SAO~円卓の騎士達~
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第五十九話 前へ進むために
~サクマ side~
また何も出来なかった。
守れなかった。
そう考えつつ、車の中で目を瞑っていた。
キリト「ところでさ、何で死銃の存在に気付かなかったんだ? あいつはさっき、シノンの近くに現れたんだよな。 死銃は、自分を透明化する能力でもあるのか? 橋の所でいきなり反応が消えたり、衛星に映らなかったり、その力を使ったから透明化が出来たのか?」
シノンは両手でへカートを抱えながら、力なく囁いた。
シノン「たぶん、≪メタマテリアル光歪曲迷彩≫っていう能力。 ボス専用って言われたけど、その効果がある装備が存在しても、不思議はないわ。」
シンタロー「光学迷彩か。 厄介だな。」
キリト「ま、此処でなら足音に耳を澄ませば大丈夫だ。 下は砂だから、透明になっても足音は消せないし、足跡も見える。」
サクマ「とは言っても、こうも見晴らしがいいと、隠れようにも隠れられないし、スナイパーでその迷彩能力が有るんだったらここでも不利だな。」
シノン「あそこ。 多分、洞窟がある。」
キリトが手を打った。
キリト「あそこの洞窟に隠れて、衛星スキャンを回避するんだな。」
キリトは車のアクセルを踏んで切り返し、シノンが指差した方向に走らせた。
数十秒で岩山に到着し、周囲を回る。
北側の側面には、ぽっかりと開いた大きな洞窟の口が見つかった。
速度を落とし、車ごと洞窟の中に走らせる。
洞窟の中に入れてエンジンを切り、キリトは車から降りると、大きく伸びをした。
キリト「取り敢えず、此処で次のスキャンを回避しよう。」
サクマ「俺達の端末にも衛星の情報が来ないのか?」
シノンはバギーから降りて、壁際に移動してから苦笑した。
シノン「あんたたち、こんな状況でもそうして居られるなんて凄いわね。 結論から言うと、私たちの位置情報は衛星に映らないわ。 もし近くにプレイヤーが居たら、グレネードを投げ込まれて揃って爆死よ。 そういえばさっきのお礼がまだだったわね。 助けてくれてありがとう。」
シンタロー「どーも。」
キリト「さてと、一休みしたら行かないとな。」
シノン「え、待って。 三人は死銃と、戦う気なの?」
掠れた声でシノンが言うと、小さな頷きだけが返って来た。
三人からの言葉は勝利の確信ではなく、その逆だった。
キリト「ああ、あいつは強い。 黒い拳銃がなくても、それ以外の装備やステータス、何よりプレイヤー自身の力が突き抜けている。」
サクマ「各々一対一でも勝てる保証は無い。」
シノン「三人でも、あいつらが恐いの?」
俺とキリトは光剣を腰のスナップリングに吊ってから、苦笑した。
キリト「ああ、恐いよ。 昔の俺なら、本当に死ぬ可能性があろうと戦えたかもしれない。 今は守りたいものが出来たからな。 命を軽く扱う事は出来ないさ。」
サクマ「右に同じ。」
シノン「守りたい、もの?」
キリト「そうだ。 俺達には、仮想世界でも現実世界でも、守らなくちゃいけないものが沢山あるんだ。」
シノンは、二人の言葉は人との繋がりを言っているのだろう、と感じた。
口から勝手に言葉が漏れる。
シノン「三人とも、このまま洞窟に隠れてればいいじゃない。 BoB中は自発的ログアウト不可能だけど、大会が進んで私たちが誰か一人が生き残れば、その時点で脱出出来る。 自殺して、その誰かを優勝させればいい。 それで大会が終わるわ。」
俺達は、『そういう手もあったか』と、微笑した。
だが、俺達は首を横に振った。
シンタロー「そう手もあるけど、そういうわけには行かないんだ。」
やっぱり、君たちは強いよ。
守りたいものがあると言いながら、命の危険を冒して、あの死神に立ち向かう勇気を失っていない。
私は失おうとしているのに。
死銃に黒いハンドガンを向けられた時、完全に竦み上がった。
骨の髄まで凍り付いた。
氷の狙撃手シノンは、消え去る瀬戸際にいる。
このまま洞窟に隠れていたら、二度と自分の強さが信じられなくなるだろう。
そして、全ての銃弾が標的を外すだろう。
