トラベル・トラベル・ポケモン世界
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
12話目 成長(後)
前書き
前回の状況
********
グレイ側
ビビヨン(戦闘不能)
レパルダス[ニックネーム:チョロネコ](小ダメージ)
ギャラドス[ニックネーム:KK](無傷)
ジムリーダーのゴン側
ミニリュウ(戦闘不能)
未登場(無傷)
未登場(無傷)
********
「では、試合を再開しようかの」
そう言ったゴンは、2体目のポケモンを繰り出した。
現れたポケモンは、二足歩行で、大きな羽と尻尾が生え、顔には頑丈そうなアゴをもっている。顔は鮮やかな赤色で、腹部は白のような色、その他の体や手足や羽や尻尾は青色である。体にあちこちにある大きいトゲは鮮やかな赤色である。
全体的にみると、怪獣や恐竜のような雰囲気をしている。
ほらあなポケモンのクリムガンである。ドラゴンタイプ。一般的には、高さ1.6m、重さ139.0kgと言われている。
対峙するグレイのレパルダス(ニックネームはチョロネコ)が一般的に、高さ1.1m、重さ37.5kgであることを考えると、クリムガンは重量級のポケモンである。
(あのゴツそうな巨体、力が強そうだな……でも不器用そうだし、遠距離攻撃は無いんじゃないか?)
グレイがそんな考えをもっていると、
「クリムガン“あくのはどう”じゃ」
クリムガンから悪タイプの特殊攻撃技“あくのはどう”が放たれ、邪悪な波動がレパルダスに迫った。
(あんのかよ! 遠距離攻撃!)
レパルダスは後ろに跳んで、攻撃を避けた。
「チョロネコ! 素早く近づけ! 多少なら当たっても大丈夫だ!」
グレイの指示で、レパルダスは距離を詰める。相手の“あくのはどう”が多少命中するが、気にせず進む。悪タイプの攻撃技は悪タイプのポケモンには効果がいまひとつである。相手の“あくのはどう”はレパルダスにあまり効かない。
レパルダスがクリムガンとの距離を詰めた時、
「クリムガン! “ドラゴンクロー”と“アイアンテール”」
ゴンが2つの技を同時に指示した。
「チョロネコ回避に徹しろ!」
グレイは、ゴンが2つの技を同時に指示したのを見て、様子見のためにレパルダスに回避を指示したのだ。
“ドラゴンクロー”は、ドラゴンタイプの攻撃技であり、巨大な爪で相手を切り裂いて攻撃する技である。
相手のクリムガンの右手から“ドラゴンクロー”が繰り出された。凄まじいパワーと勢いで右手が横に振るわれる。
回避に全神経を集中させていたレパルダスは、その場に伏せることで相手の右手の一撃を回避した。
相手のクリムガンは全力で右手を振るった勢いで体が横を向いた。そして横を向いた勢いのまま後ろを向き、鋼鉄の尻尾による一撃“アイアンテール”を繰り出した。
避ける場所がないと判断したレパルダスは、思いっきり後ろに跳び、距離をとった。すると相手のクリムガンは前を向きなおし、今度は“あくのはどう”で遠距離攻撃を決めてくる。
再びレパルダスが近づくと、
「“ドラゴンクロー”と“アイアンテール”じゃ!」
再びクリムガンは、爪の一撃と尻尾の一撃を繰り出してくる。レパルダスはなんとか回避した。
「チョロネコ! 頑張って避けて頑張って攻撃しろ! お前ならできる!」
