非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜
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第33話『心配』
──目が覚めた。
今まで寝ていたというのが、直感的にわかった。
深夜にふと目が覚めるように、スッと意識が戻る。
「ここは…」
起き上がることもせず、ただ天井を見上げる。
天井・・・室内ということか。
コンクリートで作られたであろうその天井は、少なくとも俺の記憶にはインプットされていない。
でもって、俺の身体は柔らかい感触の上にある。
それがベッドの上だと気づくのには、さほど時間を要さなかった。
手を杖に身体を起こしてみる。まずは場所の確認だ。ベッドの上ってことは、安全な場所だと思うんだけど…。
だがその行動は、突如として背中を中心に襲った激痛によって中断される。力を失った腕は俺の身体を支えることを止め、俺と共にベッドに巻き戻った。
ここにきてようやく、俺は自らの状態を身に染みて感じた。
そもそも、俺がこのベッドに居る理由。
それには、部活戦争が大いに関わっている。
一番新しい記憶・・・思い出すだけで痛々しいあの衝撃。背負い投げってこんなに痛いのか。受け身の仕方とか知っとくべきだった。
ともあれ、それが原因で部活戦争を失格したというのは目に見える。現にこうしてベッドで寝ているのが裏付けだ。
さて、状況は読めた。
首だけで周りを見渡すも、見たことの無い部屋。だが、身長計やら救急箱が目に入るとこから察するに・・・“保健室”か。
まぁ入ったことも無いから、わからなくて当然だろう。
広さは普通の教室くらい・・・意外と広い。小学校と比べると比にならないな。
そう考えると、ベッドも中々の高級感が有る気がした。長時間寝ていても楽でいられそうだ。
やべ、二度寝しちゃおっかな・・・。
…と、甘い考えをしていた俺の視界に、1つの人影が映った。
「あれ?」
見覚えのある人物。
小柄で毒舌で頼りになる人物…副部長だ。
俺のベッドの傍ら、椅子に座って眠りこけている。
「もしかして看病してくれたのかな?」などという考えが頭をよぎる。
しかし違和感があった。
俺のベッドとは逆向きを向いているのだ。
もし看病をしてくれているのであれば、俺の方向を向くはずだ。
副部長の向きには何が・・・
「…あぁ、そういうことね」
1人で呟き、目の前の光景に納得する。
副部長が向く先…そこにはもう一つベッドがあった。
俺の隣に位置しているベッド、そこで寝ていたのは・・・部長だった。目を瞑り、静かに呼吸を繰り返している。眠っている副部長と合わせれば、いい感じの絵になりそうだ。
部長も副部長も無事だったんですね…。
ふぁぁ…やっぱ二度寝しよ・・・。
*
2度目の目覚めは、そう遠くない未来だった。
耳元にガンガンと響く声。そのあまりの煩さに、俺は目を開き状況を確認する。
「俺が看てるからいいんだよ。お前はさっさと教室に帰れ」
「言っとくけど、晴登との付き合いは私の方が長いの。邪魔者は引っ込んでなさいよ」
喧騒、といったところか。
俺のベッドの上を飛び交う2つの声は、どちらも聞き覚えがある。
「莉奈…暁君…どしたの?」
「「!!」」
声を掛けてみると、思いの外大きい反応をされる。
しかしそれは刹那。俺が起きたと気づいた2人は声を掛けてきた。
「晴登、身体は大丈夫? 凄い怪我だったらしいけど…」
「超痛いけど、何とかなるよ。それよりどうして二人が?」
心配にも軽く答え、そこで俺は疑問を問うた。
今俺の目の前にベッドを挟むようにして立つのは、莉奈と暁君。
異色の組み合わせであり、俺の知る限り、彼らが交流したことはないはず。今ここに2人揃って立っているのは、些か違和感があるのだ。
「簡単だ。俺がお前を看に行こうとしたら、こいつがついてきただけだ」
「あ、人聞きの悪い。ついてきたのはそっちでしょ?」
「何だと?」
「何よ」
「ちょ、ちょっとストップ…」
険悪ムードになる前に軽く制止。
揃っているにはいるけど、仲は良くないのかな? でも人見知りの暁君がここまで話すなんて、一体どこで交流を持ったのだろうか。
「あ、そうだ。部活戦争ってどうなったの? 時間的にもう終わってると思うんだけど…」
横目で時計を見ながら、俺は訊いた。
時間は部活戦争終了から2時間は経っている。これだけ時間が経っていれば、皆結果は知っているだろう。
するとその問いには、暁君が答えてくれた。
「1位は俺らだ。というか、残ってた人は指で数えられるくらいしかいないけど」
「へぇ…」
事態の展開を知り、感嘆の声を上げてしまう。
俺も部長も副部長もあんな状態だったし…暁君が生き残ったのだろうか。
「…悪いが、残ったのは俺じゃないぞ」
「え、違うの?」
「聞いただけだけど…うちは部長が残ったらしい」
俺はそれを聞き、あることを思い出す。
部活戦争でのあの時、俺が意識が途絶える瞬間、確か声が聞こえてきた。
何と言っていたかはわからなかったけど、もしかすると部長の声だったのだろうか。
そして茜原さんを倒した。こう考えると辻褄が合う。
俺は横のベッドを見てみる。
すると、そこには先程と何ら変わりない光景があった。
・・・って、今までちょっと煩かっただろうに起きなかったのか、この人達…。好都合だけども。
「この人が晴登の部活の部長さんなんだね」
「あぁ」
「……冴えない顔」
「そうかもしれないけど言っちゃダメだ、それ」
「おい待て、そこじゃないだろ」
莉奈と俺のやり取りに、暁君が口を挟む。
何だかんだで、暁君は莉奈と話すことはできてるみたいだ。何かそれだけで嬉しい気分。
「ところで、今学校はどんな感じ?」
「体育祭は予定通りっつうか、予想通り雨で中止。でもって雨があまりにも強いから、皆で教室で待機中だ。保護者はもう帰ったみたいだけどな」
「待機って…そんなに雨が強いの?」
「あぁメチャクチャ。保健室は防音がしっかりされてるみたいだから聞こえないだろうけど、廊下に出たらマジですげぇよ」
暁君が凄いって言うとは、余程の雨なのだろう。
午前中はあんなに晴れていたというのに、それでは異常気象とかそんなレベルだぞ?