シノンは眼を逸らし、呟くように言った。
シノン「私、逃げない。」
俺達「「「・・・は?」」」
シノン「逃げない。 此処に隠れない。 外に出て、あの男と戦う。」
俺は眉を寄せ、低く囁いた。
サクマ「だめだ、シノン。 あいつに撃たれば、本当に死ぬかもしれないんだ。 俺とキリトは、完全な接近戦タイプで防御スキルも色々あるし、シンタローもある程度は接近戦も出来るが、君は違う。 姿を消せるあの男に零距離から不意打ちされたら、危険は俺たちの比じゃない。」
シノンは暫く口を閉じた後、静かに唯一の結論を口にした。
シノン「死んでも構わない。 私、さっき、すごい怖かった。 死ぬのが恐ろしかった。 五年前の私よりも弱くなって、情けなく、悲鳴を上げて。 そんなんじゃ、ダメなの。 そんな私のまま生き続けるくらいなら、死んだ方がいい。」
サクマ「怖いのは当たり前だ。 死ぬのが怖くない奴なんて居ない。」
シノン「嫌なの、怖いのは。 もう怯えて生きていくのは、疲れた。 別に、貴方たちに付き合ってくれなんて言わない。 一人でも戦えるから。」
そう言ってからシノンは腕に力を込め、立ち上がろうとした。
だが、その手を俺が掴んだ。
サクマ「一人で戦って、一人で死ぬ気なのか。」
シノン「そう、たぶん。 それが私の運命だったんだ。」
サクマ「ふざけんな。 ふざけんじゃねぇ! 運命だと!? 一人で命を粗末にするのが運命だなんて言うんじゃねぇ! シノンは間違ってる! 人が一人で死ぬ、なんてことは有り得ないんだ! 人が死ぬ時は、他の誰かの居るシノンが死ぬんだよ! 俺の中のシノンが死ぬんだよ!」
シノン「そんなこと、頼んでない! 私は、私を誰かに預けた事なんてない!」
サクマ「俺とシノンは関わり合っているんだよ!」
その瞬間、凍った心の底に押さえ付けられていたシノンの感情が、一気に膨れ上がった。
軋む程に歯を食い縛り、片手で俺の襟首に掴みかかる。
シノン「なら、あなたが私を一生守ってよ!!」
突然視界が歪み、頬に熱い感覚があった。
眼に涙が溢れ、滴っていることに、シノンはすぐに気付かなかった。
握られた手を強引に払い、シノンは固い拳を握ってサクマの胸に打ちかかる。
二度、三度、力任せにどんどんと叩き付ける。
サクマ「何も知らないくせに、何も出来ないくせに、勝手なこと言わないで! こ、これは私の、私だけの戦いなのよ! たとえ負けて死んでも、誰にも私を責める権利はない!! それとも、あなたが一緒に背負ってくれるの!? この、」
握り締めた手をサクマの前に突き出す。
血に塗れた拳銃のトリガーを引き、一人の命を奪った手。
火薬の微粒子が侵入して出来た、小さな汚れた手。
シノン「この、ひ、人殺しの手を、あなたが握ってくれるの!!??」
サクマ「そう約束しただろ!! お前の事は俺が一生守るって、約束しただろうが! お前の事は俺が一番知ってる! お前を守るために、俺は強くなろうとしている! それが予選決勝でのお前の問いの答えだ! あの時は俺にはその資格が無いと思ってたが、考えが変わった。 今からでもお前の事を一生守る! それが俺に出来る唯一の償いだ!」
どれくらいそのままでいたのか、わからない。
爆発的な感情を解放させたシノンは、俺の胸の中に顔埋めながら、ゆっくりと口を開いた。
シノン「私ね、人を、殺したの。」
シノンは、キリト達の反応を待たず言葉を続ける。
シノン「ゲームの中じゃないよ。 現実世界で、ほんとうに、人を殺したんだ。 五年前、東北の小さな街で起きた郵便局の強盗事件で。 報道では、犯人が局員の一人を拳銃で撃って、犯人は発砲した銃が爆発して死んだ。 ってことになってたんだけど、実際はそうじゃないの。 その場に居た私が、強盗の拳銃を奪って、撃ち殺した。」
シンタロー「五年前か。」
シンタローがそう言った。
五年前。
その時の事は俺も良く覚えている。
