魔法少女リリカルなのはINNOCENT ~風雪の忍と光の戦士~
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第五話 出会い ―エンカウンター―
「……うん、今日はこのあたりにしておこうか」
「はーい」
ある日の夕方、薄いピンク色を基調とした女の子らしい部屋。その中央辺りに置かれた折り畳み式のテーブルの前で、紗那は腕を伸ばして伸びをし、勉強中にかけている眼鏡を外した。特に目が悪い訳ではないので、ただの勉強モードになるための気分なのだが。と、実はここで紗那は一人ではなかった。そのテーブルの向かい側で、一人の女の子がテーブルの上に広げられた勉強道具を片づけていたのだ。
年代は小学生くらいで、茶髪のロングツインテールを黄緑色のリボンで結んでいる。さらに特徴的なのはなぜかこの少女がジト目であることだろうか。さらに体格が小柄なために服のサイズが合っていないようで、ダボ袖になってしまっている。彼女は紗那の従妹に当たり、名を倉持 麻耶という。家が近いので、たまにこうして紗那に勉強を見てもらっているのだ。
「ありがとうね、さー姉」
「大丈夫だよ。下で麦茶でも飲もっか」
「うん」
麻耶が勉強道具を片づけ終わったのを確認した紗那は、テーブルを畳んで部屋の隅に片づけて立ち上がった。そのまま部屋を出て行き、麻耶も彼女に付いて行こうと……したところで、ふとタンスの上に置いてあった“あるもの”を見つけて足を止めた。
「……あれ?」
「ん? どうしたの?」
麻耶が後から付いてこないことに気付いた紗那が部屋に戻ってくると、麻耶がそれに向かってトコトコ歩いていき、手に取ったところだった。それは、紗那のブレイブホルダーだった。
「さー姉、これって……ブレイブホルダー? やってるんだ、ブレイブデュエル」
「う、うん。……知ってるってことは、麻耶ちゃんも……」
「うん、デュエリストだよ。……そっか、さー姉やってたんだ。なんか意外……」
紗那がデュエリストだったという事を知って、なんだか麻耶は意外に思った。もちろん紗那が大人しい性格であることは知っているので、アクションゲームの印象がなかったからだ。と、そこで麻耶は紗那のアバターが気になってカードを見ようとした。
「どんなアバター使ってるの? 見せて見せてー」
「……え!? ちょ、ダメダメ!」
「……わぁお。さー姉大胆♪」
「べ、別に私が自分でこのアバターを狙ったわけじゃ!?」
慌てて麻耶を止めようとした紗那だったが時すでに遅く、麻耶に紗那のアバター“シャドウ”を見られてしまった。タイミングの悪いことにこのとき彼女は初期の制服のカードではなく、既にRクラスのアバターカードに切り替えた後だったのだ。ご存知の通りシャドウはかなり刺激的なバリアジャケットなので、それを見られて若干驚かれてしまった紗那は弁明しようとあたふたして両手をぶんぶか振った。
「でも気に入ってるんでしょ?」
「き、気に入って……は、いるけ、ど……」
「でしょー?」
「で、でもそれはバリアジャケットじゃなくてデバイスの方で!」
ニマニマしている麻耶の言葉を否定しようとした……のだが、アバターであるシャドウを引き当てなければリンクと出会うこともなかったのだと思い返し、その点では気に入っていると言い直した。麻耶はその返事にとりあえず満足したようで、追及はそこでやめてこんなことを言い出した。
「ふーん? まぁいいけど。ねぇねぇ、せっかくだしやりに行こうよ! さー姉とデュエルやってみたい!」
「えっ……うーん……そうだね。行こっか。……ならせっかくだし、私の友達も一緒にいい?」
「やった! もちろん良いよ!」
「……でも明日ね、今日はもう遅いから」
「はーい」
と、こんな感じで一緒にブレイブデュエルをすることを約束した二人。すんなり誘われたり了承されたりするあたり、この二人が普段からも仲が良いことがうかがえる。そのタイミングで紗那の母がおやつができたと呼びに来たのでそれに応じ、二人一緒に階下に降りて行った。
『おぉらっ!』
『っと!』
そんなこんなで翌日。学校帰りに待ち合わせた紗那と麻耶がアズールに到着すると、モニターに誰かのデュエルが映っていた。聞き覚えのある声のような気がして紗那がモニターを見ると……
「……あ、疾風」
そう、“人と待ち合わせするから先に行ってて”と学校で別れるときにお願いしておいた疾風が、一足先にデュエル中だったのだ。相手は赤い鎧を纏ったオールバック薙刀使いのデュエリストであった。薙刀と言っても特殊なもので、棒の刃のある方とは反対側……柄頭の部分にも槍の穂先のようなものがあり、薙刀と槍の複合デバイスになっていた。斬撃と刺突、両方を兼ね備えたデバイスであった。
