FGOで学園恋愛ゲーム
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二十一話:女性達の会話
「ああ……普通に食べられるわ」
『うん。砂糖をぶちまけたようなものじゃなくてよかったね』
「このフォウくんパフェ。なんだか食べていると力が漲ってくるような気がします」
しゃれた外観の喫茶店の中で、パフェをつつきながら、安堵の息をこぼす三人。
前回の麻婆豆腐に地獄を見た経験から、警戒していたが、やはりあれは特例だったのだ。
三人は黙々と、可愛らしくフォウくんがデコレーションされたパフェを食べていく。
『ジャンヌ・オルタ的にこの店はどう?』
「まあまあね。この無駄に凝ったデコレーションの分を、味を上げるのに回せばマシになるんじゃないかしら?」
「つまりデコレーションは可愛いということですね、お姉様」
「一言も言ってないわよ!」
若い高校生らしく、三人はワイワイと賑やかに食べ進めていく。
明るい雰囲気の店内であるが、何も明るい話ばかりが飛び交っているわけではない。
誰も気づかないように、賑やかな雰囲気に隠れて、重い話も行われている。
「リリィ……考え直しなさい。あの男だけはダメよ」
「でも、イアソン様は放っておけないんです。具体的にはナイフで刺さないといけない気がするんです」
「あなたは何もわかっていないわ。顔だけがいい男なんてゼウス並みの地雷よ。もっと内面を見なさい」
ふっくらとしたパンケーキを前に、フォークすら持たずに話し合う姉妹。
メディア・リリィと姉のメディアが、妹の交際相手について話し合っている最中だ。
「確かにイアソン様は、捻くれ者で一見しなくても屑ですけど、道に座り込んでいるお婆さんがいたら、文句を言いながらおんぶをしてくれるような人なんですよ!」
「そうね……1万分の1ぐらいの確率で良いことをするかもしれないわ。でも、それとこれとは話は別よ。きっと将来、ドロドロの裏切りを行うことになるわ」
やけに実感のこもった言葉で妹を説得しようと奮闘するメディア。
彼女は、神に狂わされて弟をナイフでバラバラにするかのような、残酷な未来が待ち受けている気がしてならないのだ。
「それにこの前、小5の女の子と話し込んでいたから危険よ」
「違います! それはバーサーカーさんグッズの自慢話をしていただけです、きっと!」
「……それはそれで問題があるような気がするのだけど」
「お姉ちゃんだってセイバーグッズを買い漁っているじゃないですか!」
「セイバーはいいのよ。セイバーはセイバーですもの」
妹の反論にも、全く動じた様子を見せないメディア。
一見するとカッコよいが、要は開き直っているだけである。
「なら、どんな男性ならいいんですか!?」
「え? そうねえ……。やっぱり変に飾らないで、ありのままの自分を受け入れてくれて、無口だけど、本当に伝えたいことは、ちゃんと伝えてくれる人かしら」
メディアは若干頬を染めながら、脳裏に浮かぶ男性の特徴を答える。
顔はイケメンでなくていいのだ。ただ、その在り方が尊いものであればいい。
そんな、魂イケメンの暗殺拳の使い手の教師が彼女の想い人である。
「そんな人、本当にいるんですか?」
「な! あなた宗一郎様を侮辱する気!? 鍋でコトコト煮込むわよ!」
「別に侮辱していません! それより、お姉ちゃんの方がイアソン様を侮辱しているじゃないですか! 子豚さんに変えちゃいますよ!」
「あなたという子は、どこで育て方を間違ったのかしら」
「お姉ちゃんじゃなくて、ヘカテ叔母さんに育てられました!」
何やら魔女のような、物騒な言葉の応酬を始める姉妹。
しかし、周りの客への配慮は考えられているのか、あまり声は聞こえてこない。
ぐだ男の耳にはなぜか入ってくるが、日常茶飯事なので気に留めず追加注文をする。
『すいません。このツインアーム・ビッグクランチ・フラッペチーノっていうのください』
「うわ、何その、2000カロリーぐらいありそうなのは」
『天草がお勧めしてたから』
「……あいつって、時々変なことするわよね」
名前だけで胃が重くなる感覚に、呆れた顔をするジャンヌ・オルタ。
その頭の中では、フラッペチーノを巻き舌で言う、天草の姿が浮かんでいるがすぐに焼却する。
『エドモンからは、恩讐の彼方風ティラミスを勧められた』
