃より動きが鈍くなった……?)
「疲れたのだろうか……」と思ったが、選手の顔色を見る限り、どうもそうではない様だ。
天馬の中で言い表し様の無い違和感が生まれる。
でも、今は試合中。余計な考えは振り払い、フェイから送られたパスを受け取り、シュートに持ち込む為攻め上がる。
「ぶっとばすっ!!」
「!」
瞬間、赤い目をした選手が天馬の目の前に立ちふさがった。
彼は身体中に力をこめると、背後から紫色のオーラを発動させる。
――化身か……っ
「来い、破壊神デスロス!!」
紫色のオーラの中から姿を現したのは、二丁の機関銃を持った黒い化身だった。
化身は二丁の機関銃を天馬に向けると乱射し、巨大な弾幕を作り上げる。
「っ……!?」
「ぶっとべぇっ!!」
「!? うわぁっ!」
『松風選手、弾幕の爆風に吹き飛ばされたぁ!! ファウルでは無い物のとても危険なプレーです! でもマリス選手、そんな事はお構いなしにシータ選手へとパスだー!!』
天馬は上手く受け身を取り地面との衝突から身を守ると、すぐさま体勢を立て直し、ボールを追う。
シータと呼ばれた少女は黒い光に身を包むと真っ白な《イルカ》へと姿を変えた。
真っ白なイルカは空中にバブルリングを生成すると、そこを潜りながら前線へとボールを運んでいく。
『シータ選手もソウルを発動! 空中に生み出したリングを潜りながら、華麗な動きでテンマーズを翻弄していきますっ!』
「ボクが止めるっ!」
空中を泳ぐ様に進んで行くシータの前にアステリは立ちふさがる。
アステリは先ほどの様に全身を水色の光で包む込むと、巨大な白鳥へと姿を変えた。
二体のソウルが一つのボールを奪う為、互いにぶつかり合う。
『ソウルVSソウルの熱い攻防戦が繰り広げられます! 果たしてボールを奪うのはどちらだ!?』
アステリのソウルは大きく翼を羽ばたかせると空中でバック回転を行い、相手から距離を取る。
と、相手のソウルに向かって急降下をし、凄まじいスピードで相手のソウルに衝突。吹き飛ばした。
「きゃぁっ!」
『アステリ選手! 相手から一旦距離を取った後の体当たりで、見事シータ選手のソウルを打ち破ったー! そのまま前線の松風選手へと繋げていきます!』
アステリからパスを受け取る為、一瞬天馬の動きが止まった。
その瞬間を狙ったかの様に、マリスと呼ばれた化身使いが天馬の前に現れる。
パスを受け取ろうと動きを止めたせいで瞬時の対応が出来ない。
――マズイ……っまたボールを奪われる……っ
「今度もぶっとばしてやる! 破壊だn…………!?」
(…………ぇ?)
