SAO~円卓の騎士達~
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第四十八話 アルン到着
~リーファ side~
アリシャ、サクヤと別れて、しばらく飛んでいると、小さな村が見えてきた。
リーファ「今日はあそこでログアウトしようか。」
キリト「了解。」
そして、村に降りると不気味な事に村人のNPC、さらにプレイヤーの姿まで見えない。
サクマ「怪しくないか?」
リーファ「そう? こういう設定の村なんじゃないの?」
シンタロー「宿屋は、あれか。」
そして、私が宿屋のドアに手をかけると、村全体が揺れ、建物が消えた。
シンタロー「! 全員飛べ!」
だがその声に反応出来たのはメカクシ団のメンバーとアリスさん、ユージオさんだけ。
残りのキリト君、私、ストレアちゃん、サクラさん、サクマさん、コジロウさん、ユイちゃんは取り残されてしまった。
そして、地面が割れ、私達は大きなミミズ型モンスターに飲み込まれてしまった。
そして十数分後、ミミズの消化器ツアーを終えて、吐き出された。
途中、ミミズの消化液で溶かされて死ぬ、という最悪の死に方をするのかと思っていた。
吐き出された場所は私も来たことの無い場所だった。
氷で覆われた世界。
上を見ると空は見えない。
私は今ある私の知識をフル動員した。
その結果、ここが《ヨツンヘイム》だと分かった。
ここには邪神級モンスターがウロウロしていて、現在実装されているエリアでは最も危険な場所だ。
そこで私達は一旦手頃な祠の中に避難してどうやって地上に戻るか作戦を練ることにしたのだが、
リーファ「おーい、起きろー。」
キリト君が居眠りをしている。
そう言う私も眠気が凄い。
サクマ「そんなんじゃ起きねぇよ。 雪を背中に入れてやれ。」
その言葉に従い、キリト君の背中に雪を入れると、
キリト「!!!?!??!?」
飛び起きた。
リーファ「おはよ。」
キリト「あ、あぁ。 おはよう。」
リーファ「それで? 何かここから脱出出来る夢でも見てたの?」
キリト「あー、夢かー。 そう言えば、後少しで食べれたんだよなー。 巨大プリンアラモード。」
リーファ「・・・お兄ちゃんに聞いた私がバカだった。」
脱出する為に此処からログアウトしてもいいのだが、現在私達が居る祠は、宿屋でも安全地帯でもないから、此処でログアウトしたら空っぽになったアバターが一定時間取り残されてしまう。
空っぽになったアバターは、よくモンスターを引き寄せるのだ。
モンスターに襲われ死亡してしまったら、セーブポイントであるシルフの街《スイルベーン》へ戻されてしまう。
私達の目的は、アルヴヘイムの央都《アルン》へと辿り着くこと。
死亡してしまったら、此処まで遥々旅して来た意味が無くなってしまう。
コジロウ「ちょっと眠気覚ましを兼ねて外見てきますね。」
コジロウさんが外に向かう。
ストレア「そう言えばリーファちゃん、 此処って邪神級モンスターが出るんでしょ?」
私は、ストレアちゃんの問いに頷いた。
リーファ「居るわよ。 それも君達でも相手に出来ないほどの邪神がね。 君達が散々苦戦した最強サラマンダーも、邪神一体を相手にして二十秒持たなかったらしいよ。」
キリト「そりゃまた、」
サクラ「うん。 このパーティーでも、邪神の相手は無理そうだね。」
キリト君とサクラさんは同時に溜息をついた。
キリト「このヨツンヘイムは飛べないんだろ。」
リーファ「そ。 翅の飛行力を回復させるには、日光か月光が必要なの。 でも此処にはどっちも無いからね。 インプなら地下でも少しだけなら飛べるらしいけど。 飛ぶのは無理だし。 うーん、そしたら邪神狩り大規模パーティーに合流させてもらって、一緒に地上に戻るくらいしかないかなー。」
ストレア「ユイ姉に聞いてみようか。」
ストレアちゃんはキリト君の肩の上で眠る小さな妖精の頬を優しく突いた。
ストレア「ユイ姉、起きてー。」
ユイは睫毛を二、三度震わせから、体をむくりと起こした。
右手を口元にあて、左腕を大きく伸ばして、大きな欠伸をした。
ユイ「ふぁ。 おはようございます、パパ、皆さん。」
サクラさんは寝起きのユイに、優しく話し掛けた。
サクラ「おはよう、ユイちゃん。 起こしちゃってごめんね。 今近くに他のプレイヤーが居ないか、確認して欲しいの」
ユイ「了解です。 ちょっと待ってくださいね。」
ユイは頷いてから瞼を閉じる。
数秒後、ユイはふるふると首を振った。
ユイ「すいません、わたしがデータを参照できる範囲内に他のプレイヤーの反応はありません。 それ以前に、あの村がマップに登録されていないことに気付いていれば、」
