仮面ライダーアクセプター-孤高の望喰者-
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望み喰らいし魔法使い
前書き
皆々様初めまして!!o(^-^)o
仮面ライダーウィザードの二次創作の短編を拙い知識を持って、身の程を知らずに執筆したでございまする!!(^_^;)
初めての第二期ライダー小説故に、何処か違和感があったり、意味不明な部分があったり、質問したい事がありましたら容赦無くどうぞ。
それでは、新たる魔法使いの物語の世界をごゆるりと堪能して下さいm(_ _)m
絶望…それは人の抱く夢や未来が失われた際に発する負の感情…。そうした感情から生まれし怪物・ファントムが人を絶望させまた更なるファントムを生みだしていく…。
そんなファントムから人々を守るべく、絶望の真逆の感情…希望と言う名の武器に戦う指輪の魔法使い…。
だが、この物語の魔法使いはそんな正義感を持ってファントムと戦っている訳では無い…。
『グゥッ…!?』
『……。』
とある場所にて、無数の赤い眼の茶色い蛇が髪の様になった頭部、紫色の単眼モノアイをしたファントム・ゴルゴンと1人の魔法使いが戦いを繰り広げていた。が、ゴルゴンは魔法使いの攻撃により膝を付き満身創痍の状態にあり、魔法使いは仮面によって表情は見えないが、その中ではそうした様子を見下している…。
『魔法使い風情が…俺等ファントムを見下してんじゃねぇよォォォォッッッッ!!!!』
そんな魔法使いの視線が自分への侮蔑に気付き怒りを露わにするゴルゴンは、一つ眼を妖しく光らせて動きを封じ、その隙に頭の蛇が敵に噛み付いて石化させる能力・石凍結(ロックロック)を発動しようとするが…
『……!!』
【――!COME-ON】
『なっ…何なんだこれは…うわああああぁぁぁぁっっっっ!!!?…ングッ…ン…グッ…グッ…ンンンンッッッッ!!!?』
それより早く魔法使いが何らかの魔法を使用した瞬間、彼の身体から現出した「何か」がゴルゴンの身体全てを包み込み身動きを封じた。脱出しようと必死に抗うゴルゴンだが、徐々にそんな力は弱まっていき、最後には魔法使いの体内に取り込まれていく…。
『おい…間違って全部呑み込むんじゃねぇぞ。』
(解っておる…「契約」は忘れておらぬ。)
魔法使いは、自身の内なるファントムに先程取り込んだゴルゴンを全て呑み込まぬ様注意すると、それを理解しているファントムは何らかの「契約」を守るべく、魔法使いの身体から青い魔力の粒子を放出させると、それは彼の持っていた菱形の水晶に吸収されていき下半分が水色に光り出す。
『どうにか半分まで溜まってきたか…。』
ファントムとの戦闘が終わり、水晶に魔力が貯蓄されたのを確認した魔法使いは、一通りやるべき事が済んだのか変身を解除する。
「もうすぐだ…もうすぐで俺の目的が…!!」
カールがかった青紫色のセミロングの髪に、鮫の様に鋭い目つきをした紅い瞳をした、黒いTシャツの上に藍色のジャケットを着込んだ青年・王御皇巳(おうみ・こうみ)は、水晶を手に自身の何らかの「目的」が達成される寸前まで来た事に不敵な笑みを浮かべ、青紫色の海蛇を模したバイク「マシンシーペンター」に乗り、その場を走り去って行く…。
―王御家
「よう、今帰ったぞ琉妃。身体の具合はどうだ?」
自宅に入った皇巳は、帰るや否やベッドで眠る彼と同じ髪の色をしたロングヘアーの双子の妹・琉妃(るき)に先程までの不機嫌そうな表情とは違う、穏やかなそれを見せて体調の心配をする。しかし…
「……。」
「…なんて…まだ完全に『戻ってない』のに何が具合はどうだだよ…ムカつくぜ…!!」
肝心の彼女は兄と同じ紅い瞳を見開いたまま、一言も話さないと、まるで「人形」の如く無表情だった。何やら只ならぬ事情の為か、流妃の具合を心配する事が無意味だと、自分自身に苛立つ皇巳。
「(あの時から決めている…流妃は、俺が命を懸けて元に戻す!!)」
皇巳は、人差し指に青紫色の海蛇の様な顔をした指輪を填めた左拳を握り締め、流妃を救う事を改めて誓いながら、あの日を遡る…。
―一年前
「親父!!お袋!!流妃!!皆何処へ行ったんだ…!?」
とある海岸に近い森の中、皇巳は突然姿を消してしまった父と母、そして流妃を必死で探し回っていた。当時王御一家は、この付近でキャンプに来ていており家族水入らずで楽しい一時を過ごしていた。そして、彼が用を足しに離れていた隙に自分以外の家族全員が居なくなり現在に至る…。
「ん、あっちの方から声がする…もしかしてこっちか!!?」
海岸側から声が聞こえてくる為、もしやそこに家族が居るのでは…?そう思った皇巳は急ぎ足で海岸まで走り出す。すると予想通り、父と母、妹の姿がそこにあり、更に何故か複数の人間が一カ所に集まっていた。
「何だそこに居たのか…皆!!どうし…!!」
家族が居た…そう安心した皇巳は彼等の下へと駆け寄って行く。だが次の瞬間思い知る事となる…。
「お兄…ちゃん…逃げ…グルァアアアアァァァァッッッッ!!!!」
「…え?」
これが家族最後の対面となる事を…。
『『『『グルァアアアアァァァァッッッッ!!!!!!!!』』』』
父や母、流妃だけで無く同じ場所に居合わせた人々は、突然獣の様な唸り声を上げながら全身に紫色の皹が広がり出し、それが砕けた瞬間…。
『クックックッ…!!』
『フッフッフッ…!!』
『ハァアアァァ…!!』
「お…親父…お袋…流…妃…!!?」