グレイの根性論全開な言葉で、今度は別に自分の命がかかっている訳ではないのだが、レパルダスは再びヤケクソになって相手の攻撃を回避し始めた。
「どうしたチョロネコ! 避けてばっかじゃなくて攻撃もしろ!」
レパルダスは、『カンベンしてよ……』と言いたげな視線をグレイに送ったが、どうにか攻撃を回避しながら“みだれひっかき”の連撃を相手のクリムガンに当てた。
しかし、レパルダスは一瞬苦悶の表情をし、攻撃を中断した。
グレイがその様子に疑問をもっていると、ゴンが口を開く。
「ワシのクリムガンは、特性さめはだ、なのじゃよ。自分に触れた相手を傷つける特性なのじゃ」
(相手からの攻撃をいくら避けても、チョロネコが相手を攻撃するたびにダメージを受けるのか? だったらチョロネコはやめてKKに変えるか? でもKKも主な攻撃方法は直接相手に触る攻撃だし……)
グレイは勝つために決心し、レパルダスに指示を出す。
「すまんチョロネコ! 痛いとは思うが、頑張って耐えて攻撃してくれ!」
グレイの真剣な視線にレパルダスは納得し、再びクリムガンに攻撃を加える。レパルダスは攻撃する度に痛みに襲われるが、我慢して攻撃を続ける。
レパルダスは相手の爪の一撃と尻尾の一撃をなんとか避けて、再び“みだれひっかき”で攻撃を続ける。“みだれひっかき”の連撃で相手のクリムガンはあっという間に体力を削られていくが、レパルダスも相手の特性さめはだでダメージを受けていく。
もう少しでクリムガンを倒せる。そのような状況で、
「クリムガン! もう1つの方じゃ!」
ゴンがそう言った。
相手のクリムガンは、例のごとく“ドラゴンクロー”によって右手を横に全力で振り、レパルダスに対して横を向いた。
(その後は、後ろを向いて尻尾で攻撃……だろ?)
グレイはそう思ったが……クリムガンは後ろを向くことなく、今度は左手で“ドラゴンクロー”を繰り出した。“ドラゴンクロー”を放つ左手は横には振られず、上から振り下ろされた。
突然の動きの変化に戸惑ったレパルダスは、一瞬反応が遅れてしまった。
相手の“ドラゴンクロー”がレパルダスを切り裂いた――と思われたが、ギリギリの所でレパルダスは思いっきり体をそらし、相手の“ドラゴンクロー”は直撃せずに体をかすめるに留まった。
「見事じゃ!」
ゴンはそう言葉にした。しかし、攻撃はまだ終わっていなかった。
なんとか体をそらしたレパルダスに対し、クリムガンは巨大なアゴをもつ口を開けて、レパルダスに噛みついた。相手のクリムガンの牙がレパルダスをとらえる直前、クリムガンの牙が炎に包まれた。炎タイプの攻撃技“ほのおのキバ”である。
突然の“ほのおのキバ”にレパルダスは驚き怯んで、体が動かない。さらに炎に焼かれ、レパルダスは火傷を負った。
レパルダスが怯んでいるうちに、クリムガンは再び“ドラゴンクロー”を放った。技はレパルダスに直撃した。
特性さめはだ、によって元々体力が削られていたレパルダスは攻撃を耐えきれず倒れた。
レパルダスは戦闘不能となった。
「チョロネコ……お前は本当によく頑張った!」
グレイはレパルダスをモンスターボールに戻しながら、そう声をかけた。気絶しているためグレイの言葉はおそらく届かないが、グレイはそう声をかけずにはいられなかった。
(あとで何かご褒美あげよう。そのためには、お前には頑張ってもらわんとなKK!)