それを聞いた私は、反射的にユイの髪を指先で撫でていた。
リーファ「ううん、ユイちゃんのせいじゃないよ。 あの時私が、周囲プレイヤーの索敵警戒を厳重に、なんてお願いしちゃったから。 そんなに気にしないで。」
ユイ「ありがとうございます。 リーファさん。」
私は視線をキリト君に向けた。
リーファ「ま、こうなったら、やるだけやってみるしかないよね。」
キリト「何を?」
リーファ「私達だけで地上に出るのよ。 確か、何処かに階段があったはずだわ。 邪神の視界と移動パターンを見極めて、慎重に行動すれば行けるはずよ。」
キリト、ユイ、ストレア「「「おー」」」
俺とストレアとユイは、小さく拍手した。
すると、遠くの方から“ぱるるるるぅ”と大音響な咆哮が放たれた。
これは間違いなく邪神モンスターから放たれたものであった。
地面を揺るがすような足音も轟く。
キリト「げっ、もしかして今の邪神の鳴き声か、」
リーファ「そうね、早く此処を離れましょうか。」
逃げないと、ぷちっと殺やられてしまう。
その時、コジロウさんが中に戻ってきた。
コジロウ「大変です! 近くで邪神が二匹、お互いに戦ってます!」
たしかに邪神の大音響の後に、“ひゅるる、ひゅるる”という木枯らしのような声も混ざっているのだ。
ユイ「コジロウさんの言う通り、接近中の邪神級モンスター二匹は、互いを攻撃しているようです!」
リーファ「えっ、邪神が互いを攻撃するって聞いたことないよ。」
ストレア「ねぇ、みんな。 様子見に行かない?」
キリト「俺も気になったしな。 行こうか。」
リーファ「わ、わかったわ。」
私達は頷き合い、邪神が戦闘している場所へ足を踏み出した。
数歩進んだだけで、二匹の邪神はすぐに視界に入った。
じっと眼を凝らし、二匹の邪神を見た。
縦三つ連なった巨大な顔の横から四本の腕を生やした巨大な邪神と、やや小柄な象水母の姿に似た邪神だ。
だがどう見ても、三面邪神の方が優勢だ。
三面邪神が携えている巨剣が水母邪神の胴体に叩き込まれるたびに、悲鳴にも似た鳴き声を上げている。
リーファ「ど、どうなっているの。」
私はすこし無言になった後、
リーファ「ねぇ、助けようよ。」
キリト「えっ? どっちを?」
リーファ「もちろん、苛められてる方を。」
キリト「でも、どうやって、・・・・・ユイ、近くに水はあるか? 川でも湖でも何でも良い。」
ユイ「あります、パパ! 北に約二百メートル移動した場所に、氷結した湖が存在します!」
キリト「よし、いいか皆。 其処まで死ぬ気で走るぞ。」
キリト君は腰から投躑用のピックを取り出し右腕を振り、
キリト「せいッ!!」
ピックを三面邪神の眼と眼の間に命中させた。
すると、三面邪神がこちらにターゲットを切り替えた。
「ぼぼぼるるるぅぅぅ!!」
と三面邪神が怒りの雄叫びを上げ地面を轟かせながら、此方に近づいてくる。
キリト「逃げるぞ!!」
そう言ってから、キリト君は北に向けて雪煙を散らして走り出した。
リーファ「え、ちょっ……」
私は口をパクパク動かしてから、皆を追う。
三面巨人の邪神も咆哮を轟かせ、追いかけて来る。
リーファ「待っt、や、いやあああああああ!!」
ストレア「あっはははははははは♪」
コジロウ「だ、大丈夫ですか?」
私は悲鳴を上げ皆を追うが、みるみる私を引き離す。
リーファ「ひぃぃどぉぉいぃぃぃぃ!!」
私は両足の回転速度を上げ、全力で走った。
すると、前を走っていた皆が雪を蹴散らして停止した。
私はコジロウさんに抱き止められた。
一瞬顔が熱くなるのを感じる。
直後、ぱきぱきぱきっ、という音が響き渡った。
その音は、三面邪神が雪下にあった氷を踏み抜いた音であった。
キリト「やったか!?」
サクマ「何と言う在り来たりなフラグ。」
私は三面邪神が沈むように力一杯懇願したが、そう簡単にいかなかった。
足を上手く使って此方に近づいて来たのだ。
だが、象水母邪神の二十本近い肢が一斉に伸び上がり、三面邪神を水中で拘束した。
どうやら水母邪神は、あの後逃げずに追いかけて来たらしいのだ。
水母邪神の拘束により、三面邪神のHPバーがどんどん減少していく。
数秒後、三面邪神はポリゴンの欠片となり、四散した。
キリト「うっし、大成功。」
そう言う間に象水母邪神がこっちに向かってくる。
サクマ「で? どうすんだ?」
キリト「それは~、考えて無かったな。」
サクマ「アホか!」
象水母は俺達をしばらく見ると、その鼻を伸ばしてキリト君を掴んだ。