家族やその他の人間「だった」存在は、それぞれ獣の様な異形の存在…ファントムへと変わり果て、一部を除いた全員が突如発生した黒く禍々しい魔法陣を潜り消え去って行くと言う受け入れ難い光景に、皇巳は言葉を失う…。
『ふむ…取り敢えずサバトの実験結果は半分成功…と言ったところかな?』
「…っっ!!?」
そんな皇巳の背後から、灰色のフードを目深に被った紅い瞳の黒い骸骨の顔をしたファントムが現れた。恐らく、彼がこの凄惨な光景を作り出した黒幕だろう…。
「誰だ貴様は…!!?」
『む?まだ生き残りが居たのか。まあいい、冥土の土産に教えてやる。私の名はスケルトン、あの人間だった者達の姿はファントムと言う存在だ。』
「ファン…トム…!?」
骸骨のファントム…スケルトンは皇巳からの質問に彼の家族の変化した存在について語る。
ファントムとは、魔力を宿した人間「ゲート」が希望を打ち砕かれ絶望し、怪物へと変わり果てた存在…。その人間の姿と記憶を奪って社会に潜り込み、別のゲートを絶望させファントムへと変化させる…と言う行為を繰り返して同胞を増やしている。
そして、今回の様に日蝕の日のみだが大量のファントムを生み出す行為を「サバト」と言う儀式であり、皇巳を除いた王御一家を始めとしたその他の人間はゲートであるが故にその犠牲と化してしまったのだ…。
「何で…何で俺の家族を…!?」
『それ以上は君が知る必要は無い。だが、強いて言うならば、更なる力を手にする為…だと言っておこうかな。その犠牲かてとなれた君の家族は我々に感謝すべきだと…「…ざげんな…!!」』
ファントムと化した家族はもう元には戻れない…そんな非情な現実に、地面に手と膝を付き打ちひしがれている皇巳だが、スケルトンの身勝手な発言を聞き、腕をわなわなと震わせ、血が流れる程両手を強く握り締めながら立ち上がり…
「何がファントムだ…何がゲートだ…何が更なる力だ…!!そんなくだんねぇモンなんかの為に俺の家族を化け物に変えやがって…!!許さねぇ…てめぇだけは絶対に…許さねぇっ!!!!ウオオオオォォォォッッッッ!!!!!!!!」
眼で刃の如く鋭く睨みつけながら怒りの咆哮喉を上げてスケルトンに向かって走り出し、憎悪と殺意を籠めた拳を振り上げようとする。が…
『『『フゥゥゥゥッッッッ………!!!!』』』
「なっ…!!?くっ…離せっ!!このっ!!」
突然スケルトンの前に、先程残った一部である三体のファントムが彼を守るかの様に現れ、内一体が皇巳の拳を片手で容易く掴んで彼の攻撃を阻止する。
『フッフッフ…私への攻撃は全て彼等が防いでくれる。更に言っておこう…今君の暴挙こぶしを止めているファントムは、皆君の家族「だった」存在ものなのだよ。』
「なっ…何だとっっ!!?」
自分のスケルトンへの攻撃を防いでいるファントムは、そのスケルトンの仕掛けたサバトにより姿を変えられた家族の成れの果て…更なる絶望の真実に皇巳は動揺を隠せず目を見開き驚愕する…。
『スケルトンに…触れるなっっ!!』
「うわああぁぁっっ!!?」
その隙を付いた、上半身は禍々しい模様が付いた白い彫刻像の様な逞しい肉体をした男性だが下半身が黒茶色の馬の物となっているファントム・ケンタウロスは皇巳の拳を握ったまま勢い良く彼を投げ飛ばした。
「う…嘘だ…親父が…お袋が…琉妃がてめぇを守ってるなんて…そんな馬鹿な事が…!!」
皇巳は、投げ飛ばされた激痛が気にならない程自分の家族がファントムとなったばかりか、自分をも敵だと認識されてしまった現実を受け入れられず呆然としている。それを見たケンタウロス、そして、青と白を基調とした体色の女性の様な肉体をした二足歩行の鳥のファントム・ハルピュイアと上半身が水色の体色をした女性だが、下半身が魚の尾を生やし銀色の鱗を纏ったファントム・マーメイドが彼を襲うべくじりじり近付き、その命を奪おうとするが…
『アッ…グゥッ…お…皇巳…早…く…逃げ…ろっっ…!!』
「親…父…!!?」
突如ケンタウロスは頭を抱えて苦しみ出し、皇巳に逃げる様促し始めた。恐らく、まだファントムと化してたらそう時間が経って居ない為、僅かに残った宿主だった父の意識がファントムの動きを封じているのだろう。だが、それはケンタウロス(父)だけでは無い…。
『皇…巳…貴方だけでも…生き…て…!!』
『お兄ちゃん…まで…死んじゃ…嫌…!!』
母の意識もハルピュイアの、琉妃の意識もマーメイドの動きを封じ、唯一生き残った皇巳の身を案じ彼を逃がそうとしている。確かにこの隙に逃げる事は可能なのかもしれないが…
「お袋や琉妃まで…だが…俺は…!!」
家族の必死の抵抗に、皇巳は目を閉じながら歯を軋めて悔しげな表情をし、足を動かし勢い良く走り出し…
「しっかりするんだ琉妃!!」
何と逃げようとはせず、琉妃の意識が残っているマーメイドの肩を掴んで彼女に自分を取り戻すよう必死に呼び掛ける。家族の意識が僅かに残っているのなら、まだ助けられるかもしれない…その一縷の望みを皇巳は信じたのだ。
「親父もお袋も…まだ意識が残ってんなら自分を…俺達家族の事を思い出してくれ!!!!」
ケンタウロスやハルピュイアにも自分を取り戻すように声を掛ける皇巳。これまで築いて来た絆がファントムなんかに負けない、家族全員無事に生き残ろう…と。すると、マーメイドの様子に異変が…
「お…兄…ちゃん…!?」
「琉妃!!元に戻ったんだな!!?」
「うん…お兄ちゃんの声…はっきり聞こえたよ…。」
皇巳の必死の声が届いたのか、マーメイドの身体が水色に光り、琉妃の姿へと変化した。皇巳は一縷の希望と言う賭けに勝ったのだ。