グレイはギャラドスが入ったモンスターボールを握りしめた。
「頼むぞ! KK!」
言葉と共に、グレイはギャラドスを出した。
長い胴体をもつ青い龍のようなポケモンが、岩場のフィールドの空中に現れた。
ギャラドスは相手のクリムガンを視界に捉えるや否や、クリムガンを睨みつけて咆哮をあげて威嚇した。クリムガンは驚いて力が抜け、攻撃力が下がった。これはギャラドスの特性いかく、によるものである。
「おお! 君の最後のポケモンはギャラドスかのう!」
何故か嬉しそうにゴンはそう言った。
「さて、君のギャラドスがどれ程強いのか、見せてもらうとしようかの! クリムガン“あくのはどう”」
「行け! KK!」
相手のクリムガンは、空中にいるギャラドスに“あくのはどう”を放った。
クリムガンに一直線に向かうギャラドスに、“あくのはどう”が直撃するが、ギャラドスはお構いなしにそのまま一筋に伸びる邪悪な波動の中を通り抜け、クリムガンに突っ込みながら“かみつく”をくらわせた。
一般に139.0kgもあるクリムガンの巨体だが、そのままギャラドスに押し出されて岩場の谷底に思いっきり突っ込んだ。
クリムガンは戦闘不能となって倒れた。
「ほっほっほ……君のギャラドスは随分と勇敢なものじゃのう!」
笑いながらゴンに声をかけられたグレイは、内心ではさっきの事は無かった事にしてやり直せないかと思っていた。
(なんでわざわざ相手の“あくのはどう”の中を通り抜けるんだよ……ちょっと横に避けてから相手に向かえばいいだろうが……)
「君のギャラドスも早く戦いたくて仕方のない様子じゃし、ワシも最後のポケモンを出すとしよう……さあ、いくのじゃ! ギャラドス!」
ゴンが繰り出した3体目のポケモンは、もはや説明不要、青い龍のようなポケモンのギャラドスだった。
ゴンのギャラドスは、グレイのギャラドスを威嚇した。特性いかく、によってグレイのギャラドスは攻撃力が下がった。
「ではグレイくん。ギャラドス同士の戦い。準備はよいかの?」
「こっちはとっくに」
「では始めようかのう」
まずグレイのギャラドスが、ゴンのギャラドスに“かみつく”をくらわせようとする。
「ギャラドス! “かみくだく”じゃ!」
“かみくだく”は、悪タイプの攻撃技であり、名前の通り相手を牙で噛みついて攻撃する技である。グレイのギャラドスが使う“かみつく”よりも威力の高い技である。
両者とも互いに、技で相手の胴体に噛みつき合っている。この勝負で相手により多くのダメージを与えているのはゴンのギャラドスであった。
(うおお……KKが力で押されるとは、なんか久しぶりの光景だな……)
このままでは勝てないと思い、グレイは新たな指示を出す。
「KK! “たいあたり”!」
“たいあたり”は、ノーマルタイプの攻撃技で、全体重を使って相手に体当りして攻撃する技である。
「ギャラドス! “かいりき”!」
“かいりき”は、ノーマルタイプの攻撃技で、力ずくで相手を殴りつけたり投げ飛ばしたりして攻撃する技である。技の威力は“たいあたり”よりも高い。
グレイのギャラドスが“たいあたり”をくらわし、お返しにゴンのギャラドスが“かいりき”をくらわす。
この勝負もゴンのギャラドスの方が、相手により多くのダメージを与えている。
「KK! “りゅうのいかり”」
グレイはダメで元々という気持ちで“りゅうのいかり”を指示した。
「ギャラドス “りゅうのいかり”じゃ!」
ゴンも同じ技を指示した。
両者の“りゅうのいかり”がぶつかり合い、相殺された。当然の事であった。“りゅうのいかり”は、強い者でも弱い者でも誰が放っても威力が全く同じになるという性質をもっているのだから。
グレイのギャラドスとゴンのギャラドス。地力としては勝っているのはグレイ側であった。しかし、ゴン側はグレイ側よりも威力が強い技を覚えており、さらにグレイ側は特性いかく、の影響で攻撃力が下がっている。地力は上にもかかわらず勝てないのは、そういう理由であった。
