魔法少女リリカルなのは 絆を奪いし神とその神に選ばれた少年
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第三十六話 過去の話
突如、部屋の中に響く、三人にとって懐かしい声。それはまぎれもなく初代リインフォースの声だった。
しかし、全には疑問があった。なぜ、この世にはいないリインフォースの声が聞こえるのか。
はやてもそれを思ったのか、声に出して聞く。
「ほ、本当にリインフォースなん?」
『はい、その通りです』
と、部屋の一角。この部屋には不相応な物があった。それは機械的な丸い何かの装置だった。
その装置が光ると、ゆっくりと何かを構築していく。
そして、それは次第に何なのか、三人には分かった。
「お姉さま、お姉さまですよね!?」
『ああ、妹よ。初めまして、になるな』
リインフォースⅡが近づいて触れようとする。しかし、リインフォースに触れようとしたその手はリインフォースの手を掴む事が出来なかった。
「えっ?」
『……今のこの私は、この装置に予め埋め込んでいた、魔力動力炉を使って生み出したホログラムに過ぎない。故に、私に触れることは叶わないのだ』
「それでもええ。またリインフォースと話が出来るんやから……」
「………………………」
リインフォースⅡとはやてがリインフォースとの再会を喜ぶ中、全だけがその輪の中に入れないでいた。
『全』
「っ!?」
リインフォースに名前を呼ばれて、全の体が強張る。
何を言われても全は受け止める覚悟だった。それだけの事を自分がしたというのも全は自覚していた。
『あの時私を、主を守ってくれてありがとう』
「……え?」
だからこそ、全はリインフォースから感謝の言葉を貰った事に驚きを隠せなかった。
『あの時、お前がいてくれたから。主も、妹も今ここに元気に存在していられる。だから、ありがとうなのだ』
「そ、そうや!リインフォース、この写真って一体どういう」
はやては自身と全、そして少女の姿をしているリインフォースが写った写真を手に取り、リインフォースに聞こうとする。が
「…………でだよ」
「?全、さん?」
小さい、しかし確かにリインフォースは聞いた。全の声を。
「何でだよっ!?」
「「っ!!??」」
はやては驚き、すぐに全の方を見る。そして驚く。その瞳には涙があったからだ。
「何で、何で感謝するんだ!?俺はお前に恨まれても仕方ない事をした!恨めよ、憎めよ、罵倒してくれよ!!何で自分を殺した人間に感謝出来るんだよ!!??」
「そ、それってどういう事や、橘君っ!?」
全の言葉にはやては思わず詰め寄る。今、全は確かに言ったのだ。リインフォースを殺した自分、と。
しかし、それならばおかしい。リインフォースは自身の意思で闇の書の闇、防衛プログラムと共に天へと還っていったはずだからだ。
『今から、それをお見せします。しかし、主にはある種覚悟してもらわなければいけません。それでも、構いませんか?』
「……うん、大丈夫や。うちは知りたいんや。お母さんやお父さんがどうしてこの部屋にこの写真を置いてたのか……」
『……わかりました。お見せします』
そして、リインフォースが消え、その場にモニターが表示される。
『あれはまだ主が小さい、本当に小さいまだ五歳の頃でした。ある時、主は一人で車椅子で公園へと向かいました。しかし、不幸な事に車椅子の車輪が偶然にも出来ていた穴に嵌まってしまい、身動きが取れなくなってしまったのです。通行人などはその姿を見はしますが、誰も主を助けようとはしませんでした。しかし』
〈う、動けん……〉
〈よっと〉
〈……え?〉
映像の中のはやての車椅子の持ち手の部分を誰かが持ち上げた。それにより車輪は穴から脱出できた。
〈大丈夫かい?お嬢さん〉
〈あ、ありがとうございます〉
はやてを助けたのは茶髪の男性だった。茶色の髪を無造作にしており、顔は整っている。いや、少しチャラい印象を感じる。身長は190位と長身だ。
〈いやいや、お礼はいらねぇよ。当たり前の事をしただけだ。お嬢さん、名前は?〉
〈?八神はやて、ですけど?〉
〈八神ちゃん、ね。確か、近所に八神ってあったよな……あそこかな?〉
〈あ、あのうちは大丈夫ですから……〉
〈いやいや。お嬢さん一人じゃ危なっかしいって。俺に任せとけ〉
〈……それなら、お願いします。お兄さん、名前は?〉
〈俺か?俺は秀二。橘秀二だ、以降よろしく!〉
「橘?橘って……」
映像の中の男性が橘と名乗った瞬間、はやてが全に問う。
「ああ、あの人は正真正銘俺の父さん、橘秀二だよ」
『そう。これが全の父親である秀二殿と主の出会いでした』
「何か……似とらんな……」
そう、はやてはそこも疑問だった。大体、子供というのは両親のいづれかに似る物。だというのに全の髪色は黒でその父親の髪の色は茶色。髪色まで変わるだろうかとはやては疑問に思ったのだ。
「俺は伯父さん似らしくてな。伯父さんの髪色は黒だ。まあ、気軽に会いにはいけないけどな」
「そうなんか?」
「ああ、それよりも続きがあるぞ」
『その後、主達一家と橘一家は家族ぐるみで仲良くなりました。中でも同い年という事も相まって全と主は大層仲良くなられました。そんな中、でした』