シノン「私は十一歳だった。 もしかしたら、子供だからそんなことが出来たのかもね。 歯を二本折って、両手を捻挫して、背中の打撲と、右肩を脱臼したけど、それ以外に怪我はなかった。 身体の傷はすぐに治ったけど、治らないものがあった。 私、それからずっと、銃を見ると吐いたり倒れたりしちゃうんだ。 テレビや、漫画とかでも、手で、ピストルの真似をされるだけでも駄目。 しかもその事件のせいで私はいじめにあってた。 そんなときはいっつも拓真が守ってくれたんだけどね。 銃を見ると、目の前に、殺した時のあの男の顔が浮かんできて、怖いの。 すごく、怖い。 でもこの世界では大丈夫だった。 発作が起きないだけじゃなく、幾つかの銃は好きになれたんだ。 でもさっき、死銃に襲われた時、発作が起きそうになって。 いつの間にか《シノン》じゃなくて、現実の私に戻っていた。 だから、だから私は、あいつと戦わないと駄目なの。 あいつと戦って、勝たないと、《シノン》が居なくなっちゃう。 死銃と戦わないで逃げちゃったら、私は前より弱くなっちゃう。 もう、普通に暮らせなくなっちゃう。 だから、だから、」
シノンはこの闇を一人で抱え続けて来たのか。
俺がゆっくり口を開いた。
サクマ「俺も人を、殺した。」
シノン「え?」
キリト「サクマだけじゃない、俺もだ。」
シンタロー「さっき話したラフコフとの戦いでな。」
シノン「私、あなた達のしたことには、何も言えない。 言う資格もない。 だから、本当はこんなこと聞く権利もないけど。 でも、お願い、一つだけ教えて。 あなた達は、その記憶を、どうやって乗り越えたの? どうやって、過去に勝ったの? なんで今、そんなに強く居られるの?」
俺は首を左右に振った。
サクマ「乗り越えてない。 それに、これから一生乗り越える気も無い。」
シノン「え、」
サクマ「人の命を奪った事を忘れる、なんて事は不可能なんだ。 俺の前で、死んで逝った人たちの声や顔は、一生忘れることは出来ない。」
シノンは呆然と呟いた。
シノン「じゃあ、ど、どうすればいいの。 わ、私、」
それは、シノンには恐ろしい宣告になっただろう。
必死に乗り越えようとしていたものが、一生消し去る事が出来ないなんて。
キリト「でもな、シノン。 それは正しい事なんだよ。 この手で彼らを斬った、殺した意味、その重要さを、受け止め、考えていくんだ。 今の俺たちに、出来る事で償うしかないんだ。」
シノン「受け止め、考え、向き合う。 私、私には、そんなこと出来ない。」
シノンは、再びサクマに肩口に寄り掛かった。
そして、呟いた。
シノン「《死銃》」
キリト「え?」
シノン「じゃあ、あのぼろマントの中に居るのは、実在する、本物の人間なのね。」
シノンの問いに、キリトが答えた。
キリト「ああ、そうさ。 あいつ元《ラフィン・コフィン》の幹部プレイヤー、それは間違いない。 SAO時代の名前が判れば、現実世界での本名や住所だって突き止められるはずだ。」
シンタロー「ま、俺が忘れる訳無いけどな。 死銃はザザだ。 あのぶつ切りの聞き取りにくい口調はアイツ特有の物だった。 後の二人は、」
サクマ「poh、それに」
キリト「クラディールだな。」
シンタロー「あぁ。 だけど、問題は殺しの手口だ。 聞いて素直に答えるような奴等じゃ無いしな。」
シノン「殺しの手口って、アミュスフィアは初代ナーヴギアと違って危険な電磁波は出せない設計なんでしょ?」
サクマ「あぁ。 だけど、電磁波は関係無い。 死因は心停止なんだ。」
シンタロー「心停止なんてリアルで薬物でも射たれない限り、」
キリト「! 今何て言った!?」
シンタロー「し、心停止なんてリアルで薬物でも射たれない限り有り得ないって、、、あぁ。 そういうことかよ。」
シノン「言いたいことは分かったけど、住所や鍵はどうするのよ?」
シンタロー「住所は総督府でのエントリー時に覗き見すれば分かる。」
シノン「で、でも、そんなの他のプレイヤーに見つかったら即BANされるんじゃ、」
シンタロー「あのマントだ。 姿を消す効果が街中でも使えれば、誰にもバレずに見ることが出来る。 鍵は恐らく病院とかに置いてあるマスターキーだろ。 殺された二人はどちらも古いアパートに住んでた。 旧型の電子ロックだったら楽々開けられる。 そして、薬物も病院から位じゃないと人の心臓を止められるような劇薬は手に入らない。 犯人は病院関係者の可能性が高い。」
シノン「で、でも、どうやって薬物を、」