「あんたの友達って変人ばっかね。あれでしょ、類は友を呼ぶって奴ね」
最近覚えたのか、ドヤ顔でことわざを使うジャンヌ・オルタ。
その子供のような姿に、ブリュンヒルデは無言でガッツポーズをするが、オルタは当然のように無視をする。
「要するに、あんたも変人ってわけね」
『その理論でいくと、ジャンヌ・オルタも変人じゃないの?』
「はあ? なんでそうなるのよ」
『いや、ジャンヌ・オルタも俺の友達でしょ?』
ぐだ男が何気なく言った言葉に、ジャンヌ・オルタはポカンと口を開ける。
彼女は、友達という言葉に慣れていないのだ。
「な、なな、何言ってんのよ、急に!?」
『私がお前の友だ』
「うそよ! あんたみたいな変人いらないわよ!」
『おお、ジャンヌ・オルタよ。友情を忘れてしまうとは情けない』
「そういうところが変人なのよ、あんたは!」
からからと笑いながら、冗談を飛ばしてくるぐだ男に、ジャンヌ・オルタは怒鳴り返す。
しかし、本気で怒っているようには見えず、どちらかというと戸惑っているように見える。
それに気づいたブリュンヒルデが、クスリと笑い、助け舟を出す。
「私は恋人だからセーフですね、お姉様」
「あんたは友人以前に変人じゃない! 後、自然に恋人扱いするな!!」
「そんな……あの燃えるような夜を忘れてしまったのですか…? 主にブログで」
「別に炎上したことなんてないわよ! そもそも唐突すぎるのよ、あんたは!!」
怒涛のツッコミの連打に、肩で息をするジャンヌ・オルタ。
普段は人とあまり関わらない彼女であるが、この面子で集まれば自然とツッコミに回る。
キャラの濃すぎる友人しかいない人間の悲劇である。
『それで、俺達は友達でいいの?』
「…ッ。そんなの……そんなの……」
素直になれず、どうすればいいか必死に考えを巡らせるジャンヌ・オルタ。
二人のワクワクとした様子にも気づく余裕はない。
しかし、答えないのはプライドが傷つくのでツンとした口調で吐き捨てる。
「……勝手にすれば。あんた達がどう思おうが、私には関係ないもの」
『つまり、友人として認めてくれたでファイナルアンサー?』
「だから、勝手にしなさいって言ってるでしょ!」
うるさいとばかりに、フイッとそっぽを向くジャンヌ・オルタ。
しかし、それだけでは赤く染まる頬を隠すことはできないのだった。
『にやにや』
「気持ち悪い顔で笑ってんじゃないわよ! というか、自分で効果音つけてんじゃないわよ!!」
『わかりやすい方がいいかと思って』
「余計なお世話よ!」
どこまでもふざけた態度を取る、ぐだ男にメンチを切るが効果はない。
既に彼の中では、ジャンヌ・オルタからの罵倒はご褒美のようなものなのだ。
「困りましたね……お姉様を攻略するのは私なのに」
痴話げんかをしているかのような二人の姿に、ブリュンヒルデは悩まし気に頬杖をつく。
ジャンヌ・オルタは、ブリュンヒルデルートに入らなければならないのだ。
それを邪魔する者がいるのならば、友人であっても排除しなければと。
そんな物騒なことを考えていると、隣から声が聞こえてくる。
「困りました……旦那様は、前世から私のるーと固定のはずなのですが」
いつから居たのか、可愛らしく困った表情を浮かべる清姫。
彼女は、ぐだ男と自分は、前世から結ばれているのだと、信じて疑わない。
そんな、二人の恋する乙女が、互いに視線を合わせる。
「清姫さん。一つ提案があるのですが?」
「はい、お聞きしましょう」
彼女達はお互いの利害が一致している。
ブリュンヒルデはそこに目をつけた。
「清姫さんがぐだ男さんと出かける。その間に、私がお姉様と出かける。そうすれば、自然と二人の仲はこれ以上深まらず、逆に私達はそれぞれの想い人と仲が深まる」
「確かに、あなたの言う通りですね」
「ええ、私達は手を取り合うべきです」
「本当に魅力的な提案です」
ブリュンヒルデからの提案に、納得して頷く清姫。
この策は完璧な策だ。誰も傷つけることなく、二人に利益が生じる。
断る理由などない。しかし、彼女の返事は意外なものだった。
「ですが、お断りします」
彼女の返答はNOであった。
「……なぜですか?」
「この清姫が最も嫌いなものは嘘です。真実を伝えずに、そのようなことをするのはだまし討ちに等しい行為。同じ土俵に上がる前に、敵を排除するなどもってのほか。正妻たるもの、小細工などせずに、どっしりと構えて横綱相撲をすればいいのです」
