モンスターハンター 〜故郷なきクルセイダー〜
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第4話 恥辱を受けし姫君
――薄暗い、どこかの屋内。人の皮を被った、下卑たケダモノ達の笑い声だけが響く、薄汚れた牢獄の世界。
クサンテが目を覚ましたのは、そのただ中だった。
「……っ!?」
そして――眼前に縛り上げられたデンホルムの姿を認めた瞬間。自身の格好を悟り――羞恥の余り赤面する。
白い柔肌を照明に晒した、翡翠色のビキニ。
最小限の、本当に大切なところしか隠していない――まるで踊り子のような扇情的な衣装を着せられている事実は――小国とはいえ、一国の王族に名を連ねる子女としては耐え難い屈辱だった。
さらに四肢と首は鎖に繋がれ、壁に貼り付けられている。これでは胸元や股を隠すこともできない。しかも装備どころかインナーまで、全て取り上げられてしまっている。
「デンホルム……!」
「むごっ! むぐ、がっ……!」
デンホルムもハイメタシリーズの防具を取り上げられ、インナー姿で拘束されていた。猿轡で口を封じられているが、自分に向かって懸命に何かを叫ぼうとしているようだった。
「暴れんじゃねぇデカブツッ!」
「おごッ……!」
「や、やめなさいっ!」
その隣でデンホルムに首輪をかけていたレザーシリーズの男が、身じろぎする巨体に蹴りを入れる。防御力を一切持たないインナー姿で防具を付けた足の蹴りを食らえば、如何に体格差があろうとダメージは免れない。
短い悲鳴を漏らす家臣の姿に、クサンテは悲痛な声を上げる。
「んあぁ? 命令する立場なのかい? 鎖に繋がれたお姫様?」
「くっ……! ユベルブ公国の王女たる私に、このような無礼を働いてただで済むと……!」
「ハハ、知らねぇな。どこの小国かは知らねぇが、ハンターに王族も平民もねぇよ。あんたがふいにいなくなっても、どこかの狩り場で命を落とした――としか思われねぇさ」
「娼館で顔見知りに会ったとしても、他人の空似で終わらァな」
「しょっ……!?」
自分の傍らに現れたチェーンシリーズの男の発言に、クサンテの表情が一変する。王女たる自分を、娼婦に堕とそうというのか――と。
「あなた達は一体……!」
「はは、まぁしょうがねぇだろ? 俺達みたいな実力のないハンターじゃ、採集クエストか小型モンスターの討伐くらいしかできねぇ。だが、それだけで食っていける商売じゃねぇんだよなぁ、ハンターってのは」
「ってわけで、こういう副業もやってるってわけ。ま、今回は本業の何倍も稼げそうな気がするけどな! ギャハハハ!」
「下郎ッ……!」
クサンテの侮蔑と怒りを込めた眼差しを浴びてなお、男達は悪びれる様子もなく、ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべている。
「まぁいいじゃねぇか。荒事の世界に進んで入ってきたんだ、奴隷商に売られる覚悟くらい出来てんだろ? それに案外、こういう商売の方が向いてるかも知れねぇじゃねぇか」
「だがデカブツの方はどうかな。最悪、どっかの炭鉱辺りに連れてかれて、死ぬまでこき使われて死体は肥料――かもよ?」
「ダッハハハ! 女に生まれてラッキーだったな。それとも、女に生まれてきたこと……後悔してみるか?」
彼ら二人の他にも、薄汚れた格好の男達が何人もこの空間に集まっている。彼らは笑いながらデンホルムを殴り、蹴り、クサンテの肢体を舐め回すように見つめている。