キリト「リアルに協力者がいるとしたら?」
シノン「!」
サクマ「シノン、鍵、それと、ドアのチェーンは?」
シノン「一応、電波ロックだけじゃなくてシリンダー錠も掛けてあるけど。 鍵そのものは、家も初期型の電子錠。 チェーンは、」
シノンは眉を寄せ、懸命にダイブ前の記憶探る。
シノン「してない、かもしれない。」
サクマ「そうか。 シノン、いいか。 落ちついて聞いてくれ。」
シノンの顔には、恐怖が色濃く浮かんでいた。
この事を、彼女に告げる事はしない方がいいのかもしれない。
だが、今告げねばならない。
サクマ「廃墟スタジアム近くで、死銃は、麻痺したお前をあの黒い拳銃で撃とうとした。 いや、実際に撃った。 それはつまり、準備が完了しているということだ。 今この瞬間に、現実世界の君の部屋に死銃の共犯者が侵入して、大会の中継画面で、君が黒い拳銃で撃たれるのを待っている、という可能性がある。」
告げられた言葉が、シノンの意識に浸透するには長い時間が掛った。
その言葉を理解した瞬間。
シノン「嫌、いや、いやよ、そんなの、」
不意に、喉の奥が塞がる感覚と共に、シノンは呼吸が出来なくなった。
背筋を反らせ、空気を求めて喘ぐ。
俺は彼女を力一杯抱きしめ、シノンの耳元で叫ぶようにして声を掛けた。
サクマ「ダメだシノン!! 自動切断でのログアウトは危険すぎる!! 頑張って、気持ちを落ち着かせて、今は大丈夫だから、危険はない!!」
シノン「あ、あっ、」
シノンは闇雲に手を動かし、声の主に縋り付くすがりつく。
その身体に腕を回し、無我夢中で抱き付く。
俺は、シノンの耳に優しく囁きかけた。
サクマ「死銃の黒い拳銃、《黒星》に撃たれるまで、侵入者は何もする事が出来ない。 それが、死銃達の定めた制約。 でも、自動ログアウトして、死銃の顔を見てしまうと逆に危険だ。 だから、今は落ち着け。」
シノン「でも、でも、怖い。 怖いよ。」
シノンの身体の震えが治まったのを感じた俺は、シノンに訊ねた。
サクマ「落ち着いたか?」
シノンは深く息を吐き、瞼を閉じてから、呟いた。
シノン「うん、ありがとう。 これからどうすればいいのか、教えて。」
思ったよりも、しっかりした声が返ってきた。
俺はシノンの髪を撫でるのを止め、即座に答えた。
サクマ「死銃を倒すんだ。 そうすれば、現実世界でシノンを狙う共犯者は、何も出来ないはず。 と言っても、シノンは此処で待機してろよ。 俺達が戦う。 あの銃を使っても、俺達を殺すことは不可能だからな。」
シノン「本当に、大丈夫なの?」
キリトが俺の隣に移動し、答えた。
キリト「ああ、大丈夫だ。 俺達はエントリーの時に名前も住所も書いていないし、そもそも俺達は自宅からダイブしているわけじゃないんだ。 すぐ近くに人も居るしな。 だから大丈夫だ。 ゲームに則って奴を倒すだけだ。」
シノン「でも、死銃は≪黒星≫抜きでも、かなりの腕だわ。 回避力だけでも、貴方たちと同等かもしれない。」
シンタロー「まぁな。 だから最悪の場合はお土産グレネードで道連れにするさ。」
シノン「・・・私も戦う。 死銃の隙を狙って牽制くらいは出来るかもしれない。」
俺達が言葉を発しようとしたが、シノンが遮った。
シノン「今回の発言は自暴自棄になってない。 それに此処にも隠れて居られないしね。 私たちが洞窟に隠れてることに、他のプレイヤーも気付いてる。 何時グレネードで攻撃されてもおかしくない。 むしろ、三十分近くも無事だったのはかなり運がよかったわ。」
俺達は頷いた。
キリト「じゃあこうしよう。 次のスキャンで、俺がわざとマップに位置を表示させて、死銃をおびき出す。 その隙を狙ってシノンは狙撃してくれ。」
シンタロー「近くに居る他の敵にもよるけどな。 最優先して狙うのはステルベンのサイレント・アサシンだ。 ステルベンごと撃ち抜ければなお良い。」
シノンを洞窟に残して外に出たキリトは、この世界の夜空を見上げながら、サテライト・スキャンの時を待った。
数秒後、マップ中央に幾つかの光点が浮かび上がった。
キリト「これは、」
キリトが何か呟いた。
洞窟から出ないように気を付けながら見ると、その理由が分かった。