「良かった…本当に…良かった…!!」
普段は人前で弱みを見せない程クールな性格をした皇巳だが、妹を救えた事が嬉しいのか、琉妃を力強く抱き締めながら涙を流している…。
「もう…お兄ちゃんったら…///そんなに愛おしく抱き締められちゃったら…」
そんな兄に抱き締められた琉妃は、顔を赤らめながらも自分を心配してくれる事を嬉しく思い、目を閉じて口元を綻ばせ…
「……え?」
「思わず…殺したくなるじゃなぁぁいっっ…!!」
琉妃は狂気に満ちドロリとした瞳を見開き、三日月の様裂けた口元で笑みを浮かべる等、人間の表情とは思えない顔にガラリと変貌させながら皇巳の腹部に槍を突き刺す…。
「なっ…うっ…ぐっ…ぐああああああああぁぁぁぁっっっっ!!!?」
「プッ…クックックッ…キャッハハハハハハハハ!!!!」
突然の出来事に困惑するも、直ぐ様貫かれた腹部の激痛に悲鳴を上げながら悶え苦しむ皇巳。そんな彼を大声で嘲笑いながら皇巳の腹部に刺さった槍を引き抜く琉妃…。
「ぐっ…!!どういう…事…なんだ琉妃…!!?も…元に戻ったんじゃ…ねぇの…かよ…!!」
「元に戻った〜?バッカじゃないの〜?アタシ等ファントムは現実世界ここに生まれた瞬間から、その元であるゲートの意識なんて疾うに消えてんのよ。」
皇巳は流血する腹部を押さえつつ、正気に戻った筈の琉妃(?)に自分を刺した理由を尋ねる。すると琉妃(?)は、小馬鹿にした様な口調でその疑問に答える。
先程スケルトンも説明した様に、ファントムはゲートが完全に絶望し現実世界に顕現した瞬間、その人間の姿と記憶を奪う…が、その精神や意識は消失してしまう…。
そうして人間に成り代わったファントム達は、ゲートの記憶や立場を読み取り、利用して様々な方法で別のゲートを絶望させ新たな同胞を誕生させて行くのが彼等の基本動作である。
今回のケースに当てはめると「王御琉妃」の姿と記憶を奪ったマーメイドは、「人間の意識の欠片でファントムを押さえ込み抗う人間」を装い、皇巳に「家族をまだ救う事が出来る」と言う偽りの希望を持たせ、本性を暴いて絶望させる…と言う最悪の手段を用いたのだ…。
「そ…んな…!?なら…俺の…俺の家族は…!!?」
「お兄ちゃん♪お父さんもお母さんも私も…みぃぃぃぃんなっっ!!!!死んじゃったんだよ?」
青ざめた表情で尚も家族がどうなったか必死で尋ねる皇巳を余所に、琉妃マーメイドは満面の笑みを浮かべながらまたも「妹」を演じつつ彼の顔に近付き…
『アタシ達って絶望を残してね♪アッハハハハハハハ!!!!キャハハハハハハハハ!!!!』
『フハハハハハハハ!!!!』
『ホホホホホホホホ!!!!』
琉妃の姿からファントム態へと変化し、狂気に孕んだ笑い声を上げ、ケンタウロスとハルピュイアも共に皇巳を嘲笑う…。
「嘘…だ…もう…俺の…家族…は…うっ…うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっ!!!!!!!!」
自分の家族はもう戻らない…そう思い知らされ両手で頭を抱えて絶叫した瞬間、皇巳の身体に紫色の亀裂が広がり出す。この現象こそ、絶望したゲートのファントム化進行の危険信号である…。
『やはりこいつもゲートであったか。ここにファントム化を邪魔する「魔法使い」共はいない…同胞と化すのも時間の問題だな。』
スケルトンは皇巳もまたゲートである事を知りながら、彼の異変を喜ばしい表情で傍観している。スケルトンの語る魔法使い…最後の希望「仮面ライダーウィザード」や古の魔法使い「仮面ライダービースト」ならば絶望するゲートを救う手段はあるが、この場に彼等はおらず、このままでは皇巳もファントムと化してしまう…。
―???
―こ…此処…は…?
気が付くと皇巳は先程までの夜の暗い海岸から、澄み切った曇り無き青空、全てを明るく照らす太陽の下、無限に広がる海とまっさらな砂浜にいた。しかし、そこに居るのは彼だけでは無い…。
―あれは…琉妃…それに、親父にお袋も…!?
遠くから彼を手招きしている複数の人物…ファントムと変わり果てた筈の琉妃とその傍らで小さく微笑む両親だった。
皇巳がいるこの空間…それはゲートが最も希望に満ちた日々、時間が具現化した精神世界「アンダーワールド」である。今の光景から鑑みると、皇巳のアンダーワールドは「家族と共に楽しい時を過ごす日々」の様だ…。
―そうか…さっきまで俺は悪い夢を見ていただけか…。
自分も家族も無事だった事から「ファントムやゲートなぞ、全て自分の見た悪夢に過ぎなかった」と判断し、家族の下へと駆け寄ろうとする皇巳。だが次の瞬間、そんな甘い考えは吹き飛ぶ…。
―なっ…何だっ!!?
突如、青空にあの紫色の皹が広がり、それが一部砕けた箇所から「巨大な何か」が現れる…。
『ジャルルルル…!!!!』
巨大な何か…全身が毒々しいダークグリーンの眼の様な形をした縞模様ストライプが付いたダークブルーの体色、爬虫類の様なダークレッドの鋭い眼、そして、剣の様に鋭い歯牙が特徴の海蛇を模した巨大ファントム「シーサーペント」は、グリグリと不気味にその眼を動かし辺りを見回すと…
『ジャルルルルアアアアァァァァッッッッ!!!!!!!!』
咆哮を上げながら、勢い良く首を伸ばし周囲の風景に所構わず暴れ狂うかの様に激突し続け、ぶつけた箇所からは紫の皹が広がり出す…。この様にゲートに内在したファントムは現実世界に顕現するべく、アンダーワールドを全て破壊していくのだ…。
―止めろぉぉっっ!!!!これ以上俺の…!!?