すると、チェーンシリーズの男がついに手を伸ばし――無遠慮に、クサンテの豊満な胸を揉みしだいた。白く艶やかな肌を持つ膨らみが、指の圧力に応じて大きく形を変える。
「う……!」
「お、ほぉ……たまんねぇ! 張りも大きさも柔らかさも、そこらの娘の比じゃねぇな!」
「ほんとかよおい! おら、俺にも触らせろ!」
「あっ……!」
「べろっ……へぇ、こりゃあ……いい味だァ」
「ん、ぅあっ!」
それを皮切りに、ケダモノ達は飢えた野獣のように息を漏らし、ゆっくりと嬲るようにクサンテの肢体に手を伸ばして行く。
チェーンシリーズの手にある右の胸に対し、レザーシリーズの男は左の胸を下から掬い上げるように揉む。その左胸から首筋までの白い肌を、厨房にいたグルがべろりと舐め上げた。
じわじわと極上のカラダを味わうように、クサンテの胸や首筋、肩、脇。背中や腹、腰。さらには尻、脚、太腿、足の付け根に至るまで、男達は思い思いに姫君の白く艶やかな肢体を舐め回している。
「むぐぅうッ! ふぅぐぅうぅッ!」
「大人しくしやがれ木偶の坊がッ! てめぇの姫様はもう、俺達の奴隷なんだよッ!」
その責め苦に主が声を漏らす度に、デンホルムは懸命に暴れて鎖を引きちぎろうとする。だが、何重にも巻かれた鎖を引き剥がすことはこの巨漢の膂力を以ってしても叶わず――逆に、抵抗する気配に気づいたケダモノ達からさらなる暴行を受けていた。
「デンホルムッ――んあぁあっ!?」
そこへ注意を向けて声を上げている、クサンテの巨乳。その二つの先端に、ケダモノ達が口を窄めて同時に吸い付いてくる。
「暴れさせんなよ、しっかり繋いどけ! ――へへ、そろそろいいだろ。お楽しみはこれからだぜ?」
そんな彼女の悩ましい姿を一瞥しつつ――チェーンシリーズの男が、ついに胸や股を隠す布を手に掛けた。ほんの少し後ろに引けば、簡単に紐がほどけてしまい――全てが露わになってしまう。
十七歳の肢体を味わおうとする男は、下卑た笑みを浮かべて彼女の反応を愉しんでいた。
「い、いやぁ! やめなさい! やめてっ!」
「怖がんなよぉ、俺達がオンナにしてやろうってんだ――ぜッ!」
クサンテの悲痛な叫びも虚しく、男の手に力が入り――布を繋ぐ紐の結び目が、一気に緩んで行く。
(いやっ……助けて! アダルバート様あぁっ!)
その瞬間に目を背ける彼女の目尻に、涙が浮かぶ。そして――今は亡き許嫁に、助けを求めた瞬間。
「……村はずれの小屋が、妙に騒がしいと思ったら。あんた達、ちょっとおいたが過ぎるんじゃないの」
白馬の王子――には程遠い男が。暗闇を打ち砕くが如く、ドアを蹴破っていた。
男のシルエットが姫君の目に映ると、彼の周囲には月夜に照らされた草原と――小さい家が幾つも窺える。どうやら、ここは村の外れにある小屋だったらしい。
予期せぬ襲撃に男達は怒号を上げ、ドアを蹴破った青年の前に立ち塞がる。一方、クサンテとデンホルムは信じられないという表情で、眼前の光景に釘付けになっていた。
窮地に現れた青年は――あの寄生丸見えの上位ハンター、アダイトだったのだ。
「なんだ、てめぇ!」
「何って……見てわかるでしょ、同業者だよ同業者。会ったことあるでしょ? 忘れちゃったかな。おいら、アダイト・クロスターってんだ。最近このロノム村に派遣されたばっかりで――」
「んなこと聞いてんじゃねぇ! 何しに来やがった!」
「えっと……拘束? 現行犯逮捕ってことになるのかな」
「逮捕だぁ……!?」
この状況を理解していないのか。まるで場違いな振る舞いで男達を困惑させているアダイトは、ちらりとクサンテやデンホルムを一瞥した。