と、映像が再び再生される。暗闇の中を映し出すモニター。どうやらどこかの部屋らしい。
「あれ?これってうちの部屋やん」
そう、モニターが映し出したのははやての部屋。その部屋のベッドの上でモゾモゾと動く二つの何か。
そしてそれはすぐにわかった。
〈うぅん、ぜんくん……〉
〈すぅ、すぅ……」
眠っている二人とは、はやてと全なのである。しかもはやては全に抱きついている。
「うわぁぁあああぁぁぁぁぁ!!!???小さい頃のうち、なにしとるん!!!???」
「ああ、そういえばあの時一緒に寝てって駄々こねられたんだっけ……」
小さい声で爆弾を投げ込んできた全。しかし、取り乱しているはやての耳には聞こえなかった。
〈うぅん……〉
〈……ん?〉
と、映像の中の全がのそりと起き上がる。
その時、
〈Anfang〉
機械的な音声が鳴り響く。しかし、熟睡しているのかはやては起きない。つまりこの部屋の異変に気付いているのは全だけだ。
〈なんだ?〉
と、全は以上の原因を見つけた。本だ。表紙に剣十字が描かれている本。はやてはそれに見覚えがあった。
「あれって闇の書?え、でもこの本が起動したのって、まだ先の話じゃ……」
『そうです。この時、本来なら闇の書は起動する筈がありませんでした』
はやての疑問にリインフォースが答える。
『そもそも、闇の書は高い魔力適正のある人間を選び、主とします。そしてそれが主に該当しました。ですが、この時、闇の書はもう一人の魔力適正に呼応され、起動したのです』
「もう一人って……」
「そう、俺だ。闇の書は俺の魔力に反応して起動した。この時、俺は既に自身の魔力に気付き鍛錬していたからな。それに反応したんだろうよ」
『そうです。しかし、本来の主は主はやてのみ。イレギュラーな起動により闇の書は一部の機能しか起動しなかった。守護騎士システムも機能せず』
そして映像に視線を戻すと、闇の書の置いてあった場所を中心に魔法陣が広がる。それはベルカ式の魔法陣だ。そして何かが構築されていく。
〈起動……起動……起動……え?〉
そこに現れたのはリインフォースだった。しかし、その姿は小さい。当時の全達と同じ位の身長だろうか。
『私だけが、不完全な形で起動したのです』
〈な、なぜこのような中途半端な起動に……それも、私が現界し守護騎士システムが起動していない?なんだ、なぜこのようなイレギュラーな覚醒が……〉
〈貴様、何者だ?〉
〈…………貴様こそ、何者だ?〉
全は即座に立ち上がり、デバイスであるシンを起動。一瞬で呆けていたリインフォースの後ろを取り、シンをリインフォースの首元に突きつけている。
しかし、リインフォースも寸前で気づいたのか、魔力の塊を左手に構築。それを後ろ手ながらも全の腹部に押し当てる一歩寸前だ。
〈俺はこの部屋の主であるはやての友人だ。今日は不本意ながらもはやてが駄々をこねたので渋々一緒に寝ていた〉
〈私は主はやてを守る闇の書の管制人格だ。名前はない〉
二人はお互い自己紹介した後、そのままの姿勢で数秒ほど、固まっている。
と、不意に全はシンを下げ腰にある鞘に納める。
〈?どうした?〉
〈君にはやてを傷つける気がないと目を見てわかった。だから引いた〉
〈……わかった。こちらも手を収めよう〉
そう言ってリインフォースも魔力を霧散させる。
〈それで?君はこれからどうするんだ?〉
〈私には主を守るという使命がある。それ故にこの家に寝泊まりする気だが……〉
〈まあ、それは別に構わないが……というか、俺が許可出しても意味ないんだが……〉
〈うぅん、なんやぜんくん、なんでおらんの……?〉
と、先ほどまで寝ていたはやてが起き上がる。
そして目をごしごしと削りながら全と全と隣り合って立っている見覚えのな少女の姿を目にした。
〈ああ、起こしてしまったかはやて〉
〈…………あ、あ…………〉
〈?どうかしたのですか、主?〉
〈………………う、うわきや~~~~~~!!!!!〉
〈〈ちょっ!!!??〉〉
いきなり浮気と言って泣き出す小さいはやて。その後、ドタバタとしているせいか、映像が先ほどからぐらぐらと揺れており視点が定まらない為、三人は視線をモニターから外す。
「……………………………」
しかし、はやての顔は真っ赤だ。それも仕方ないだろう、小さい頃の自分が全とリインフォースが一緒にいる所を見て浮気と言ったのだ。真っ赤にならない方がおかしい。
「うわぁっ!!はやてちゃん、大胆ですぅ!!」
「リイン!!今それを言わんといてぇ!!!」
リインフォースⅡの言葉にさらに真っ赤になるはやて。
「あぁ、この頃は幸せだったな……まさか、映像で見れるとは思わなかったけど……」
そんな哀愁じみた感じを出しながらそう呟いた全の存在にテンパるはやては気づく事はなかった。
後書き
これは序章です。ここから幸せな時間が過ぎていき、ある事件が起きてしまいました。
その辺は次回にて。そして次回は次々回位ではやて編が終わります。
そしていよいよ……その次からあの話を出せますよ!ひゃっほぅ!!
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