非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜
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第31話『守る者』
前書き
科学部部長ブチ切れから入ります。
光が持っているのはリモコンだろうか。
家庭用テレビゲームのコントローラーみたいなヤツだ。
操作対象は…間違いなくこのロボット。何の感情も顕わにしない、随分と有能な“殺人者”だ。
──そう、殺人者。
そんな形容が一番ピンと来た。盛っていないといえば嘘になるが、少なくとも半端な気持ちでそうは例えない。
戦闘用ロボットって名前の時点でロクなことにならないのはわかり切っているが、それ以上の危険なオーラを光を通してヒシヒシと伝わってくるのだ。
正直、超ビビってる。
光1人なら、まだ余裕があった。肉弾戦じゃ勝ち目はないが、隙を見てどうにかこうにかできる。
でもロボットが揃うとさすがにキツいし、何より怖い。
「大人しくしていれば痛くしない…って、いつの時代の脅し文句だよ? 正直、この状況じゃ笑う気も起きねぇけど」
「科学者の前で『科学を打ち砕く』だなんて言うからよ。怒らないとでも思ったのかしら?」
「そんなに敵意を向けないでくれよ。ほんのジョークじゃないか」
こんな言い訳しても許して貰えないのは明白。今にもあのロボットが襲い掛かってくるやもしれん。
本当にそれだけは恐怖を感じた。
「あんたを倒すことが私の目的。そしてあんたの目的は…科学部の殲滅かしら。お互いその意思で戦おうじゃない」
「学校行事で命賭けるとかたまったもんじゃねぇよ」
「あんたの雷はその程度なの? まぁ、このロボットに電気は効かないんだけど」
最後に言われた一言。それを聞いて、更に勝機が薄くなったのを察した。まぁそうだろうとは思っていたが。
電気が効かないのであれば・・・俺の手でロボットを倒すことはほぼ不可能である。殴って壊れてくれるほど、ヤワな造りじゃないだろうし。
つまり、必然的にロボットでない標的、すなわち光を狙わなければならない。
「いやいや、ロボット無視して攻撃してもどうせ防がれるオチなんだよなぁ」
「そう思うのなら大人しくしてて頂戴。ただ、楽しませてくれないのには反対かしら」
「物騒過ぎて余計に恐いんだが」
身を震わせ恐さをアピール。
それを見ても光の表情は揺るがなかった。
「もう…始めようかしら」
彼女の指がリモコンの上で動く。
それに呼応して、ロボットの足が動いた。一歩、一歩・・・さながら人間の様な滑らかさで。
俺に向かって歩いてくるロボット。その様子を背後から見ている光。そして、その兵器に少なからず怯える俺。
とてもじゃないが、俺がピンチな構図だ。そもそも、ロボットが助太刀したイコール、2対1の状況が出来上がってしまう。今隣に“仲間”のいない俺は不利まっしぐらだ。
先程三浦が1階に落ちたが…無事だろうか。
辻と暁はまだ平気なのか。
部長だってのに何も知らない。無様な話だ。でも、俺のやることは決まっている。
部活も大事だが、今は光と決着をつけねばなるまい。
「弾けろ」
俺は指鉄砲を構える。これが今俺にできる手段。あわよくば、全てを成功に導ける。
指に魔力を纏わせ、凝縮させ、そして一気に・・・放つ。
風を切って鳴る轟音。
地震でも起きたのかというほど、理科室が震える。
辺りには閃光が散り、風圧が部屋全体を席巻した。
その現象の中心、黒光りした軌跡を描く魔力の凝縮された弾が、一直線にロボットをつき抜けようとする。
──しかし、それは鎮火した。別に炎が、という意味ではない。
ロボットが右手を前に構え、その掌を弾に向けただけで・・・電撃は力を失ったのだ。
「・・・どうなってやがる」
「あんたのそれほどじゃないわよ。まぁ、それがただの電気と性質は変わらないとわかっただけ収穫だわ」
「何かすげぇ馬鹿にされた気分だぜ…」
確かに、俺の電気は普通の電気と何ら変わりはない。
だから、普通の電気への対策ができれば、必然的に俺の電撃も防げることになる。
まとめると、彼女が先程言った言葉・・・「ロボットに電気は効かない」は事実だった。