「近頃、妙な情報があったんだよ。このロノム村は辺境も辺境。遠方の小国なんて言われてるユベルブ公国より、もっとド田舎。――なのに、そこの常駐ハンターはやけに羽振りがいい。万年下位な上にろくにクエストもこなしてないのに、連日連夜、飲んで騒いでも破産しない資産がある」
「……!」
「で、なんか変だなーって調べてみたら、近くに奴隷商のシンジケートがあるって情報も掘り出しちゃってさ。繋がりの有無を確かめるため、派遣されてみたら――ビンゴだったと」
能天気な口調ながら、話している内容はかなり深刻なものだった。田舎村の常駐ハンターが、奴隷商と結託して人身売買を行っていた――という不祥事を、ここに来る前から掴んでいたというのだから。
自分達の後ろ暗い部分を全て言い当てた眼前の男に、野獣達は顔を見合わせ――素早く結論を出した。この男は、即刻殺して口を封じるべきだと。
「……死ねエェエッ!」
ハンターではないグルの数人が、持っていた斧や鉈で斬りかかる。だが、アダイトは無言のまま、持っていた鉄の盾で全てを受け流し――全員の頭を、その鉄塊で殴打した。
男達は悲鳴を上げる暇もなく――膝から崩れ落ちて行く。まるで演劇のようなその一瞬に、誰もが目を剥いた。
「……やだな。荒事は好きじゃないってのに」
「て、てめぇまさか――ギルドナイツかッ!?」
「ギルドナイツ!?」
レザーシリーズの男が叫んだ言葉に、クサンテも思わず声を上げる。
――「ギルドナイツ」と言えば、ハンターズギルド直属の精鋭ハンターであり、ハンターを取り締まるハンターとして有名な者達の総称だ。
極一部の優秀なハンターしかなれないという、そのギルドナイツだったとするなら――情報を全て正確に掴んでいることにも、ハンターでありながら対人戦にも精通していることにも説明がつく。
「よくわかったね。ま、正確にはその使い走り――兵隊なんだけどな」
「なにぃ……!?」
「ギルドナイツは少数精鋭だからね。彼らを必要としている人は大陸中に大勢いるし、ここに人員を割く余裕はないんだよ。だから、予備のおいらがここに来たってわけ」
「ギルドナイツの刺客ってことか……道理で……!」
「――ってことだからさ。大人しくお縄についてくれないかな。おいらだって、同業者とケンカなんてしたくないし……」
「ざけんなぁあぁあッ!」
レザーシリーズの男は、アイアンランスの突進で襲い掛かるが――軽やかなジャンプでそれを飛び越えたアダイトの膝蹴りを顔面に喰らい、後頭部から転倒しつつ小屋を滑り出て行く。草原まで滑ったところでようやく止まった彼は、すでに白目を剥いて失神していた。
「くっ……!」
「な? もういいだろう、ケンカは」
「う、動くな! この女がどうなってもッ――がッ!?」
残ったチェーンシリーズの男は、剥ぎ取り用のナイフをクサンテの喉に当てようとする――が、威勢を取り戻した彼女に腕を噛まれ、思わずナイフを取り落としてしまう。
「おがッ!」
その一瞬のうちに、鉄の盾を顔面に投げつけられたチェーンシリーズの男は、敢え無く撃沈。頭の上に星を飛ばし、昏倒してしまうのであった。
「――はい、一件落着。もうこんな仕事はごめん被りたいね。人間同士の諍いほど、疲れるものはない」
「……あ、あなたは……」
「へへ、言ったでしょ? 絶対役に立つってさ」
「……」
倒れた男達からこちらに目を移し、子供のような笑顔を浮かべるアダイト。その姿に、あの日の想い人を重ね――クサンテは、目を伏せる。
(アダルバート様……許して。私、こんな男に、一瞬でもあなたを……)
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