駆け寄りながら「俺の家族に手を出すな!!」と口にしようとした瞬間、皇巳の全身に消えた筈の紫の皹がまた広がっていた。
―ああ…そうか…そうだったな…。琉妃も…親父もお袋も…もうこの世にはいないんだったな…。
それと同時に家族がファントム化…既に実質死んでしまったと言う現実をも思い出し、先程まで焦っていた表情から一転して目が虚ろになり、諦めた様なそれに変わる皇巳。
『ジャルルルル…シャアアアアァァァァッッッッ…ックンッッ!!』
そんな皇巳の弱った精神に呼応したのか、シーサーペントは琉妃や両親を一気に呑み込んでしまい、またも激突、破壊を続けている。しかし、皇巳はそれを無抵抗のまま虚ろな瞳で見ているだけだった。そして…
『ジャルルルルアアアアァァァァッッッッ!!!!』
今の激突で皇巳のアンダーワールドはまるで硝子の様に完全に破砕してしまい、足場を失った皇巳はそのまま一点の光も無い闇の中へと沈み落ちて行く…。
―遂に何もかも砕けちまったか…。だが…もういい…。今更不様に生き残るなんて御免だ…。
アンダーワールドが失われても尚…いや、だからこそなのか、皇巳は最早「生きる」と言う気持ちすら消え失せてしまっている。もうじきファントムと化してしまうのにも関わらず…。
『ジャルルルル…よもや貴様からは希望の欠片すら見当たらぬ。このまま儂に喰われ…儂が「貴様」となろう…!!』
そんな皇巳の眼前に、シーサーペントが彼の存在を奪うと人語で話し掛けつつ、再びその巨大な口を大きく開く。
当然ながら、この皇巳は本人では無くその精神である。それをシーサーペントが喰らった瞬間、王御皇巳と言う人間は完全に死に、その肉体や記憶の全てを奪われてしまう。最早彼を救う手立ては無い…。
―…ゃん…。お…ん…。
―!!
…がその時、皇巳の耳にもう聞く事の無い筈の声が聞こえた瞬間、虚ろだった瞳がカッと見開き耳を傾けながら周囲を見回す。
―琉妃…この声は琉妃か!?まだ生きて…!!いや、そんな訳無いか…。
声の主が琉妃だと知り周囲を見回している皇巳だが、暫くして「妹がまだ生きている」と言う考えを捨て去り、動きを止めて眼を閉じる…。
―お兄ちゃん…!!
―チッ…っせぇなぁ…!!?あ…あれは…!!?
尚も自分を呼ぶ琉妃の声に苛ついた皇巳が再び眼を開くと、その向こう側には淡い水色の光が見えた。それに耳を傾けると声はより鮮明に聞こえる為、皇巳はこう推測する…。
―もしかして…琉妃はまだ死んではいないのか…!!?
確かに琉妃は既にマーメイド…ファントムとして変わり果てている。だが、その魂はまだ完全に消滅していないのかもしれない…。そう考えた皇巳はその光の先へと向かおうとするが…
『ジャルルル…無駄な足掻きはよせ…!!』
「てめぇ…!!」
皇巳の前にシーサーペントが突如として現れ、彼の動きを無駄だと罵りながら立ち塞がる…。
『最早貴様は死を確定されし存在…今更「妹が生きている」など言う不確定な希望に縋って何になる?このまま我にその魂を喰われて楽になった方が「…せぇよ…!!」何…!?』
確かに水色の光から琉妃の声が聞こえているのは事実だが、本当に生きている確証までは無く、またもファントムの罠の可能性もある…。そんなシーサーペントの言葉に、皇巳は何かを呟きながら顔を上げ…
「うるせぇつってんだよこの海蛇野郎!!何が無駄だ!!何が喰われて楽になれだ!!琉妃が生きてるかどうかは俺が判断する事だ!!例えこの先の光がどんな物であろうと…俺は、俺の信じた可能性って希望に喰らい付く!!」
先程までとは打って違い、眼を大きく見開き自分の行動に否定の言葉を投げ掛けるシーサーペントに怒号を飛ばす皇巳。シーサーペントの塞ぐ先に見える光に僅かな可能性があるのならそれに手を伸ばす。それが皇巳の信じる「希望」である…。
『グハハハハハハハ!!!!面白い!!希望か絶望か解らぬ物でも可能性があるならば喰らい付くか!!その貪欲な思想…実に気に入ったぞ!!人間よ…儂と「契約」せぬか?』
「契約だと…!?」
『左様。我が魔力により魔法使いとなり、貴様の妹を生き返らせるチャンスをくれてやろう。但し、代償として儂をその身に宿し、魔力を供給し続けねばならぬ…。』
皇巳の信念に興味を持ったシーサーペントは高笑いし、自身を宿し魔力を与え続ける見返りとして彼に「魔法使い」になる契約を持ち掛けた。シーサーペントを宿す…即ち親の仇と同じファントムを自分の肉体に住まわせる事になるが、同時に琉妃を救う手立てにもなるやも知れないが、皇巳の答えは只一つ…。
「毒を喰らわば皿までだ。その契約…喰らってやるよ!!」
魔法使いの資格と言う名の皿を、ファントムと言う名の毒ごと喰らう覚悟でシーサーペントととの契約を了承した…。
『契約成立だ…!!ならばこの先へと進め!!それが希望か絶望かは自分の眼で確かめるが良い!!』
契約を交わした証として、青紫色の光に包まれた皇巳は、シーサーペントが道を開けた瞬間、超スピードで水色の光へと向かって行った。その光は鬼が出るか蛇が出るか…?