ところで、あまり戦いに関係ない話であるが、グレイは自分側とゴン側の2体のギャラドスをどう見分けているのだろうか? その答えは、目つきで判断している、である。グレイ側の方が目つきが悪いので、目を見れば判断可能である。また、目を見なくても動きでも判断できる。グレイ側の方が激しく動いており、無駄な動きが多いのだ。ゴン側はとても落ち着いた態度であり、無駄な動きをしないのである。
関係ない話はこれまでとして……。
2体のギャラドスはお互い技を当て合うだけでなく、肉弾戦も展開している。肉弾戦においてはグレイ側が多少有利に展開しているが、技同士の勝負で勝てないので戦況をひっくり返す手段としては弱い。
グレイは目の前の状況に頭を悩ませる。
(肉弾戦で少し勝っても、“かみつく”では負けるし“たいあたり”でも負ける。“りゅうのいかり”は全く引き分けになる……あと残るのは……)
グレイにとっては、あまり指示したくない技が残った。しかしこの際仕方がない。
「KK“にらみつける”!」
“にらみつける”は相手の防御力を下げる技である。直接の破壊力は無いので、グレイが指示しない限り、破壊好きのギャラドスが自主的に使うことは無い。
グレイは“にらみつける”を指示したのだが、グレイのギャラドスは指示を無視し、“にらみつける”を使おうとしない。
「ほっほ、ずいぶんと扱いに苦労しているようじゃな」
ゴンがそう声をかけてきた。
「……KK! “にらみつける”!!」
グレイが言葉を強めて言った。ギャラドスは露骨に不機嫌そうな顔をしたが、しぶしぶ技を発動しようとした。
「ギャラドス“たきのぼり”じゃ!」
“たきのぼり”は、水タイプの攻撃技である。水を体にまとい、まるで滝を登るかのような勢いで相手に突っ込んで攻撃する技である。
グレイのギャラドスが“にらみつける”を発動するが、ゴンのギャラドスがまとう水に打ち消されてしまう。そのまま“たきのぼり”が直撃し、グレイのギャラドスが吹っ飛ぶ。
(“にらみつける”はダメだな……例え使うチャンスがあったとしても、今のままじゃKKが嫌々に使うせいで発動が遅いから間に合わない。もし“にらみつける”を使いたいなら、KKに好きなだけ暴れさせて機嫌を良くしてからじゃないと無理だな……)
グレイは、自分のギャラドスに好きなだけ暴れさせることを決めた。どのみちグレイには、 “にらみつける”で相手の防御力を下げてから戦う以外に状況を打開する策は思いつかなかった。
グレイはしばらくの間、自分のギャラドスが好きに暴れるのを見守っていた。ギャラドスの機嫌を良くすることで“にらみつける”の指示をスムーズに聞いてもらうためである。
「君はギャラドスに指示をしないのかのう?」
自分のギャラドスを見守るだけのグレイを見て、ゴンがそう声をかけてきた。
「今はまだ、チャンスを待っているんですよ」
「何か狙いがあるという事かの?」
その問いに対してグレイは答えない。するとゴンは違う話を始める。
「それにしても……君はとてもすごいトレーナーじゃよ」
グレイはゴンの話の意図が分からず考える。
(すごいトレーナー……? まだ勝負に勝ってもいないし、ギャラドスには指示を無視されるし……あの爺さんは何を見てそう思ったんだ?)
そんなグレイの思考を読んだように、ゴンが口を開く。
「あれだけ暴れるのが好きで、自分の欲望に忠実なギャラドスは中々おらぬよ。しかし、君はそれを制御しておる。中々できることではないのう」
「……制御できてないですよ。言うこと聞いてくれないし」
「いやいや、あのギャラドスのトレーナーが君だからこそ、あの程度で済んでいるのじゃ。もしトレーナーが君でなかったら……最悪の場合はあのギャラドスに殺されているかも、しれんのう……」
続けてゴンは物騒なことを言い始める。
