仮面ライダーAP
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第一章 鉄仮面の彦星
第4話 束の間の……
南雲サダトとアウラの出会いから、数週間。
サダトの部屋に匿われた彼女は、彼がバイトや大学で家を空けている間の家事や炊事を行い、部屋主の帰りを待つ日々を送っていた。
一方。サダトは彼女の分の生活費を稼ぐべく、バイトをさらに増やしている。移動先の目処が立たないうちは、彼女を外に出すわけにはいかないからだ。バイトさせるなど、以ての外である。
(でも、これってまるで……や、やだ。何考えてるの、私……)
そんな暮らしが続く中で、アウラは今の自分の姿を思い返し――妄想を繰り返しては、罪悪感に沈んでいた。こんな状況だというのに、心のどこかで幸せを覚えている自分がいたからだ。
(これってなんか……い、いや考えちゃダメだ俺。あの子は16歳なんだぞ。エリュシオン星じゃ成人扱いらしいが、こっちの基準で言えば高校一年生だ。犯罪だ)
同じ頃。サダトも大学の講義がまるで頭に入らず、悶々としていることも知らずに。
――その夜。いつものように、勤め先でのバーで一仕事を終えた彼が、黒い制服からレザージャケットに着替えていると。
「サダト君。最近、いつもよりシフトが多いね。買いたいものでもあるのかな?」
「……え、えっとまぁ……そんなところです」
オーナーである老紳士が、目を細めて尋ねてくる。視線を逸らし、歯切れの悪い返答しかしないサダトに、彼は穏やかな笑みを浮かべた。
「――そうか、恋人か。君もなかなか隅に置けないな。その顔立ちで、今までいなかったという方が不思議なものだが」
「え……い、いや、ち、ちがっ……!」
「ふふ、無理に否定することはない。大切にしてあげなさい」
「いや、だから……も、もういいです! お疲れ様でした!」
「ご苦労様。ふふふ」
本当のことを話せないサダトに対し、老紳士は当たりとも外れとも言い切れない指摘を送る。そんな彼の言葉を否定することに踏み切れず、サダトは喚くように声を上げてバーを後にした。
その背中を微笑ましげに見つめる老紳士の視線を、振り切るように。
――癖がある一方で、艶のある黒い髪。整った目鼻立ちに、強い意思を宿した眼差し。いわゆる細マッチョという体格で、姿勢もいい。
それだけの容姿を備えていて今まで彼女がいなかったのは、ひとえに恋愛に奥手なその性格が原因であり――そこが最大のコンプレックスでもあったのだ。
◆
「……ったく、あの人は全く……」
ネオンが煌めく町を抜け、静かな住宅街へと進んでいくサダトのバイクは――わざと遠回りを繰り返しながら、下宿先のボロアパートを目指していた。帰りの途中でシェードに発見されても、すぐに住処がバレるようなことにならないためだ。
遅かれ早かれ暴かれるとしても、ある程度時間を稼げば、アウラだけは逃がすこともできる。彼女は改造人間にされた人々を救える、唯一の希望だ。絶対に守らねばならない。
(……!?)
その思いを新たにした時。得体の知れない気配の数々が、サダトの第六感に警鐘を鳴らした。その殺気を後方に察知した彼は、素早くハンドルを切ると進路を変え、自宅から遠ざかって行く。
彼の行方を追う数台のバイクは、彼の背をライトで照らしながら、付かず離れずといった距離で彼を追跡する。
(来たな……!)
そんな追っ手を一瞥したサダトは、行き慣れた狭い道を駆け抜け、林の中へ入り込んで行く。無理に追おうとしたそのうちの何台かは、そこで木にぶつかったりバランスを崩したりして、次々と転倒してしまった。
狙い通りに撒いていけている。その光景から、そう確信していたサダトの前に――
「遊びは終わりだ、小僧」
「……ッ!?」
――悍ましい風貌を持つ怪人が、全身から粘液を滴らせ、正面から待ち構えていた。舗装されていない林の中で、相手が待ち伏せていたことに驚愕する余り――サダトは声を上げることすら出来なかった。
そして――瞬く間にバイクを片手でなぎ倒され、サダト自身も吹き飛ばされてしまう。
「うわぁぁああぁあッ!?」
舞い上がる身体。回転していく視界。その現象と身体に伝わる衝撃に意識を刈り取られ、サダトは力無く地に倒れ伏した。
彼を見下ろす人体模型は――口元を歪に釣り上げ、ほくそ笑む。
「ようこそ――シェードへ」
――しばらく時が過ぎ。かつて青年がいた場所に彼の姿は見えず、彼の私物であるオートバイだけが残されていた。
そして、そこにもう一台の、純白のカラーが眩しいオートバイを駆る男が訪れる。
彼はヘルメットを外し、今や無人となったそのレーサーバイクを眺めていた。
「遅かったか……!」
口惜しげに苦虫を噛んだ表情で、青年はバイクに駆け寄る。
そのバイクのすぐ傍に、木の葉や草が何かに溶かされた跡があった。
自然のものとは思えない、その痕跡。それと倒れたオートバイを交互に見遣る男は、眉を顰める。
「これは……」
そして素早く立ち上がると――自身の愛車に跨り、弾かれるように走り出して行った。
「シェードの仕業に違いない……無事であればいいが……!」
時は一刻を争う。彼の表情が、そう語っていた。白いジャケットを纏うその男はさらに
愛車を加速させていく。
「また一つ、尊い命が奪われようとしている……許すわけには行かない!」
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