「……ッッ!!」
『む…!!自力でファントム化を止めたか…!!』
全身に覆われた紫色の罅が消え去り、青紫色の光を纏いながら此方を睨み付ける皇巳を見て、口調こそは冷静だが彼のファントム化の失敗を悟り眉を顰めるスケルトン。
「可能性が僅かでも見えたのなら…俺はそれに喰らい付く…!!例えそれが希望だろうと…絶望だろうとなぁっ!!」
【DRIVER-ON!COME-ON】
皇巳は己が信念を叫びながら、何時の間にか右手に持っていた一回り程大きい指輪「ドライバーオンリング」を左手に嵌めると、彼の腰に斜めに傾いた紫色の縁をした青色の左手の形をしたベルト「アクセプタードライバー」が出現し…
【SHABADUVI-TOUCH-HENSHIN〜♪SHABADUVI-TOUCH-HENSHIN〜♪】
アクセプタードライバーの手のレバー「ハンドオーサー」を反対方向に動かし、また元の位置に戻すと、そこから今の緊迫とした場面に似付かわしくないふざけた音声が鳴り響く。皇巳はそれに構わずあの台詞を叫ぶ…。
「変身!」
【CHANGE!COME-ON】
ハンドオーサーに指輪を嵌めた左手を翳した瞬間、皇巳の背後に海蛇を囲った青紫色の魔法陣が現れ、それが彼の身体を潜ると、金色の縁を囲った菱形の青紫色の宝石を模した仮面、胸部に同色の鎧、ダークグリーンの蛇の様な六つの眼を模した不気味な模様が特徴のダークブルーカラーのスカート部分がギザギザしたロングコートを羽織った魔法使い「仮面ライダーアクセプター」へと姿を変えた…。
『希望も絶望も…全て喰らってやる!!』
【CONECT!COME-ON】
『うおぉぉぉぉっっっっ!!!!』
アクセプターは直ぐ様魔法の指輪「アクセプターリング」の一種である、異空間から物を取り出す「コネクトリング」を発動、魔法陣を現われ、そこに手を突っ込むと中心にハンドオーサーが付いた金色のライフルと槍が一体化した武器「アクセプターライフルスピア」を取り出し、スケルトン等に向かって走り出す。
『よもや魔法使いにまで覚醒するとはな。だが、雛ひよこ程度ならば三体で葬れる…さぁ、行きなさい。』
『グオォォッッ!!』
『ピエェェッッ!!』
『今度こそ殺してあげるわ…お兄ちゃん♪いや…クソ魔法使いさんよぉぉっっ!!』
ただのゲートであった皇巳がファントムになる所か、敵である魔法使い(アクセプター)に変身すると言う予想外の展開となったが、覚醒直後ひよこの魔法使いならば取るに足らぬ相手だと判断したスケルトンは、皇巳の家族「だった」ケンタウロス、ハルピュイア、マーメイドにアクセプターの抹殺指示を出し、三体のファントムはそれに従い襲い掛かる。
『はっ!!えいっ!!うらっ!!せぇぇいっっ!!!!』
三対一と不利な状況であり初めて変身したばかりにも関わらず、アクセプターライフルスピアを振り回しつつ、要所要所にパンチ(それもアクセプターリングを填めた方で)やキック等の格闘技を組み合わせ三体のファントムを後ろへ弾き飛ばすアクセプター。
『どうした、三体で掛かってんのに俺を倒せねぇのかよ?』
『おのれぇぇっっ!!』
『ふっ…。』
アクセプターの挑発めいた言葉に激昂したケンタウロスは、後ろ足で地面を幾度も蹴り上げて馬に似た姿なのにも関わらず猛牛の如く彼に向かって突進するべく走り出す。だがアクセプターは、そんな彼を見て仮面の奥で不敵な笑みを浮かべながら新しい指輪を填め、その手でドライバーを翳す。
【SPLASH!COME-ON】
『喰らいなっ!!』
『ぐあぁぁっっ!!?』
アクセプターの前に魔法陣が現れ、そこから激しい水流波の魔法「スプラッシュ」が一直線に放出し、ケンタウロスの身体を貫きつつ吹き飛ばす。その隙にアクセプターは、またも新しい指輪を填めてドライバーを操作する。
【LE-PATCH-MAGIC-TOUCH-GO♪LE-PATCH-MAGIC-TOUCH-GO♪】
『あばよ、親父…!!』
またもふざけた音声が鳴り響く中、アクセプターは父「だった」ケンタウロスに向けて別れの言葉を呟きながら、必殺技専用のアクセプターリング「バイトストライク」を填めた手をドライバーに翳す。
【MAGI-IIJAN!BITE-STRIKE!LET'S-EAT!】
『はああああぁぁぁぁっっっっ!!!!』
『グアアァァァァッッッッ!!?』
アクセプターの足元に青紫色の魔法陣が発生し、右足に青紫色のシーサーペントのオーラが巻き付く様に纏われると、そのまま地面を蹴り空高く跳び上がりキックの体勢を取ると同時にシーサーペントのオーラはまるで目の前の獲物を喰らうが如く口を大きく開き出し、そのまま叩き込む必殺技「ストライクアクセプター」によりケンタウロスは爆散した…。
『魔法使い如きが…図に乗るなぁぁっっ!!』
ケンタウロスがアクセプターに倒された事で、ファントムのプライドを大きく傷付けられて激昂したハルピュイアは、その翼を大きく広げて飛翔し、風を起こしながら無数の羽根を矢の如く放ち出す。
『ちっ…!!』
『逃げても無駄だっ!!』
空中からの攻撃とやや不利な状況となったアクセプターは、舌打ちしながらもその猛攻を走り出して回避する。だがハルピュイアは、彼の逃げた方向に移動しながら同じ攻撃を続ける。
『ふふふ…どんなに逃げ回ろうと何れは体力も無くなる…!!そしてそれがお前の最期の時…ぐああぁぁっっ!!?』
空中からの突風と無数の羽根の攻撃から逃げて回避しようとも、その逃げる体力が尽きればアクセプターを確実に始末出来る…。ハルピュイアがそう確信し自慢気に語っている時、彼女の右の翼が何らかの攻撃により風穴が開き、身体のバランスが崩れて地面に落ちてしまう。
『そ…そんな…私の翼が…!!?』
『鳥みたくピーチクパーチク喚いてよぉ…ムカつくぜ!!』
片翼が使えなくなり愕然としているハルピュイアがアクセプターの方に目を向けると、彼はライフルモードとなったアクセプターライフルスピアを肩に担いで悪態を吐いている。