「俺の格闘術は光には敵わない、そして電撃無効のロボット・・・無理ゲーだわ」
「諦めるなんてらしくないじゃない。さっきまでの大口はどうしたの?」
「それ言われると退くに退けなくなっちゃうんだが…」
でも策は無い。打開可能性はほぼ0パーセント。
そもそもロボットと戦うことが予想外。これじゃ犬死にもいいとこだ。
残り時間にも余裕があるから、時間切れを狙うのは無理がある。
ゆえに・・・
「勝ち目が無いって辛いもんだな」
「素手で挑む、って選択肢ぐらいないのかしら?」
「生憎、持ち合わせちゃいねぇわ。3秒で土下座するのが目に見える」
恥ずかしい。これが俺の今の感情だ。
大口を叩いていたのにも拘わらず、やれることをなくして一方的にやられる。これを恥と言わずして何と言う。
やっぱここはアレしかない。
『ロボットを何らかの方法で突破して、光を痺れさせる』、これだ。
『何らか』の部分は・・・どうしようか。
フェイント…陽動…強行突破…、って、どれもロボットには通用しねぇじゃねぇか、クソ。
「今にも泣きそうな面して何を考えてるの?」
「誰が泣いてるかアホ。全然泣いてねぇから、1ミリも泣いてねぇから」
「じゃあその瞳の潤いは何を示しているの…」
これは泣き目ではない。
己の無力さと状況の害悪さに、目も現実逃避を始めただけだ。そうなのだ。
決して「何すればいいの~ママ~」とか言う、幼児の様な状態になっている訳ではない。うん。うん・・・
「諦められると、こっちの気が削がれちゃうってものだわ。早く楽しませて頂戴よ」
「サディスト発言止めろや。今の俺の心は煎餅といい勝負なんだよ。それ以上言うと快音立てて割れるぞ」
「あら、それは楽しそうかしら」
「墓穴掘ったわこんちきしょう!」
いつの間にか、端から見れば談話に見えなくもない会話になり始めた。
光の敵意も感じられなくなり、初期状態にリセットされたと言うべきだろうか。
その現状に俺は安堵し、目から涙が消え・・・もとい、目も現実逃避を終えていた。
「元気が戻ったみたいね。私も少し気分が晴れたわ。今ならあんたのさっきの発言も許せるかも」
「許して、マジ許して、超謝罪するから、ロボットの刑だけは許して」
「何その謝罪…」
本心からの謝罪をして光を呆れさせる。
だがこれで良い。状況ひっくり返した俺、マジGJ。
そして俺は眼前のロボットを見据える。
それは、先程歩き始めてから俺の攻撃を防いだ場所で、今にも歩き出しそうな格好をして静止していた。
「でもって、そろそろロボット片付けてくれない? これじゃあ一対一の勝負が出来ねぇぜ」
「え、ロボットと一対一じゃないの?」
「人外とは戦えねぇよ!」
「…残念だけど、コレは私たちの努力の結晶。雨の日も風の日も雪の日も雷の日も、ずっと作ってきたの。だから、もう人として扱ってあげてもいいんじゃないかしら?」
「いや、そんなに大事な物ならこんな場で使うのはどうかと。つーか、理科室で作ってんなら天気関係ないだろ!」
さらっと「このロボットを壊すような事が有れば…どうなるかわかるよね?」と、言外に言われた気がするのは俺だけだろうか。
また冷や汗がタラリと頬を伝う。そんな中、ユーモラスな発言で感情を誤魔化そうとする俺。
マズい、マズいぞ。状況が悪化した。
『ロボットの破壊』という手段が使えなくなったのだ。
もし破壊したら・・・命は無いだろう。光の手によってリンチ確定だ。 厳しすぎる──
「黒木!」
「「!?」」
突然に開いたドアと響き渡る声。
その声には聞き覚えがあり・・・
「辻!? 何で!?」
俺は相手の名を呼びながら、何故ここに来たのかを問う。
「三浦に呼ばれたの! アンタがピンチだからって!」
「三浦が…? 今どこに居る?」
「私の後ろを・・・って、三浦早く!」
「いや副部長速すぎ…」
辻は理科室の外に呼び掛ける。すると、ヘトヘトというのが見て取れる三浦が姿を現した。
「大丈夫か、三浦?!」
「えぇ。怪我も特には。強いて言えば疲れました…」
「この様子じゃ、ずっとアンタを助ける為に奔走してたみたいよ。良かったわね、部長」
「あぁ助かった…」
希望の光が差した瞬間だった。
俺1人では何もできないが、3人も揃えば文殊のなんたらである。
これなら作戦の幅が広がる…!