突如として、マリスの背後に出現していた化身がその姿を消す。
それと同時に、彼の動きが鈍くなるのを天馬は感じ取っていた。
――! 今だっ
「ミキシトランス! アーサー!!」
「!!」
天馬はオレンジ色のオーラに全身を包むと、逆立った金髪の少年へと姿を変える。
それと同時に手をかざすと、握りしめた手の中から黄金色に輝く剣を出現させた。
黄金に輝く剣を天高く掲げると両手で構え、マリス目掛け走り出す。
「王の剣! だぁぁぁ!!」
「! なっ!?」
天馬は両手で構えた剣を思いっきり横に薙ぎ払うと、マリスを吹き飛ばし隣を走るフェイへとパスをつなげる。
『松風選手、ミキシトランスからの《王の剣》でマリス選手のディフェンスを突破! そのままフェイ選手へパスをすると、ゴール前まで上がっていきます!』
「天馬、行くよっ!」
「あぁっ」
「……!」
フェイの声を合図に二人はお互いに交差しながら飛び跳ねる。
と、さながらサーカスの空中ブランコの様に天馬が空中でフェイの腕を掴み取ると、ボールに向かって振り下ろした。
「「エクストリームラビットっ!!」」
フェイによって蹴り落されたボールは三つに分裂し、凄まじいパワーを纏いながらゴールへと突き進む。
「今度も止める。はぁぁっ!」
アビスは先ほどの様に両腕をクロスさせながら、迫りくるシュートに向かって駆けだす。
「ゴッドハンドXッ!!」
赤いイナズマを纏った巨大な手が二人のシュートを抑え込む。
強力な必殺技を相手に、シュートはみるみる勢いを落として行く様に見えた。
「こんなシュート、僕の敵じゃ――――」
が。
「――――ッぅ……!?」
(!! また……)
突然、アビスが顔をしかめその動きを止めた。
瞬間、さっきまで勢いを落としていた天馬達のシュートが猛スピードで回転し始める。
猛スピードで回転し始めたボールは、まるでドリルの様にゴッドハンドXに突き進み、その壁にヒビを入れていく。
「なっ……!?」
天馬とフェイのシュートによってヒビが入ったゴッドハンドXはついにはバラバラに砕け散り、その姿を消す。
技が破壊され唖然とするアビスの脇を通り抜けたシュートは、ゴールネットへと突き刺さり、停止する。
瞬間、甲高い笛の音がスタジアム内に鳴り響いた。
『ゴォォォォルッ!! アクロバティックな動きから繰り出された松風選手とフェイ選手の必殺シュート《エクストリームラビット》が見事アビス選手の守りを破壊! テンマーズ、同点ですっ!』
アルの言葉と共にスコアボードには1-1の文字が刻まれる。
「やっと追いついた……!」そんな安堵と嬉しさから、自然とガッツポーズをする天馬。
後ろを向くと、フェイとアステリが嬉しそうな様子で駆け寄ってきていた。
「フェイ、アステリっ!」
「やったね、天馬!」
「二人共凄い連携だったよ。さすがだねっ」
そうアステリにおだてられ、天馬は嬉しい様な恥ずかしい様な笑顔を浮かべた。
フェイも「いや~」と照れ笑いをしている。
「そんな事で喜べるなんて……」
不意に聞こえた嫌味たっぷりのその言葉に振り返ると、その声の主はいた。
「ずいぶんオメデタイんだね、君達」
「……カオス……」
瞬間、天馬達はキッと眉をひそめカオスを睨みつけた。
そんな彼等の表情を嘲笑いながら、カオスは言葉を続ける。
「たった一点でそんなに喜んじゃうなんてさ。よかったねぇ、“まぐれ”で入って」
「なんだと……っ!」
その言葉を聞き、アステリは今まであったカオスへの怒りが増していくのを感じ睨みを強くする。
――コイツはどれだけ他人を見下せば気が済むんだ……っ
そんな彼の心情に気付いたのか、フェイがアステリの肩を叩く。
振り返るとフェイは首を横に振り「相手のペースに乗ってはいけない」と耳打ちをして、カオスの方を見つめた。
「たかが一点、されど一点だよ。そんな風に言っていると、今に足元すくわれるよ?」
フェイの言葉にカチンと来たのか、カオスは一瞬眉をひそめるとすぐに「あぁそうかい」と後ろを向いた。
「まぁ、君等が何をしようと僕の勝ちは揺るがないから良いけどね……」
そう吐き捨てると、カオスは仲間の元へと歩いていく。
その途中、チラッと見えたカオスの顔色が悪いような気がして、天馬は首を傾げる。
(…………気のせい……かな……)
自分達もポジションに戻ろうとした時、スタジアム内に笛の音が鳴り響いた。
どうやら前半が終わったみたいだ。
「前半終了か……じゃあ、ボク等もベンチに戻ろうか」
「……そうだね」
そう歩きだそうとした時、ベンチに向かって歩くカオス達を見つめるアステリに気づいて声をかける。
「アステリー? どうしたのー?」
「! なんでも無いよー! …………」
天馬の声にそう返事をすると、アステリは駆け足でベンチに向かっていった。
――何か気になる事でもあるのだろうか……。
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