『おのれぇぇ…よくも私の翼をぉぉぉぉ!!』
片翼を傷付けられ飛行能力を失い怒り狂うハルピュイアは、鉤爪で引き裂こうとアクセプターに向かって走り出す。だが彼はスプラッシュリングを填めてアクセプターライフルスピアのハンドオーサーに翳す。
【COME-ON-NOW-SHOOTING-SHAKEHANDS♪COME-ON-NOW-SHOOTING-SHAKEHANDS♪】
『お袋…普段は反抗ばっかしてたけど、俺を産んで育ててくれて…ありがとう…!!』
アクセプターはハルピュイアに向かって、先程のケンタウロス同様に彼女を通してその依り代と化した母に自分を産み、時にはこの年頃の子供に有りがちな反抗期により疎ましく思いながらも、これまで育ててくれた事に感謝の言葉を告げつつ再びハンドオーサーに手を翳し…
【SPLASH!SHOOTING-STRIKE!】
『だから…安らかに眠ってくれ…!!はあぁぁっっ!!』
『ピェェェェッッッッ!!!?』
同時に別れの言葉も送りながら引き金を弾くと、アクセプターライフルスピアの銃口から槍を模した水流波の様な青いレーザー「スプラッシュシューティング」を放ち、直撃したハルピュイアを爆散させた…。
『へぇ…ファントムになった親を容赦無く殺っちゃうなんて…大した親孝行者よね、アンタ。』
『最後はお前だ…琉妃を救い、お前を喰らい尽くしてやる…!!』
同胞であるケンタウロスとハルピュイアを倒されたのにも関わらずそれに無頓着な上、それを倒したアクセプターを「親孝行者」と嘲笑いながら皮肉を投げ掛けるマーメイド。だがアクセプターはそんな言葉に耳を貸さず、彼女にアクセプターライフルスピア・スピアモードの先端を向けながら、なんとその宿主と化した琉妃を救い出すと宣言する。
『はぁ?何寝惚けた事言っちゃってんの?アンタの妹はもう死んだっつってんでしょ。アタシってファントムを生み出してさぁぁっっ!!』
ファントムの誕生=そのゲートの死…これも決して覆せない図式なのにも関わらず、「ゲートであった琉妃を取り戻す」と言う世迷い言をほざくアクセプターに呆れるマーメイドは、それは不可能だと吐き捨てながら禍々しい魚の形をした切っ先の槍を構えて彼に襲い掛かる。
『そらそらぁぁっっ!!妹を救えるもんなら救ってみなさいよっ!!』
『くっ…ぐああぁぁっっ!!?』
マーメイドの槍による連撃をアクセプターライフルスピアで仮面の下で顔を顰めながら防ぐアクセプター。しかし、彼女の隙を伺っているのか、宿主の妹に傷を負わせたくないのか、彼はそこから反撃しようとせず徐々に背後に追いやられ、遂には逆に隙を取られてしまい攻撃を受けてしまう。
『やっぱ無理だったみたいね。そんなに妹に会いたきゃ会わせてあげるわ…こいつでねぇっっ!!』
『……!!』
マーメイドはアクセプターの戯れ言が実行不可だった事を嘲笑いながら近付き、止めとして槍で彼を突き殺そうとする。が…
―…させ…ない…!!
『なっ!!?身体が…動か…ない…!!?』
突如、彼女の頭に少女の声が聞こえ、槍を持った手が意思に反して金縛りにあった様に動かなくなった。突然の出来事に困惑するマーメイドだが、頭の声は再び響き出す。
―お兄ちゃんは…死なせない…!!
『ま…さか…アンタは…!!?』
『やはりまだ生きていたんだな…琉妃。』
アクセプターは立ち上がりながら、マーメイドの中に聞こえる声…彼の妹、王御琉妃の意識がまだ生きていた事に仮面の下で不敵な笑みを浮かべる。
『有り得ない…!!アタシが生まれたのに…ゲートの意識が…残る…なんて…!!まさか…アンタ…!!』
琉妃に動きを封じられたマーメイドは、自身の誕生と共に消えた筈のゲート…琉妃の意識が僅かに残っていた事が信じられず、同時にアクセプターがこれまで自分に攻撃を仕掛けて来なかった理由を理解した。
『そうだ、俺はあの絶望の中で琉妃の声が聞こえた。それを救う方法は海蛇野郎から聞いたが、それには琉妃の意識が表に出ねぇと話になんねぇからな。』
アクセプターは自身のアンダーワールドが崩壊する中、妹の意識が僅かに生きていた事に可能性と言う希望を見い出した。しかし、それを救うには意識が表面化せねば実行は不可。そして、それが可能となった今こそ、アクセプターは新たなリングを嵌め、ハンドオーサーに手を翳す。
【MANA-ACCEPT!COME-ON】
『ジャルルルルッッ…!!!!』
『なっ…何よあれ…!!?』
アクセプターの全身から巨大な青紫色のシーサーペントのオーラが現出し、その口を裂ける様に開き、それを目の当たりにしたマーメイドが冷や汗を流して震える様はまるで「蛇に睨まれた蛙」だった。
『貴様の魔力(のぞみ)…』
『喰わせて貰うぜ…!!』
『ひっ…た…助けっ…!!ンッ…ンッ…ンッ…ンンンンッッッッ!!!!』
死刑宣告の言葉と共にシーサーペントのオーラは、恐怖に怯えるマーメイドの命乞いの言葉を言い切る前に彼女の身体を足首まで丸呑みした。足下でバタバタ足掻くも、マーメイドの足首が…否、全身が青い粒子となり、それがシーサーペントのオーラを介してアクセプターの身体に吸収される。これこそが他者の魔力を自分に受諾、取り込む魔法「マナアクセプト」の力である…。
『此奴の魔力は既に無い…。』
マナアクセプトの力によりマーメイドの魔力を全て吸い尽くしたシーサーペントのオーラは、口を離してアクセプターの体内に戻ると、目を閉じた琉妃が解放される。
『琉妃!!大丈夫か?』
『……。』
『良かった…まだ生きてる…!!』
アクセプターは直ぐ様琉妃を抱き抱え、彼女の胸元に耳を当て生存確認をする。どうやら心臓の鼓動が聞こえる当たり、無事に生きている様でありアクセプターは安堵する。
(安心するのはまだ早い。確かに貴様の妹の肉体は無事だ。だが、一度はファントムとなった事により精神を失っている。即ち、今の其奴は「生きた人形」と変わらぬ…!!)