「おい辻、聞け! 実はだな──」
「やっぱりあんたね、茜原。理科室の真ん中にデカい像なんか用意して・・・何のつもり?」
「像とは心外。これはロボットよ。戦闘用のね」
「戦闘用? 随分物騒ね。こんなもん斬ってやる!」
「ちょ──」
俺の言葉を無視してそう言った辻は、剣を構える。
・・・っておい、ちょっと待て。流石にその展開はダメだ。それを壊したら…
「はぁっ!」
「「っ!!」」
斜めに切断されたロボットは、音を立てて崩れ落ちる。俺が静止の声を出すよりも早く、辻は入口から一瞬のスピードでロボットに這い寄り、斬ったのだ。
そのロボットの惨状を見て驚くのは俺と光。
光の表情が、消えたのを感じた。
「ん? 戦闘用の割には、簡単に斬れるのね。欠陥品じゃない」
「辻、もう止めろ!」
「……」
図らずも光を刺激する発言をした辻。
俺は慌てて制すも、“時すでに遅し”だろう。
辻は俺の言葉の意味がわからないのか、俺を振り返る。
その背後から、辻の首もとに伸びる2本の腕を、俺は見た。
「ぐっ…」
腕は辻の首を捉え、絞め上げ始めた。
元々体格が屈強とは程遠い辻だ、逃れられる訳がない。
俺は助けるべく、一歩を踏み出した。
「辻!」
「邪魔」
「がっ!」
が、しかし、光の回し蹴りによってそれは阻まれる。
壁へと容赦なくぶつかり、僅かに口から空気が吐き出された。
その様子を見た光は、自分よりも小柄な辻の首を軽々持ち上げ、不敵に笑った。
「残念ね。あとちょっと」
「お、おい光。そんな事言わずに勘弁してくれよ? そいつだって悪気はなかったんだから」
「悪気がない、か。でも私が侮辱されたのは事実。あんただってこの女とはよく喧嘩してるし、この辺で痛い目に遭ってもらうのは好都合でしょ? 大丈夫よ、殺しはしないから、さ!」
「──っ!!」
光はさらに辻の首を絞める。声にならない叫びを上げ、苦しむ辻。
必死にもがき、首を絞める手を放そうとしている。
遠慮のない絞首は、このままでは危険。
だから、その光景を黙って見てるほど俺の趣味は悪くないし、好都合だとも思わないのだ。
辻は・・・仲間。
大した関係ではない。魔術部の部長と副部長。それだけだ。
でも、仲間とは呼べる存在ではある。
未だに入口につっ立って、状況に思考が追い付いていない三浦だって仲間だ。
今どこに居るかわからないけど、超天才の暁だって仲間。
魔術は使えないけど、魔術部を盛り上げてくれる2年生のあいつらも・・・仲間なのだ。
じゃあ仲間を守るのは誰だ?
──部長だろ?
「おおぉぉ!!」
俺は駆けた。仲間を守る為に。
俺は近付いた。凶悪な科学者に。
俺は蹴られた。でも堪えた。
俺は手を伸ばした。辻の元へ。
俺は奪った。光の元から。
俺は抱えた。辻の小柄な躯を。
俺は見据えた。光の姿を。
そして・・・俺は無我夢中で叫んだ。
「俺は黒木終夜!! 魔術部部長にして、仲間を守る者だ!!」
後書き
部長活躍回。といっても、まだ碌に戦闘出来てない…。なんたる不覚。
ドゴーンってやって、バヒューンってして、バシッと決めてやるつもりだったのに…()
そして読み返して解ること。
『素晴らしいくらい展開の早いご都合主義な文』
文章の評価としては底辺かと思われます。
「もうちょい言葉を練れねぇのか!」というツッコみは無しでお願いします。
さて。次回で終わるだろう、部長VS.部長ですけども、物足りないと考えるが俺の思想。
もっとこう、一回転する展開無いかな~と、ひねもす考えております。
だがしかし! これ以上続けてしまっては、次のストーリーの前に『受験勉強まっしぐらシーズン』に入ってしまう!!
それだけは避けたい始末です。何としても、次のストーリーまでは今年中に書きたいので。
・・・特に意味は無いけど(ボソッ
という訳で、後書きは早めに切り上げて、ちゃちゃっと次の話を書かねば! ではまた!
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