廊下に出て確認したいのも山々だが、生憎身体が…。
「外に出たいって顔だね、晴登」
「はぁっ!? ち、違うし!」
「そう言う割には、随分と寂しそうな顔してる気がするけど?」
「別に気にならないし! 俺今動けないし!」
餓鬼みたいな言い訳を放つ俺。それを聞いて、2人が黙る訳がない。
いつの間にか、水を得た魚の様な表情にシフトしていた。
「“満身創痍”ってか。まるで主人公みたいだな」
「でも、こんな普通キャラが主人公じゃ映えないよ~」
「それはそうかもな」
「すっごい皮肉られてんだけど! 俺が何をした?!」
つい、周りを考えずに叫んでしまう。図書館とかだったら追い出しを喰らうくらいだ。危ない。
でもって隣をチラッと見ると…まだ2人は起きない。…セーフだ。
「まぁ冗談は置いとこう。とりあえず、元気なら良かった」
「この調子なら、すぐにでも復活できそうね」
「心配かけたみたいでゴメンね…」
優しい笑顔に戻った2人。
そんな彼らに、俺は本心からの謝罪をする。
言ってしまえば、わざわざ保健室に来てまで看病してくれているので、内心はとても嬉しかった。
そんな俺を見て、暁君は一言、
「じゃあ教室戻るぞ、三浦」
「え、おかしくない!? 満身創痍で動けないって言ったじゃん!」
「大丈夫、背負っていってやるから・・・こいつが」
「ダサっ。さらっと私に振らないでよ。まぁそのつもりだったけど」
「そこは納得すんの!?」
再び声を荒げる俺。ダメだ、この2人と話すと、どうも口が制御できない。無念だ。
…結局、莉奈と暁君の二人の肩を借りて、俺を運ぶことになった。
ベッドから起き上がるだけに、かなりの時間と体力を費やしたのは、ここだけの話だ。
*
「これホントに雨なの? 隕石とか落ちてきてんじゃない?」
「あ、何か言ったか?」
「何でもない…」
2人の肩を借りて、不格好な歩きを始めて早数秒。
廊下に出た途端に耳に入ってきた轟音は、俺のまた眠りそうな意識を覚醒させるには、十分過ぎる目覚ましだった。
ちなみにその轟音のお陰で、多少の小声は隣に居る二人にすら届かない。
俺は続けて窓の外を見る。
先程保健室で見た時計によると、まだ時間は夕方前。
なのに、空は深夜の様に真っ暗だった。廊下はその暗さとは対照的に蛍光灯が輝いて明るいので、つい「学校にお泊まりなのでは」と、内心ドキドキしてきた。
「三浦、階段だ。行けるか?」
「ちょっと辛いってのが本音だけど…」
廊下の先を曲がると、階段が目の前に立ちはだかる。
普段はただの斜面だが、怪我人の今となっては絶壁に見えた。
「じゃあここは私が背負うわ。どうせあんたは力無いし」
「おい、見くびって貰っちゃ困るぞ。俺にだってそれくらいの力はあるさ」
「あ、そう」
ふと、重心が移動するのを感じた。
どうやら、莉奈が俺に肩を貸すのを止めたようだ。
つまり、暁君だけで俺を支えてることになるんだけど…。
「ほら、早く階段上ってよ」
「うるせぇな、今やってんだろ・・・あ、でも、うぉ……やば、潰れる」
「…俺ってそんな体重あったっけ?」
「これがこいつなのよ、晴登」
俺の重さが、暁君の肩一点に集中する。
すると予想通りと言えば予想通りだけど、暁君の身体がみるみる沈み始めた。
一瞬、俺は自分の体重が常人よりあったかと疑うが、生憎筋肉すらもあまり付いていないため、どう考えても常人より軽い。
つまり、暁君は本当に非力なのだ。
「やっぱ私がやるわ。行くよ、晴登」
「あ、そんな引っ張られたら痛いって!」
「もう、ダメだ…」
半ば強制的に暁君から引き剥がされた俺は、莉奈に引っ張られて階段を上る。その乱暴さにあちこち痛むが、贅沢は言えない。
その一方で、階段の下で疲れ果てて倒れている暁君が心配だ。俺のせいではないはずなのに、なぜか心が痛い。
「暁君、何かゴメン…」
小さく、小さく呟いた。
俺は無罪だ、と心の中で思いながら。
*
「し、失礼しまーす…」
目立たないようにそっとクラスのドアを開ける。
見えたのは、いつもの教室の風景。雰囲気的には休み時間を連想する。