『何だと!!どうすれば完全に元に戻せる!?』
(逸るな…その手段を教えてやる…!!)
だがシーサーペントの言う様に、今の琉妃は一度は完全にファントムへと変貌した影響で精神が喪失し「生きた人形」の状態…。どうすれば彼女の精神を戻せるのか詰め寄るアクセプターに答える様に、彼の手元に青い光の塊が発生し、それは先程喰らったマーメイドの顔を模した指輪「マーメイドリング」と底の方に僅かな青い光が入った透明の菱形の水晶となる。
『これは…!?』
(「賢者の器」…魔力を集め、満たされたそれは命に活力を与える魔宝石へと変わる。そして儂は、喰らったファントムの魔力を新たな魔法に変える力を持っておる。)
『成程な、奪ったファントムの魔力の半分は新しい戦力、もう半分は琉妃の命を救う為の糧になるって訳か。』
透明の水晶…「賢者の器」は魔力で満たされた時、あらゆる生物に命を与える水晶。マナアクセプトは対象を飲み込み、その血肉や魔力を奪い取る魔法。更にシーサーペントはその奪った魔力をアクセプターリングへと変化させる能力を持つ。
これらの要素から自分のするべき事は「琉妃を完全に救う為、ファントムを倒し続ける」事だと答えを導き出すアクセプターは…
『なら、その肥やしになって貰おうか。骸骨野郎!!』
琉妃を救う為の魔力を奪うべくアクセプターライフルスピアの刃先を骸骨野郎…スケルトンへと向ける。
『ハハハ!!喰らった魔力を己の魔法へと変化させる力か。これまでそんな魔法使いの存在なぞ聞いた事は無い。実に興味深い…!!』
しかし、スケルトン本人はファントムに変える筈のゲートが敵である魔法使い(アクセプター)へと覚醒し、その彼によりサバトで誕生させたファントムを倒され憤慨するのかと思いきや、「喰らった敵の魔力を魔法に変える魔法使い」と言う前代未聞の存在に興味を示し笑い出す。
『面白い物を見せてくれた礼にこの場は見逃そう。だが、何れ君の力は何れ我々が頂く事になるよ。』
アクセプターの未知なる能力を披露した礼として撤退を口にするスケルトンは、何やら意味深な言葉を彼に投げ掛けながら左中指に「ある物」を嵌めると…
【DRIVER-ON!HURRY-UP】
『なっ!!?』
『魔法使いとファントム…二つの力を合わせ持つ…我等「ソーマ」がね…。』
なんと彼の腰にアクセプタードライバーに似た黒縁のくすんだ金色の禍々しい悪魔の手の形をしたベルトが装備された。そしてスケルトンは、魔法使いとファントム…二つの魔力を持った存在「ソーマ」である事を明かした。この事から先程サバトによって変貌したファントム達を別の場所へ移動させたあの黒い魔法陣も彼の仕業だと説明がつく。
『また会おう…望喰の魔法使いよ…!!』
【TELEPORT!-HURRY-UP】
『待ちやがれ!!くそっ…!!』
スケルトンがドライバーを操作し空間移動魔法の指輪「テレポートリング」を嵌めた手を翳すと、彼の背後に人が通れるくらいの黒い穴が発生し、それを潜って穴ごとこの場から消え去った為、彼を仕留める損ねたアクセプターは、苛立ちながら変身を解除する。
(二つの魔を持つソーマか…厄介な存在に目を付けられたな、望喰者よ。)
「関係無ぇよ。ファントムだろうとソーマだろうと、どんな事をしてでも其奴等の望みを全部まとめて喰らい尽くしてやる!!琉妃を救う為にな…!!」
ファントムに加え、ソーマの存在は確かに厄介だが、それらの障害てき全ての望み(まりょく)を喰らって琉妃を完全に救い出すと、望喰者(皇巳)はアクセプターリングを嵌めた左手を強く握って誓う…。
「そうだ…あの日から琉妃は必ず救い出すと決めたんだ。どんな事をしてでもな…!!」
魔法使いの資格を得たあの日を思い返していた皇巳は、琉妃の頬を優しく撫でながら彼女を救う決意をより固める。
(人間…ファントムの気配を感じたぞ…!!)