画面上に表示された光点の殆どが、死亡を意味するグレーで塗り潰されていたからだ。
死銃、poh、クラディールはこの砂漠地帯の三方を囲っており、残った一方にもプレイヤーが居る。
指先で触れると、表示された名前は《闇風》だ。
マップを広域に広げると、都市廃墟エリアにも光点が二つされたが、直後暗転し、グレーに変わった。
キリト「どうなってるんだ?」
シンタロー「多分、衛星スキャンが開始されるまで、二人とも相手の場所を知らなかったんだ。 んで、スキャン後初めて、例えば壁一枚隔てた隣の部屋に居ることを知って、お互いに驚いて、グレネードを投げて、両方ドカーン、とか。」
キリト「そりゃ、南無。」
大会終盤まで勝ち残ってきた猛者たちとしては、不本意な幕切れだろう。
これで、三十人から開始されたバトルロイヤルの生き残りは八人。
俺達四人、≪闇風≫、そして死銃達三人と言う事になる。
最後に、全体に散らばる光点と暗点の合計数を数え、キリトは低く声漏らした。
キリト「おかしいぞ。」
サクマ「何がおかしいんだ?」
キリト「光点の数だ。 生存が二、死亡が二十。 此処に映っていない、六人、回線切断で消えたペイルライダーを足しても、二十九人だ。 何処かに隠れて居る? 何らかの理由で回線切断をし、姿を消した、ということか?」
シンタロー「いや、もう一つ可能性がある。」
キリト「どんな?」
シンタロー「実行犯も複数人いる場合だ。」
「ッ!?」
死銃の実行犯が複数居るなら、その一人がシノンの部屋に潜んでいて、別の構成員が動いている可能性があるかもしれないのだ。
《ラフィン・コフィン》の残党は、少なくとも十人以上居るのだ。
だが、奴らが集団で動いているとは考えにくい。
サクマ「一度、洞窟へ戻って作戦会議だ。」
キリト「ああ、そうだな。」
洞窟に戻ると、シノンは車を隠した最奥部ではなく、角を少し曲がった辺りでライフルを肩に掛けて待っていた。
シノン「どうだった!? 状況は!?」
顔の両サイドで結わえた水色のショートヘアを揺らし、急き込んで訊ねてくるシノンに、簡潔かつ丁寧に説明を試みる。
キリト「スキャンの最中にも二人相討ちで退場して、残りは恐らく八人だ。 俺達四人、闇風、死銃達三人。 闇風は、此処から六キロ南。 死銃は八キロ北、グレイが五キロ東、hopeは十キロ西だ。 グレーの点が幾つもあったから、死銃は俺達を捜しならがら、片端から倒したのかもな。 それから人数のことなんだが。 もしかしたらもう一人、回線切断をされた可能性が高い。」
シノンは眼を見開き、首を左右に振った。
シノン「まさか、死銃があれからまた、誰か殺したっていうの? で、でも、そんなの不可能よ! だって、共犯者は私を狙ってるはずでしょ?」
キリトが口籠りながら、
キリト「シノン、聞いてくれ。 もし、もしだ。 死銃の共犯者が、一人じゃなかったとしたら。 複数の実行部隊が居たら、」
シノン「そ、そんな。 こんなに恐ろしい犯罪に、三人以上が関わっているって言うの?」
シンタロー「元《ラフィン・コフィン》の生還者は、少なくても十人以上いる。 そいつらは、半年近くも同じ牢獄エリアに閉じ込められていた。 連絡手段を相談したり、この事件の計画を練る時間があったのかもしれないんだ。 十人全員が共犯者だと思わないが、共犯者さんが一人だけと言う根拠は無い。」
重い沈黙が暫し続いた。
その沈黙を、俺が破った。
キリト「もしかしたら、闇風も死銃のターゲットになっている可能性もあるんじゃないか?」
シノン「闇風は、私が相手をするわ。 安心して相手してて良いわよ。」
そう口にしたシノンの声音は、過去の亡霊に怯える少女ではなく、《氷の狙撃手》のものだった。
俺達は頷いた。
サクマ「わかった、それで行こう。 シノンは闇風を倒してくれ。 俺はpohとやる。」
シンタロー「俺はステルベンだ。 サイレント・アサシンの破壊は頼むぜ。」
キリト「なら、俺はクラディールだな。」
俺達は拳をこつんと、打ち付けた。
~side out~
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