どこか威厳に満ち溢れた言葉にブリュンヒルデは目からうろこが落ちたような気分になる。
そのためか、清姫の中では既に自身がぐだ男の正妻になっていることに、突っ込みを入れてくれる人間はいない。
「そうですね……私が間違っていました」
「いいんですよ。間違いは誰にでもあるものです。ただ、それを認めないのが嘘なのですから」
ニコリと笑みを浮かべて、ブリュンヒルデの手を取る清姫。
美しい友情のように見えるが、想われる側からすれば傍迷惑なだけである。
「そもそも、妻は夫の三歩後ろを行くものですもの。妻が引っ張るのではなく、あくまでも夫を立てなければダメです」
「はい。死後も、冥府の館まで追っていくぐらいでないと、ダメですよね!」
「あんた達、さっきから、なに恐ろしい話してんのよ!?」
今まで無視をしていたが、物騒になってきたので、ツッコミを入れるジャンヌ・オルタ。
因みに、ブリュンヒルデが、ぐだ男を危険視している理由には気づいていない。
『まあまあ、いつものことだから落ち着いて』
「死んだ目で言われても、説得力ないんだけど……」
死んだ目で、いつものことと言い切るぐだ男に、憐みの視線を向けながら座りなおす、ジャンヌ・オルタ。
その視線が、なぜか無性に泣きたくなるものだったので、ぐだ男は無理矢理、話題を変える。
『そういえば、みんなは宿題やってる?』
「ええ、当然です」
「私も、少しずつですが」
「そりゃ、あんなの、少しずつやらないと終わるわけないでしょ」
やっていなさそうなジャンヌ・オルタも含めて、やっているという返答にぐだ男は汗をかく。
彼にとって、夏休みの宿題とは最後の数日でやるものなのだ。
「もしかして、あんた一切手をつけてないの?」
『ま、まだ、時間はあるし』
「そう、よかったら見てあげましょうか」
『え、ジャンヌ・オルタが?』
「ええ。ただし、あんたが間に合わなくて絶望する顔をだけど……ふふふ」
邪悪な笑みを浮かべて、ぐだ男を見下すジャンヌ・オルタ。
人の不幸は蜜の味とはよく言ったものだ。
必死に努力する相手に、横からちょっかいをかけて、遊ぶのが彼女の趣味なのだ。
しかし、ここにはそれを善しとしない人物がいる。
「旦那様を否定するのは心苦しいですが、夫を諫めるのも妻の役目。お手伝いしますので、一緒に宿題をしましょう。あ、それと、この前探していた本は三段目の引き出しの中にありました」
『ありがとう、清姫。ところで、なんでそれを知っているのかな?』
「? 掃除をしていた時に見つけたからですが?」
『そうじゃなくて……いや、やめておく。夜寝れなくなりそうだから』
「まあ、私のことを想うと夜も眠れないなんて……これはもう、結婚するしかありませんね」
かみ合っているようで、まるでかみ合っていない会話を繰り広げる二人。
恋する乙女とは時に恐ろしいものである。
「それでしたら、私もお手伝いしましょうか。もちろん、お姉様も一緒に」
「は? なんで私も一緒にやらないといけないのよ」
「昨日、『一人よりも大勢でやった方が楽しい』と言っていましたので」
「ちょっ! あれはそういう意味じゃ……って、なんで知ってるのよ!?」
「お姉様のベッドの下で聞きました」
「もう、ただのホラーじゃない、それ!!」
いとも容易く行われるストーカー行為。
その源は純粋な愛であるが、やられる側からすれば恐怖でしかない。
そして、その苦労が、ぐだ男とジャンヌ・オルタに妙な共感を抱かせていることを二人の乙女は知らない。
自業自得というものである。
『取りあえず、みんなで宿題をするのは決定でいいのかな?』
「フン……まあ、あんたが、どうしてもって言うならつき合ってもいいわよ」
相も変わらず、ツンツンとした態度であるが、拒絶はしないジャンヌ・オルタ。
そんな姿に、ぐだ男は思わず微笑んでしまいながら思うのだった。
―――もし、彼女の隣に立てるのなら、それは素晴らしいことだろうと。
後書き
ジャンヌ・オルタ的には、ブリュンヒルデ√とぐだ男√がある状態。
そして、ぐだ男√に行くと清姫との戦いが待ち受けているのです(真顔)
次回は勉強会という名の遊び会。
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