疾風は薙刀の方の刃をロングソードモードで受けたが、正面で受け止めずに受け流して体を入れ替える。が、相手がそのまま背後から槍を突いてきたのでそれをどうにかしてかわし、一旦距離を取った。相手も追撃は諦めて武器を構え直し、体勢を整える。
『おわぁっ!? ったく、相変わらず間合いが広くてやり辛ぇ……』
『へっ、対応してるくせによく言うぜ。……そろそろ決めさせてもらうがな』
『こっちのセリフ』
相手の言葉に不敵に笑って返した疾風はリラをガンブレードモードに戻すと、両手の刃に魔力を収束させる。それを見て早いところ決着をつけようと考えたのか相手のデュエリストは薙刀の刃に炎を纏わせて突進してきた。が、疾風は迫ってきた薙刀の刃を直撃寸前にリラで挟み込んで勢いよく降り回し、刃を自分の背後に押しやる。そのまま体を回転させてリラを振るい、相手のデュエリストの体をスキル“フォトンカッター”で切り裂いた。それが決定打となり、疾風はデュエルに勝利した。
「よっし……!」
「……さー姉?」
「……あっ」
いつの間にか紗那は疾風のデュエルに見入っていて、彼が勝った瞬間にガッツポーズをした。が、その時袖を引っ張られて麻耶のことを思い出した紗那は、慌てて麻耶に向き直る。
「ご、ごめんね麻耶ちゃん! 友達のデュエルだったからつい……!」
「いや、それは別にいいんだけど……昨日言ってた友達って、もしかしてあの白いお兄さん?」
「うん、あの人。私のデュエル友達で同級生なの」
「へー……」
何やら興味深そうな表情になった麻耶の手を引き、紗那は疾風のいるシミュレーターに近づいて行った。
「ふぅ、負けちまったか……ま、いい勝負だったぜ疾坊。またな」
「あぁ。またやろうぜ、ゲンさん」
紗那が近づいていくと、ちょうど疾風がシミュレーターから出てきて戦っていたデュエリストと話していたところだった。握手を交わして別れ、疾風が歩き始めたところで紗那が声をかける。
「疾風、お疲れ様」
「……おぉ、紗那じゃん。サンキュ」
驚いた表情になった疾風だったが、すぐに嬉しそうに笑う。が、すぐに隣の麻耶に目を移した。
「……その子が待ち合わせの相手?」
「うん、紹介するね。倉持 麻耶ちゃん。私の家の近所に住んでて、たまに勉強教えてるの。昨日偶然お互いがデュエリストだって知って……」
「一緒に遊びに来た、と。なるほどな。日向 疾風だ。見ての通りデュエリストやってる。よろしくな、麻耶ちゃん」
「はい、よろしくお願いします。倉持 麻耶です」
紗那の言葉に納得した疾風は目線を合わせようと、少し屈んで麻耶に挨拶した。それに対して、麻耶も礼儀正しくお辞儀した。が、そのあと麻耶は何やら疾風をじーっと見つめていたので、それに疾風は何ごとかと首を傾げる。
「…………」
「……? 何か?」
「いえ……さー姉が男の人に懐いてるのなんて初めて見たので……」
「な、懐いてるって……そんな、動物みたいに言わなくても……」
「でもさー姉、男の人は苦手って言って……しかも下の名前で呼び合ってるなんて……もががもが」
「し、しーっ! しーっ!」
何やら気にしていることを麻耶に言われかけ、慌てて麻耶の口を塞ぐ紗那。そう実は紗那、人見知りな上そもそも男性が苦手だったのだ。何だかんだ学校でいろいろとやりとりをする機会が多く同じデュエリストということで、疾風は唯一の例外だったりするのだが。とはいえさすがにそんなことまでは知らないので、やりとりをしている二人を見て疾風は「?」という表情をしていた。
「……まぁなんでもいいけどさ。どうだい、せっかくだからデュエルしないか?」
「はい、ぜひ。さー姉、いい?」
「私ももちろんオッケーだよ。……でも、三人だと……」
「奇数だとなんだから誰かのNPC呼ぼうぜ。まぁどっかから一人連れてきてもいいけど……」
「ふっふっふ、話は聞かせて頂きましたよ」
「「「うわぁ!?」」」
と、三人が話しているところにいきなり入ってきた声があり、しかも割と近くから声が聞こえてきたので三人は驚いて飛び上がる。慌てて振り返ると、そこにいたのは花梨だった。“いつからいたんだ……”と、気配を感じなかったことに若干戦慄している三人をよそに、花梨は目をキラキラさせながら早口でまくしたてた。
「そういうことならせっかくですし、イベントデュエルと行きましょう! 私が実況をやらせて頂きます! この人数なら……スカイドッジ……いや、スピードレーシングですかね!」