「言われるまでも無ぇ。行くぞ!!」
シーサーペントからファントムの気配をこの付近で感知した事を聞いた皇巳は、琉妃を救う一歩として、ファントムを倒すべく家を後にする。
『はっ!!うらぁぁっっ!!』
『グアァァッッ!!?』
ゲートを同胞にするべく迫っていた、鎧を纏い青い体色をした二足歩行の牛を模したファントム「ミノタウロス」をアクセプターはアクセプターライフルスピアで幾度も攻撃し怯ませながら、マーメイドリングをドライバーに翳す。
【MERMAID!COME-ON】
『オラオラオラオラオラオラオラオラァァァァッッッッ!!!!』
『グガガガガガガガァァァァッッッッ!!!?』
マーメイドリングの力により、アクセプターは水色の禍々しい魚を模した槍のオーラを纏ったアクセプターライフルスピアにてミノタウロスに激しい速度で刺突する「マーメイドラッシュ」を繰り出し大きく吹き飛ばした。
『ガッ…!!魔法使い…風情ガッ…!!?』
【MANA-ACCEPT!-COME-ON】
『ジャルルルルゥゥッッ…!!』
マーメイドラッシュにより鎧の胴体部分に罅が入り、満身創痍のミノタウロスは立ち上がりながらアクセプターを睨み付けるが、マナアクセプトを発動したアクセプターから現出したシーサーペントのオーラに睨まれて言葉を失う。
『貴様の望み…』
『喰わせて貰うぜ…!!』
『ヒィッ…う…うわああああぁぁぁぁっっっっ!!!?』
恐怖し後ずさるミノタウロスだが、シーサーペントのオーラの巨大な口に丸ごと呑み込まれてしまい、その魔力は賢者の器の中の魔力の一部と化してしまう。
『ちっ…指輪は省いたのに全然溜まんねぇ…!!こんなチンタラ溜めてたら何時まで経っても琉妃は救えねぇ…!!』
これまで喰らったファントムの魔力は賢者の器に溜める分とアクセプターリングに変化させる分、そしてシーサーペントの食事と分割していたが、ファントムの指輪は充分持っている為今回からそれは省略する様になったが、それでもミノタウロスと戦う前の量と変わらない事に舌打ちするアクセプター。
こんな調子では琉妃を救うのに時間が掛かってしまう。どうすればより魔力を溜める事が出来るのか…。そう模索しているアクセプターがふと周囲に目をやると…
「あ…あぁ…!!」
ミノタウロスに襲われ掛けたゲートの男性が、腰を抜かして地べたに座ったままだった。無理も無い、ファントムと言う未知の怪物に狙われ、そのファントムが魔法使いの身体から出た海蛇らしき物に呑み込まれると言う非現実的な事を目の当たりにしたのだから…。
『…そう言やこれまでゲートの事、放ったらかしだったな。』
アクセプターはこれまでファントムの魔力を奪って戦い続けているが、その何れも狙われたゲートの事に関しては無関心でいると言う、魔法使いには有り得ない思考でいた。そして今、初めてゲートに目を向け、彼に向かって歩いて近付きながら左腰に結んだ一つのアクセプターリングを取り出す…。
「どんな事をしてでも琉妃を救い出してやる…!!」
皇巳は自分の目的を改めて口にしながら、ミノタウロスと戦っていた場所から立ち去って行く。しかし、何故かその場にミノタウロスから救った筈のゲートが存在せず、何やら引っ掻いた様な赤い爪痕が残っていた。
(フフフ…人間よ。貴様は儂と契約する際、「希望や絶望を喰らってでも可能性に縋る」。そうほざいたな?今日その信念…しかと見させて貰ったぞ。)
アクセプターシーサーペントは、自分との契約時に皇巳が口にした信念が本物である事に笑みを浮かべる。
救った筈のゲートがおらず、皇巳とアクセプターシーサーペントの意味深な言葉。そして、あの地面の赤い爪痕。これ等の要素から導かれた事。
マナアクセプトは他者の魔力を奪い、それを我が物にする魔法。即ち、魔力を持つ者ならば善悪問わず奪う事が出来る。敵であるファントムや自分と同じ魔法使い、その両方を合わせ持つソーマ。そして…
「例え…それ以外全ての望みを喰らってでもな…!!」
(未熟な希望すら糧にするその冷酷さ…実に儂好みの思考だ。フハハハハハハハッッッッ!!!!)
絶望から救うべきゲートであっても…。
孤高の望喰者、王御皇巳/仮面ライダーアクセプター。全ての望みを喰らった先に見える未来は希望か?絶望か?
その答えは、誰にも解らない…。
後書き
如何でしたか?
まさか主人公があんな真似をするとは予想出来たでしょうか?(^_^;)
そして、打ち切り漫画っぽい終わり方になって「ちょっと待てよ」とお思いの方に簡単な設定をば。
アクセプターリング
青紫の海蛇の絵が刻まれた魔法の指輪。これをアクセプタードライバーに翳す事で様々な魔法を使用出来る。
スプラッシュリング
ドライバーで発動すれば、青紫の海蛇の魔法陣が発生し、そこから激しい水流波を放つ。アクセプターライフルスピアに翳せば、水流波を付加させた必殺技を放つ。
マナアクセプトリング
魔力を持つ者をアクセプターシーサーペントのオーラが呑み込み、その者の魔力を全て奪う事が出来る。また、覚醒したてのファントムを元の人間に戻す事も可能。(但し、完全に精神が死んだ場合は除く)
賢者の器
透明の菱形の水晶。その中に溜めた魔力は蒼くなりそれが満たされると、命に活力を与える魔宝石に変わるアイテム。
ソーマ
魔法使いとファントム、両方の力を持つ者。劇中では、スケルトンがアクセプタードライバーに似たベルトやアクセプターリングを使用している。
名前の由来は原典のウィザード、「操真」晴人から。
王御皇巳(おうみ・こうみ)/仮面ライダーアクセプター ICV…増田俊樹
本作の主人公。希望も絶望も喰らうと言う異色のシスコン魔法使いです。(笑)但し、妹を救う気持ちの余りに…。
王御琉妃(おうみ・るき)/マーメイド ICV…藩めぐみ
本作のヒロイン且つ主人公の妹です。但し、本人は寝たきりで回想でしか出番はありません。この兄妹のイメージキャストは…皆様の考え通りです(^_^;)
アクセプターシーサーペント ICV…壌晴彦
皇巳の中に内在する巨大ファントム。マナアクセプトで取り込んだ魔力をアクセプターリングに書き換えるインチキ能力を持っています。
スケルトン ICV…菅生隆之
王御一家をサバトによりファントムに変えた張本人。ファントムだけどアクセプタードライバーや魔法の指輪を用いたソーマの一人。何やら目的があるが果たして…?
また機会がありましたらライダーの短編を作って行こうと思います!!
では、また何処かで…。 ノシ
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