椅子に座って駄弁る皆の様子は、外の様子を微塵も気にしてないといった感じだった。
まぁ俺が教室に入った瞬間、空気が変わったけど。
「ど、どうも」
皆の視線が集まる。
静寂の中、まるでステージに立つアイドルの様なポジショニングの俺。
ついつい、冗談めかして軽く礼をしてしまう。
皆の沈黙と視線の痛さに、一旦教室を出ようとしたその時・・・
「三浦君、大丈夫?!」
「へ?」
静寂を貫いたのは一つの声。
透き通るようなその声の主は、俺を見て心配そうな表情をしていた。
「柊君」
俺は、その人物の名を呟く。
彼はその呟きに頷くと、こちらに歩み寄って来た。
「怪我、大丈夫なの?」
「あ、あぁ…大丈夫だよ」
一瞬返答に迷ったが、心配を掛けないよう無難な言葉を選択した。
すると、クラスの皆の表情が安堵へと変わり、張りつめていた空気が氷解する。
「ったく…。お前って、意外に皆から心配されてたりすんだぞ?」
続いて聞こえた声。
その声のした方向を向くと、意地悪く笑う大地の姿があった。
「一応、学級委員って立場でもあるし」
「それ抜けたら、俺は心配されなくなるのかよ!」
「ははっ、冗談冗談」
外の雨音にも負けない位の大地の笑い声。
その平和な光景にたまらず笑みを溢す。
「ホントに大丈夫だったの?」
「超ヤバいって聞いたけど…」
「俺も肩貸すぞ?」
「心配させんなよ、学級委員長」
「無事で何より」
そんな俺に続々と掛けられたのは、クラスの皆からの心配の声。何かのドッキリかと疑ってしまいそうになるほど、その心配は大袈裟な感じがした。
だけど皆の顔を見ると、それが本心からの言葉だと気づく。
「皆…ありがとう」
普段なら恥ずかしくて言えない言葉。
だが今の俺の口からは、その言葉も易々と出てくる。
心配してくれるなんて…嬉しい限りだ。自然と眼に涙が浮かんでくる。
「ところでさ・・・」
しかしそんな俺の感情を遮ったのは、どこからか上がった暗くも明るくもない口調の声。
ただただ、気になる事を質問するような…そんな感じだった。
そして、その口は続きを話す。
「魔術部って、何なの?」
「…!?」
余りにもストレートな内容で、俺はビクッと反応する。隣の暁君も似た反応をした。
いやでも待て、焦る必要はない。
こういう時用の魔術部共用の文句が有るではないか。
「何って…秘密だよ」
「え、秘密…?」
「そう。全てが謎に包まれた部活動、それが魔術部なんだ」
俺は躊躇いもせずに言った。口は自然と笑みを浮かべ、表情はきっと清々しいものとなっているだろう。
だからこそなのか、相手のポカンとした顔を見るとつい、笑いが込み上げてしまった。
「…なんてね」
お気楽な様子で言った俺だったが、内心は「セーフ!」を連呼していた。
暁君もホッと胸を撫で下ろしている。
・・・助かった。
「ま、まぁ何にせよ、元気なら良いよ」
俺に質問してきた人も、大して気になっている訳ではなさそうだ。ニッコリ笑ってそう言うと、それ以上の言及はせずに皆の中に下がっていった。
そしてその後、外の天気と対照的にワイワイと盛り上がる教室。
いつの間にか皆は俺の怪我のことなんか忘れて、ただの談話になっていた。
俺も俺で怪我を忘れて皆の話を聞き、そして笑う。
こんなにも心の底から笑ったのって何時ぶりだろうか。
学校って・・・楽しい!
──その後、1時間ほど経って雨は止んだ。
後書き
……失敗した。
今回で完全完璧に部活戦争編(←体育祭編)を終わらせるつもりが、まさかの引き延ばしになりました(悲)
部長が目覚めなかったのが主な原因です。くそっ、何で起きないんだよォ!←
ハイ。でも心配はありません。
次回の半分くらいまでコレで引っ張った後は、しっかりと次ストーリー進めるんで!
内容が行き当たりばったりな予感ですが、何とか雰囲気を考えて合わせていきたいです。
では次回より新ストーリー。お楽しみに(してね)!
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