「もっとも……これから君がそうならない、などという保証はどこにもないがのう」
ギャラドスに殺されるなんて大袈裟だろ、と思ったグレイは反論する。
「なんでそんな事が言えるんですか? もしかしたら、バトルでは言う事を聞かないけど、普段はおとなしくて静かなポケモンかも知れないじゃないですか?」
「ワシには分かるのじゃよ。ワシはドラゴン使いじゃからな」
「ギャラドスはドラゴンタイプのポケモンじゃないですよ?」
「ワシが言うドラゴン使いのドラゴンとは、なにもポケモンのドラゴンタイプを指して言っている訳ではないのじゃ」
ゴンは戦っている両者のギャラドスを一瞥した後、再びグレイに語りかける。
「グレイくん。本当はポケモンに『タイプ』などという属性は存在しないのじゃよ……言うなれば、ポケモンの種類と同じ数……いや、ポケモンの数だけ『タイプ』があるのじゃ」
ゴンは語り続ける。
「ポケモンの『タイプ』というものは、ポケモン同士の複雑な相性関係を分かりやすくするために、似た性質を持つポケモンや技を同じ『タイプ』に分類しただけじゃ。同じタイプのポケモンでも種類が違えば、効きやすい技、効きにくい技、が微妙に違うのじゃ」
黙って聞いているグレイに、ゴンは問いかけをする。
「グレイくん。君はポケモンのタイプが何種類であると習ったかの?」
「ええっと確か……18種類です」
「その通りじゃよ……現在のトラベル地方では、の話じゃがのう」
ポケモンには18種類のタイプがある。ノーマル、炎、水、草、電気、氷、格闘、毒、地面、飛行、エスパー、虫、岩、ゴースト、ドラゴン、悪、鋼、フェアリー。の18種類である。
ゴンが続けて言う。
「タイプの数はのう……時代や地域によって異なるものじゃ。フェアリータイプのポケモンが生息しないために、タイプは17種類と定めておる地方もある。昔、とある地方では、生息するポケモンの種類が150種類程度と少なかったために、タイプが15種類しかなかった所もあるそうじゃ。悪、鋼、フェアリー、の3タイプが存在しないのじゃ」
さらにゴンは続ける。
「ワシらは、ゴーストタイプの技は、鋼タイプに普通に効くと思っておる。しかし地方によっては効果がいまひとつ、となっておる場所も存在する。さて……これだけ言えば君も、ポケモンの『タイプ』が絶対的なものでは全くなく、曖昧でポケモンの性質を表すものとして不十分なものじゃと、分かるじゃろう?」
ゴンの講義を真剣に聞いていたグレイは、ゴンに質問する。
「タイプが絶対の基準じゃないなら、どういう基準で戦えばいいんですか?」
「データや分類などではなく、ポケモン自身の本質を見抜くことじゃ……さて、話はこれくらいにしようかの。どうやら……戦いに少し動きがあるようじゃ」
ゴンの言葉で、グレイは戦いを続ける2体のギャラドスを見る。
(好きなだけ暴れさせたし、そろそろ“にらみつける”の指示を即座に聞いてくれるんじゃないか?)
そう思ったグレイは、戦いの流れが変わっていることに気がつく。
(あれ? さっきまでKKが微妙に力負けしてたんじゃなかったか?)
グレイのギャラドスとゴンのギャラドス。
グレイ側が“かみつく”攻撃をして、ゴン側が“かみくだく”攻撃をする。さっきはグレイ側が力負けしていたが、今は互角である。
さらにグレイ側は積極的に肉弾戦を仕掛けていく。グレイ側が長い胴体で巻き付いてゴン側を締め上げる。ゴン側も負けじと締め上げるが、グレイ側の方が力が強い。
一瞬、グレイはどちらが自分のギャラドスか分からなくなり、急いでギャラドスの目を確認した。目つきの悪い方がグレイのギャラドスである。
(さっきまでは動きを見ればどっちがKKか一瞬で分かったのに、なんで今分からなくなった?)
そう思ったグレイは、すぐに答えを見つける。
(KKの動きと、相手の動きが似ている!? もしかしてKK……相手の動きをマネしてるのか?)