キリト「ぬお!?」
ストレア「キリトー。 大丈夫だよー! その子、怒ってないからー!」
リーファ「怒ってないって、そんな事分かるの?」
ストレア「何となくだけどね。」
その後、邪神は私達全員を背中に乗せてのしのしと歩き始めた。
サクマ「ま、今はこいつに任せるしか無い、竜宮城に連れてってくれるのか、今日の朝メシになるかは知らんけど。」
リーファ「じゃ名前付けよ名前! 何か可愛い奴!」
私がそう言うと皆は黙って、名前を考え始めた。
キリト「んじゃ、トンキーは?」
サクマ「随分と縁起の悪い名前選んだな、オイ。」
リーファ「まぁ、でも良いんじゃない? 他には思い付かないし。」
ストレア「じゃ、決まりだね!」
リーファ「おーい、今から君の名前はトンキーだからねー!」
すると偶然だと思うが、耳のような所がパタパタと動いた。
そして、十数分後。
リーファ「おーいトンキー、私達、これからどうすればいいのようー。」
象水母改めトンキーは、私達を乗せ北上した後、私達をグレートボイドのそばに下ろして急に丸まってしまった。HPバーは全開なので死んだ訳では無いようだが、
ユイ「パパ! 東から十数名のプレイヤーが接近中です!」
人数からして邪神狩りのパーティーだろう。
「君達、その邪神、狩るのか? 狩らないのか?」
そのパーティーのリーダーと思われる男が話し掛けてきた。
リーファ「マナー違反を承知でお願いするわ。 この邪神、私達に譲って。」
「驚いたな。 下層の狩り場ではともかく、こんなところでそんな言葉を聞くことになるとはな。」
私の予想通りの答えが返ってきた。
ここでアリスさんがルグルーで見せてくれた交渉を思い出す。
リーファ「じゃあ、ここにある私の全ユルドでこの子を買い取らせて。」
私は比較的無駄使いをしないので貯金は貯まりに貯まっている。
「・・・全部で幾らだい?」
リーファ「端数切り捨てで十五万はあるわ。」
「・・・良いだろう。 交渉成立だ。」
邪神狩りのパーティーは私からお金を受け取ると元来た方向へ去っていった。
キリト「早速アリスの交渉術を使ったか。 でも良かったのか? 全財産だろ?」
リーファ「うん。 でも良いの。 トンキーが無事なら。」
当のトンキーは、丸まっているが。
と、思ってたら、トンキーの体が白く光り、脱皮(?)をした。
出てきたのは四対八枚の羽の生えたトンキーだった。
キリト「な、」
サクマ「これは、、」
コジロウ「完全に予想の斜め上いってますね。」
そして、トンキーは俺達をまた背中に乗せると飛び始めた。
トンキーの上に乗る事数分。
世界樹の根っこに近づくにつれ、何か金色に輝く物を発見した。
根っこの氷柱の一番下、鋭く尖った先端に。
キリト「なぁ、あの輝いている物って何だ?」
キリト君は私に聞いてきた。
私は遠見水晶アイススコープの魔法の大きなレンズを覗き込みながらこう言った。
リーファ「うぇっ!? 《聖剣エクスキャリバー》だよ、あれ。 たった一つの武器、最強の剣。」
キリト「さ、最強。」
キリト君が欲しそうに見てると、
サクマ「絶対に今は行かないからな。 人数足りねぇし、やることがあるだろ。」
キリト「わ、分かってるよ。」
それからトンキーは、世界樹の木の根まで運んでくれた。
順番にトンキーの背中から脱出階段に飛び移る。
キリト「助かったよ、トンキー。」
リーファ「うん。 ありがとね。」
ストレア「また来るからね、トンキー。 それまで元気でね。」
私達はトンキーに感謝の言葉を述べた後、トンキーは嬉しそうな声を上げ、そのまま物凄い速さで降下していく。
不思議な邪神はヨツンヘイムの暗闇に溶けていった。
リーファ「さ、行こ!」
私達は階段に足を踏み出した。
しばらく登っていると明かりが見えた。
キリト「お、出口か。」
そして、階段から出ると、
リーファ「え!? ここ《アルン》だよ!」
サクマ「マジか。 良かった。 着いたんだな。」
コジロウ「って、シンタローさん達は!?」
キリト「あ、忘れてた。」
ユージオ「あぁ!! キリト達! 何でここに!?」
振り向くとそこにシンタローさん達が居た。
キリト「何でって言われても、なぁ。」
サクラ「詳しいことは後で話すから今度こそ、ログアウトしようよ。」
リーファ「そうだね。 色々あって疲れたよ。」
シンタロー「あっちで俺等が宿取ったからそこでいいだろ。」
そして、私達は今度こそ、本当にログアウトした。
~side out~
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