「え、ちょ!? スピードレーシング!?」
「あとは……フレンドNPCでもいいんですが、どうせならもうお一方いた方が盛り上がりますよね……あ、おーい!」
と、誰かを見つけたらしい花梨は目にもとまらぬスピードで人ごみの中に消えて行った。“あの、ちょ……”と、手を伸ばしかけた疾風の静止は届かず、紗那はそれを見て既に逃げ出したそうな顔になってしまっている。麻耶は肩をすくめているのでもう諦めたようだ。程なくして麻耶は誰かを連れて……というか引き摺って……帰ってきた。そして、なんとそれは奇しくも先ほど疾風が戦っていたデュエリストだった。
「げ、ゲンさん!?」
「ありゃ、疾坊じゃねぇか」
「ということで源蔵さん、もう一戦いかがですか? こちらの皆さんと一緒にスピードレーシングを!」
「……って、ことみたいなんだが……構わないかね、お三方?」
と、いう言葉を聞いて三人は顔を見合わせ……まぁいいんじゃないかな、と三人中二人は頷いた。残り一人(もちろん紗那)はあれよあれよと言う間に進んでいく話に付いてこれておらず、おろおろして明確なリアクションを返せていなかったが。
「では決まりです! さぁ行きましょう! さぁさぁ!」
その様子を見て了承だと判断したのだろう、麻耶は楽しそうに勢いのまま源蔵をぐいぐいとシミュレーターに引っ張って行った。そんな源蔵を見送り、もはや完全に確定してしまったらしいことを察して紗那はガックリと肩を落とした。
「……な、なんでこんなことに……」
「ま、たまにはいいんじゃね―の。行こうぜ」
「……うぅう……」
「……さー姉、行こ?」
「……うん……」
肩をすくめて歩き出した疾風に対し、紗那は納得のいかない様子で呻いていた。しかし麻耶に声をかけられてようやく踏ん切りがついたようで(諦めたとも言うが)、一緒にシミュレーターに向けて歩き出した。
『さぁ、急遽はじまりましたイベントデュエル、スピードレーシング! 実況はわたくし、朝比 花梨でお送りいたしまーす! ではまず、参加デュエリストのご紹介から!』
そんなこんなで始まった疾風たち四人のイベントデュエル。モニターに彼らの顔が大写しになる中、いかにもイベントっぽく少々暗くなったシミュレーター付近の空間の中央で花梨はスポットライトに当てられながらハイテンションで進行していた。
『まずは女性チーム! 緑衣の弓使いと風雪の忍! 倉持麻耶さんアンド小野寺紗那さんの女の子ペア!』
花梨のアナウンスに、客席の一部からおおおおお! という歓声が上がる。組んでいるのが二人とも可愛らしい女の子であり、しかも紗那は二つ名持ちだ。風雪の忍はあまり良くない印象がある反面、意外と人気なのである。……呼ばれている本人はものすごーーーく恥ずかしそうにしていたが。
『対するは男性チーム! 煉獄の覇者との二つ名を持つ加賀谷源蔵さんと、臨機応変の銃剣使い、日向疾風さんペア!』
いえーい、となんとなくノリで手を振った(ただしカメラがどこなのかわからないのでテキトーにだが)疾風は、花梨のアナウンスを聞いてボソッと呟いた。
「……そんなかっちょいい二つ名あったのか、ゲンさん」
「……自分で名乗るの、恥ずかしいじゃねぇか……」
『先行するのは源蔵さんと紗那さん。コースの途中で交代するのが疾風さんと麻耶さん、という感じになります! 今回の戦いの舞台は海洋ステージ! 広い広―い海の上を、チェックポイントである小島を経由しながら飛んでいただきます!』
「よろしくな、嬢ちゃん」
「……は、い。よろしくお願いしま、す」
「楽しもうな、麻耶ちゃん」
「はーい」
と、そんな感じで麻耶がルールの解説をしている間に指定された位置まで移動を完了した四人。ルール説明を聞き終えたところで、スタート及びバトンタッチ地点の小島に待機しながらお互いにレースで競い合う相手同士挨拶しあう。それを見計らい、花梨はスタートの合図をした。
『では参りましょう! スピードレーシング、レディ……ゴー!』
後書き
こんな感じで、本番のデュエルは次回になります。新キャラ増やしたくて話書いてたらなんかいつの間にかスピードレーシングやることに……当初は普通のデュエルでもしようと思ってたんですがw 書けっかなw
さて、実は先日、本家“漆黒の剣士”にも紗那と疾風を使っていただきました! 嬉しいものです! あちらもぜひ読んでくださいな!
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