そして、両者の技の力比べにおいて、さっきはグレイ側が負けていたのに今は互角になっている理由にも思い当たる。
(そうか……相手の動きを参考にして、自分のものとして取り入れているのか。まさに、今この瞬間に成長している訳だな)
グレイのギャラドスは、進化してから一度も他のギャラドスと戦った経験がない。自分と同じ種類、つまり自分と体の構造が同じ相手と初めて戦ったことで、自分の体の使い方について新たな発想を得て急激に成長しているのだ。
両者の肉弾戦が続く中、グレイのギャラドスの尻尾の一撃が強烈に決まった。ゴンのギャラドスは岩のフィールドに勢いよく墜落した。
グレイはすかさず指示する。
「KK! “にらみつける”!」
追撃するグレイのギャラドスは、すんなりとグレイの指示を受けて“にらみつける”を素早く発動した。
“にらみつける”の効果で、相手の防御力が下がった。
相手の防御力を下げたこと、グレイのギャラドスが試合中に急激な成長をとげたこと。これら2つの理由で、残りの試合はグレイのギャラドスが相手を圧倒して勝利した。
「グレイくん。これがヒトツジムのジムバッジじゃよ」
「ありがとうございます」
グレイはジムリーダーに勝った証としてジムバッジを受け取った。
ここでゴンが1つ提案する。
「グレイくん。もし君が望むなら、君のギャラドスに“たきのぼり”を教えてあげようと思うのじゃが、どうかのう?」
グレイは、先ほどの試合でゴンのギャラドスが使ってきた“たきのぼり”を思いおこす。水を体にまとい、まるで滝を登るかのような勢いで相手に突っ込む技である。
グレイは悩む。“たきのぼり”を覚えればギャラドスは間違いなく今よりも強くなる。しかし強くなれば制御できなくなった時のリスクは高まる。
グレイはギャラドスのトレーナーとして先輩であるゴンに、率直にたずねる。
「オレは……ギャラドスとうまくやっていけるんでしょうかね? ギャラドスを制御し続けられるんですかね?」
「それはワシには分からぬことじゃよ」
ゴンは即答でグレイの問いを退けた。そしてゴンは言葉を続ける。
「君は、自分のギャラドスをどう思っておるのじゃ?」
「どう思うか……? 戦闘狂で困った奴、あるいは恐ろしい奴……ですね」
「ほう? 困った奴で恐ろしい奴とな? ならば1つ質問しようかの」
質問、そう言ってゴンはグレイに問いかける。
「君がどうしてもギャラドスの扱いに困っているのなら、ワシらのジムで引き取って面倒を見ても良いぞ……と言ったら、君はどうするかね?」
グレイは少し考える。
確かに、グレイにとってギャラドスは困った奴であり、同時に恐怖の対象でもある。しかし、ギャラドスという存在をリセットしたいか? と問われてみると、それは違うような気がするのである。
(言う事は聞いてくれないし、正直に言えば怖いが……手放したいとは思わない。なんでだ? 愛着があるからか? トレーナーとしてのプライドが、ギャラドスを育てられない自分を拒否してるのか? もしや捨てられるギャラドスがかわいそうと思ってるのか?)
自問自答するグレイだが、出てくる答えはどれも違うように思えた。
「オレは、ギャラドスを手放したくないです。でも、そう思う理由が分かりません」
「ほう? 君はその理由に気がついておると思ったが……ならばヒントじゃ、君がジムバッジを手に入れることができたのは誰のおかげじゃ?」
「そりゃあポケモン達。ビビヨン、チョロネコ……今は進化してレパルダスだけど、そしてKK……あ!」
「なにか分かったかの?」
「KKは、戦闘狂で困った奴、そして恐ろしい奴。だけど強くて頼りになる奴でもある。KKはオレに多くの悩み事を作り出すけど、代わりにオレもKKに力を貸してもらってるんだ」
グレイの答えに、ゴンは満足そうにうなずいた。
ゴンが口を開く。
「君がギャラドスを制御し続けられるか、それは分からない事じゃ。しかし、ギャラドスの怖さばかりに目をやっていては、君のギャラドスの本質を見失ってしまうのじゃ」
そしてゴンは再びグレイに問いかける。
「君のギャラドスに“たきのぼり”を覚えさせるかの?」
「はい! お願いします」
ギャラドスが強くなれば、制御できなくなった時のリスクは強まってしまう。しかしギャラドスの力が強くなるという事は、同時にトレーナーのグレイの力が強くなるという事でもある。
力あるポケモンの反逆は確かに怖いことである。しかし反逆を常に恐れながらポケモンと接するというのはポケモントレーナーの姿として間違っている。グレイはそう思い、自分のギャラドスが強くなれる選択をしたのであった。
ページ上へ戻る